第1話(投稿順は第3話)
「さて、此処はどこかしら?」
目を開けるとそこはまるで裁判所のようだった。
「此処はあの世における裁判所ですよ」
目の前には、小さい、しかし恐ろしく厳格な一人の少女がいた。
「貴方は?」
「私はこの場における最高裁判長、四季映姫です」
「閻魔ということ?」
「はい、そうです」
「ということは、私は死んでるってこと?」
「察しが早くて助かります」
「そっか……もう私は死んでしまったのね。思えば長かったわ、私の人生。いや時間的には短いのでしょうけど。いつもいつもいろんなことが起こりすぎていたから、ようやく何も起きない時を過ごせるのね……あれ?そういえば何故私は死んだのかしら?」
「やはり覚えていませんか。でもそろそろ思い出すと思いますよ」
「えっ?」
「ラグと私は呼んでいます」
「ラグ?」
「例えば、朝の目覚めたては寝ぼけて意識が朦朧としているでしょう?」
「そうね」
「それと同様、死んだばかりの人間は、自分が何者なのか、何故死んだのかを一瞬忘れているのです。しかし、大体1、2分程度で、意識がはっきりしてきて、全て思い出します。必ずと言っていいほど、そのときの皆さんの表情は残酷なものです……」
「なんかそう言われると怖いわね」
「怖くてもそうでなくても避けられませんよ」
「まあ、それもそ……あっ。全て思い出したわ」
彼女も例外ではなく残酷な表情となった。
「私の名は西行寺幽々子ね?」
「はい」
「西行妖を封印するため自ら死を選んだ……」
「はい」
「いや、それも可笑しいわね。私はこの能力と向き合えず、ただ逃げただけだったのだから。それは口実にしか過ぎない。そういえば紫は?紫はどうなったの?」
「八雲紫のことですか?」
「そうよ」
「話してもよろしいのですか?」
「……お願い」
「八雲紫は今も懺悔してます。私のせいで幽々子は死んだのだと」
「そんな……」
「それはそれは酷い様子でした。妖怪というものは精神的存在です、だから精神が不安定になっている今の彼女は存在としても不安になっています。だから彼女はいつも傷だらけです。心だけでなく体までもボロボロです。そして、罪悪感からかただでさえボロボロなのに、自ら傷をつけてさえしています。酷く衰弱していて見られるものではありません」
「そんな……そんな!紫は悪くないわ!私が全部悪いのよ!お願い、紫に一回でいい、会わせて。それだけで十分だから、お願い!」
「残念ながらそれは無理です。生者は死者に会えません。死者だって生者に会うのはタブーです」
「じゃあ、じゃあなんで話したのよ!私が、私がこうなるって分かっていたのに!」
「貴方に許可はもらいました。それに貴方には、八雲紫のことを言うべきだと思いました。それ程までに貴方の罪は重いということ、そして貴方はかなりの孤独の気持ちを抱えて死んだようですが、そんな貴方を心から大切に思っている人が確かにいたということ、それを知ってもらう必要があると判断を下したからです。理解しましたか?西行寺幽々子」
「……分かったわ」
「そう……なら私も満足です」
「じゃあ私を裁いてください、閻魔様。最後にこのような配慮をしていただき感謝します。さあ、お願いします」
「それがですね……」
「……?」
「貴方を裁くことが出来ないのですよ」
「何故?」
「実はですね……今貴方の魂は半分しかないのです」
「えっ?」
「貴方が自殺した直後、八雲紫が貴方の屋敷へ会いに来ました。そして貴方の死体を見つけた八雲紫は貴方の生死の境界を曖昧にしました。生き返せると思ったのでしょう。まあ残念ながら西行寺幽々子は死んでしまったわけですが。が、しかし、あの世には連れて行かれませんでした。幽霊として現世に残すことに成功したのです。おそらく、今頃西行寺幽々子は八雲紫と再会し、八雲紫は泣くことを止めるでしょう」
「でも私は今ここにいるわよ⁉︎」
「だから言ったじゃないですか、貴方は魂の半分だと……。八雲紫も相当動揺していたのでしょう、境界を曖昧にする際、貴方の魂の根幹にまで八雲紫は触れてしまった。結果魂は分裂してしまい、もう片方の貴方だけがあの世へと連れて来られたということです」
