犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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前回の投稿が6月1日……え、もう4ヶ月経ってる?

というかもう10月?

なんならもう寒い?

っていうかゆゆゆい終わるの?ガチ?


誰が為の戰い

「お前には、この事実を伝えておこうと思った。ここを去る前にな」

 

 

表情ひとつ変えずにそう告げる上里家当主の言葉を樹はすぐには理解できなかった。

 

 

「な、なんでそんなことになるんだよ。意味…わかんないよ」

 

 

言葉を震えさせながら樹は当主に問う。

 

 

「単にお前の姉にも適性があったというだけのことだ」

 

「…じゃあ何、義父さん今度は俺のお姉ちゃんにあいつらと戦わせるつもりなの……」

 

 

「いやお前の姉がこの家に来ることはないだろう。犬吠埼風はおそらく『乃木』の家に預けられることになる」

 

 

「乃木って…園子ちゃんの…」

 

 

「『乃木』家の一人娘も今後どうなるか保証が効かない以上スペアは必要になる。あの家に勇者がいなくなるということは許されることではない」

 

 

「…………義父さんにとって、俺のお姉ちゃんはスペアなんだね」

 

 

「–––ああ、私を含めた大赦上層部の総意だ」

 

 

「–––––そっか」

 

 

 

樹は、良かったと思った。料理を既に食べ終えていて。そうでなければ、とても食欲なんて失われていたのだから。

 

 

 

「ごちそう様でした」

 

 

樹は手を合わせてこの家での最後の食後の挨拶を済ませ、席を立ち当主に背を向ける。

 

 

 

「樹」

 

 

「…………」

 

 

樹は背を向けたまま立ち止まった。

 

 

「先ほどお前が言っていた食事の話だが––––行くならお前の姉が乃木の家に行く前がいいだろう」

 

 

「……ねえ義父さん」

 

 

「なんだ」

 

 

「私……俺のことを少しでも自分の子供だと思ってたなら最後に聞いてほしいんだ」

 

 

「–––ああ」

 

 

 

「その話、忘れて」

 

 

「–––ああ、わかった」

 

 

「………さようなら」

 

 

 

樹はそれ以上何も言わずにその場を去った。

 

 

上里家当主はその去り行く樹の背中に、何か言葉をかけることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ風ちゃん、風ちゃんってば」

 

 

 

「…ん、何?」

 

 

「何?じゃないよ。どしたの?ぼーっとしちゃって」

 

「んーいや、なんでもない」

 

 

「ふーん、まーいいや。あー今日も部活か〜」

 

 

「大会もうすぐなんでしょ?頑張ってよね」

 

 

「いやぁーまあ頑張るけどね。運動神経抜群ながらどこの部活にも入らない風ちゃんに言われるとな〜」

 

 

 

なんて事のない放課後、教室内にはまだちらほらとクラスメイトたちが残ってこの後の予定や部活のことなどについておしゃべりに花を咲かせている。

 

 

アタシこと犬吠埼風とアタシの机にダラーっと体を倒すこの友人もそうだ。

 

 

「別にそんなでもないわよ。たかが体育での話でしょ?」

 

 

「その体育で部活組に引けを取らない動きを見せてるのはどこのどいつなんですかねぇ」

 

 

机の上で倒した頭をゴロンゴロンと転がす友人。…この机アタシのなんだけど。

 

 

「体を動かすのは嫌いじゃないけどね、部活でやるほどじゃないってだけよ。やりたいものがあるわけじゃないし。対してやる気のない人が入られても困るでしょ」

 

 

「ん〜それもそうか。ってもー行かないとだ」

 

 

ゴロゴロしてた頭をスッと持ち上げて時計を見る友人、一見めんどくさそうにしながらも顔がシャキッとしたのを見るとなんだかんだ真剣に部活に励んでいるのがよくわかる。なんでも一年生ながらレギュラー争いをしているそうだ。

 

 

「あ、でも明日は午後練早めに終わるからそしたらうどん行かない?」

 

 

 

「いいわよ、またいつものところでね」

 

 

「おっけーんじゃ頑張ってくるかな」

 

 

「ええ、また明日ね」

 

 

「ほーいほーい。じゃねー」

 

 

そう言って友人は手を振りながら教室を出て行った。この教室にもう用はないアタシも帰り支度を手短に済ませ学校を出る。

 

 

その足でアタシは図書館に向かった。朝学校に行って放課後は図書館へ、これがアタシの日常。

 

 

 

