犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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新年明けましておめでとうございます㊗️

今年も不定期&ダラダラ更新になる可能性が否定できないのが申し訳ないのですが、どうぞよろしくお願いします。




私たちの街

「えっと、あとは」

 

 

3人に自らのことを打ち明けてから何日か、明日はみんなが楽しみにしていた遠足の日である。

 

 

樹は学校から配布されている栞と須美お手製の栞を見ながら持ち物の確認を行っていた。

 

 

すると、机の上に置いてあるスマホに通知が入る。

 

 

 

(あ、銀ちゃんだ)

 

 

いつも連絡や会話で使っている御用達のメッセージアプリに通知が入る。

 

 

『遠足の用意がおわりましたわ』 三ノ輪銀

 

 

『まあ奥様、私もですわ』乃木園子

 

 

『ビニール袋も要りましてよ』鷲尾須美

 

 

 

 

 

「ふふ、みんな変な言葉遣い」

 

 

 

こんなふうに唐突におふざけが始まるのはよくあることだ。

 

 

4人のグループが出来始めた頃はこのようなやりとりに多少戸惑うこともあったが今ではこうしたやり取りの方が落ち着くまでになっている。

 

 

上里樹『私はもう準備してありますわよ』

 

 

だからこんなふうにおふざけに乗ることもできるようになってきた。

 

 

『まあ奥様、用意がいいですわね〜』三ノ輪銀

 

 

『奥様奥様〜私もちゃんと準備してましたわ〜』乃木園子

 

 

『あら奥様、偉いですわね』鷲尾須美

 

 

 

「もーみんなが奥様奥様って言うから誰が誰だかだよ」

 

 

メッセージアプリの画面を見ながら樹は笑う。

 

 

 

『奥様たちそろそろ寝る時間ですわよ。明日も早いのだから』鷲尾須美

 

 

『そうですわね、明日に備えてアタシもおやすみいたしますわ』三ノ輪銀

 

 

『ではでは奥様方〜また明日お会いしましょ〜おやすみなさ〜い』乃木園子

 

 

『おやすみー』三ノ輪銀

 

 

『おやすみなさい』鷲尾須美

 

 

上里樹『みんなおやすみ』

 

 

 

寝る前の挨拶を投稿してスマホの電池を落とし、荷物を詰めたリュックサックを閉じて準備を終えた。

 

 

部屋の電気を消してベッドに入る。

 

 

訳もなく天井を眺めてみると、もう随分と見慣れた天井がそこにはあった。

 

 

天井から視線外してチラッと横を見るとウォークマンとイヤホンが置かれている。手に取ってみると既に充電が切れていた。

 

 

 

(––別に明日使うことはないだろうしいっか)

 

 

 

思えばこのウォークマンとイヤホンにはだいぶお世話になったと思う。

 

 

上里の家に来て、神樹館小学校に通うようになってから常に肌身離さず持っていたと言っても過言ではなかった。

 

それはこうして寝る前でもそうであり、明日が来るのが理由もなく怖かったのを誤魔化すようにイヤホンをつけて音を聞きながらいつのまにか眠りに落ちるのが当たり前。

 

 

でも最近はそんなこともしなくなってきた。

 

最近寝る前にすることといえば3人とメッセージアプリでたわいもない会話をしながらベッドに入りアプリを閉じてからはその日3人としたこと、した会話、明日する予定のことに思いを馳せながら眠りにつく。

 

 

 

(遠足、銀ちゃん特に楽しみにしてたからな。天気予報は大丈夫そうだけど雨降りませんように)

 

 

 

目を閉じてそんなことを考えた。

 

 

今日もみんなと遊んだからか体はちゃんと疲れているのだろう。すぐに睡魔はやってくる。

 

 

3人と仲良くなるまで、寝ると必ず夢を見ていた。お姉ちゃんと一緒にいる夢、その夢の中で俺はお姉ちゃんと笑い合っていた。

 

 

幸せな夢なのに、起きると途端に現実に戻されて苦しかったのを思い出す。

 

 

 

そういえばどこかで聞いたことがある。寝るときに夢を見るのは眠りが浅いからだと。深い眠りについているときは夢を見ることはないそうだ。

 

 

最近夢を見ることがないのはちゃんと深く眠れているということなのだろうか?

