おそらくメンタルがチタン合金で出来てるなと思うんですけど、何気に勇者であるシリーズの中でもトップクラスだと思うんです。
勇者部の中ではそのっちの次に強いんじゃないかなって。
ちなみにこの作品の樹ちゃんはあんまメンタル強くないです(白目)
あとお気に入り300超えありがたとうございます。感謝感激雨あられ。
評価つけてくれたり感想くれる人もありがとうございます。
「こっちが私のお部屋だよ〜ほらほら〜」
「ま、待って……ください…!」
長い廊下を手を繋いだ状態でぐいぐい引っ張られる。そして思った以上に力が強い。
先ほどのやりとりの後『大人同士で大事な話があるから』と園子と樹は二人で遊んでなさいと言い渡されたのだった。
樹としては
「園子様……ちょ、ちょっと……ゆっくり…」
引っ張られる勢いに耐えきれなくなり思わず懇願する。普段全くと言っていいほど運動をしない樹にとってはこの廊下を走る程度でも十分な運動になってしまうのだ。
すると園子はピタッと立ち止まった。
(あれ……なんか変なこと言っちゃったかな…)
養子として上里家に行く前から他人の顔色を伺う癖はあったがそれがここ最近でさらに酷くなっているのがこんなところでも発揮されている。当の樹本人はあまり意識したことはないが無意識に他人の言動や行動を怖がる癖がこの
それがこんな時でも発揮され心の奥底で不安を感じていた。
何を言われるのかと。
「別に敬語じゃなくていいんだよ〜?」
語尾を伸ばしてのんびりを形にしたような喋り方をする園子。そんな独特の喋り方に思わず反応が遅れる。
(さっきとは別人みたいだ…)
先ほど樹の手を取っていた時の園子はまさしく優しいお姉さんであり、樹にとってはすでに一ヶ月近くあっていない姉を感じる程であったはずなのだが今は全く変わってしまっていた。
「あれ?イッつん?」
ぼーっとしたまま反応が遅れている樹に再度呼びかける園子。しかしなおも樹は反応を返さない。ならばと園子は樹の顔の前で手を振ったり顔を覗き込んだりしてみる。
「おーい。イッつーん〜」
「…………」
それでも樹は反応しない。園子は考えそして決めた。そこからはこの少女の行動は早い。
「えいっ〜」
「……!?」
ぼーっとしていたところ突然の刺激を加えられて驚く樹。無論刺激と言っても可愛いものだが。
「えへへ〜驚いた?」
「……ひゃい」
両頬を軽くつねられてちょっと面白い顔になったまま樹は答える。
「でもようやく気づいたね〜イッつんが全然反応してくれないからびっくりしちゃったんよ」
樹の両頬から手を離しつつ朗らかに言う園子。
「え…?……あの…もしかして無視しちゃってましたか…?」
恐る恐る問う樹。問われた園子は顔色一つ変えずに答える。
「もう完全に自分の世界に入り込んじゃってたね〜
「うっ……すみません…」
「謝ることないのに〜」
「そ、そうですか…?……すみません」
「また謝ってるよ?」
「えっ………あ……」
気づいたら終わらないループみたいになっていた。
閑話休題
「あれー?なんの話ししてたんだっけ〜?」
「な、なんでしょうか…ね…」
「あ、今のイッつんの反応で思い出したよ〜そうそう敬語だよ敬語〜」
「敬語……」
なんだろう……もしかして使ってる敬語に間違いがあったとか不快だったとかそういうのだろうか…
「歳だって一つしか違わないんだし敬語なんてなくていいんよ〜」
「でも…園子様は乃木家のお嬢様ですし…」
「それだったらイッつんだって上里のお嬢様だよ?」
「私は……養子ですから…」
こんな風におめかしして四国一の名家である乃木家にこうしているのだって、本来自分のような人間じゃないはずだというような負い目がどうにも抜けないからこその言葉だった。
「本当の子供だとか養子だとか、そんなの関係ないんだよ?イッつんはイッつんなんだから。–––ね?」
根拠も何もない言葉ではある。でもそれもさも当たり前のように自信満々に言うのだから変に説得力があるように聞こえる。
(またお姉ちゃんみたいだ…)
「もちろん無理にとは言わないよ?でもお友達として話すなら敬語はないと嬉しいなーって思うんよ」
「……お友達…」
その言葉は犬吠埼樹として生きていて自分が使ったことのない言葉であり、その対象となる人物も樹にはいなかった。
「えへへ、勝手だよね〜でも私はイッつんとお友達になりたいなーって、そう思ったんよ」
