今回は少し長くなります。少しだけですけど。
毎度文章量が安定せずにすいません。
今回もよろしくお願いします。
「安心してるからですかね。随分と遠慮がなくなった感じです」
ひなたちゃんは俺の髪を指で弄りながらそう言う。
最初はなんだかくすぐったかったけどだいぶ慣れてきた。
慣れてきた……慣れて安心してきたの……かもしれない。
ひなたちゃんの言った通りかもしれない。
「ご、ごめん」
「いいんですよ。嫌味のつもりじゃありませんから」
「うん…」
「そうだ、一つ樹ちゃんに言わなきゃいけないことがあるんです」
ひなたちゃんの手が離れる。
「私に?」
「ええ。先の戦い以降バーテックスの侵攻がなく、そういった神託もない今のうちに大社は結界外の調査を決めました。若葉ちゃん友奈さん千景さん球子さん杏さん、私の六人で」
「私は……」
「樹ちゃんには、大社で巫女の皆さんとお留守番をお願いしたいんです」
「……大赦で…」
「巫女の安芸さんと花本さん、前に四人でパジャマパーティーをやりましたよね?あの時のお二人にも話はしておきました。樹ちゃんが来るのを楽しみにしているそうですよ」
「そっか…真鈴ちゃんと美佳ちゃんが」
「勇者を見出した人以外にも大社には巫女が結構いるんです。皆さん樹ちゃんとお話ししたがっていたんですから…もう、妬けちゃいますね」
ひなたちゃんは、なんだか楽しそうだ。
…そんなに楽しいことなのかな。
俺以外ひなたちゃんも含めてみんな敵だらけの結界の外に行く。もしかしたら死んじゃうかもしれない。
…もしそんなことになったら、いつどこでどうやって死んだのかなんてわからなくなる。
ただひたすら帰ってくるのを待ち続けて時間だけが経過する……そんな想像が頭をよぎった。
「大丈夫。ちゃんと帰ってきますよ」
ひなたちゃんは巫女さんだから、人の心がわかるのだろうか。まるで俺の心の内を見抜いたかのようにそう耳元で囁いた。
「約束です」
「…絶対?」
「はい。絶対に」
「ほんとに本当?」
「本当に本当です」
「………うん」
か細い声で俺はなんとか頷く。
「いい子ですね」
ひなたちゃんの温かい手が俺の頬に触れる。
「えらいえらい」
「……ひなたちゃん私のこともしかして小さな子供だと思ってる…?」
「いえいえ、そんなこと」
「…ない?」
「…………」
「やっぱりそうなんだ!小さな子供だと思ってるんだ!」
「なーんてですよ、なーんて!今日の分です!」
「ずるい!ひなたちゃん困ったらすぐそれ言うもん!」
「一日一回ですよ?」
「こないだ二回言ってる日あった!!」
「それはほら…友奈さんも二回三回言ってる日もあるでしょう?」
「今友奈ちゃん関係ないもん。ひなたちゃんの話をしてるの!」
「…そろそろおやつの時間ですし桜餅でも作りましょうか?ちょうど咲き頃ですしね」
「もう!誤魔化さないで!!」
「いいお茶もありますから。和菓子には合いますよー」
「……もういいっ!お菓子もお茶も要らない!」
「いっ樹ちゃんどこに」
「部屋に戻るの」
「…えーっと……あ、そういえば結局桜は観てないんですよね。だったら観に行きましょう。桜はすぐに散ってしまいますから!」
「…行かない」
俺は踵を返してスタスタと寮へ向けて歩き出す。
ふと、足を止めて振り返るとひなたちゃんはニコニコしながら手を振っていた。
「………はぁ」
俺は小さく手を振りかえした。
振りかえしてくれた手に心が軽くなるのを感じる。
プリプリしていながらも尚樹ちゃんの歩幅は小さいままでそれが可愛らしい。
今の私たちのやりとりは傍目には他愛もない口喧嘩に見えただろう。例えば姉妹が日常的にするような、そんなものだったと思う。
ただ、こういったちょっとした口喧嘩は心を開いていない相手と起こるものではない。
あくまで私個人の自論だが、人間は心を閉ざしている時の方が人と衝突をしない。
閉ざされた状態では誰かに本音をぶつけたり感情を素直に出すことはきっとない。
あの子は少しぐらいは私に心を開いてくれるようになったと、私はそう考えたかった。
「えー樹は一緒に行かないのかぁ」
休み時間の教室で球子ちゃんは残念そうな表情を隠さない。
「もうタマっち先輩、本人の目の前だよ」
隣で杏ちゃんが口を尖らせている。
「いやだってさあ、みんな一緒のほうが楽しいだろ?」