「もう片方の私はどうなったの?」
「どうやら魂の分裂の際、すべての記憶をなくしてしまったらしいですね。現在八雲紫は記憶喪失となった西行寺幽々子に、貴方が何者なのか私が何者なのかなどを教えています。もちろん、自殺したという事実は隠して」
「魂が半分だから正しく裁けないと?」
「その通りです。任務を果たすためにはもう一人の西行寺幽々子を此処に連れてくる必要があるのですが、生き返らせてまで一緒にいることを願った彼女のことです。何も言わないで西行寺幽々子を彼女から連れ去ることはできないでしょう。とはいえ、事情を全て伝えたところで、貴方まで彼女に連れ去られるのが目に見えます。あの世で裁くのを八雲紫が許すわけがない。そして流石の私もあの女を敵に回すのは望ましくない。さてどうするべきか?」
「その言い振りだと、紫は私の魂が二つに分かれているのに気づいてないということよね?」
「そうなりますね。おそらくこのことを知っているのは私と貴方だけ。あとは私の部下数人ほど。もう一人の西行寺幽々子も、八雲紫も、貴方の存在を知らないでしょう」
「じゃあ、私は裁かれないの?けれど紫に会うことはできないのでしょ?私はどうすればいいの?」
「残念ながら此処に待ってもらうことすらもできないので、奥の手を使わせてもらいます」
「奥の手?」
「あなたを一時的に転生させます」
「えっ?」
「いつか私がどうにかして、もう一人の貴方を八雲紫から取り返します。それまで貴方は外の世界で過ごしてもらいます。ただし、貴方の記憶は一時的に消させてもらい、別人として生きてもらうことになりますが」
「そしてもう一人の私が此処に連れて来られたとき、私は記憶も戻され、すぐに此処へ連れて来られると……分かりました……」
「その通りですが、物わかりが良すぎではありませんか?貴方は別人に仕立て上げられた挙句、別人としてある程度生きてきて程々に別人としての幸せを手にできたときに、あの世へと連れ去られてしまい、裁かれてしまうのですよ。仕方ないことだとは言え、悲しくはないのですか、悔しくはないのですか。言いたいことがあるなら是非私に言ってもらいたい。それぐらい言う権利が貴方にはある」
「いえ、大丈夫だわ」
「……」
「もう十分よ」
「……分かりました。では転生の準備をさせていただきます。しばしお待ちを」
閻魔様は少しその場を離れた。そして西行寺幽々子は独白をする。
「もう誰にも恨みはないわ。むしろ紫にも閻魔様にも非常に感謝してるわ。ただ憎むべき相手がいるとするならば、それは私。この憎き私よ。例えさっき閻魔様が言ったように、私がいくら不憫な状況だったとしても、罪滅ぼしとして捉えられるわ……」
「さぁ、連れてって」
ちょうど戻ってきた閻魔様に私はそう言った。
閻魔様は口を開く。
「西行寺幽々子、一つだけ言わせてもらいます」
「なんでしょう?」
「貴方は辛い経験をしました。こんな一言では済まないほどの。だからどうか少しの間でも新しい人生を楽しんでください。一人くらい親友でも作って、一人の普通の人間として、普通に楽しい人生を」
「……分かりました」
「すいません、あともう一つ言ってよろしいでしょうか?」
「もちろんいいですよ」
「もう一人の西行寺幽々子を連れて来られるまでは、嫌でも貴方にはあちらの世界で生きてもらわなくてはいけません。それに転生の手続きってとてもめんどくさいのです。だから出来ることなら一度も死なないでください。転生の準備をするのはこれで最後にしたいので」
「……分かりました。閻魔様……本当にありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」
暫しの沈黙を超えて
「では、こちらへ」
「ええ」
其処には眩しい光があった。
「閻魔様」
「なんでしょうか?」
「紫によろしくと言っておいてください」
「分かりました」
「ではまたいつか」
「またいつか……」
さらに眩しくなった。
「お母様、産まれましたよ。元気な女の子です」
こうして宇佐見蓮子は、この世に生まれた