犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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思った以上に更新が遅れてしまいました…(陳謝)

テストがあったりそもそも疲れてたりモチベが上がらなかったり、何度か書き直しをしたりしたらこんだけ空いちゃいましたね。


でもちょくちょく読んでくださる方も多くUA35000を超えたようで。…嬉しい。


心のかたち、人のかたち、気持ちのかたち

連携力アップのために行われた強化合宿も無事?終えしばらく経ったある日。

 

 

樹は銀にお呼ばれされて休日に三ノ輪家を訪れていた。

 

 

 

 

 

「樹ーなに食べたい?」

 

銀が台所で準備しつつ樹に言う。そんな樹の目の前には冷えた麦茶が置かれていた。

 

 

「な、なんでもいいよー」

 

 

少し語尾を伸ばすように返答するのは樹がいるのが居間で台所とは少し距離があるから。

 

 

 

「んじゃ鉄男は?」

 

 

銀の言う『鉄男』とは銀の二人いる弟のうちの上の弟のこと。

 

 

 

「俺焼きそばー!」

 

 

その鉄男はそう返答しつつゲームのボタンをピカピカとせわしなく押している。

 

 

(○リオカートかな?)

 

 

樹は鉄男がプレイしているゲームのテレビ画面を眺めながら『犬吠埼』の家にいた頃にやった時のことを何となく思い出していた。

 

 

(お姉ちゃん弱かったなぁ)

 

 

 

 

「また焼きそばー?よく飽きないね〜」

 

 

「いいだろ好きなんだから!。ったくうっさいなぁ」

 

 

「ごめんごめん分かったよ焼きそばね。樹もそれでいいかー?」

 

 

「う、うん」

 

 

「おっけー」

 

 

 

どこか楽しげに言う銀とぶっきらぼうながらも『好き』と素直に伝えている鉄男。今のちょっとした会話だけでもこの二人の姉弟間の良さはなんとなく伝わってくる。

 

 

 

 

(銀ちゃん…なんだかすごいお姉ちゃんだ)

 

 

 

声が聞こえなくなり料理をし始める音が聞こえ出した台所をぼーっと眺めていると予想外の声が聞こえてきた。

 

 

 

「飲まないの?」

 

 

それは先ほど銀との姉弟間の良さを垣間見たばかりの鉄男だった。今はゲームを中断し体をこちらに向けてきている。

 

 

 

「…えっ、あ!、うん…ありがとう」

 

 

正直ご飯ができるまでゲームに集中しているだろうと思っていたから驚いてしまった。

 

 

 

 

「いやだから飲まないの?」

 

 

 

「あ!そ、そうだよね。うん…いただきます」

 

 

なんとなく飲まずにそのままにされていた麦茶をごくっと一飲みする。程よく冷えたそれはスッキリと喉を潤していった。

 

 

 

「…美味しいね!」

 

 

 

「そりゃね」

 

 

 

「…だよね」

 

 

……なんだろう。もしかして嫌われてしまったのか…今日が初対面とはいえもしかして銀ちゃんから何か聞かされていないとも……いや銀ちゃんはそんな人の悪口を言うような人じゃないのは分かってるけど。

 

 

 

 

「あとなんで正座?」

 

 

 

「・・・・なんでだろう」

 

 

そういえば正座だった。…誰かの家に上がるのなんて園子ちゃん家以外経験がないからだろうか。

 

 

 

「なにそれ。変なの」

 

 

 

「あはは…ほんとだね」

 

 

ぐうの音も出ない指摘に思わず苦笑いが溢れる。

 

 

とりあえず麦茶でも飲もうとしてもう飲み切ってしまったことに気づいて再度苦笑い。

 

 

自分でも何してるんだという感じだ。

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

「な…何?」

 

 

「今暇?」

 

 

「…たぶん」

 

 

「やらない?」

 

 

そう言いながら鉄男が取り出したのはもう一つのコントローラー。どちらかというと鈍い部類に入るであろう樹でもこれの意味するところはわかる。

 

 

「…いいの?」

 

 

「嫌なら別にいいけど…」

 

 

「あ、ううんそうじゃなくて・・」

 

 

「まいいや。はいこれ」

 

 

「あ、ありがと」

 

 

正座を解いて鉄男の隣に座りコントローラーを受け取る。○リオカートをやるなんて本当に久しぶりだ。園子ちゃんの家ではどうだったかな。あの家にはそれはそれはいろんなゲームがあるからあまり記憶があてにならない。

 

 

