――――超人「聖白蓮」
スペルカードを発動したモノの、弾幕が現れない。その変わり聖の――オーラ、気とでも言えば良いのだろうか――力が倍増したのが分かった。
そうこのスペルカードは弾幕を放つものではなく、身体能力の強化を目的としたスペルなのだ。
「はッ!」
掛け声と共に聖は低空飛行でゴーシュに詰め寄り、胸部に向けて拳の一撃を放つ。が――
「~~~~~ッ!?」
衝撃が拳から全身に伝わり痛みと痺れで聖は涙目になる。
身体強化された聖の拳は鋼鉄をも貫く、が、ゴーシュのその頑強な装甲は貫けなかった。
聖は痛みを堪え、掌から弾幕を放ち神子達の元へ一旦距離を取る。
「痛いです……」
「ええっと、大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます……ってもしかしてその声、火野さんですか?」
目の前に居るのは見知らぬ妖怪(?)。しかし、その声は先程会った映司そのものだった。
聖の疑問に映司が答える前に神子が答えた。
「そのとおりです、詳しい話は後程。しかし――」
神子が頭に手をやりながら考える。
まさか身体強化の魔法を得意とする聖ですらゴーシュにダメージを与えられなかったとは、怪力を誇る鬼か腕力を大幅に上げるゴリラのメダルがあればゴーシュに打撃攻撃でダメージを与えられるかもしれないが……。
――グリードの強大な力。
コアメダルの欲を聴いてグリードの脅威は分かってはいたがまさかこれ程とは思わなかった。
この状況を打破するにはオーズ、映司と不本意だが聖の力が必要不可欠だ。神子はまず先程、ダメージを受けたオーズに安否を聞く。
「映司、動けますか?」
「まだちょっと痛みますが大丈夫ですよ」
「良し……。――聖白蓮、貴方にも手伝ってもらいますよ」
「分かりました。何をすれば?」
「単純です。攻撃を――そう胸部に一点に集中させてグリードの装甲を貫きます」
ゴーシュが造り出したヤミーに対してオーズが行った戦法。ならゴーシュにも有効なはずだ。 単純な戦法だと神子自身も思うが、現状の戦力ではコレが一番だ。
神子の案を聞いた聖とオーズは早速、ゴーシュに向かって駆け、狙いである胸部に蹴りを同時に入れる!
「「ハァッ!!」」
『ヌゥッ!?』
二人の同時攻撃にはゴーシュも堪えたのか、大きく後退した。
――神光「逆らう事なきを宗とせよ」
そして神子がスペルカードを発動し、追い打ちをかける!
弾幕がゴーシュだけではなく地面にも多数、着弾したことにより砂煙が大量に発生しゴーシュの視界を一時的に奪った。
(ッチ……今のコアメダル数では……)
ゴーシュは心中で舌打ちをする。
実はゴーシュはこういった視界が悪い状況でも大丈夫な能力を持っているのだが……現在、ゴーシュに入っているコアメダルの枚数ではその能力が出せない。
ゴーシュは神経を集中しどこから攻撃が来るか探る。
「ハァァァッ!!」
早速、その攻撃はゴーシュの真横からやってきた。
聖が煙に紛れてゴーシュに勢い良く蹴りを繰り出した。大木ならまるで爪楊枝のように簡単にへし折る威力を秘めているがそれでもゴーシュの腕の盾に容易に防がれてしまう。
『分かっているだろう? お前の攻撃は効かんッ!』
「そんなのは百も承知です!」
聖がそう言った次の瞬間――
――ゴックン! タトバ!
――秘宝「聖徳太子のオーパーツ」
セルメダルを入れ威力が大幅に上がり更に、弾幕の力が上乗せされたメダガブリューを持ったオーズが聖に気が向いていたゴーシュの胸部に向かい振る!