至極当然のように『みんな』の中に俺を含めてくれていることに笑みが浮かぶ。
「ん?タマなんか変なこと言ったか?」
「ううん。ありがとう球子ちゃん」
「お礼を言われることを言った覚えもないけど…おう!」
球子ちゃんの溢れんばかりの笑顔はなんとも眩しく、この眩しさは時に薬でなく毒になってしまうのではと思った。
「樹はタマの大事な妹分だからな!杏だって同じタマの妹分として一緒に来てほしいだろ?」
「もう調子いいんだから……でもそうだね。できることなら私も樹ちゃんと一緒に遠征行きたかったな」
杏ちゃんの残念そうな微笑みが胸をチクリとさせる。
「ごめんね杏ちゃん」
大社から戻ってきたひなたちゃん(結局作って部屋に持ってきてくれた桜餅とお茶で仲直りした)の話で丸亀城の勇者のみんなも結界外調査の計画について知ることとなり、皆思い思いの反応を示していたけど、大なり小なり期待を持ち合わせていたように感じた。
「あれっ、てことは樹もしかして真鈴と会うのか!」
「うん。ひなたちゃんが真鈴ちゃんにも話してくれたみたい」
「わあ、真鈴さん最近会えてないなぁ」
「いいなー樹羨ましいぞ。タマと杏も真鈴に会いたい!」
「真鈴ちゃんも会いたがってたよ。二人のこととっても気にかけてた」
明るい口調の中にも心配が隠せていないのが俺にも伝わってきて真鈴ちゃん、そして球子ちゃん杏ちゃんとはとてもいい友達なんだと初対面ながら思った。
「調査が終わったらみんな一緒に会いたいね」
「名案だぞ杏!千景とか友奈の巫女さんともタマたち会ったことないしな」
「美佳ちゃんに二人とも会ったことないんだ。千景ちゃんの巫女さん」
「ヨシカさんって言うんだ。ぜひ会ってお話ししてみたいな」
「じゃあじゃあ、友奈の巫女さんは?」
球子ちゃんが俺の使っている机に身を乗り出すように尋ねる。
…そうだ。若葉ちゃんや千景ちゃん、球子ちゃんや杏ちゃんのように友奈ちゃんにも巫女さんはいるはず。
それなのに俺はその人の名前すら知らない。真鈴ちゃんや美佳ちゃんからも話は聞かなかったし友奈ちゃん本人からも何も聞いたことがなかった。
「そういえば……友奈ちゃんの巫女さんの話って聞いたことない…かも」
「なんだ、樹も知らないのか。てっきり大社で会ったのかと思ってたぞ」
「私も友奈さんの巫女さんのことは聞いたことがないの。タマっち先輩も?」
「タマも全然知らない。あ、友奈ー!ちょうどいいところに!」
噂をすれば何とやら、お手洗いか何かで教室から出ていた友奈ちゃんが帰ってきた。
「タマちゃん?どしたのー?」
手招きする球子ちゃんのもとに友奈ちゃんが小走りで駆けてくる。
「なあ友奈。友奈の巫女さんってどんな人なんだ?」
「タマっち先輩…単刀直入すぎない…?」
躊躇を少しも感じさせない竹を割ったような性格の球子ちゃん。杏ちゃんと俺はチラッと顔を見合わせる。
「え…聞いたらダメなことだったか!?」
両手で口元を覆っていても十分聞こえる大きな声は実に球子ちゃんらしい。
「ううんそんなことないよ。そっかぁ、そういえばみんなに話したことなかったっけ。えっとね…私の巫女さんは烏丸久美子さんっていう人なんだ」
烏丸…久美子…さん。やっぱり聞いたことない名前だ。
ひなたちゃんは知ってたりするのだろうか。
「へぇタマたちと同い年か?」
「すっごーく年上の大人の人だよ。初めて会った時にもう二十歳超えてたみたいだから」
友奈ちゃんが両手を目一杯広げる。たぶんとても年上の大人であることを表現している。
「ということは友奈さんはその烏丸さんと奈良県から四国まで…」
杏ちゃんの険しい表情はきっと四国に至るまでの道筋がいかに困難であったかを想像してのことだろう。
「他にも何人かの人たちと一緒だよ。久美子さんがバスを運転してくれたから私は全然大変じゃなかったんだけどね」
いつもと変わらない快活な表情で友奈ちゃんはサクサク受け応えている。
「大人でも巫女ってなれるんだな。なんか勝手にタマたちと同年代ぐらいしかいないのかと思ってたな」
「大社に入ってすぐに巫女さんの力を失っちゃったみたいで今は神官さんとしているみたい」
元巫女で現神官…何だか随分と珍しい経歴のように感じる。他にもそういう人はいるのだろうか。
「なになに巫女さんの話してたの?」
興味津々といった風に友奈ちゃんは話題を切り替える。