(お姉ちゃんとは何度もやってたからその時の感覚が残っていれば…)

 

 

 

そんなことを思いつつキャラ選択へと移る。

 

 

 

「私はノコノコにしようかな」

 

 

あまり悩むこともなく即決だ。使い慣れてるといえば慣れてるし。

 

 

 

「…ゲームとかするの?樹さんって」

 

 

画面を見つつ樹に話をする鉄男。ちなみに選んだキャラはクッパ。

 

 

 

「えーっと、一人ですることはあんまりなかったかな。お姉ちゃんとか友達とはそれなりに」

 

 

 

「樹さんお姉ちゃんいるんだ」

 

 

「うん私の二つ上で」

 

 

「その人は強い?」

 

 

「…弱…かったねぇ」

 

 

「樹さんが強いんじゃなくて?」

 

 

「・・考えたことなかったかも」

 

お姉ちゃんとやってた時はあんまし負けた記憶ないけど、園子ちゃんとやる時は普通に負けるし…どうなんだろ。

 

 

「まぁいいや。ステージどこにする?」

 

 

「鉄男くんの好きなところでいいよ」

 

 

「んーそれじゃここで」

 

 

鉄男が選んだのは火山がグラグラしてる感じのコース。何度かやったことのあるがちょっと難しめのところだと記憶している。

 

 

「ここは落ちないようにしようとするのが大変だよね」

 

 

 

「ふふっ、悪いけど手加減はしないよ。女子相手だからって」

 

 

少し口元をニヤリと歪めつつ自信ありげに鉄男が言う。

 

 

「・・・?」

 

 

 

「いやなんで無反応なの」

 

 

「あ、私のことか」

 

 

「樹さん以外に誰がいるっての。大丈夫?ボケてる?」

 

 

生きていき他人の男子に女子として扱われた経験がなかったため思わずぽかんとしてしまった。

 

 

「あーごめん。平気だよ、うん」

 

 

 

(中身はあくまでどこぞの男なのに見た目は女の子なんだもんな。そりゃ『女子』として扱われて当然なんだけども…)

 

 

 

(なんか申し訳ない気持ちになるな…)

 

 

 

「……樹さんってモテたりする?」

 

 

「・・・・ふぇ?」

 

 

「いやなんでもない。忘れて」

 

 

「い、いやでも…」

 

 

「さぁやろう!!ほら始まるよ!」

 

 

「?…うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりにやったけどやっぱり楽しいなー単純かつ奥が深い感じっていうのかな。まぁ○リオのゲームってそういうのは多い気がするけどね」

 

 

 

「……負けた・・だと…」

 

 

 

うんうんと頷きながら笑顔で何故か○リオゲーム全てのイメージを語る樹と負けたダメージが深いのかうなだれる鉄男。

 

 

なかなかに両極端な絵面である。

 

 

 

 

 

「樹さん普通にうまいじゃん!?めちゃくちゃ普通に負けたんだけど!」

 

 

 

「?ゲームなんて勝ったり負けたりするもんだよ」

 

 

 

「うぐっ…それは確かにそうだけど…なんか悔しいっ!学校のやつらに負けるよりも悔しい!」

 

 

 

「じゃあもう一回やる?」

 

 

 

「……じゃあ今度は樹さんがステージ決めていいよ。さっきは俺が決めたしね」

 

 

 

「えーっとね、じゃあここで」

 

 

樹が選んだのはレインボーなロード。コースを通して両側に壁がなく落ちやすいステージである。

 

 

 

「うっ…よりによってそこかぁ」

 

 

 

「変えようか?」

 

 

 

「いややろう!樹さんの選んだステージで樹さんに勝って前の負けを帳消しにしてやるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここは落ちないようにするのに集中力使うなーうまく加速できれば流れに乗れるんだけどね」

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

既視感のある絵面が昼間の居間に広がる。

 

 

 

 

「あーーー!!なんかわかんないけど悔しいぃ!!樹さんもう一回だ!もう一回!」

 

 

 

「その前にご飯食べちゃいな〜ほら鉄男持っててー」

 

 

「えーーー!これからって時だったのに!ねえ樹さん!」

 

 

料理を終えたらしい銀が手伝いを促すと分かりやすく鉄男はわかりやく嫌がるそぶりを見せる。

 

 

 

「て〜つ〜お〜〜……?」

 

 

 

「はいはい今行きますよ、今」

 

 

 

(一瞬で素直になった…これが銀ちゃんのお姉ちゃん力…)

 

 

 

改めて銀に関心しているとどこからともなく声が聞こえてきた。

 