 

 

 

 

その答えが自分の中で出る前に俺は眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぴーすぴー」

 

 

翌日、遠足先のアスレチック公園に向かうバスの車内、聞き慣れた寝息と微かに心音が肩を通して伝わってくる。

 

 

 

「なはは、やっぱ園子は寝ちゃったか」

 

 

樹とは逆側の隣に座る銀が苦笑いを浮かべながらも、園子のことを考えてか小声で言う。

 

 

「うん、すっごく幸せそう」

 

 

自らの肩にもたれかかるようにして眠る園子。もう何度も見ている寝顔ではあるが何度見ても飽きない天使のような寝顔である。

 

 

 

「樹ちゃん大丈夫?一度そうなるとそのっち到着するまで起きないかも知らないけど」

 

 

須美が銀の隣から顔を覗かせるようにして樹と園子の様子を伺う。そんな須美の表情も樹や銀と同じく微笑ましいものを見るような表情であった。

 

 

 

「あ、平気だよ。園子ちゃん軽いし、もうだいぶ慣れたから」

 

 

そう言って樹はもう一度園子の寝顔を眺める。

 

 

どうせこのあとみんなでワイワイ騒がしく遊ぶのだから、今ぐらいのんびりと穏やかでもいいかな、と樹は思った。

 

 

 

 

 

 

 

到着したアスレチック公園はコースが設定されておりどうせならみんなで完全制覇しようということになり銀を先陣として4人の挑戦が始まっていた。

 

 

 

「よっと、いっちょあがりー!」

 

 

「こういうのもいい鍛錬になるわね」

 

空中に吊るされているタイヤをいとも簡単にくぐり抜け軽やかに着地する銀と須美。

 

 

二人に同級生から称賛の拍手が送られている。

 

 

 

(二人ともすごいな。やっぱ運動神経がいいのかな?)

 

 

 

園子の後ろに並びながらそんなことを考える樹。お世辞にも運動が得意とか言い難い樹からすれば羨ましい話ではある。

 

 

「わーミノさんもわっしーもすごいねーイッつん〜」

 

 

 

ちなみにニコニコ顔でそんなことを言う園子もかなりの運動神経のまたましであるからタチが悪い。

 

 

必然的に4人の勇者の中で運動が苦手なのが樹だけということになるのだ。

 

 

 

「うん、すごいよね二人とも。でも園子ちゃんだってこのぐらい平気なんじゃない?」

 

 

 

「んー?いやいやイッつん……このタイヤの下に人喰いサメが泳いでるって考えたら手が震えて…ガタガタガタ…」

 

 

 

地面を指差しながら体を震わす園子。こういう想像力の高さが文章力の高さを物語ってるんだろうなと樹は思った。

 

 

 

 

銀ちゃんの声援もあり勢いよくアスレチックをクリアしていわゆるお姫様抱っこをされる園子ちゃん。こういうのをみるとなんというか…銀ちゃんはすごく可愛いのに同時にすごくカッコ良くもあって本当に感心してしまう。

 

 

 

その後、アスレチックをよたよたしながらもクリアした俺を銀ちゃんはお姫様抱っこしてくれた。無性に恥ずかしかったが嬉しかった。

 

 

あと須美ちゃんも羨ましかったらしくお姫様抱っこしてもらっていた。銀ちゃんはモテモテだ。

 

 

 

 

 

 

……冗談じゃなくモテモテが過ぎている。

 

 

 

他のクラスメイトにもお姫様抱っこしてたせがまれたら嫌な顔せずにするし、クラスメイトにサインをせがまれるとカッコいいセリフと共にアスレチックを使ってくるっと一回転を決めて答えてたし、縄を使って垂直な壁を登る遊具は軽々しくなんと片手で登り切って見せていた。

 

 

お昼にはみんなで焼きそばを作って食べたのだがその時も『慣れてるから』と言って先生も感心するほどの手際の良さで調理をしていた。そして味も抜群。

 

 

園子ちゃんが自分が料理ができないのが恥ずかしくなった、そんなふうに言うのもよく理解できた。……料理は特にね。うん。

 

 

 

ということで今度俺も含めて二人で銀ちゃんと須美ちゃんに料理を教えてもらうことになった。嬉しい。

 

 

 

 

 

・・・・ところで

 

 

 

「あの、先生。もしかしてピーマン苦手なんですか?」

 

 

 

「ぎくっ!?」

 

 

隣で串に刺さったピーマンを苦虫を噛み潰したような表情で見つめる安芸先生の姿がそこにはあった。

 

