あまりこの前書きの欄に書くことが思いつきません…。
今回もよろしくお願いします。
『丸亀城の戦い』そう呼称されるバーテックスとの大規模な戦いに勇者の皆さんが無事勝利してから数日、私は四国を囲む結界外の調査ルート確認や打ち合わせのために大社に来ている。
「上里様、勇者様たちのご様子は…」
老神官の方が恐る恐ると言ったように尋ねる。会議はいつも巫女は私一人で周りは皆神官の人たちだった。本来ただの中学生にすぎない私と大勢の大人が会議をする構図はどこか歪に思える。
「みなさん先の戦いでの疲れも癒え通常の授業や訓練も再会されています」
聞いた話では杏さんの考えた陣形で効率よく数に勝る敵を倒し、現れた進化体に対しても切り札である『精霊』を使用することでこれを討伐。
現状勇者に変身することのできない樹ちゃんも含めて怪我人も出なかったのだから本当に安心した。
「左様でございますか。それは何よりで」
「勇者様たちの練度が上がりバーテックスの侵攻が途切れた今がやはり好機か」
「かつての長野の諏訪のように生き残りの人々が確認できる地域が一つでもあれが良いが…」
「北と南で微かに生存反応があるという話もあるが」
「ということはまだ他にも勇者様がおられるのか」
私の言葉を待っていたかのように若い神官の皆さんが次々に話し出す。こうなるとなかなか私の方からは発言しにくい雰囲気になるのでどうにも苦手だ。
だが、言うべきことは言わなければ。
「神託がある可能性を考慮して巫女を一人同行させる話でしたが、私がその役目を仰せつかっても宜しいでしょうか?」
遠征中に緊急の神託があってもそれを受け取れる巫女がいなければ勇者たちが四国に急ぎ戻ってくることができないため一人は同行する話が出ていた。
そして、誰か一人行くならそれは私であるべきだと思っている。
「上里様は神樹様に最も寵愛を受けている身、誰も文句はありますまい」
「勇者様が五人も居られるのだからその身の安全も保証されましょう」
「是非よろしくお願いしたい」
「わかりました。謹んでお受け致します」
これで大事な懸念事項が一つが片付いた。あとはもう一つ。
「それから、『勇者』上里樹のことですが……」
「じゃあ樹ちゃんは遠征には一緒に行かないんだ」
その日の夜、私が大社に泊まる時に使わせてもらっている来客用の部屋に安芸さんと花本さんが遊びに来ました。
「はい。樹海で意識を保って動くことができるのですから『勇者』の資格を持っているのは間違いないと思うのですが…現状その力を使うことができないのも事実なので」
「結界の外は大量のバーテックスで溢れていることを考えてもそれが賢明な判断じゃないかしら」
「そりゃそうかあ。ん、上里ちゃんこれ美味しいよ」
安芸さんが先ほどこっそり三人で厨房に忍び込んだ時に私が作ったフレンチトーストを口に運ぶ。確かにこの時間帯に食べる甘いものは格別でしょう。
「あんまりがっつきすぎると太りますよ、安芸先輩」
花本さんがこれまた厨房で拝借した紙コップに注いだ麦茶を飲みつつ横目で安芸さんを捉える。
「こら花本ちゃん!せっかく言わないようにしてたのに!」
「なんだ。思ってはいたんですね」
「そりゃねーでも普段精進料理みたいなのばっかり食べてるからこういう甘味が沁みるのよ」
「まあ気持ちはわかりますけど。確かに美味しいわ上里さん」
「お二人ともありがとうございます。作った甲斐がありました」
一日を通して大人とばかり接していたため同年代の人たちとこうして気楽にお話しができるのはやはり嬉しい。なんだか心が軽くなったような感じがする。
「でさ、話を戻すけど…勇者たちと上里ちゃんが遠征でいない間樹ちゃんはどうするの?」
「よく聞いてくれました安芸さん。実は折り入ってお願いしたいことがあるんです。花本さんにもなのですが…」
「私にも?」
「上里ちゃんがアタシたちに頼み事とは珍しいね。いいよドンとこの先輩に言ってみなさい!」
安芸さんが腕で胸を軽く叩くように了承してくれる。この方は本当に気の良い先輩だ。
「話の内容も聞かずに…安芸先輩の安請け合いにはため息が出ますけど、上里さんたってのお願いなら私も引き受けるわよ」