 

それも泣き声らしきものが。

 

 

 

「あ、金太郎起きちゃったか。やばいやばい」

 

 

台所では未だに作業中の銀はとっさにそれを切り上げて小走りで泣き声のするの方に向かっていく。

 

 

 

 

「樹さんー食器持ってくの手伝ってくんなーい?」

 

 

 

「わっわかった」

 

 

 

当たり前のことのようにスタスタと動く二人を尻目にあたふたしていた樹はとりあえず鉄男の言う通り食器運びを手伝う。

 

 

「鉄男ー!ミルク作ってあるから持ってきてー!」

 

 

 

「最初から持ってけよー!」

 

 

 

「忘れたんだよバカー!」

 

 

 

「バカ姉ちゃんはしょうがないなぁ〜!」

 

 

 

悪態をつきながらもしっかり哺乳瓶に用意されていたミルクを持っていく鉄男。

 

 

「樹さん、悪いけどそこのタオルで机拭いといてくれる?」

 

 

「・・・・・」

 

 

「樹さん?」

 

 

 

「・・あ・・うん。わかった」

 

 

 

「?よろしくー」

 

 

 

あっけにとられたようにしている樹を不思議に思いつつも鉄男は銀ともう一人の弟である金太郎のところにミルクを届けに行った。

 

 

 

 

先ほどまで慌ただしかった台所が突然静かになり、変な感じがした。

 

 

 

少し遠くではぼんやりと銀と鉄男の会話が耳に入る。

 

 

 

(家族・・・か)

 

 

 

 

樹はタオルを手に取り机を拭いていく。使い古されつつあり汚れや傷、はたまた落書きの跡が所々にある机、用意されていた食器を運んでいると同じような食器でも色や柄でこれが家族内で誰が使っているものなのかなんとなくわかる。

 

 

 

これだけのことでもいたるところに家族の色が目についてなんだか痛い。

 

 

 

でも焼きそばのいい匂いがそれを和らげてもくれるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いただきますー!!」」

 

 

「いっ…いただきます」

 

 

 

下の弟の金太郎も無事寝つき三人での食事が始まる。

 

「樹さーんドレッシング取ってー」

 

 

「えっと…あ、どうぞ」

 

 

「サンキュー」

 

 

樹側に置かれていたドレッシングを鉄男に手渡しながらコップに注がれている麦茶を飲む。さっきも飲んだ全く同じやつ、でも美味しい。

 

 

 

(焼きそばなんて本当に久しぶり……前食べたのっていつだったかな)

 

 

 

 

「樹?冷めないうちに食べちゃえよ?」

 

 

「いや…あの…」

 

 

「安心しなよ樹さん。姉ちゃんこれでも料理それなりにできる方だからさ」

 

 

鉄男が勢いよく焼きそばを頬張りながら言う。これでも、と言う割には美味しそうに食べるものだ。

 

 

 

「『それなり』は余計だろうが〜こいつめ〜」

 

 

「だあー!やめろバカ姉ちゃん!」

 

 

「こいつめこいつめ〜〜」

 

 

ニヤリと笑いながら鉄男の頭をわしゃわしゃと撫でグリ回す銀。

 

 

こいつとかバカとか、そんな言葉が悪い意味で聞こえないのはこの二人の中の信頼関係というか気兼ねがないというか…そういう感じなのだろうか。

 

 

 

 

「こういう食事…慣れてなくて」

 

 

 

「むっ!ダメだぞ、好き嫌いしちゃ!」

 

 

机に身を乗り出して樹に顔近くまで迫る銀。そこには両親が大赦の職員として休日だろうと出勤が絶えない三ノ輪家の台所を預かる料理人としての顔があった。

 

 

 

 

「ち、違うよ!?そ…そういうんじゃなくて…」

 

 

樹は少しのけぞりながらも首を左右に振る。

 

 

 

「–––楽しいか?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「こうして他の人と食事するの」

 

 

 

「…うん。その–––楽しい…かな…」

 

 

最後にこうやって家族団欒のような食事をしたのはもう一年以上前。上里の家に来てからはほとんど一人でここよりもずっと広い所で食べていた。

 

 

話し声も笑い声も聞こえず、聞こえてくるのは自らの食器の音だけ。

 

 

 

だからこういう食事–––楽しいはずだし嫌いなはずもないのに心が落ち着かなくて笑っていられない。

 

 

またそれが銀や鉄男に対して申し訳ない。

 

 

そうした時の相手の表情を見るのが怖くなってしまう。

 