相変わらず朗らかな笑みを浮かべてはいるが今度はどこか自信がなさげに見える園子。それはこの乃木園子という少女にもこれまで友達と呼べる存在がいなかったことが大きいと言える。
だからこの発言だって飄々と言っているように見えるかもしれないが園子からしてみれば勇気を出しているのだが無論それが樹には対して伝わることはない。
樹は他人の感情の機微がわかるほど人と多く接してこなかったのだから。
(この人は本当にいい人なんだろうな…私とは違う)
自分でも形容する言葉がそれしか出てこないのは語彙力の低さを感じざるを得ないがそれでもそう思った今の気持ちは確かだと思うから。
「私なんかでよければ…」
下を向きながらこれまた自信なさそうに小さな声ではあるが園子にとって嬉しい返事を樹はするのだった。
「イッつん––––」
「……?」
園子は先ほど樹の両頬をつねった時のように、しかし今度はずっと優しく頬に両手で触れながら
「えいっ!」
と半ば無理やり樹の顔を上げさせた。
「イッつんはすぐ下向いちゃう癖があるんだね」
「ごめっ……うん…」
とっさに『ごめん』と出かかった言葉を引っ込める。
「それを悪いとは言わないよ?でも–––せっかくの可愛いお顔がもったいないよ–––?」
樹の顔を両手で持ち上げて至近距離なおかつ耳元で園子は囁いた。
「…………」
「あはは〜流石にちょっとわざとらしかったかな〜?」
「…………」
「こないだ読んだ小説にそんなシュチュエーションがあったんよ。それが忘れられなくてついつい試してみたく……イッつん?」
「…………」
「あ、イッつんの顔がさくらんぼみたいに真っ赤っかに」
手のひらから熱を感じるほどの体温、恐ろしい上昇率である。
「…………」
「イッつん〜大丈夫?」
流石に真っ赤で黙ったままなのが心配になったのか園子は声をかける。
すると樹は掴まれたままで顔が動かせない状態のままなんとか視線だけでもそらそうとしながら––––
「…もぅ……恥ずかしいよ––––バカ…」
でも完全に目をそらすことも出来ずに視線を彷徨わせながらそんな文句を吐露する。未だに顔はさくらんぼの赤のようにあるいはリンゴのように赤みを帯びており口元はむにゅっと恥ずかしさを表すかのように強く結ばれている。さらに手元にまで視線下げてみると落ち着かなさそうに指と指をもじもじさせている。
そして園子は思った。
(あざと可愛いっっ!!これは新ジャンルなんよ〜〜!!)
(しかもこれをわざとやってるわけじゃないとするなら…いやこの状況でわざとこんなことをやってのけるなんて不可能なんよ。うん)
勝手に脳内会議を行って勝手に結論を出す園子であった。
「……あーーこれはすごいんよ。うん」
「…?何が?」
「いや、いいんよ。イッつんは気にしなくて。それよりほら、立ち話もこれ以上なんだし–––はやく私の部屋行こ?」
「う、うん…でもどうしていきなり真顔なの?」
「なんでもないんよーちょっとというかものすごくビビッときただけだからね」
「そ…そうなんだ」
「そうなんよ〜」
なぜか真顔で、しかもその後すぐにやけ顔になる園子と一緒に園子の部屋を目指す。
(むぐぅ…重い…そしていい匂い…)
なぜか後ろからハグされた状態で。
(でもやっぱりお姉ちゃんみたいで落ち着く……かも…?)
恥ずかしさと嬉しいみたいなのがごちゃまぜな不思議な感覚を樹は味わうのだった。
場所は移って園子の部屋。それは乃木家のお嬢様の名に恥じない見事な装飾が施され、家具はどれも園子の可愛らしい女の子らしさを表しているかのように女の子向けのようなガーリーな作りでなおかつ高級感漂うという仕様。
広さは上里邸の樹が使っている部屋とほぼ変わらないぐらいだと思うがなによりも違うのはその生活感だった。
この部屋には園子が普段ここで日常生活を送っているのがよくわかる、つまり園子の物が溢れている部屋なのに対して樹が使っている部屋はまるでどこかの部屋を借りてるかのような–––本当に日常生活で必要なものしか揃っていない部屋であるがゆえにこの生活感の違いが出るのであろう。
(あの家に来てから何も自分で買ったことなんてないもんな……いや、前の家の時からだったほとんどなかったか…)
前の家–––犬吠埼家に住んでいた時はそれでも生活感がある部屋ではあったのだ。
でもそれはあくまで姉である風が樹に気をきかせて買うように進めたり時には自分の小遣いで買い与えたりしたものがほとんど。
それでも自分の部屋に自分のものがたくさんあるのはなんだか落ち着く気がしして、辛いのとか苦しいのとかを紛らわせてくれる気がしたから別に嫌じゃなかった。