花本さんもなんだかんだ言いながら協力してくれる。同じ勇者を見出した巫女としてこの二人の存在はとても心強い。
「私と勇者がいない間樹ちゃんは丸亀城で一人になってしまいます。なので巫女の皆さんと帰りを待っていてもらおうと思うんです」
「ってことはここでアタシたちと一緒に生活をってこと?」
「はい。そしてお二人には樹ちゃんのことをできるだけ見ていてもらいたくて…」
「上里樹様と面識のある巫女は上里さんを除けば私と安芸先輩だけだから、ということかしら?」
「花本さんのおっしゃる通りです。今回の遠征計画は予定通りにいけばかなりの日数四国を空けることになります」
「何せ北海道まで行く予定なんだもんね。いくら勇者でも一日二日で戻って来れる距離じゃないか」
「ええ……これは私のわがままでしかないのですが…私はあの子にひとりぼっちでいてほしくありません」
丸亀城の戦いの後、樹海化が解けて私を見つけた時樹ちゃんは何も言わずに目を逸らした。
何も言いたくないし答えたくない、そう言葉にせず私に伝えたのだと思った。
私はあんな顔をしながら自分の腕でもう片方の腕を守るように握っていた小さな女の子を一人で置いていくことなんてできない。
でも巫女として此度の遠征に同行するべきなのも確か。
であればこのお二人を頼るのが一番だと考えた。
「何も四六時中面倒を見てやってほしいとまでは言いません。ですが…どうか……どうかあの子のことを気にかけてあげてくれませんか」
「ちょちょ、上里ちゃん頭上げてよ。そんな畏まらなくても」
「いえ、これは私がこうしたいからやっているんです。どうか私のやりたいようにやらせてください」
私はお二人に向けて頭を下げ続ける。
「上里さん、わかったから顔をあげて。安芸先輩と二人でできる限りそれとなくやってみるから。そうですよね安芸先輩」
「うんうん。ウザがられない程度におしゃべりを楽しんじゃうからさ」
「…感謝します。安芸さん、花本さん」
私が頭を上げるとお二人は少し驚いたような顔をしていた。無理もないと思う。
「ねえ上里さん。この件確かに引き受けたわ。その代わりと言ったらなんだけど、答えてほしいことがあるの」
花本さんがほんの少しの遠慮を含んだ間を持って私に尋ねる。
「どうぞ。私に答えられることならなんでも答えます」
頼み事をしたのだからこれくらいは当然だろう。私は質問の内容を待つ。
花本さんは今度は遠慮を感じさせずに私に言った。
「『上里樹』様はあなたにとって何?」
『上里樹』という人間を客観的事実で言い表すならばそれは突如現れた謎の少女となるだろう。
樹海で行動することができるにもかかわらず勇者に変身することができない。その裏にはおそらく途方もない事情がありその全てをあの小さな体に秘めている女の子。
知らない環境、知らない人間、戦いを迫られる立場。
私はざわざわするのだ。『上里樹』という存在がいつか何かの拍子に張り裂けてどこか遠くに行ってしまいそうで。
どこから来たかもわからないのにどこか遠くに行ってしまうなんて言い回しもおかしいのかもしれないけど、それでもそう考えずにはいられない。
私と同じ名字のあの子を、私はどんな存在だと思っているのだろう。
私はあの子を、どうしたいのだろうか。
丸亀城は広い………ような気がする。
他のお城のことを全然詳しく知らないから比較ができないけど、お城を中心にした敷地の広さはそれなりの公園ぐらいの広さを感じる。
「丸亀城ってお城の中でも大きかったりするのかな」
「いや、丸亀城自体は日本一小さい天守の城と呼ばれてるそうよ。天守が現存する城の中でね」
少し前を歩く千景ちゃんがこともなげに答えてくれる。
「逆に石垣の高さは日本一らしいけど」
千景ちゃんがそう言って丸亀城を見上げつられて俺も見る。確かに素人目にも石垣はとても立派でその分お城自体は小さく見えなくもない。
「千景ちゃんお城のこと詳しいんだね」
「歴史のゲームをやってるうちに自然とね。自分で調べたりもしたから。それと、丸亀城は桜の名所だったりするの」
