皆様のおかげで一度はパタリと止まってしまったこの作品を再び動かし始めることができましたし、反応がいろんな形でもらえることは何にも変え難い喜びなんだと改めて認識させていただきました。
「ろ、6年生!お前小学生だったのか!!」
昼間の病室に快活な少女の驚愕する声が響く。
「ちょっとタマっち先輩、ここ病院だよ」
そう注意する少女はふわふわとしたブロンドヘアに緑色がかった瞳が特徴的。
「あ、やべ…!」
『タマっち先輩』…あだ名だろうか。
…結構身長差があるけど『タマっち』の方が先輩なんだ。
まあ身長と年齢はそこまで関係ないか。
(俺と銀ちゃんもほとんど身長変わらなかったし)
「…………」
「どうかしたか?」
俯いていたのを不審に思ったのか『タマっち先輩』は覗き込むように俺と目を合わせる。彼女の大きな瞳には周りの人を元気に明るくするものを感じそれはまるで銀ちゃ–––
「…ううん、なんでもないよ」
努めて笑顔を作り首を振る。俺はなぜか––––どうしてかあの3人のことを他の誰かに話す気になれない。
球子ちゃん、杏ちゃん、ひなたちゃん、千景ちゃん、友奈ちゃん。
この病室で目を覚ましてから会った勇者そして巫女の人たち。そしてまだ会っていない人…園子ちゃんのご先祖様にもきっと話す気にはならない。
信じてもらえると思えないのはそうだが、それとは別に…たぶん俺は話したくない。ただそれだけなのかもしれない。
「じゃあ学年が1番近いのは私だね。14歳だけど学年は中学1年生だから」
「え…そうなんだ」
「うん。私小さい時は体が弱くて進級できなかった時があったんだ」
詳しいことはわからないが義務教育を進級できないのはよっぽど悪かったのではないだろうか。それで今は勇者か…
「すごいね杏ちゃん」
「え?」
「だって今は勇者として戦ってるんでしょ。すごいよ」
「そうかな……私はタマっち先輩や他の勇者の皆さんに支えられて今もなんとかなってるけど…」
苦笑気味に言葉を絞り出す杏ちゃん。勇者になると身体能力が跳ね上がりはするがそれでも大事なのは元々の体。
曲がりなりにもあの3人と戦っていた俺にはそれがわかる。
俺はそもそもの身体能力が戦いで役に立つようなものではなかったから。
「それでも、すごいよ」
こう言い切ることができる。
「そうそう。杏は良くやってるぞ、樹の言う通りだ」
「タマっち先輩……ありがとね」
「にひひ」
2人が顔を合わせて笑う。そこには、なんだか2人だけの世界がある気がした。
心を通わせた者同士の。
「にしても面白いもんだよな。勇者と巫女で上里って名前が被るなんてさ」
(勇者か…)
「…樹ちゃん。一つ失礼かもしれないんだけど聞いてもいい?」
「……うん」
杏ちゃんの真剣な眼差しをなるべく直視しないよようにしながら考える。そしてすぐにわかった、彼女が何を聞きたいのかを。
「そもそも–––樹ちゃんは勇者なの?」
(やっぱり…)
それじゃなければいいなと思いつつもそれに決まっていると思う心があり、相反する思いがぐちゃぐちゃに胸の中で混ざり合う。
自分の病室なのに居心地が悪い。
俺は
「私は」
違う
「勇者じゃないよ」
俺はあの時勇者として戻ってきたわけじゃない。ただみんなにまた会いたかっただけ。
それだけだから。
勇者なんかじゃ…ない。
「なあ、あんず」
「なに、タマっち先輩」
樹のお見舞いの後、丸亀城への帰り道。
「樹って本当に勇者じゃないのかな?樹海に入れるのって勇者とバーテックスだけのはずだろ?」
「うんそうだね。そのはずなんだけど」
球子の率直な疑問とそれに対する明確な答えを持たない杏。杏自身も『上里樹』という少女を理解できていないのだからそれは当然のことだった。
「樹ちゃん、今の所謎しかないと思うんだ。勇者じゃないというなら樹海にいる理由が説明できない。勇者だととしても今までどこで何をしていたのか、どうして急に樹海に現れたのか」
「ふむ。そう言われてみたら確かに。『何も覚えてない』ってあいつは言ってたけどな」
「『自分でも何が何だかわからない』ってね。そう言われちゃったらこっちも何も言えないから」
「そうだよなー無理に聞き出すのもなんか違うしな」
「うん。そういうのは、私もしたくないかな」
「ま、それはみんな同じだろうからそこらへんは大丈夫だろ」
「そうだね。そういう心配は私もしてないよ……ただ」
「ただ?」
「大社の大人の人たちがどう思ってるかはわからないかも」
主な所持品、音楽プレイヤーと携帯端末。
音楽プレイヤーはなんの変哲もないどこにでもあるような代物。それは端末の方も然り…だが
「端末内のデータのほとんどが抹消されている…か」
先の戦闘の後、樹海で保護された彼女は腹部から出血していたが病院に運び込まれた時にはその傷は塞がっており、傷痕だけが残っていたという。