これは先程、オーズと聖がこっそり立てた作戦であり聖がゴーシュを引き付け、その隙を狙ってオーズが強化されたメダガブリューで攻撃するという物だ。神子は知らされてなかったが聖の欲を聴いて勘付いたのだろう。
『チイィッ!!』
さすがに「アレ」は喰らうとまずいと判断したゴーシュは後方に飛び退く。
「無駄に頑丈な君でもあの攻撃を喰らうのは拙いようだな?」
それを見ていた神子が嫌味気にゴーシュに言う。
――オーズはその様子がまるでアンクに見えた。が、神子には秘密である。
『……そうだ、完全体にならまだしも、今の状態ではあの攻撃は防ぎきれん……』
ゴーシュは神子の言葉に怒るどころかむしろ冷静だった。
「流石にあんな安い挑発には乗らないか……」
『当たり前だ。――さて、退かせてもらおう……この状況でコアメダルを奪うのはリスクが高いからな』
「なっ、待て!」
そう言い、ここから立ち去ろうとするゴーシュ。
神子は追いかけようとするが突如閃光が走り、三人の目を眩ます。視界が回復する頃にはゴーシュの姿はいなく、周りの景色も荒れ地から人里――と言っても先程まで居た場所ではなく、人目の付かない路地裏のような所だが――になっていた。そう幻想郷に戻ってきたのだ。
「戻って……来たのでしょうか?」
「そうみたいですね……」
聖とそう会話しながらオーズは安堵のため息を吐く、もし聖が来なかったらコアメダルは全部奪われていただろう。
今、明日を迎える為にはオーズの力は必要不可欠だ。だから聖にはお礼を言わなければならない。
早速、オーズは変身を解除し聖に礼を言う。
「さっきはありがとうございます、聖さん。おかげで助かりました」
「いえいえ、私は当然のことをしたまでです」
ニコッと笑いながらそう言う聖。
「……本当に人が好いんですね貴方は」
「ええ、困った人を助けるのは当たり前のことです」
「ハァ……」
神子が皮肉気に言うが、聖は真っ直ぐと返した。そんな聖を見た神子は嘆息する。
――聖のそういう所が神子は苦手なのだ。まぁ、他にも苦手な所はあるのだが。
一方、聖は何かを思いだし、口を開いた。
「――ところで、さっきの火野さんの姿は一体?」
「ああ……」
オーズとしての映司の姿やグリードを実際に見た聖には説明した方が良いだろう……。
そう考えた映司と神子はオーズやグリード、そして昨日起きたことについての軽い説明をした。――神子は不服そうだったが――
「なるほど、昨日、人里を襲った怪物を退治した妖怪は火野さんだったんですね」
「知ってたんですか?」
「ええ、命蓮寺は人里に近いですから情報はすぐに来るんです。――あ、怪物と言えば……昨日、命蓮寺にも怪物が出たんです」
「「!?」」
二人はその事実に驚愕する。人外の存在が浸透している幻想郷で怪物と呼ばれるのはヤミーくらいしかいない。映司は驚きながらも聖に詳しいことを訊ねる。
「そのこと、詳しく聞いても良いですか?」
「分かりました」
聖によると昨日の朝方、ザリガニのような怪物が突如として現れ、命蓮寺を襲ったと言う。
怪物は複数体居たものの一匹一匹はあまり大した強さではなく、また参拝者の数が少ない朝だったため被害は殆ど無かった。
だが、その怪物の一体が逃げてしまったのだ。聖たちもすぐに後を追いかけたのだが、見失ってしまった。
「そのあと人里のことが心配になって向かってみたのですが、着いた時にはもう上白沢さんによって里が隠されていました」
「ふむ……」
聖に事情を聞き、神子は深く考え込んだ。
まさか、商売敵の所にもヤミーが現れていたとは……それよりも気になるのは命蓮寺に現れたのはザリガニのヤミー、爬虫類のヤミーではないのだ。先程、遭遇したゴーシュは見た目から察するに爬虫類のグリードだ、爬虫類のグリードからザリガニ――甲殻類のヤミーは造れない。これが意味するのはゴーシュ以外にもグリードがもう一体居るということだ。
そしてもう一つ気になることがある。ザリガニヤミーが命蓮寺を襲ったのとトカゲヤミーが人里を襲ったのはほぼ同時刻だろう。欲を聴き取ると言う自身の能力のおかげで欲望の塊とも言えるヤミーが暴れればすぐにソレを感じ取れる。だから、トカゲヤミーとザリガニのヤミーことザリガニヤミーがほぼ同じ時間に暴れだしたのならあの時、トカゲヤミーだけでは無くザリガニヤミーも感じ取れたはずだ。しかし感じ取れなかった。
――まぁ、トカゲヤミーに気をとられてザリガニヤミーを感じ取れなかったのだろうが妙に腑に落ちない。
神子はそんな疑問に対して色々考えながら聖の居る方向に向いた。そこには、
「…………」
「何やってるんですか貴方は……」
棒付き飴を持ちながら妙にソワソワしている聖の姿があった。
「い、いや何でもありませんよ?」
「それじゃあなんで貴方は棒付き飴を持ちながらソワソワしてるんですかね?」
「……あ、そういえばお買い物した物、あそこに置きっぱなしですよね?」
「あからさまに話を逸らすな……!」
「まぁまぁ……」
そんな聖に神子は憤り、映司が宥める。確かに買った物は回収しなくてはならない……昼食、夕飯抜きはさすがにキツいからだ。
感じ取れなかった事や逃げた一体のザリガニヤミーなど気になる事はあるが、ひとまずはソレを先決することにした。
その時――――
「聖さま! やっと見つけました!」
上空から命蓮寺の入門生である山彦――|幽谷(かそだに)|響子(きょうこ)が降りてきた。
しかし、息が切れ切れで非常に慌てている様子だった。
「あら、響子ちゃんどうしたの?」
聖の問い掛けに響子は息を整えながら、衝撃的な事を口から開いた。
そしてソレと同時に、
「みょ、命蓮寺が昨日のと同じ怪物に襲われましたっ!! それもたくさん!」
(ヤミーッ!)
