5回めの黄泉孵りはただただ呆然としていた。
もう、何も信じられなかった。自分ではこれからどうすべきなのか、何を考えるべきなのか、もう、いっぱいいっぱいだった。もう、何をしたところで意味はないと、そう思い込むのも時間の問題でしかない。この世界は結局は、滅びるのみとでもいうのか。
神、悪魔。
奴らを利用したとして、行き着く先は行き止まりでしかないのか。仲間達と彼らを打倒しながら足掻いた先は最悪だった。彼らを利用すれば、人々を打倒する敵となり、得られるものなど何もなかった。
緑の亡霊は、ナバールは結局は人間が人間として残り続ける事など無いのだなと嗤う自分にもうやめるんだ、逃げてもいいだろうと叫ぶ。
もう、俺も。ナバールも。壊れたくて仕方なかった。
もう、何が悪かったのか、何がいいのか。信じられない。人も、誰もかも。
横から聞こえる声がとても耳障りだった。
誰を信じても自分は誰も守れないし救えない。世界に美しい朝日が差し込んでも、最後にはその太陽は地平線の彼方へ沈むのだ。
『嗚呼……きっと、この世界の在り方があなたを追いこみ続けるのでしょう。
そして、人に救いはなく。停滞した未来しか示されない。
……何故あなたはそれでも諦めながら足掻くのですか?壊れたらいいでしょう。なにもかも放棄すればいいでしょう。それこそ、別の人に任せっきりにすればいいものを。
………
………、それでもあなたは、人の救い手であるのでしょうね。』
翼の白い天使は諦めたように呟く。
翼が青い頃から共に仲魔としてあり、今も繰り返し続けながらも横に並ぶ彼女の言葉に、それを思い浮かべたのが自身の最大最悪の罪だったのだろう。
自分は救世主などではない。
(なら、いっそ悪の化身にでもなってしまおうか)
もし、利用する材料が足りないのなら。それは———人間なのではないか。
喉を優しく撫でる女の手の感覚。
世界を変えるには、人間すら利用すべきなのではと笑う幼子の声が心に響き渡る。
(ああ、でもナバールは此処まで至る事は無いのだろう。あいつは臆病だから。壊れる事すらも遠い理性が許さない程の臆病者には、こうして人としての道は踏み外せない。
でも———そうでいてほしいと願う自分がいた。)
3回の洛陽を迎えて己は。
洛陽を望み得ぬ世界を作ろうと、人間が烏滸がましくも考えてしまったのだ。
4回めの黄泉帰りはただただ惰性のままその半分を歩んだ。
もっともらしく言って、最適を歩もうにも魔神がいるし、周囲がそれを望まないから。結局は自分はアサヒを救いだす事なんて出来はしないのだ。人形、など。まったくもって同意する。何かを楽しませるためにあり続ける、同じ動作しか出来ない不出来な木偶の坊。なにかを救う道具にもなり得ない不出来な人形め、と嘲笑した。
かつての頃を、今は遠き喧騒をそっと思い出して。もう、懐古に意味は無いと彼らをそっと突き放した。亡霊は、きっと。自分の目指す道が逸れていったのに気がついていたのだろう。力なく項垂れていた。
刃を向けた。
自身を糾弾する最年長の声に心を抉られながら彼女の今までの苦労を労った。刃は銃弾を弾いて心臓へ突き刺さった。
今まで取り憑いて、確かに救いであった亡霊の罪悪感に満ちた声に心を揺るがされる。友へ精一杯の笑顔を手向けとし、刃はその半透明の身体を掻き消した。
確かに、自分の友達だった半魔の少年の後悔の呟きに心が磨耗する。せめて別れだけ、彼に届くだろう最期の言葉を口にする。刃は彼を物言わぬ盲目とした。
戦友であり好敵手であった聖槍のサムライの覚悟の言葉に心が軋む。その覚悟に、在り方に。せめてもの感謝を込めた。刃はその手から槍を離させた。
天上から強力な共闘相手であったサムライからの憎悪の言葉に心が割れる。その嫌悪に、自身の怠惰を悔いた。刃は彼女の背を貫いた。
最後にただの少女が残された。これも悪くないと好意を示す言葉に心が折れる。震える手で優しく撫ぜる。刃はその首を断った。
その刃は最後に何もかもを破却した。
此処にはもう、アキュラ王も、ハンターたるナナシも居ない。
もう、此処に居る人間は救世主などではない。救世主はいつかの神のための神殺しの刃と成り果てる。では、自分は。誰なのだろうか。こうして、誰かを利用して縛り付ける自分は。
死から生を汲み上げる女神として亡霊を選んだ。
わかって居るとも。これが、裏切りにしかならない事など。全てを悟り謝罪に満ちた瞳から、自分はただ目を逸らした。
ただ。その目的の為に、悪魔や、天使だけでなく人すらも利用するようになった自分はツギさんらにとっては裏切りに近かったのだろう。
ああ、言ったでしょう。何でも、利用してみせると。
———どうぞ、俺を呪ってください。ごめんなさい、もう疲れたのです。
此処に、胎の中で受胎した卵は完成する。それを奪った無辜の怪物が果たす事は1つ。
全てのリソースを回収してもうこんな事が二度と起こらないよう、世界の抑制に徹する何かとなればいい。アキラとしての自己は、顔は不要だ。人としての神殺しすら断ち切って、未練もなく名前のない怪物は神の座まで喰らい潰す。
コレはもう、災厄の座に座る威光にあらず。
獣のままに世界をがんじがらめに捉えた愚か者の末路である。
僕には彼は救えない。私には彼を止められない。なら、別の誰かがどうにかしてくれるとでも?