適当な席を見つめて教科書、ノートを開いて勉強したり、本を探してきては読み漁っている。

 

 

勉強も読書もいいものだ。一度始めれば集中できるし時間も潰せる。おまけに図書館は基本いつも人が少なく静かで落ち着く。

 

 

中学に上がって以来もうこれがルーティーンのようになっていた。小学校の頃なんかはもっといろんなことをして遊んでいたし運動も好き好んでしていたけど…

 

 

それは………あの子がいたから。

 

 

アタシの後ろをついてくる何かとほっとけない妹がいたから。アタシはあの子の手本になるお姉ちゃんでいたくて………樹と一緒に笑っていたくて…

 

 

 

中学に上がって新しい友達もできたし小学校からの友達だっている。一緒に放課後遊びに行くし、たわいもない話で笑い合うこともできる。

 

 

 

でも心に穴が空いているようで、どこか空虚な日々を過ごしている自覚はあった。

 

 

こんな気持ちを抱きながらも勉強をしたり読書をする手を止めずにいられるようになってくれたのは良かった。気を紛らわすことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犬吠埼風さん、であってるかな?」

 

 

それは、図書館からの帰り道。いつも通りの帰宅途中に現れた非日常だった。

 

 

 

 

「初めまして、僕の名前は三好春信。大赦の神官で君の妹『上里樹』さんのことで話があって今日は来たんだ」

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「って言えば少しは警戒せずにいてくれないかと思ったんだけど、まあ無理もないよね。うん、もし僕が君の立場だったらそうだし」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

風は自らのことを大赦の神官だと言う見知らぬ男を睨む。正直怪しさ満点なのだが今の男の言葉には気になる部分があった。

 

 

 

「………初めまして、三好さん。名前は既に知っているようですが一応自己紹介しておきます。…犬吠埼風です」

 

 

 

「これはこれは、ご丁寧に」

 

 

 

「……それで、今言ってたことなんですけど」

 

 

 

「ああ、その前に–––立ち話もなんだしあまり人に聞かれたい話ではないからね。よければドライブしながらでも」

 

 

 

「……………………」

 

 

そう提案してくる三好春信を見る風は、胡散臭いものを見る目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うけど、君の妹はお役目を辞めたよ」

 

 

 

「–––––––––––––––」

 

 

 

本当に驚いた時は人間声が出なくなるなんて聞いたことがあるけど、それはどうやら本当みたいだった。

 

 

三好さんのいかにも高そうな車に乗って走り出してすぐ、その言葉通り本当に無駄な話を一切挟まずにそう語りだした。

 

 

 

「そう遠くないうちに『犬吠埼』の家に戻れるようになる」

 

 

 

アタシが脳内でふと考えたことを読んでいるかのような三好さんの次の言葉。

 

 

「………ぇっと…………その…ごめんなさい。いきなりで…その…………えっと…」

 

 

「いいんだ。君の言うとおりさ。こちらこそいきなりですまない」

 

 

「…………いや、それは…いいんです。はい…いいんです。妹が帰ってくるならそれで–––」

 

 

 

「いや。この話はこれで終わりじゃないんだ」

 

 

 

「…………?」

 

 

 

バックミラーにチラリと写った三好さんの表情が一瞬険しくなった気がした。

 

 

 

アタシは嫌な汗が出てくるのを感じながら次の言葉を待つしかできない。

 

 

 

「樹ちゃんの代わりに風ちゃん、今度は君が選ばれたんだ」

 

 

 

「………どういう…ことですか…?」

 

 

「『乃木家』のことは知ってるかい?」

 

 

「…大赦の最高権力の家ってことぐらいは……」

 

 

「その家が君を養女にしようとしている。樹ちゃんの時は『上里家』だったからね、今度は『乃木家』が出張って来たんだ」

 

 

「なんで…アタシを…?」

 

 

「簡単に言うと君の妹にあった神樹様の『お役目』の適性が君にもあったということだ」

 

 

 

「………………」

 

 

 

それを聞いて、アタシをたた下を向いて黙ることしかできないでいる。妹が家に帰ってくるけど今度はアタシが家を出なきゃいけない…?わけがわからない。そもそも神樹様の『お役目』とはなんなのか…妹が…樹がなぜその『お役目』を辞めたのか…疑問は尽きないがそれを口に出して三好さんに問うことがアタシにはなぜかできなかった。

 

 

 

「重ね重ね本当にすまない。大人の都合に君達を巻き込んでしまって」

 