「やっぱり公園でもあるんだ、ここって」
「一般の人が立ち入りできた頃はお花見目当ての人も多かったみたい」
「……桜」
「…見に行ってみる?ちょうど咲いてる時期だけど」
「え?一緒に?」
「嫌…かしら」
「ううん、嫌じゃないよ」
「そう……じゃあ行きましょうか」
千景ちゃんは歩き出した。少し後ろを歩いていた俺は追いつこうとして小走りになった。
そして、隣に並んだところで足並みを揃える。
「……どうしたの?」
「…えっと……隣を歩こうと思って………嫌かな」
「…嫌じゃないわ」
隣を歩きながら視線だけで千景ちゃんを見ようとする。そうすると身長差から自然と見上げることになり自分の小ささを改めて感じる。
「千景ちゃん身長高くていいなぁ…」
自然と口からそんな言葉が溢れ出ていた。前に友奈ちゃんも言っていたけど千景ちゃんはとてもスタイルのいい美人さんなのだ。
「そ、そうかしら……自分でそう思ったことはないけど」
「私が結構小さい方だから余計そう思うのかも…羨ましい。モデルさんみたい」
「…からかわないでちょうだい」
「本当にそう思ってるよ?」
「………私はあなたのその明るい髪や瞳が羨ましい……なんとなくだけど…樹さんの髪や瞳を見てると、あなたが誰かに愛されて生きてきた証に感じるの。勝手にね」
「樹さん、あなたはいい子だと思うわ。愛されて当然の…いい子ね」
貴重品を扱うかのようにゆっくり丁寧に頭を撫でられる。手を小さく揺らすように僅か数秒ほどのこと。
俺が固まって動けないでいる間に千景ちゃんの手が離れていく。
「——ごめんなさい。私…やっぱり部屋に戻るわ」
それだけ言って千景ちゃんは足早に俺から離れていく。表情を見る暇もなかった。
俺の頭を撫でていた時の千景ちゃんは、どんな顔をしていたのだろうか。
なんだかそれが…妙に気になった。
「樹ちゃん」
千景ちゃんと入れ違いになるように背後から俺を呼ぶ声がする。帰りを待っていた声だ。
「おかえりなさい、ひなたちゃん」
振り返るといつもの柔らかい笑みを浮かべたひなたちゃんが立っていた。
「はい。ただいま戻りました」
しかし、ひなたちゃんはすぐにその笑みを収めてしまう。
「千景さんと一緒にいたんですね」
寮の方に歩いていく千景ちゃんの背を見ながらひなたちゃんは言う。
「ちょっと外を歩いてたらたまたま会って」
「そうですか。確かに、春の陽気が心地よくていい散歩日和です」
「それで丸亀城は桜の名所だからって一緒に観に行こうとしてたんだけど…やっぱり部屋に戻るって」
「まあ…それは…もしかして千景さんからお誘いに?」
ひなたちゃんはまだ千景ちゃんの方を見ている。
「…うん」
「そうですか…千景さんが」
俺とこうして話していても遠ざかる千景ちゃんの背をなぜか見つめたまま、もっとずっと遠いところを見ているのではないかと、ふとそう感じた。
「さっき、頭を撫でてもらってましたね」
打って変わったように今度は顔を至近距離まで近づけてじっと俺の顔…というより瞳をまじまじと瞬きもせずに見てくる。
「…えっと……まぁ…うん…」
そして、ひなたちゃんの瞳に吸い込まれるように視線を外せない。
穏やかで優しいのに……どこか緊張を感じさせるひなたちゃんの綺麗な顔が文字通り目と鼻の先にある。
「嬉しかったてすか?」
「え……」
「嬉しそうに見えました」
「それは…」
「どうです?」
ひなたちゃんはさっきから瞬きをしていない。
「…嬉しかった………かな…」
「そう……」
「……うん」
「それは———よかったですね」
ひなたちゃんがようやく瞬きをした。そして、先ほどとは違う手の感触が髪を伝って全身に染み込むように馴染んでいく。
千景ちゃんと違って丹念に時間をかけながらひなたちゃんは俺の頭を撫でる。
「ひなたちゃん…ちょっとくすぐったいよ」
だんだんと撫でるだけでなく指が髪の感触を味わうように動くのが体をそわそわさせる。
「嫌だったら離れてもいいですよ」
「……その言い方はずるいと思う」
「あら、子供は素直なぐらいがちょうどいいのに」
「…ひなたちゃんだって……まだ子供のくせに」
次回もよろしくお願いします。