 

それに逃げたくないのに逃げたいと思ってしまう。

 

 

 

(あぁ…またこれだ…)

 

 

自分でわかっていてもどうにもできないこの感情の淀み。胸がざわざわして手に力が入らなくなる感じ。

 

 

もうなんども味わってきたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいっ」

 

 

「!?」

 

 

心が沈みかけていたその時、どこからともなく…というか目の前のから手が伸びてきて樹の頭をわしゃわしゃというかぐしゃぐしゃというか、ともかくそんな感じで銀が撫でグリ回す。

 

 

先ほど鉄男にした時よりも心なしかパワーが込められてるようなそんな力強さがある。

 

 

 

「ぎ、銀ちゃん!?」

 

予想外すぎる銀の行動に思わず大声が出る樹、どういうことなのかと思わず顔を上げてみると–––

 

 

 

 

 

 

「くえっ」

 

 

 

「ぶっ!!」

 

 

 

 

なぜか変顔をしている銀がいた。

 

 

そして樹が吹いた。…何も口に含んでなくてよかった。

 

 

 

 

「うわあ出た。姉ちゃんのなんとも言えない変顔」

 

 

吹き出した樹の隣では鉄男がやれやれといった風に感想を言う。…え、これよくやってるやつなの…?

 

 

 

しかし鉄男は慣れているから?なのか平気そうだが樹にはクリーンヒットした。

 

 

 

「クフッ…!ククククククッ……!」

 

 

吹き出した後もあのなんとも言えない変な顔が消えなくて笑いが止まらない。抑えようと口元に手を当てているが今度は笑いすぎて涙まで出そうだ。

 

 

 

「あ、ようやく笑ったな」

 

 

 

すると変顔をやめた銀が満足げに微笑む。

 

 

「ど、どういうこと…?」

 

 

しかし樹にはやはり意味がわからない。

 

 

 

 

「無理にでも笑えば、気持ちは後からついてくるもんだぞ」

 

 

 

「逆に、暗い気持ちの時に、暗い顔をしてるとどんどん気が滅入っちゃう。だろ?」

 

 

 

「うんうん、その通り!」

 

 

鉄男の補足に気持ちよく頷く銀。

 

 

 

 

「だからってどうして…そんな–––」

 

 

 

次に続く言葉を樹は言うことができない。躊躇ってしまったのか、そもそも後に続く言葉が思いつかなかったのか–––自分でもよくわからない。

 

 

 

 

「見たかったんだよ。お前の笑顔が」

 

 

「えっ…?」

 

 

 

(俺の…笑顔……)

 

 

そっか。そんなに俺は暗い顔してたか。……そっか。

 

 

 

「友達が暗い顔してるのを喜ぶ人間なんてこの世には一人もいないぞ。な?、鉄男」

 

 

 

「まあそうだね。…あ、おかわり」

 

 

「ってこらマイブラザー!このタイミングで!?」

 

 

「いいだろーべつに。ほら樹さんも食べなよ。上里みたいな超がつく名家の料理と比べちゃうとあれだけどこれはこれでありだと思えるはずだから。焼きそばに関しては」

 

 

 

 

「お前はいちいち一言二言余計なんじゃいっ!どれぐらいいる!」

 

 

 

「おんなじぐらい」

 

 

 

「あいよ!」

 

 

 

投げやり気味に銀が鉄男の皿を持って追加の焼きそばをよそいに席を立つ。

 

 

樹にもう一度微笑みかけながら。

 

 

 

 

(友達………)

 

 

 

 

(そうだよな…俺が落ち込んでるところなんて誰も見たくない……ましてや–––友達、俺のことを友達と言ってくれる人たちに…そんなところもう見せたくない–––)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーしよしよし。ほらほら泣くなって、お前はこの銀様の弟だろー」

 

 

「金太郎くん…えと…あのベロベロバ〜〜」

 

 

昼食を食べ終えしばらく三人でゲームをしていたのだが『案内したいところがあるから行こう!』と銀ちゃんに誘われて『イネス』なるところに行くことになったのだが、その前に銀のもう一人の下の弟である金太郎くんが泣き出してしまったのだ。

 

 

まだまだ赤ん坊でとても可愛い。どこか側にも鉄男にも面影があるのはさすが姉弟。

 

 

 

「うぅっ……ぅー…」

 

 

 

「ほらほら高いたかーいっと。それから泣いていいのは母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟った時だけだぞ〜」

 

 

 

「なかなかに辛い経験だね…」

 