勇者たちのお目付役としてはもちろんのこと、神樹館小学校の先生としても常日頃から凛とした表情でテキパキ仕事をこなすイメージの強い安芸先生のこんな顔は珍しかったのでつい声をかけてしまった。

 

 

 

そしてどうやら図星みたいだ。

 

 

 

「ちゃ、ちゃんと食べるわよ!?ちょっと…その…苦手だけど……」

 

 

顔を赤くし涙目になりながらこちらに訴えかける安芸先生。おかしな話だが安心してしまう。

 

 

あの安芸先生にも苦手なものがあるんだな、と。

 

 

 

「あーアタシもそんなに好きってわけじゃないから気持ちわかりますよ、先生」

 

 

 

「えーピーマン美味しいのに〜」

 

 

 

「銀?ピーマンにはカリウムやカロテン、ビタミンCにビタミンE、ビタミンPまで含まれてるとても体に良い食べ物なのよ?」

 

 

 

「えーまあそれはそうなんだろうけどさー苦いもんは苦いしなー」

 

 

「もう、だったら今度ピーマンを美味しく食べられそうな料理でも作ってあげるわ」

 

 

「お、おう。嬉しいような…嬉しくないような…」

 

 

「やったーわっしーのピーマン料理だ〜先生もよかったら一緒にどうですか〜?」

 

 

そして園子からのキラーパス炸裂。

 

 

 

「へっ……!?」

 

 

 

「そうですね、日頃お世話になってるお礼も兼ねて是非。きっと先生の苦手を消し去るようなピーマン料理を作ってみせます!」

 

 

なんと須美も乗り気だ。

 

 

 

「えと、そのぉ……」

 

 

安芸先生の目がこれ以上ないってほどに泳ぎまくっている。園子、須美共に良かれと思っての提案だろうからまたなんとも言えない。

 

 

 

「あはは…あむ…」

 

 

 

樹は苦笑いを浮かべながらピーマンを一口食べる。なんだが妙に苦い気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえーいアスレチック全面クリア〜」

 

 

「成し遂げたはね」

 

 

お昼休み後、順調にアスレチックをクリアしていきついに最後のアスレチックをクリアした。樹も途中もたつくところはありつつも3人に助けてもらいながらクリアすることができたのだ。

 

 

 

 

 

「須美ーアタシたちの街あっちー?」

 

 

4人でアスレチックエリアの近くにあった高台に登る。そこからは4人が住む大橋市を含む街並みを見渡すことができた。

 

 

 

「ええ、あってるわ」

 

 

 

「あれが私たちの住んでる街……」

 

 

樹は銀が指差す方向を眺めながらつぶやいた。

 

 

「イッつんどうかしたの?」

 

 

 

「ううん、大したことじゃないんだけどね……ただ、なんだが不思議な感じがして…私は大橋市なんてこうしてみんなと出会う前まで縁もゆかりもなかったから」

 

 

 

「イッつん…」

 

園子がどこか不安そうな顔で樹の横顔を見つめる。

 

 

 

「でもね、みんなと出会って学校とかイネスとか他にもいろんなところに行ったりして今では大切な街だと思ってるんだ」

 

 

樹は園子の顔を見ながら微笑む。園子も釣られるようにして頬を緩めた。

 

 

 

「それに––みんなが守ってる街だしね」

 

 

 

「あら、あなたが守ってる街でもあるのよ?」

 

 

「そうそう、アタシたちみんなで守ってるんだからな!」

 

 

「須美ちゃん…銀ちゃん……うん…ありがとね」

 

 

樹は街並みから視線を外し3人を見る。みんないつもと変わらない優しい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が車内を心地よく照らす帰り道、みんな目一杯はしゃいで楽しんだのだろう。すやすやと気持ちよさそうにしている。

 

 

それは勇者たちも変わらない。身を寄せ合うようにして互いの体温を感じながら安らかな眠りに浸るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––風鈴が揺れる。

 

 

 

 

 




大満開の章がついに終わってしまいましたね……正直あれだけ綺麗な形に収まると『結城友奈』の物語は本当に終わったんだなということが嫌でもわかってしまいましたね。


とても寂しい思いですが、ゆゆゆいではついにふゆゆ組がお披露目されきらめきの章での合流が待たれるところですし、ぱるにゃすのブログによると何やらまた新しい報告がありそうな雰囲気もあるので非常に楽しみです。


次回の更新は日をおかずに一気に書き上げるつもりなのでどうか、お待ちくだされば。
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