(お父さんとお母さんに何か買ってもらったこともほとんどなかったのかな。俺って)
でもそれは俺が自分で言い出さなかったから。自分の思いや考えを伝えなかったからで–––––
「ねえイッつん?どうかな私の部屋?」
「……うん。すごく可愛いと思うよ」
隣にはニコニコしながら自分の部屋の感想を問う園子の姿。樹の返答にも満足したようでとても嬉しそうだ。
(今は…そんなこと考えなくていいか)
自分がいるのはあの寂しい部屋じゃないのだから。
「ここで園子……様は生活してるんだね」
「む〜〜〜ダメだよイッつん!!」
「……やっぱり…?」
『やっぱり』ってのは今のやりとりで何がダメだったのかなんとなく察したから。
園子は頬を膨らませて不満の気持ちをわかりやすく表現する。
(感情表現が豊かな人だな…こんなとこまでお姉ちゃんみたいだ…)
「敬語なしなんだから『様』ももちろんなしだよ?」
(まぁ…そうなるよね…)
「えっと…じゃあ……」
「うん」
「その……」
「うんうん」
「こ……」
「うんうんうん」
「ちゃん……」
「じゃ今度はそれを連続で繋げて言ってみようか?」
(なんでさっきみたいな真顔なんだろ…)
園子の表情変化はあまり意図がわからないことも樹には多い。無論出会って一日もたっていないのだからそんなものであると言ってしまえばそんなものだが。
「…園子ちゃん……」
「もぉ〜可愛いなぁ〜もじもじイッつん〜」
「か、からかわないでよ」
「からかってないよ〜心の底から思ってるんよ〜」
「…それはそれで恥ずかしいかも」
「なはは〜あ、そうだ!イッつんにいいもの見せてあげるよ!」
「いいもの?」
園子は樹を部屋のある一角に案内する。その一角にはぱっと見では数え切れないほどの大小さまざまな種類のぬいぐるみが置かれていた。
(数もすごいけど…なんかどれもちょっと変な見た目…)
なんとなく近場に置かれていて、目を引いたデザインのぬいぐるみを持ってみる。
(あ…許可取ってない……勝手に触っちゃった…)
こんなだけ数があるんだしきっと大切なものなのだろう。それをつい勝手に触ってしまったという罪悪感に襲われる。
(怒ってないかな……?)
ミチラッと横目で園子の様子を伺う。
「お、目の付け所がいいねえイッつん!それはねえサンチョって言うんだよ〜」
「さ、サンチョ?」
(というか怒ってないの…かな……?)
園子が何も言ってこないのだから…大丈夫なのかもしれない。
「私の一番のお気に入りの子なんだぁ〜可愛いでしょ〜?」
さぁ感想を!と視線で熱く訴えかけてくる園子。
改めてまじまじとサンチョを見てみる。比較的縦長で大きめの猫?のぬいぐるみであるサンチョ。
「可愛い」
なんで名前がサンチョなんだとろうとか色や大きさが違う似た奴にも名前はあるのかなとか疑問も数多くあるけどとにかく可愛いとは思う。
「もふもふ、だね」
「でしょ〜もふもふで気持ちいいんだよね〜」
「寝るときとか良い抱き枕になりそう」
「そうそう!そうなんよ〜!サンチョ抱いて寝ると大抵よく眠れるし変な夢見れるんよ〜!」
(……それは良いことなのかな…夢ってあんまり良いイメージないんだよな)
「そうだ、イッつんがよければそれあげるよ〜」
「えっ?で、でも大事なぬいぐるみなんでしょ?」
「ぬふふふふ…心配には及ばないんよ〜ほら!」
すると園子はどこからともなくもう一匹サンチョを召喚した(取り出した)
「もう一匹いたんだ…」
「まだまだいっぱいいるんよ〜だから気にしなくてもいいよ。むしろイッつんにもらってほしいな」
「……………」
胸のあたりで抱いているサンチョを見てみる。
(つぶらな瞳しやがって…可愛いなぁ)
正直結構惹かれるものがあった。
(これがあればもう少し夜も眠れるようになるかな)
そうなるといいなと思いつつサンチョを抱く力を強くする。ぎゅーっと抱きしめられ分もふもふのサンチョはちょっと面白い形に変形した。
「–––うん、嬉しいな。ありがとう園子ちゃん」
「えへへ〜どういたしまして〜」
樹と園子は互いにサンチョを抱きしめつつ笑い合う。
(サンチョ…なんか懐かしい感じがする……匂い…お姉ちゃんの匂い……園子ちゃんの匂い……)
そんなことをつい考えてしまったのは園子ちゃん本人には内緒だ。
そのっちとイッつんの初日の交友はもう少し続くんよ。
わっしーとみのさんはもう少し待っててね。
そしてお前ももう少し待ってろよな…シリアス……