神子がヤミーを感じ取った。
聖は命蓮寺襲撃の知らせを聞いた瞬間、顔色を変える。
「今は寅丸さま達が食い止めてますが――」
「ッ!」
「えっ!? あぁ! 聖様!」
響子が言い切る前に聖は全速力で命蓮寺に向かって飛んでいってしまった。響子も慌てて聖を追いかける。
「行きましょう神子さん!」
「分かってます……」
神子としては正直、商売敵を助けるのはかなり抵抗があるがヤミーが関係しているのなら話は別だ。
映司と神子はザリガニヤミーに襲撃されている命蓮寺へと向かった。
◆
――転覆「沈没アンカー」
――鵺符「弾幕キメラ」
『『『グギャアアアアアアッ!?』』』
弾幕が直撃し、数体のザリガニヤミーは無数のセルメダルになる。
しかし、周囲を見渡すとまだまだザリガニヤミーは大量に居る。
「あーもうキリがなーい!」
ぬえがそう毒づく。
事の始まりは十分程前、ぬえが出かけようとした矢先にザリガニヤミーが命蓮寺を強襲した。しかも今回は以前とは比べものにならない程の数だ。ざっと見渡しただけでも五十体は居る、命蓮寺の中にも居るのでザリガニヤミーの数は百体は越えているだろう。
このザリガニヤミー、一体一体は大したことはないのだがとにかく数が多い。まるで無限に居るのかではないのかという錯覚すら覚える。
一応、響子に聖を呼ぶように向かわせたが、聖が来るまでに持ちこたえられるだろうか。
「愚痴ってる暇があるならほら、戦う!」
そんなぬえにアンカーを振り回しながらムラサは檄を飛ばす。
少し離れた所では星が長槍を振るい、ザリガニヤミーを応戦していた。
「ふんっ!!」
槍が風切り音を鳴らすたびにザリガニヤミーは四散していく、更に弾幕も放ちザリガニヤミーを次々と撃破する。
獅子奮迅の活躍を見せる星であったが、肩で息をしており酷く体力を消耗しているのが分かる。倒しても倒しても減る気配がしないザリガニヤミーにみんなが疲れているのだが、特に星は率先して戦っているため一番疲れているのだ。
しかし、それでも槍を握り戦おうとする。
「ッ!? ご主人!!」
刹那、疲労状態の星の僅かな隙を狙って一体のザリガニヤミーが飛び掛かった! ナズーリンやムラサが叫ぶが、ザリガニヤミーはもう回避できない距離まで迫ってきていた。
星は来るであろうダメージに備えたが――――
「――星ッ!!」
誰かに突き飛ばされ、ザリガニヤミーの攻撃は星には届かなかった。ムラサとぬえの悲鳴交じりの声が聞こえる。星は突き飛ばされた方向に振り向いた、そこには聖の姿があった。
「ひじ、り……?」
先程まで星が居た地点には聖が居て、その隣にはザリガニヤミー。更にぬえとムラサの悲鳴。
そう、聖は星を庇ったのだ。
「聖……」
気を失い、倒れこんだ聖に星は力無く呟く。次にザリガニヤミーを見やり憤怒の表情を刻んだ。
――貴様はッ!! 貴様らはッ!!