 

「…………」

 

 

「ただ、否が応でも今後当事者になってしまう君には伝えておきたかったんだ。…何も知らされないのは辛いからね」

 

 

 

その言葉を最後にしばし沈黙が訪れる。少しして顔を上げて窓から辺りを見渡すとかなり家に近づいているみたいで三好さんはドライブなんて言っていたけどどうやら家まで送ってくれているようだった。

 

 

もう、あまり考えている時間もない。

 

 

 

「………三好さん。もしアタシがその…神樹様の『お役目』を放棄したりしたら…どうなりますか?」

 

 

アタシは一度息を吐いてからそう切り出した。

 

 

「そうだね、もしそうなったら樹ちゃんが『犬吠埼』の家に戻ってくることはない」

 

 

 

「…………そう、ですか」

 

 

予感はしていた。そうでなければアタシが新しくこれまてあの子がやっていた『お役目』に急にこうして選ばれたなんて話にもならないだろうから。

 

 

「今は訳あって『お役目』に就くことができないがいずれ、就くことができるようになるかもしれない。その可能性が捨てきれず代わりの人材を確保することもできないとなると大赦は樹ちゃんを手放すことはしない」

 

 

「…………」

 

 

「ただでさえ大赦はその貴重な人材を既に一人失ってしまったんだ。樹ちゃんまでとなるとその損失は計り知れないし、現在『お役目』をこなしている残りの二人の子たちへの負担は単純計算で倍増される」

 

 

 

「…………」

 

 

「大赦はあの手この手を使って樹ちゃんをまた『使える』ようにするだろう。果たしてどこまでやるつもりなのかはわからないが–––––人類の存亡という大義名分がある以上大赦はそう容赦はしないしするつもりもないと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

不意に樹の笑顔が頭に浮かんだ。アタシはそれが、それだけが理由でいいと思えた。

 

 

 

 

「………じゃあ、アタシがその『お役目』をやれば樹は…家に帰れるんですよね」

 

 

アタシはバックミラー越しに三好さんの目を見つめる。両の拳に力が入っていくのがよくわかった。

 

 

 

「––––ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「一つ聞いてもいいかな?」

 

 

 

家の前に車を止めて三好さんが言う。車を止めても彼はこちらを向かない。

 

 

 

「はっきり言って君は今後とても危険な目にあう。痛い思いもするだろうしね下手すれば死ぬ。それはわかってるんだよね?」

 

 

三好さんはアタシの返答も待たずにそう続けた。

 

 

「はい」

 

 

「そっか。でもどうしてそんな危険な話を受けようと受けようと思えたのかな?」

 

 

 

「アタシがお姉ちゃんだからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし今後、もしかしたらの話だけど–––僕の妹と出会うことがあったらお願いがあるんだ。どうか仲良くしてやってほしい。ちょっと気難しいところもあるんだけど、とてもいい子なんだ」

 

 

 

 

別れ際にあの子に言った言葉を思い返しながらため息をつく。

 

 

「仲良くしてやってほしい、ね。大人のひどい都合に付き合わせておきながら重ねて頼み事とは……僕もあの老人たちと大差ないな」

 

 

 

いや、大差ないじゃないな。同じだ。

 

 

『何も知らされないのは辛い』なんてのは方便でしかなく結局僕は自分の大事な人を危険から遠ざけたいがためにあの子たちを利用しようとしている。

 

 

 

 

「ほんと、嫌になる」

 

僕は久しぶりにタバコに火をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…やっぱり私の中で醤油豆味はピンとこないわね」

 

 

「あはは、ミノさんに怒られるよー」

 

 

学校からの帰り道、私たちはいつものようにイネスによってジェラートを食べていた。変わらない日常……ううん、やっぱり全然違う。

 

 

だってここには–––––イッつんが…イッくんがいないから。

 

 

 

 

 

「そのっちのソーダ&ラムネ味もちょーだい!」

 

 

わっしーが手を伸ばして私のジェラートを取ろうとする。

 

 

 

「っ…………!!」

 

 

咄嗟に、自分でも気がつかないうちに私はそれを避けていた。

 

 

「む、さすがそのっち。普段はのんびりしてくるのに本当は素早いんだから」

 

 

わっしーがそれを見てニコッと笑う。ああよかった……そういう風に思ってくれて。

 

 

「えへへ〜そう簡単には取られないんよ〜」

 

 

ソーダ&ラムネ味を口に入れる。シュワっとした爽やかな味が広がっていく。

 

