犬吠埼樹(憑依)は勇者である   作:夏目ユウリ

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愛、心のむこうに

 

 

『じゃあまたね樹ちゃん。球子と杏ちゃんにもよろしく言っといてー』

 

『上里樹様、どうかお体に気をつけてご無事で。またお会いできれば幸いと存じます』

 

巫女二人の別れ際の言葉。

 

「またね」

 

再会を望む言葉。

 

「また」

 

再会を願う言葉。

 

『好きってことです』

 

人に好意を伝える言葉…。

 

(ひなたちゃんどうして、あんなこと言ったんだろう)

 

真鈴ちゃんや美佳ちゃんとの女子会が閉会し日付も変わろうかという頃、俺は二段ベッドの下でそんなことを考えていた。

 

上ではひなたちゃんが眠っており灯りの消えた部屋を静寂が支配している。

 

なんだか落ち着く。

 

…なんで落ち着くんだろう。

 

他人がすぐ近くにいるのに。

 

「ひなたちゃん、もう寝た?」

 

小さくか細い声で呼びかける。寝ているならそれでいいしこれで起こしてしまったなら……ごめん。

 

「いいえ、まだ」

 

間をおかずに上からはっきりした返答があった。どうやら本当に起きていたみたいだ。

 

「悪いよね、こんな時間に」

 

「構いませんよ…眠れないですか?」

 

「…うん」

 

少し嘘をついた。眠れないんじゃなくて…眠りたくないのだと思う。

 

眠って起きた時にまた違う時代にいることにいちいち気付かされるから。大切な人に会えない孤独を突きつけられるから。

 

(でも…起きたら何もなかったかのようにもとの時代にいて園子ちゃんや須美ちゃんが……銀ちゃんがそこにいるかもしれないという淡い望みも捨てきれていない)

 

どっちつかずで優柔不断で自分の気持ちからも責任逃れをしようとしている。

 

「私もあまり眠れません。少しお話ししましょうか」

 

「……勇者のみんなってどんな人たちかな」

 

「勇者の皆さん、ですか」

 

「…唐突にごめんね。でもその…ひなたちゃんみんなと一緒にいるみたいだから」

 

「…若葉ちゃんのことなら答えられるかもしれませんが……友奈さんのことは千景さんに千景さんのことは友奈さんに、球子さんのことは杏さんに杏さんのことは球子さんに聞くのが一番だと思いますよ」

 

「…じゃあ若葉ちゃんってどんな人?」

 

「そうですね……とても可愛い人、ですかね」

 

意外な回答だった。若葉ちゃんとはまだ病院で話したことがあるだけだが可愛いというよりは格好いいと言われるタイプに見えたから。

 

「格好いいとかじゃなくて…?」

 

「もちろん格好いいところもたくさんあります。でもそれ以上に可愛い人なんです」

 

「………………」

 

子孫である園子ちゃんの顔が浮かぶ。彼女は可愛らしさを形にしたような人だ。

 

あれは昔のご先祖様から受け継いでるものだったのかな。

 

俺だから可愛い姿を見せてくれてたわけじゃないのかな。

 

(なんだろうこの感じ…嫌な…よくない感じだ)

 

そんなの、当たり前の事なのに。

 

「樹ちゃん」

 

「…なに?」

 

「いつか、今じゃなくていいですから。気持ちの整理ができた時にでもあなたのこと教えてください」

 

…よかった、ひなたちゃんに顔を見られていなくて。

 

見せたくない顔をしているに決まってる。

 

「樹ちゃんが周りの人のことを知らないから知りたいと思うように、私たちも樹ちゃんのことを知りたいと思っています。知って触れて分かりたいと」

 

分かりたい…。

 

「人は他人を完全には理解できないかもしれません。自分自身だって怪しいものです」

 

「…ひなたちゃんも……?」

 

「ええ、私も若葉ちゃんも友奈さんも千景さんも球子さんも杏もさんも。安芸さんも花本さんもです。みんなそうなんですよ」

 

「みんな…」

 

「百パーセント理解し合うことはきっと難しいでしょう……でも人は自分を他人を理解しようと努力する。だから人生は美しい…私はそう思いたいです」

 

「……若葉ちゃんのことも?」

 

「––––遥か彼方の女性と書いて彼女と読みますよね。女の子というのは向こう岸の存在です。どれだけ一緒にいて分かった気がしていても難しいものは難しいです」

 