それから目が覚めない日が続き、昨日ようやく目を覚ましたところでひなたが面会に行ったわけだが
『まだ目が覚めたばかりで自分でも何が何だかわからないんだと思います。時間をかけてゆっくりと話していくべきだと大社にも報告しました』
それが直接話したひなたの言葉。
無論それに意を唱えるつもりはない。
私にできるのは極力穏やかに焦らせずに接すること。
そんなことを考えながら、病室の扉をノックする。
「…留守か?」
返事が帰ってこない、代わりに中から微かに人の足音。
「すいません今少し……って若葉ちゃんでしたか」
そっと扉を開けたのはよく見知った仲である幼馴染だった。
「ひなた、今日も来ていたのか。大社に行ったとばかり」
「はい、その足でここに。立ち話もなんですから若葉ちゃんも入ってください」
「それはありがたいが…彼女は?」
目の端が病室のベッドを捉える。その一瞬では例の少女の姿を認識できなかった。
「若葉ちゃん」
「なんだ?」
「しーですよ?」
ひなたが口に指を当てながら小声で囁く。私はとりあえず頷いた。
そのままひなたについて病室に入るとすぐにその意味がわかった。
「寝ていたのか」
「私が来た時にはもう」
小さく小さく呼吸を繰り返しそれ以外に身じろぎ一つしていない。
「まだ小学6年生だそうです。杏さんと球子さんから聞きました」
「2人も今日面会に来てたんだったな」
「はい。樹ちゃんも笑って話していたそうです…ただ」
「ただ?」
「杏さんによれば無理やり貼り付けたような笑顔だったと」
無理やり貼り付けた笑顔、そんなものを小学生の女の子が。
「…球子は何か言っていたか?」
「妹分がもう1人増えたみたいなもんだと喜んでいました。球子さんらしいですね」
「はは、だな」
嬉しそうに語る球子の姿が目に浮かぶようでついつい口元が緩んでしまう。
「その…こ……ちゃん…」
不意に聞こえる微かな声、それはベッドから発せられている。
「しまった…起こしてしまったか…?」
「いえ……」
ひなたは首を振って否定するがその顔は複雑そうだ。
「さっきからこんな風に誰かの名前を呼んでるんです」
「名前を…」
「若葉ちゃんが来る前は『ぎんちゃん』『すみちゃん』と」
「友達の名前、だろうか」
「そうかもしれませんね。眠りながら呼ぶぐらいですからとても大事な人たちなんでしょう」
「…ああ」
すると、窓側を向いて眠っていた少女が寝返りを打つように私やひなたの方へ顔と体を向ける。
そして遅ればせながら気づく。
「涙…」
少女は声も出さずに表情も変えずにただ涙を流していた。
ポロポロ、ポロポロと両の目から涙が粒となって溢れていく。
「おね…ちゃん……」
また別の人を呼ぶ声。なんといっているかは聞き取れなかったが確かに誰かを呼んでいる。
「おねえちゃん…」
『お姉ちゃん』姉妹を姉を呼んでいたのか。家族を–––
「…………」
「ひなた?」
ひなたは少女のすぐ側に屈み、そっと指で涙を拭う。
私はその行動をただ黙って見ている。
その瞬間だけなんだか幼馴染が知らない人に視えた気がした。
夜––––昨日と同じベンチに一人で座っている。
ボタンを押す。曲は再生されない。
手に握られてる音楽プレイヤー
耳に付けられているイヤホン
どちらもお姉ちゃんからもらったもの。
てっきりここにはないと思っていた。何も持たずにただ俺だけがいるのだと。
壊れてしまったのか動かなくなってはいるがイヤホンをプレイヤーに繋いで耳に刺しているだけで気は少し楽になる。
『ごめんなさい勝手に借りてしまって。お返ししますね』
目を覚ました時、ひなたちゃんがいてこれを渡してくれた。
『初めまして、乃木若葉だ。どうかよろしく頼む』
園子ちゃんのご先祖様で初代勇者様。
(園子ちゃんみたいな匂いがした)
顔も声も髪型も、その身に纏う雰囲気も何もかも違うように思えたのに…
あぁこの人がそうなんだとすぐに腑に落ちた。
だけど、園子ちゃんと話すようにはいかなくむしろここで会った人たちの中でも一番ちゃんと話せなかった。
『ゆっくり時間をかけて怪我を癒してくれ。ではな』
気を遣わせてしまったのか若葉ちゃんはすぐに帰ってしまった。
その時、ひなたちゃんがまた手を振ってくれた。
『あまり夜更かししすぎてはいけませんよ?』
今度は俺も手を振り返した。
次は若葉ちゃんと目を合わせて話をしたいと思う。
夜空を見上げると––––そこには星と共に月が輝いている。
欠けた月、三日月は園子ちゃんと見上げた満月とは似ても似つかないようなのにあれも確かに月だ。
「園子ちゃん、今日君のご先祖様にあったよ」
あの時一緒に聞いた曲を探しボタンを押す。
やはり、曲は再生されない。
前書きをだいぶ真面目に書いたのでこっちでは軽めに一言、二言、三言で
ゆゆゆ舞台面白かったなあ。
次回もよろしくお願いします。
たぶん大社に行きます、それか丸亀城…あるいはどっちもですかね。