「おおそうそう。千景の巫女さんとか友奈会ったことあるか?花本美佳って名前らしいんだけど」
「それがまだないんだーぐんちゃんを勇者として見つけてくれた人かぁ。どんな人かな」
自分の席でゲームに勤しむ千景ちゃんは、イヤホンをしているのもあってこちらの会話は何も聞こえていないようだ。
(美佳ちゃん…あんなに千景ちゃんのことを尊敬してて大好きなのにずっと会ってないんだよな。千景ちゃんはどう思ってるんだろう………よしっ…)
俺は立ち上がって千景ちゃんの席に近づく。俺の席の周りにいた三人が不思議そうな目で見ているのを気にしないふりをしながら。
「あ…ぁの千景ちゃん…!」
集中してゲームをしている千景ちゃんに聞こえるようになんとか大きな声をお腹から出す。変な緊張のせいで第一声で空気を全部使い切ってしまった。
幸い俺の声は耳に届いたようで千景ちゃんはゲームをする手を止めてイヤホンを外した。
「何?」
「ぁ、あのね…今度みんなが外の調査に行く間私大社で過ごすんだけど…」
「そうね。私も聞いたわ」
「う、うん。だよね…それでえっと…」
「樹さん、ちゃんと聞くからゆっくり話して。それと…昨日はごめんなさい。あなたを一人残してしまって」
「うん…大丈夫だよ……具合はもう平気…?」
「…ええ。もう平気よ…ありがとう」
「タマ…千景にあんな風に優しく対応されたことないぞ…」
「そりゃあタマっち先輩と樹ちゃんじゃ違いすぎるでしょ」
「えー背なんかだいたい一緒だけどなあ」
「そういう問題じゃないの」
「あはは……でもぐんちゃん…なんだかお姉さんって感じだね」
「そういや千景って姉妹とかいたっけ?」
「私は聞いたことないけど…もしいたとしたらあんな風に優しく接してくれるだろうなぁぐんちゃん」
「千景さん、優しい人ですもんね」
「そだな、アイツは素直じゃないだけだからなー」
「土居さん、うるさいわよ」
「聞こえてたのかよ!?ってか何でタマだけ!」
「…そういう話は普通本人の耳に入らないところでするものでしょう」
「えー褒めてるのに」
「……ふん」
不機嫌なようでほんのりと顔が赤くなっている千景ちゃんは年上とか勇者とかそういうもの関係なくすごく可愛い。
「…話の腰を折っちゃったわね。それで?」
「あ…うん………前に大社で美佳ちゃんに会った時、ひなたちゃんが丸亀城で撮った千景ちゃんの写真を見せてたんだ。そしたらすごく喜んでて」
「そうなの…花本さんが…」
「だ…だからね…今度は私が写真を撮って美佳ちゃんに見せてあげたいんだ」
「……もしかして私を撮りたいってこと…?」
「…うん」
「……私…」
「ダメかな…?」
「それは……」
「……………」
「だぁー!!まどろっこしいぞお前たち!写真ぐらいいくらでも撮って見せてやればいいだろ?ほれ樹、タマが撮ってやるから携帯貸してみろ」
「私も撮るの手伝うよー!どうせならぐんちゃんと樹ちゃん二人で写っちゃえばいいんじゃない?」
「友奈さんナイスアイデアです!樹ちゃんその後私とタマっち先輩とも一緒に撮ろうよ。真鈴さんに見せてあげてほしいな」
「お、いいなそれ!!」
「えへへ、今日は撮影会だね」
樹ちゃんと千景さんのツーショット撮影はなんとも見てて微笑ましい。
二人とも笑顔がどこかぎこちないし千景さんに関しては正直笑顔なのかも怪しくはあるが、時折見せる鬱屈とした表情でゲームをプレイしていた姿よりはよっぽど年相応に感じる。
「二人ともせっかくなんだからなんかポーズとれよー」
球子さんが携帯のカメラを向けながら指示を出す。確かに樹ちゃんも千景さんも二人並んで立っているだけでは少々寂しい。
「ぐんちゃん樹ちゃんピースだよピース」
友奈さんがお手本を見せるように満面の笑みを浮かべてピースをする。
「こう…かな」
樹ちゃんが控えめに縮こまりながらピースを作る。
「こう…かしら…」
それを真似するように千景さんも恐る恐ると言った感じポーズを取る。
「いいですいいです!千景さんも樹ちゃんもすっごく可愛いです!」
当の本人たちよりテンションが上がっている杏さんは実にイキイキしていて鼻息が荒い。杏さんの目にはこの場面が恋愛小説の一場面に見えているのかもしれない。
「タマっち先輩変わって!次は私が撮るから!!」
「あ、はい…どうぞ…」