「…ひなたちゃんも女の子なのに…変なこと言うんだね」

 

「あら、ふふふ」

 

 

 

「愛に性別は関係ないんですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて飯だ飯。頭使った後だから美味いぞ〜!」

 

「もう、タマっち先輩居眠りしてたからそんなに使ってないでしょ」

 

丸亀城にて、勇者たちは午前中の授業を終え昼休みに入っていた。

 

「気持ちわかるよー国語の授業とか眠くなっちゃうよね」

 

「でも、高嶋さんは居眠りなんかせずしっかり受けてたわ」

 

「あれ?ぐんちゃん授業中も私のこと見ててくれたの?」

 

「…い、いや…その…」

 

「ぐんちゃんに見てもらってると思えば眠くても授業も頑張れるよ!」

 

「そ…そう……だったら…よかったけど…」

 

「えへへー」

 

「…///」

 

友奈と千景も同行するように少し後ろを歩く。友奈の言葉に顔を伏せてはいるがチラッと背後を窺った杏は千景が頬を赤らめているのを見逃さなかった。

 

(千景さんのあの表情とそれを引き出す友奈さんの弾けるような笑顔…やはりこの二人は何か特別な感情で惹かれあっている気しかしない!!)

 

若干鼻息荒く目を輝かせている杏を頭の後ろで手を組みながら見ている球子は苦笑い気味だ。

 

(杏のやつ…またなんか妄想でもしてんなこれ。まあそんな杏もかわ––––)

 

「あ、タマった先輩お世辞にも成績あんまり良くないんだからもうちょっとしっかり受けないとだよ?」

 

「いい……はい…もうちょっと気をつけますですはい…」

 

そんなこんなで和気藹々と食堂にたどり着く。中に入ると四人は見慣れた二人と最近新しく見るようになった一人を見つけた。

 

 

「どうだ樹、ここのうどんもなかなかいけるだろう?」

 

「うん、おいひいね」

 

「そうだろうそうだろう、コシもさることながら出汁の旨みがなんとも」

 

若葉の説明を聞きながら樹はホクホクとした顔でうどんを啜っていた。

 

 

「おーい若葉ちゃんヒナちゃん、樹ちゃーん」

 

友奈が手を振りながら三人に呼びかける。

 

「友奈さん、みなさんもお揃いで」

 

ひなたは熱心にうどんを啜る二人に変わるように友奈に対して小さく手を振りかえす。

 

「おーすってなんだよもう食べてるし!タマもタマも〜杏行くぞー」

 

「はいはい今行くよーお二人も行きましょう」

 

「うん!ぐんちゃん何うどんにしよっか?」

 

「私は…高嶋さんと同じのにするわ」

 

「じゃあ肉うどん!」

 

皆それぞれ注文しにカウンターへ行くと若葉がふとうどんを食べる手を止める。

 

「ところで樹、そのリボンなんだが」

 

「あ…これ…若葉ちゃんが昔使ってたやつをひなたちゃんが使わせてくれてて」

 

樹も箸を動かす手を止めて自らの髪に付けている淡い紫色のリボンに触れる。

 

ひなたに付けてもらった日以来樹は毎日欠かさずこのリボンを使っていおり若葉も何度か見ているはずだがそのことに言及するのはこれが初めて。

 

「やはりそうだったか!どうにも見覚えがある気はしてたんだが確信が持てなくてな。私が小学四年生ぐらいの頃に使っていたやつだ」

 

若葉はクイズに正解したかのように在りし日のことを懐かしみながら首肯する。

 

「このままずっと使われないでいるよりこのリボンのためにもなるかと思いまして樹ちゃんに使ってもらってるんです。ほんと、良く似合っています♪」

 

「私が使っていたらあまりないであろう女の子らしさを感じるな。似合ってるぞ」

 

「あ、ありがとう……女の子らしさ…」

 

身も心も正真正銘の女の子である若葉より女の子らしさがあるなんてことがあるのだろうかと内心思う樹であった。

 

 

 

「うーん今日もうどんが美味い!」

 

「あんまり一気に食べると喉詰まらせるよー」

 

「へーきへーっき……うぐっ…!?」

 

「言ったそばから!はいお水飲んで!」

 