 

彼女……彼が一番好きで何度も食べていた味。私も一緒に食べた味。

 

 

こうして一口食べただけでいくつもの思い出が頭をよぎる。それらは全て楽しくて嬉しくて、誰にも渡したくない私だけのもの。

 

 

たとえ相手がわっしーであったとしても。

 

 

 

 

「隙ありー!」

 

 

今度は私がわっしーの食べてる醤油豆味を狙う。わっしーも狙ってきたのだからおあいこだろう。

 

 

 

ひょい

 

 

まるでそんな効果音でも聞こえてきそうなほどあっさりわっしーは私の手を避けて醤油豆ジェラートを守る。

 

 

「あれ?完璧に隙をついたと思ったんだけどなー」

 

わっしーは気を張ってる時が多い分そうでない時の反動が大きいタイプで今も緩んでるだろうからあっさり、なんて思ったりしたけど全然だった。

 

 

「ふふ、私だってそう簡単に取られはしないわよ。いくらそのっちが素早かろうとね」

 

 

そう言いつつわっしーは醤油豆ジェラート口にする。ピンとこないなんて言っているけどその表情を見るとそうは見えない。

 

 

それはまるで…愛おしいものを見るような目で、私はそれだけでなんとなくわかった。

 

 

 

(ミノさん、わっしーほんとにミノさんのことが大好きだったみたいだよ。私に取られたくないってさ)

 

 

 

「ん、どうしたのそのっち?」

 

 

「んーん、なんでもなーい」

 

 

私は残り少ないイッくんの味を味わうようにして食べていく。

 

 

 

イッくん……私は彼のことを心の中でそう呼んでいた。

 

 

普段はとてもおとなしくて穏やかな女の子であるイッつんは男の子っぽい所作や言葉遣いをするときにイッくんになる。

 

 

私はそんな時折見せてくれる『イッくん』が大好き。『イッつん』のことも大好きだけど私はもっと『イッくん』とお話ししたくて遊びたくて…でもそんなことは言い出せなくて…言い出せないうちにお別れしてしまった。

 

 

 

 

 

 

夕焼けの中撫でる風がほんのり寒くて秋の訪れを感じる帰り道、わっしーと二人今日の家でのこと学校でのことを話しながら歩く。

 

 

家族もクラスメイトもみんな私たちのことを応援してくれている。

 

 

 

「お役目ができる私たちは幸せだ」

 

 

みんなからの応援に応えたい。ミノさん、イッくんの分までみんなを守りたい。わっしーはそう言った。

 

 

 

私は–––どうなんだろう。

 

 

 

「…わっしー?」

 

わっしーが立ち止まって振り返る。一際強い風が木の葉を揺らす。

 

 

「来るわ、そのっち」

 

 

その一言だけで私は理解した。

 

 

 

「そっか。わかるようになってきちゃったね」

 

 

『樹海化警報』

 

 

スマホを取り出すとすぐにこの文字が表示されけたたましい音が鳴る。

 

 

「気を引き締めていきましょう」

 

 

「うん………この戦いが終わったら敵は、攻めてこなくなるんだよね」

 

「ええ、まさに決戦ね」

 

 

「…私この戦いが終わったらイッつんに会いにいきたい」

 

 

「……そうね。そうしましょう」

 

 

私とわっしーは顔を見合わせて頷き合った。

 

 

「どこにいるのかわからないけど、絶対に見つけるんだ。絶対に」

 

 

「そのためにもこの戦い、負けられない」

 

 

「–––うん」

 

 

私は端末を握りしめる。勇者の新たな力、これで必ず敵を追い返してイッくんのところに…もう絶対離さない。

 

 

 

 

だから待っててね、イッくん。

 

 

 




前書きでも書いたんですけど、ゆゆゆい終わっちゃいますね…

すごく残念だし寂しいけど、5年という長い期間勇者であるシリーズファンを時に笑わせ時に泣かせてくれたゆゆゆい運営と声優の皆様方には感謝感激です。

今後もまだまだ勇者であるシリーズは続いていくだろうし、何やら『ふゆゆ』の方で新たな動きがあるようで…非常に楽しみです。


ちなみにこのお話しはあと1話か2話で原作でいうところの『わすゆ』が終わると思います。ほんとに毎度更新頻度が遅くて申し訳ないのですがまた楽しみに待っていていただければ幸いです。


あ、最後に

『赤嶺友奈は勇者である』の続編、どんな形でもいいのでお願いします!!
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