――この人に、この人に何をしてくれたんだッッ!!
ゆっくり立ち上がり、ザリガニヤミーを睨めつける星。
「ご主人……」
星の尋常ではない様子を見てナズーリンが不安気に呟いた。星は基本的に穏やかだが地の性格は激情家であり、身内を傷つける者などにはその一面を見せたりするし、ナズーリン自身も何度か見た。
――――しかし、今回は本当に普通ではない。どう言えば良いのか分からないのだがとにかく今の星の様子は尋常ではないのだ。それはムラサ――ザリガニヤミー達の注目が星に集まっている隙に聖を抱えている――とぬえも感じ取っているようだ。
刹那、星の懐からライオン、トラ、チーターが刻まれた三枚の黄色いメダルが飛び出る。そのメダル達は星の周りをグルグルと回り星の体に入り込んだ。
――ライオン!
――トラ!
――チーター!
――ラッタァ、ラッタァ! ラトラーター!!
どこからか珍妙な歌が響くと共に星の体が変化していく。
金の瞳は水色に染まり、髪は獅子の鬣のように逆立つ。腕部は服の袖を突き破りながら隆起していくその見た目は虎の腕そのものだった。足も嫌な音を立てながら|狩猟豹(チーター)の脚になる。
今の寅丸星の姿は異形そのものだった。
「なんなの、アレ……」
ぬえが異形と化した星に戦慄交じりにそう言う。
「グオォォォォォォォォォーーーーーーーーッッ!!」
理性の欠片すらない獣そのもの咆哮を上げながら、超高速でザリガニヤミーの群れに近づき、爪で切り裂いていく!
『『『グガァァァァァァァァァッ!?』』』
次々とセルメダルとなっていくザリガニヤミー達。
今度は一斉に襲いかかるが、
「グアァァァァァァァァッ!!」
星の全身から灼熱の光が放出し、ザリガニヤミー達を焼きつくしていく!
その圧倒的な力を振るいザリガニヤミーを倒していく星に三人はただ呆然と見ているしかなかった。すると足音と二人分の飛行音が聞こえてきた。
「どうなってるんだ……?」
足音の正体――映司は目の前の光景に驚愕した。ライオン、トラ、チーターが入り混じったような異形がザリガニヤミーを圧倒している光景に。更に超高速で動き回り、爪で引き裂き、灼熱の光を出して戦う異形の姿がまるで黄色いメダルを三種揃える事により発動されるコンボ――ラトラーターコンボにそっくりなのだ。
「……そこに気絶している聖白蓮とあの寅丸星の姿……詳しい説明をお願いしますよ?」
「寅丸さんって……ッ!?」
「どうして寅丸さまが……っ!?」
神子がムラサに説明を求める。神子の言葉により異形の正体が聖の話で出た寅丸星だと分かり、映司は更に驚く。響子など若干パニックに陥っている。ムラサは神子の物言いに少しムッとくるも話し始めた
「あの怪物にやられそうになった星を聖さまが庇って……それに星が怒ったと思ったら黄色いメダルが飛び出てそのメダルが星の体に入ったら、星があんな姿になったのよ」
今日は驚くことばっかりだなぁ……と映司は心の片隅で思う。ともかく、黄色いメダルと言うのは十中八九コアメダルのことだ。つまり今、星が発揮している力はラトラーターみたいではなくラトラーターの力そのものなのだ。
「とにかく、止めないと!」
色々疑問は尽きないが今は星を止めるのが先決だ。
今の星は半ば暴走している状態だ。今はザリガニヤミーと戦っているが、ナズーリンやムラサに攻撃を加える恐れがある。
『暴走』することの怖さは映司自身が身を持って知っている。だから、止めなくてはならない。そう思いながら映司はオーズドライバーを取りだし変身しようとした瞬間、ザリガニヤミーが次々と消えていく。恐らく状況悪しと判断し撤退したのだろう。命蓮寺の中に侵入したザリガニヤミーも同様に撤退しただろう。
「ガッ!?」
星が苦悶の声を上げると共に星の体から三枚の黄色のメダルが飛び出ていく。異形と化した腕と足も元に戻った。
体力を消耗していた所にラトラーターの力を発揮した星、もはや体力など一欠片も残っていない。星は地面へと倒れていった。
「――――ッ!!」
意識を失う前に星が見たのは泣きそうな顔をした従者の姿だった。