あの球子さんが気圧されるように携帯を差し出す。杏さんは一度スイッチが入ると案外こういう愉快なところがあるお人なのかもしれない。
「ああいいですね可憐ですよ二人とも!実に可憐です!」
目にも止まらぬ速さで様々なアングルからお二人を撮影するその姿はもはや映画撮影のように思えますが……途中際どいアングルがあったような気もするので後で確認が必要でしょう。
「も、もう十分じゃないかしら…ねえ樹さん……」
「そ、そうだね…もう十分撮れたと思うからうん…」
「あーん…残念です……まだまだ撮影会したかったのに…」
「杏…タマは時々お前のことが怖くなるよ…」
「じゃあ今度はタマちゃんとアンちゃんと樹ちゃんで撮ろうよ!私撮るね〜」
携帯が杏さんの手から友奈さんに渡り、樹ちゃんを真ん中で挟むようにお二人が並ぶ。
「いっくよーハイチーズ〜」
友奈さんがお決まりの言葉を添えて何度かカメラアプリのボタンを押す。樹ちゃんは先ほど千景さんとのツーショットをたくさん撮られた影響か笑顔が自然になってきていた。
球子さんと杏さんの方は言うことなしでバッチリ。きっと二人で撮る機会も多いのだろう。
「イェーイ〜!ほら樹も」
「私も…?」
「樹ちゃん大丈夫すごく可愛いから、一緒にしよう?」
「う…うん…」
三人で声を揃えて一緒にダブルピースでの撮影というのはまるでプリクラのよう。またそれを友奈さんの近くで見ている千景さんからは穏やかな生気が感じられる。
若葉ちゃんとは違った理由でなにかと気を張り詰めがちな千景さんに心安らぐ時間を与えられる一番の要因は友奈さんだと思うが、最近では樹ちゃんの存在も大きくなってきたのではないかと思う。
「いいのか?お前は参加しなくても」
若葉ちゃんが机に頬杖を付きながら私に呼びかける。普段から自分を律して生きている若葉ちゃんだけど丸亀城で皆さんといる時はくだけた姿を見せてくれる時もある。
それほどこの人たちに若葉ちゃんは気を許しているのだろう。
私はそんな若葉ちゃんの傍にひっそりと佇む。落ち着く私の居場所。
「いつも私やみんなのことをあれだけ撮ってるのに」
「いいんです。みなさん自分の巫女と離れ離れなのに…私だけ自分の勇者様といつも一緒にいることができるんですから」
「…そうだな。私は恵まれているよ。大切な巫女がいつもこうして側にいてくれて」
「嬉しい言葉ですね」
「いつも感謝してるよ、ひなた」
「こちらこそですよ、若葉ちゃん」
若葉ちゃんと目を合わせて笑い合う。穏やかで優しいずっと好きな時間。
「樹もだいぶみんなと打ち解けてきたみたいでよかったな」
「ふふ、あの子には年上に可愛がられる才能がありますね」
「誰よりも樹のことを気にかけてるお前が言うんだから、違いない」
「私は、樹ちゃんに笑っていてほしいだけですよ……若葉ちゃんやっぱりちょっと失礼します」
「ん?ああ…」
私は樹ちゃんに携帯を返す友奈さんを見て一つ思いついたことがあった。失念していたと言った方が近いかもしれない。
「友奈さん、樹ちゃんと二人で撮りましょうよ。烏丸さんに見せてあげるために」
「へ?私?………久美子さん私の写真なんか見せて喜ぶかなぁ…」
あの友奈さんが自信がなさそうに苦笑いで頬を掻く。
「あれでも大社で会った時『友奈はどうしてる?』って聞いてくるんですよ?」
最も、それで色々と話をしても素っ気なく『そうか』とだけ言って立ち去ってしまうわけですが。
「…そっか。久美子さんが…」
友奈さんにこんな切なそうな表情をさせる烏丸久美子さんは、何とも罪深い人です。
「……友奈ちゃんが嫌じゃなきゃ私は一緒に撮りたいな。それでその烏丸さんに友奈ちゃん元気にしてますって伝えて写真見せるよ」
「樹ちゃん…うん、ありがとう……よしっじゃあ二人で撮ろっか!」
友奈さんにいつもの笑みが戻ってくる。
樹ちゃんと友奈さんが二人で並び私は携帯を構える。
「では何枚かいただきますね……はいチーズ」
ポーズとしては普通にピースをしていた二人でしたが、ボタンを押す瞬間、友奈さんがとっさに樹ちゃんの腕に自らの腕を絡め、ちょうどその瞬間を綺麗にカメラに収めることができた。
なるほど、将来私はカメラマンになるのもいいかもしれない。
話の終わらせどころは毎回悩んでしまいますね。
次回は逆に短くなるかもしれません。
またよろしくお願いします。