 

 

しかしそんな銀の辛い実体験でも金太郎は泣き止むそぶりを見せない。

 

 

それどころかぐずり中が始まってしまった。

 

 

 

「ど、どうするの銀ちゃん…?」

 

 

「ふふ–––案ずるな樹。そっちがそうくるならこっちにだって手はあるのだよ!」

 

 

 

そうして銀が取り出したのは振るとカラカラと音がなるおもちゃ。

 

 

 

 

「ほれほれ〜〜」

 

 

 

するとなんということでしょう、効果は抜群。

 

 

 

ぐずり泣きがすぐさま収まり晴れやかな笑顔へと早変わり。

 

 

 

 

「おお泣き止んだ!偉いぞマイブラザー!」

 

 

 

「おおー銀ちゃんすごい」

 

 

「へへっ〜それほどでも〜あ、樹も使ってみるか?」

 

 

そう言っておもちゃを銀は樹に渡す。

 

 

「い…いいの?」

 

 

「うん、もちろん」

 

 

 

樹としては赤ちゃんをあやした経験などないのでだいぶ不安が勝るのだがこんなつぶらな瞳に見つめられてしまっては仕方がない。

 

 

 

 

「金太郎く〜ん…ほらほらカラカラ〜〜」

 

 

 

努めて笑顔を作りつつおもちゃを左右に振る。まあもうぐずり泣きはやんでるわけだしそんなどうこうしなくても別に平気だとは思うんだけど。

 

 

 

 

「びぇええええぇーーー!!」

 

 

 

「ええーー!?なんでなんでなんで!?」

 

 

 

なぜかぐずり泣きというか大泣きになってしまった。逆戻りどころかむしろ悪くなってる……

 

 

 

 

「樹っ!こうなっちゃ致し方ない!」

 

 

 

「なっなにかいい方法があるの銀ちゃん!」

 

 

 

「変顔だっ!」

 

 

 

「そうはならないと思うんだけど!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ〜二人とも楽しそうだね〜」

 

 

 

「上里さんのあれはどういう顔なのかしら…」

 

 

 

「別に変顔に意味なんてないんじゃないかな〜?」

 

 

 

「・・たしかに」

 

 

 

生垣の裏に隠れて望遠レンズっぽいものの持ち手を伸ばして上から、生垣の隙間から銀と樹のやりとりを除く二人。

 

 

 

アカの他人から見たらもはやただの不審者だがこんな状況になっているのにも一応理由がある。

 

 

 

事の発端はこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

『三ノ輪さんの普段の生活をのぞいてみましょう』

 

 

『んーどうして?』

 

 

『三ノ輪さんは流石に遅刻が多すぎると思うの。でも別にそんなことを平気でするような人にも見えないし…』

 

 

『おお〜わっしーミノさんのこと信頼してるんだねぇ」

 

 

 

『なっ!?い、いや別にそういうんじゃ…ないわけでもないけど………と、とにかく!どちらにせよ遅刻は良くないことよ。原因があるならそれを知っておかなければならないわ。乃木さんもそう思わない?』

 

 

 

『ん〜〜そうかも〜?』

 

 

 

『決まりね。じゃあ今度の休みの日二人で三ノ輪さんの家に行ってみましょう。もちろん三ノ輪さんには気づかれないように』

 

 

 

『おお!わっしーと二人で休日デート!』

 

 

 

『バカなこと言ってないの、もう』

 

 

 

『えへへ〜〜。ん!そうだ、だったらイッツンも誘って三人でお出かけしようよ〜』

 

 

 

『上里さんも誘ってみたのだけどその日はすでに予定があるそうよ』

 

 

 

『あーそれじゃあしょうがないね』

 

 

 

『手を合わせてこれでもかというぐらい謝られたわ…』

 

 

 

『イッツンらしいね〜』

 

 

 

 

てな訳で須美と園子の二人はこっそりお忍びで三ノ輪家を訪れる…のは流石に普通に不法侵入なのでそんなことはしない。

 

 

仮にも二人は勇者であり、須美は筋金入りの真面目っ子なのだ。

 

 

 

…だからってピンポンダッシュが恐ろしいことなのはわかるが・・望遠レンズみたいなやつで家の外から中を覗くのはいいという結論に至るのはちょっとどうかと思うが…

 

 

というかそれの方がむしろ恐ろしいことなのでは…?