杏はこんなこともあろうかと用意しておいた水を差し出し、球子はそれを一息に飲み切った。

 

「ふえぇ…助かったぞ杏ぅ…」

 

「だ、大丈夫タマちゃん?」

 

「気をつけなさいよ…ヒヤヒヤするわね」

 

「ほら、うどんは逃げないんだからゆっくり食べよ?」

 

「おう…ゆっくりゆっくり……美味いなあ…」

 

「うんうん、偉いね偉いよー」

 

恐る恐るといった表情で残りのうどんを啜る球子の頭をやれやれといった表情で撫でる杏。

 

さながら仲睦まじい姉妹のように樹の目には映り

 

「球子ちゃんと杏ちゃんは…姉妹みたいだね」

 

思わずそう溢した。

 

「むふふ、わかるか樹よ。タマと杏の絆を!」

 

「タマっち先輩とは本当の姉妹みたいなものなんだ」

 

樹の言葉に調子を取り戻した球子とそれを見て微笑む杏……なんとなく樹はどちらが姉でどちらが妹なのかわかったような気がした。

 

「球子ちゃんが…お姉ちゃんに見えるな」

 

「え……樹さん…あなた本気…?」

 

「どういう意味だよ!?」

 

「だって、伊予島さんの方を姉だと思いそうなものじゃない」

 

「アンちゃんがお姉ちゃんだったらなんか賢くなれそう!」

 

「友奈まで!?」

 

「まあまあ、球子には球子のいいところがあるさ…姉のようかはわからないが」

 

「ギャップ萌えというやつが狙えますよ、球子さん」

 

「どっちもあんまフォローになってないだろそれ!!」

 

やいのやいのあーでもないこーでもないと一見すると騒がしくも感じるかもしれないやり取りの数々は樹にも覚えがあり、覚えがあるからこそどこか目を逸らしたくなる光景だった。

 

「わかってくれるのは樹だけだぞ全く…」

 

「後輩から見たらお姉さん気質な気もするけどね。樹ちゃんもそう思わない?」

 

「…そんな感じ、するね」

 

ツインテールと前髪を揺らしながら俺の方を振り返り、満面の笑みで手を振る姉の姿が脳裏によぎる。

 

「いやあそんなに言われると照れるなーねへへ〜樹もタマの妹分にしてやるぞ!」

 

「あ、ありがとう…?」

 

「樹さん無理しなくていいのよ。首を傾げながら子分になることはないわ」

 

「樹ちゃんが首動かすとポニーテールも一緒に揺れて可愛いなあ。若葉ちゃんとお揃いみたいにも見えるけどまた違った良さがある感じするよー」

 

樹は少し自分の顔を隠すように髪に触れリボンを直すふりをする。

 

(若葉ちゃんとお揃いって聞くと…なんか分不相応な気がしてきちゃうな…)

 

「髪色も若葉さんと近いですもんね。形と色が同じでも若葉さんが凛々しくて樹ちゃんが愛らしいって感じします!」

 

杏はその手の話題待ってましたとばかりに友奈の言葉に乗り掛かる。

 

「しかもその制服!小学生で制服っていうのがいいです可愛いです!」

 

杏は樹のことを妙に食い気味に褒めちぎる。

 

(…なんかすごい褒められてる)

 

樹からすればなぜそこまで言ってくれるのかわからないから戸惑いが強い。

 

「確かに小学校で制服って珍しいよな。どこの小学校なんだ?」

 

「ど…この…」

 

どこのと言われれば神樹館小学校なのだがそれをそのまま言うわけにはいかなくて…

 

「ごめん、そういうのも覚えてなくて」

 

この時代に来て何度目かの嘘をつく。

 

…そのうち呼吸をするように何も感じることなくできるようになれるだろうか。

 

樹はそうなって欲しいと願う。

 

そうじゃないと毎回胸がちくちくする。

 

この人たちはきっといい人たちだから。




ツインテールと前髪を揺らす風先輩はいわゆる犬吠埼風C案です。犬吠埼姉妹のキャラデザ案で調べていただければ。

ツインテールの位置が原作で採用された案より高くて前髪がしっかりあるという違いで、樹のポニテほどの違いがあるわけじゃないのですが…これはこれですごく良いと思ったのでそういう文にしました。

次回、おそらく丸亀城の戦いへ。
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