犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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そこまで間が開かずに投稿できたことをまずはほっとしています……なにしろ2年もの間投稿できずにいましたので。




少年(少女)の戰い 後編

「イッつんは好きな人いる?」

 

「好きな人?」

 

何度目かのお泊まり会。その日は樹と園子の2人で行われていた。

 

「好きな人ってのは……えっと」

 

自分の家のベッドより大きなベッドに2人で寝転びながら園子ちゃんから貸してもらった抱き枕を抱きしめる。

 

ちなみに園子ちゃんが抱きしめてるのがサンチョで俺が抱きしめてるのはアモーレ。

 

「もちろん恋愛的な意味なんよ〜」

 

どうやら友達としてとかそういうことではないようだ。

 

「恋愛的な意味で…」

考えてみる。俺は自分をいわゆる可愛い子だと思っている。だけどそれはこの体がそうなのであって『俺』のことじゃない。

 

だからかこの手の話にあまりピンときたことがない。

 

 

「イッつん可愛いからクラスでも人気あるよ?」

 

「そうなの?全然知らないや」

 

クラスの男の子たちとそこまで話したことないし…

 

「それをいうなら園子ちゃん私なんかよりよっぽど人気あるんじゃないかな。穏やかで優しくて華やかさもあって」

 

「もーイッつん褒めすぎなんよ〜テレるテレる〜」

 

「私はそう思ってるよ?」

 

「…えへへ。嬉しい」

 

「う、うん…」

 

気のせいだろうか…園子ちゃんの頬が少し赤くなった気がしたのは。

 

 

「私のことはいいんよ〜それでそれで〜?」

 

園子ちゃんがグイっと身を乗り出すようにして近づく。もうそこに頬の赤みは感じられない。

 

「…どうなのかな」

 

「思いつかない?」

 

「うーん」

 

なにぶん中身が『俺』なこともあって男の子をそういう対象として見れたことがないのだ。

 

「そうだね、そういう風に思った男の子はいないかな」

 

「そっかぁ………じゃあ女の子は?」

 

「………!?」

 

思わず目を見開いて園子を見つめる。当の園子にはふざけている様子はなかった。

 

「お、女の子って……」

 

「恋愛的な意味で好きな女の子、いない?」

 

 

園子の顔が近い。彼女の顔はもう何度も近くで見ているはずなのに、自分の顔が熱くなるの感じる。

 

恥ずかしいはずなのに、彼女の視線から逃れられない。

 

 

「あのね、私はいるよ。好きな人」

 

 

「男の子の好きな人も、女の子の好きな人もいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満開を繰り返し繰り返し19回。最後の一体、蠍のような針と尾を備えた敵を追い返せば永遠にも思えたお役目も終わる。

 

 

あと少し–––もう少しだけ頑張らないと。

 

 

 

 

「え……?」

 

 

いつのまにか抱きしめられている。前からぎゅっと思いっきり、でも顔が見えない。

 

 

お腹のところに熱いものを感じて、その人の背中に触れる。

 

 

血だ。

 

 

なんで?

 

誰の?

 

 

 

 

 

「園子ちゃん」

 

 

耳元でそう囁く人の声を私は知っていた。

 

 

「イッつん…?」

 

 

「俺もいるよ。好きな人」

 

 

「–––イッくん?」

 

 

イッくんの温もりが急速に消えていく。イッくんの体が私から離れていく。

 

その体が宙に浮いた時、背中から腹部を貫通する針を私は見た。

 

頬に何か生暖かいものを感じて手で拭う。赤々とした綺麗な鮮血。まだ流れ出たばかりのその人が生きている証。

 

そして、今にも失われようとしている証。

 

 

「ぁ––––––––––––––––––––––––––––」

 

 

私の喉から息をするより小さいそれが溢れたとき私の好きな人は私の視界から消えていた。

 

もう動かなくなったゴミを捨てるかのように、長い尾を振って敵はイッくんを放り捨てる。

 