 

 

 

 

 

『もしかしてその予定ってミノさんのお家に行く予定とかだったりして〜』

 

 

 

『あはは、もしかしたらそうかもしれないわね』

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本当に三ノ輪さんの家にお呼ばれされていたとはね」

 

 

 

「ほんとほんと、びっくりだよ〜」

 

 

 

あいも変わらず生垣の外から覗き見を続行中の二人。…よくバレないものである。

 

 

 

 

「それにしてもすごいね〜ミノさん。弟たちの子守してるんだ〜」

 

 

 

「世話が大変ということなのかしら?」

 

 

しかしそれにしたって学校を遅刻するほどのこととは思えない。何か他にも理由はあるのでは、と須美は思った。

 

 

 

 

「イッツン髪だいぶ伸びてきたね〜もうそろそろ切るのかなぁ?」

 

 

 

「そうねぇ、私としては長い髪もとても似合ってると思うけ・・・ってそうじゃないでしょ」

 

 

 

「わぁ〜ノリツッコミだーさすがわっしーだね」

 

 

 

「なにが流石なのかわかんないけど・・」

 

 

 

「せっかく長くなってきたんだから他の髪型試してみてほしいよね〜」

 

 

 

「……はぁ、まあそうね。上里さん髪の手入れとか特別なことはしてないって言ってたけどそれであれだけのものがあるならもったいないかも」

 

 

 

「でしょでしょー私が色々弄ったりはするんだけどあんまりお気に召さないみたいだし」

 

 

 

「ほどほどにしてあげなさいよ」

 

 

 

「はぁ〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤ん坊まで固まるような変顔なんてななかなすごいぞ樹、うん」

 

 

 

「それ絶対褒めてないよね銀ちゃん…」

 

 

 

「いやいや、むしろ逆に凄いっていうか滅多にみられるもんじゃないというかさ」

 

 

 

「嬉しくない…」

 

 

本人的には悪意など全くないであろう銀の励ましが逆に辛い。変顔なんて二度としたくない、というかしない。

 

 

 

内心『しょぼん…』としている樹と金太郎に対して『お前あんな顔できたのか〜姉ちゃんびっくりしちゃったぞ〜』なんて言ってるところに鉄男がやってきて銀の頭を軽く小突いた。

 

 

 

 

「姉ちゃんいつまで金太郎に構ってんのさ。ブラコンもいいけど出かけるならさっさと行って来いって。樹さん困ってんだろ」

 

 

 

 

「ふん!な〜に男の子ぶっちゃってさ。そもそも鉄男は樹とは初対面だろうが」

 

 

 

「なっ!?べ、別にそういうんじゃねーよ!!変なこと言うなっての!」

 

 

 

「そりゃーあんたみたいなタイプはなかなか女の子に好かれることなんてないだろーしわからなくもないけど〜なあ〜樹〜?」

 

 

いやらしい笑みを浮かべつつなぜか樹に話を振る銀。

 

 

しかし樹にはイマイチ話の主旨が理解できていない。

 

 

 

 

「?鉄男くんはいい子だと思うよ?」

 

 

 

「……っ!?樹さんまでバカなこと言ってんなよな!もう!」

 

 

 

「ご、ごめんね」

 

 

 

「あ…ちが…こ、こっちこそごめん」

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

なんでも言えない空気ができてしまった。この場合たちが悪いのは二人とも悪くないというところ。

 

 

 

「はーよしもう行こう樹。ほら鉄男、金太郎頼むよっと」

 

 

 

そんな状況を見てなのかはわからないが、銀が出発を諭す。

 

 

樹としては結局よくわからないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ミノさんとイッツンお出かけするみたいだよ」

 

 

 

「大変だわ!隠れなきゃ…!」

 

 

 

「あーまだするんだね〜」

 

 

「当然よ」

 

 

「りょ〜かい〜」

 

 

 

こうして二人の尾行の続くていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ミノさんとイッツンどんなお話してるんだろうね〜」

 

 

「ちょっと気になるわね」

 

 

買い物に出かけたらしい二人を追って木の陰や物陰に隠れながらある程度の距離を維持する。

 

 

できる限り近づいてはいるがこれ以上近づくとバレてしまう恐れがあるため流石に銀と樹の会話の内容までは聞き取れない。

 

 

 

 

「わ〜ミノさんがイッツンの髪触ってる〜!」

 

 

「ちょっと乃木さん。大きな声出しちゃダメ」

 

 

 

「うひょ〜!イッツン照れてる照れてる〜赤くなっちゃってるんよ〜!」

 

 

 

「は・な・し・を聞きなさい」

 

 

 

 