私はそれを目で追うことさえできず、イッくんの体を貫通した針は私に傷一つ付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ただ…会いたかったんだ。もう一度)

 

 

徐々に薄くなっていく視界から空を眺める。樹海化によって空とも呼べぬような空を。

 

 

『樹』

 

 

傍に彼女が座っている。

 

(銀ちゃん……………ごめん…もう…声がでないや)

 

視界がぼやけて表情はわからないが彼女の声がわからないわけない。

 

(でも………銀ちゃんにもまた会えた)

 

俺はそのまま目を閉じる。もう痛みも感じない。

 

(あぁ–––––)

 

だけど、まだ会っていない–––会いたい人がいる。

 

 

「お姉ちゃん–––––」

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉ちゃんじゃなくてごめんな』

 

 

瞼を開く、背中を起こす、腕を動かす、立ち上がる。

 

串刺しにされたお腹をさるすとべっとりと血で手が染まる。

 

絶命していてもなんらおかしくない重傷を負ったこの体はそれでも今こうして動いている。

 

()は端末を取り出す。すでに失われたはずのアプリをタップすると、鳴子百合でもなく牡丹でもない花が小さく舞う。

 

黄色のオキザリス。

 

 

不完全なシステムであるそれは専用の装束さえなく、精霊もいない。

 

変身とも呼べない急造システムが与えた唯一の大剣を見つめる。

 

 

『アタシのでも樹のでもない力…代わりの勇者か…』

 

 

銀は誰とも知らないその人のことを想い、自らの代わりもいるのだろうなと考えを巡らせかけそれを中断した。

 

この体を貫いた敵を()は望む。敵の興味はすでに園子へと移ったのかこちらに向かってくる様子はない。

 

園子を樹と同じように串刺しにするために針を何度も何度も突き刺すがそれは精霊の護りによって阻まれる。

 

 

しかし、園子は抵抗することも反撃することもせずその場に座り込み、その目はどこか虚。

 

 

使い方は自然とわかった。大剣を両の手で握り力一杯振り上げる。大剣は瞬時に何倍も巨大化し敵を捉えた。

 

 

『とっととーーー出ていけえええええぇぇぇぇーーーーーー!!!!!!!』

 

 

樹の体で樹の声で、『銀』は大剣を振り下す–––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました時私は見知らぬ天井を見ていた。動こうとして体がほとんど動かせないことに気づいた。

 

「なにこれ……私は…なんで」

 

状況が理解できずに混乱が隠せない。なんとか顔を動かしてあたりを見ることはできたけど視界が明らかに悪い。右目が、見えてない…

 

「病院…?」

 

自分が寝かされているベッドは病院などで使われるようなものだが周りの景色の異様さがすぐにそうではないことを気づかせる。

 

1番わかりやすいのはすぐ正面に建つ鳥居。鳥居のある病室なんて聞いたことがない。さらには目を覚ました時すぐには気づかなかったが頭上にはこれでもかと大赦の紋章が張り出されている。

 

「っ誰か!誰か!!」

 

 

たまらず叫んで人を呼ぶ。何がどうなってるのかさっぱりわからない。頭の中がぐちゃぐちゃでまとまらなくてすごく気持ち悪い。

 

 

「園子様」

 

するとどこからともなく大赦の神官が現れ鳥居をくぐってきた。仮面を被ってはいるが声色からして女性だとわかる。

 

 

「あれ……安芸先生…?」

 

その神官は園子の知っている人だった。

 

神官はベッドに横たわる園子のそばに足音もなく近づくと仮面が見えなくなるほど深く首を垂れる。

 

「お呼びでしょうか。園子様」

 

その声は感情の読み取れない、抑揚のないひどく機械的な声だった。

 

「安芸先生……なんだよね…?」

 

首をなんとか動かし表情を伺おうとするが首を垂れたまま神官は微動だにしない。

 

「ねえ安芸先生…ここはどこ…?私なんでこんな体が動かないのかな」

 

 

「……………………」

 

 

「ねえ先生…なにがどうなってるの」

 

「……………………」

 