尾行といいつつ園子がことあるごとに興奮を隠しきれていない。バレてしまわないか心配になる須美だった。

 

 

 

 

 

「んー?わっしーみてみて」

 

 

 

「あれは・・道を尋ねられたのかしら?」

 

 

程なくして園子の興奮も収まりなんとかバレずに済んだ二人だったが、今度は銀と樹がお爺さんに声をかけられ手を引いて道案内をしているのを発見した。

 

 

 

しかし道案内といっても樹に関しては銀の少し後ろでおどおどしてるだけで何かしているわけでもない。

 

 

基本的に樹は人見知りなのだ。

 

 

しかし

 

 

 

「あ、イッツンなんか言ってる」

 

 

「お爺さんも何か言ってるわね」

 

 

 

園子と須美の二人の目には落ち着かないながらも言葉を口にしお爺さんの去り際には頭を下げている樹と手を振る銀の姿が映った。

 

 

 

「ミノさんもイッツンも可愛い〜」

 

 

「困っている人を放っておかないのは偉いわね。とても素晴らしいことだわ」

 

 

明らかに違う意味でだが二人ともそんな銀と樹の姿に関心していた。

 

 

 

 

しかしこれで終わりではなかった。

 

 

 

「また聞かれてるわ」

 

 

「今度はお姉さんだね」

 

 

園子の言う通り大学生あるいは新人のOLぐらいの女性から道を聞かれている。

 

 

 

今度も銀がしっかりと説明し、女性も笑顔で立ち去っていった。

 

 

 

 

「ミノさんしっかりしてるね〜」

 

 

 

「というか上里さんってここら辺の立地あまり詳しくないんじゃないかしら?」

 

 

 

「あーそうだね。イッツンこの街に越してきてからまだ一年ちょっとだしねー」

 

 

 

 

 

しかし、まだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

「道を聞かれなくなったと思ったら今度は自転車…?」

 

 

 

「倒れたやつ起こしてるねー」

 

 

 

ちょっとした自転車置き場らしきところの自転車を二人で起こしている。別に自分たちが倒したわけじゃないんだからわざわざやる必要なんてないと言ってしまえばそれまでだが銀も樹も嫌そうなそぶりを全然見せない、むしろ笑顔だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにはこんなことも

 

 

 

 

「ミノさん捕まえた〜」

 

 

 

「上里さんが前に出て進路を塞いで犬が止まった隙を三ノ輪さんが捕える・・・見事な連携ね」

 

 

 

「よかったね〜わんちゃん〜」

 

 

 

飼い主の手を離れてしまった犬を道路に飛び出してしまう前に捕まえるというよっぽど起きないような出来事まで。

 

 

 

 

「ミノさんってトラブルに巻き込まれやすい体質なのかな〜?」

 

 

「やっぱりここまでの出来事は三ノ輪さんによるもの・・」

 

 

「イッツンはあんな感じでトラブルに合ってるのみたことないし」

 

 

「うーん…これも勇者だからかしら」

 

 

 

 

犬の頭を二人で撫でてなにかを呟く二人を尻目に須美と園子の考察は捗っている。

 

 

 

「なんて言ってるのかしらね」

 

 

「たぶんだけど、『もふもふ〜』って言ってるんじゃないかなあ」

 

 

「ふむ、たしかにあれはかなりもふもふそう」

 

 

「私も触りに行きたーいー」

 

 

「だーめ、尾行を続けるのよ」

 

 

「ぶーケチンボ〜」

 

 

駄々をこねる園子を引っ張りながら二人の後を追っていくと、どうやらようやく目的地に着いたようだ。

 

 

『イネス』ここら辺に住む人なら誰もが知っているショッピングセンター。

 

 

 

中に入っていく二人をコソコソと須美、園子も追いかける。

 

 

 

「これって周りの人からはどんな風にみえてるんだろーね〜」

 

 

「あまり気にしちゃダメよ。尾行に支障が出るわ」

 

 

「イエッサー」

 

 

「せめて小隊長とかにして」

 

 

「はっ小隊長殿!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからも・・・

 

 

 

「あれは迷子かな?」

 

 

「上里さんが何か話しかけてるわね」

 

 

「あ、迷子の子笑ったよ。イッツンなに話してるんだろうねぇ」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「喧嘩の仲裁!?」

 

 

「よくやるね〜〜あれ、イッツンどこ行ったんだろ?」

 

 

「戻ってきたわ。飲み物を買いに行っていたみたいだけど…」

 

 

「飲み物の取り合いしてたみたいだね」

 

 

「ほんとだわ。三ノ輪さんが両方にお説教中みたい」

 

 

「お姉ちゃんだなあミノさん」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ねえ乃木さん」

 

 

「なにー?」

 

 

「私ここまで見てて思ったの」

 

 

「わっしーも?奇遇だねえ〜」

 

 

「ええ、たぶんこれって巻き込まれてるというより・・・放っておけないのね」

 

 

 

「ミノさん優しさに溢れてるしイッツンも嫌な顔せず協力してて見てて微笑ましいんよ」

 

 

 

主婦らしき人がばらまいてしまったリンゴやみかんを二人でせっせと拾い集めているのを見て今日ここまでのを総評を下す須美と園子。

 

 

トラブルに対する遭遇率の高さはもちろん天性の優しさというか他人を放っておけない銀の人となりがよく表れている。

 

 

 

 

「そして上里さんは・・」

 

 

 

「友達の力になってあげたいんだろうね」

 

 

 

 

樹は周りが見えるタイプじゃないし、銀と違って何事にも余裕がない。フレンドリーでもなければコミュニケーション力もない。

 

 

 

でも友達のことを思い友達が何かしているならその手伝いをしたい。何か役に立ちたい、狭い視野だとしてもせめてその視野に入る人たちぐらいは助けたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ!?じゃあ二人とも家の前から見てたっての?」

 

 

 

「なんか恥ずかしいね…」

 

 

「なぁ…〜」

 

 

 

びっくり恥ずかしといった感じで銀と樹はジェラートをひと舐めする。二人は三ノ輪家ですでに昼食をとっているためここではデザートだ。

 

 

 

 

「恥ずかしくなんかないよ二人とも偉いよ」

 

 

「いつも遅れる理由はこれだったのね」

 

 

「言ってくれればいいのに〜」

 

 

銀と樹の向かいに座る須美と園子はそういえばまだお昼食べてなかった、ということでうどんに舌鼓をうっていた。

 

 

 

 

「それはなんかほかの人のせいにしてるみたいで、なにがあろうと遅れたのは自分の責任のわけだしさ。もっとも今日は樹に迷惑かけちゃったかもしんないけど」

 

 

 

「そんな––迷惑なんかじゃないよ」

 

 

 

「ん、そうか?」

 

 

 

「…ここ最近銀ちゃんにはお世話になりっぱなしだしさ…ちょっとでもなにか銀ちゃんのすることを手伝えてるなら––私は嬉しいよ…?」

 

 

 

「・・・・困ったな。また、照れちゃった」

 

 

 

「イッツンイケメン発言なんよーミノさんもイケメンだからイケメンコンビだね〜」

 

 

 

「乃木さん…女子にイケメンっていうのはどうなのかしら・・・」

 

 

 

「じゃあ二人ともイケメンだし可愛い!」

 

 

 

「そ、その辺でやめてくれ園子…はっ恥ずかしい…!」

 

 

 

「しかも照れてるミノさんはさらに可愛い!」

 

 

 

「くぉっ!樹ーなんとかしてくれぇー!」

 

 

 

「私!?」

 

 

「上里さん今日は何味を食べてるの?」

 

 

 

「ぇ、あ、っと今日はね」

 

 

 

「救援拒否!?というか須美もなんでこのタイミングで!?」

 

 

 

「…別に少し面白いなって思ったわけじゃないのよ?なんとなく。そう、なんとなくね」

 

 

 

「絶対思ってんじゃんか!!」

 

 

 

「イッツンジャラートちょーだい〜」

 

 

 

「うん、いいよ。はいアーン」

 

 

 

「アーン。ん〜美味しい〜」

 

 

 

「だーもうしっちゃかめっちゃかだあ〜〜〜」

 

 

 

「こら三ノ輪さん、公共の場なんだからもう少ししずか・・に・・」

 

 

 

静かに、そう須美が言い合える前に皆が異変に気付いた。

 

 

 

 

世界が止まっていた。

 

 

 

「本当についてないな今日も、せっかくの日曜が台無しだっての」

 

 

 

「………銀ちゃん」

 

 

 

「よっと…!・・・・いっちょ頑張りますか!」

 

 

 

 

「……うん。––––––頑張ろうね」

 

 

 

勇者たちの三度目の『お役目』が始まる。

 

 




原作ではほとんど喋ることがなかった銀ちゃんの上の方の弟『鉄男』くん。今後彼がどれだけ出てくるかは未定です。


弥勒蓮華ちゃんのお姿が早く見たい(遺言)
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