園子の問いかけに神官は答えない。

 

「…ねえってば!!」

 

「……………これを」

 

 

長い沈黙を破りようやく頭を上げた神官はその懐から何かを取り出した。

 

 

「それって」

 

右目が機能せず狭くなった視界にそれは映り込んだ。

 

 

白のシュシュ。

 

なんでもないどこにでも売っていそうなありきたりな髪留め。

 

神官はまともに手を伸ばして受け取ることもできない園子の手のひらにそれを置く。

 

瞬間

 

頭の中が弾けるような、電気が走るような痛みに目を歪める。

 

 

思い出す。この体は19回の満開の代償だと。

 

 

思い出す。この白のシュシュの持ち主がどうなったのかを。

 

 

「うそ」

 

 

「うそだ…」

 

 

「うそだよ。そんなの……」

 

 

「………………」

 

 

「………………安芸先生」

 

 

「………………」

 

 

「私…まだ…頑張らなきゃダメかな」

 

 

「………………」

 

 

「もうね…疲れちゃったかも」

 

 

「……………」

 

 

「ねえ先生……見て…ほら」

 

 

「……………」

 

 

「私…もう涙も出ないんだよ」

 

 

「……………」

 

 

「ミノさんの時はあんなにたくさん出たのに」

 

 

「……………」

 

 

「なんでかなぁ……涙ももう枯れちゃったのかな」

 

 

「……………」

 

 

「それとも…神樹様……涙も持ってっちゃったのかな」

 

 

「………………」

 

 

「だったら、せめてそれだけは返してほしいなぁ」

 

 

「…………………」

 

 

「…わっしーは無事……?」

 

 

「はい。命に別状はありません。現在は大赦管理下の病院で入院中であり時期に目を覚ますと思われます」

 

 

「…そっか……そっかぁ………わっしーだけでも……うん…」

 

 

「……園子様」

 

 

「………なぁに」

 

 

 

「………上里樹様は……現在に至るまで姿を確認できておらず……その生死は…不明です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ、どこだろう。

 

妙に落ち着く。

 

まるでここにいるのが当たり前みたいな。

 

なんでだろう懐かしい感じがする。

 

匂い–––

 

お姉ちゃんの匂い––––

 

 

「銀ちゃんの匂い–––––」

 

 

『いやだったか?』

 

銀ちゃんの暖かさを背中に感じ、俺は振り向かずに答えた。

 

「あったかいよ」

 

首に回されている彼女の腕に触れる。細くて小さな腕だった。

 

 

「銀ちゃん、2人を守ってくれてありがとう」

 

 

『守ってなんかないよ。アタシほとんど何もできなかった』

 

 

「そんなことないよ。それに……『俺』のことも…ずっとずっとありがとう。本当にありがとう」

 

 

 

 

『–––みんなを置いていってごめんな』

 

 

 

 

 

 

「いいんだよ。もう、これでいいんだ」

 

 

 

 

 

 

上里樹の章 完

 

 

 

つづく




予告


少年(少女)は目覚める

傍に立つ見知らぬ少女たち

そして少年(少女)を待つ新たな世界

犬吠埼樹(憑依)は勇者である 新章開幕








ここまで読んでくださって皆様、誠にありがとうございます。上里樹の章の1話を書いたのが2019年ということで…なんというか思っていた何倍も時間がかかったというか…自分でも驚きといいますか…

しかも半分以上の話を2019年に書いてるのにもかかわらずそこから5年もかかるとは……投稿していない期間が長過ぎましたね。

何はともあれなんとか上里樹の章を完結させることができました。

そして新たな章が始まります。その前に後日談というか裏側というかそんな感じのやつを書くつもりでいますが。なので次回いきなり新章とはならないと思います。ご了承いただければと…ちょっと予告詐欺っぽくなってしまってすいません。

あまり畏まり過ぎてもなんだかまた間が空いてしまう気がするのでこの辺で。なるべく近いうちになるよう頑張ります。

最後に、「結城友奈は勇者である」10周年めでたい&舞台楽しみ。
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