最低でも月二本の投稿を目指してやってるつもりなのですが、果たして今の章が完結するのはいつになるのか。
難産だと普通に二本投稿できなくなると思うのですいません。
とりあえず今回もどうかお付き合いください。
「なんというか、勉強はあんまりか」
「…………すいません」
勇者のみんなとひなたちゃんが結界外調査に向かった翌日、俺は大赦で巫女の人たちと一緒に授業を受けている。
丸亀城にあるのとそう変わらない教室、そして机に椅子。
違う部分があるとすればそれは先生。
わからない問題を質問してその解き方を教えてもらった時にこの発言は飛び出した。
(そりゃ自分が勉強あんまり得意じゃない自覚はあるけど…)
だからといってこんなに堂々とはっきり言われて気分がいいわけもない。
「ちょっと烏丸先生…!言い方をもうちょっと…」
近くの席に座る真鈴ちゃんの発言が余計に心を締め付ける。わかってる…真鈴ちゃんは良かれと思って言ってくれているに違いないことぐらい…わかってる。
「ん、あーまあなんだ。お前も色々あるしな」
「全くもってフォローになっていません、烏丸先生」
美佳ちゃんの言葉に心の中で頷く。
「はいはい悪かったよ。またわからないところがあったら聞いてくれ」
めんどくさいのを一ミリたりとも隠そうともしない態度で烏丸さんは自分の席に戻って頬杖をつきながら本をめくり直す。
人はこんなにも悪いと思わずに悪かったといえるものなのか。
なんであの人が……あんなに優しい友奈ちゃんの巫女なのか俺は思わず首を傾げたくなった。
「烏丸先生にさっき教わってたところちゃんと理解できた?なんか首傾げてたけど」
というか実際に傾げていたらしい。
「…気にしないで、大丈夫だから」
ため息をつきたくなるのを昼食のうどんを啜って誤魔化す。相変わらずうどんは美味しい。
「樹様、わからないことがあるのは何も恥ずかしいことではありません。わからないことをわからないままにしておくことこそが真に恥ずかしいことかと」
「うん………」
正直今は何を言われても正面切って受け止められずどこか流し気味の受け答えになってしまう。
美佳ちゃんの言ってることはもっともなのに。
「アタシも勉強たいして得意じゃないし、なんなら花本ちゃんにもわかんないところ聞いたりしてるからあんまり気にしなくていいと思うよ」
「安芸先輩はもう少し気にしてください」
「ガーン…花本ちゃんはやっぱりアタシには厳しいんだからなぁ、アタシも郡ちゃんと同じでもう高校生になるってのにー」
「郡様と安芸先輩を同じに見られるわけがないじゃないですか。郡様は私の勇者様なんですから」
「そんなもんかねー」
「安芸先輩だって私と土居様伊予島様を比べられはしないでしょう?」
「……確かにね。はぁーあの子たちに会いたいよ」
「…………そうですね」
「あの……実は結界外調査の前にみんなと撮った写真があるんだけど…」
俺は恐る恐る携帯を取り出して写真アプリを立ち上げる。
「え、何それ見せて見せて」
「樹様、是非私にも」
二人とも結構な食いつきだ。
「えっと…はいこれ」
二人に対して携帯を差し出す。
「いいの?借りちゃっても」
「うん、たくさん撮ったし自由に見てもらいたいから」
「では有難くお借りします」
サッと美佳ちゃんが俺の手から携帯を受け取る。隣の真鈴ちゃんが意表をつかれたような顔をした。
「あ、花本ちゃんずるい!アタシも見たいのに!」
「別に見せないとは言ってません。ちょっと先に郡様のお写真を見るだけです」
そう言って何食わぬ顔で美佳ちゃんは画面をタップする。おそらく俺と千景ちゃんが二人してぎこちなかったり硬い表情をしながらピースをしてる写真を見ているのだろう。
「郡様…なんと良いお顔をされて……」
「あの郡ちゃんが笑顔でピースしながら誰かと写真とはねぇ。表情はなんとも言えない感じだけど」
「そんなことはいいんですよ。郡様が誰かと写真を、それも二人で撮る機会などほとんどないのにも関わらずこうやって笑っていらっしゃる……誰かと笑えるようになってきているんですから」
「高嶋ちゃんとは結構仲良いみたいだけど樹ちゃんともだいぶ打ち解けたんだね」
「そうだったら、私も嬉しいけど…」
「樹様、この写真を見ればわかります。郡様は慣れておらず恥ずかしがっているだけなのです。郡様は他人をこの距離まで無闇に接近させるお人ではないのですから」
そう断言するように、俺の顔をしっかり見ながら美佳ちゃんは目の端に涙を浮かべた。
「す、すみません。私としたことが…」
美佳ちゃんは携帯を真鈴ちゃんに預けて眼鏡を外しながら涙を拭う。
「あはは、よかったね花本ちゃん。郡ちゃん元気そうじゃん」
「はい。郡様が高嶋様以外に心を許せるようなお方がいてくれて本当によかった……」
「………美佳ちゃんがこんだけ喜んでたこと千景ちゃんに教えてあげないとね」
俺も嬉しいはずなのに、嬉しいのは確かなのにどうしても美佳ちゃんが言ってくれているように思うことができない。
たぶん千景ちゃんが抱えているもの、経験してきたことは俺の存在なんかじゃ受け止めきれるようなものじゃない気がする。
もしかしたら…俺の思い上がりの可能性もあるけど……千景ちゃんは俺に自身と近しい何かを感じ取っているのかもしれない…自分のことをわかってくれる存在なんじゃないかって思っているのかもしれない。
俺は…千景ちゃんをわかってあげられている自信がない。
友奈ちゃんなら、千景ちゃんの全てをわかって受け止めてあげられるんだろうか。
「球子と杏ちゃんも元気そうで何よりね。二人ともいい顔してる…って花本ちゃんもう泣かないの。嬉しい時は笑わなきゃ、郡ちゃんもその方が喜ぶよ、たぶん」
「…っぐす……最後のせいで締まらないセリフになってます…」
「うんごめん。でもさ、本人と再会した時は笑って喋れるようになってないとでしょ?」
「……確かにそうですね」
「じゃあはい、もっかいぎこちないけど笑顔でピースしながら樹ちゃんと二人で写ってる写真見て」
「……………うぅ郡様……」
「だぁ〜また泣いてるから。もー眼鏡預かっとくよ、邪魔だろうし」
「でも眼鏡がないと郡様のご尊顔が見られません…」
「じゃあ泣いちゃダメじゃない。ほらハンカチ、一応言っとくけど鼻はかまないでね」
「……はい」
ハンカチで涙を拭いた美佳ちゃんはそれ以上は泣かずにただ嬉しそうに千景ちゃんの写真を眺め続けていた。
「やれやれ、この子もこの子で難儀なもんね」
「真鈴ちゃんはいい人だね」
「ふふふ、それほどでも…少しはあるかな〜」
「球子ちゃんと杏ちゃん、会いたがってたよ」
「…ん、そっか」
「とっても会いたがってた」
「…後で写真見直させてもらってもいい?しばらくは花本ちゃんあの感じだろうからさ」
「……真鈴ちゃんは、いい先輩だしいいお姉さんみたい」
「弟がいるから、実際姉ではあるよ」
俺は真鈴ちゃんの顔を見た。笑ってるけど悲しい笑い方だった。
「それも樹ちゃんと同い年。だからかな、樹ちゃんにはちょっと縁を感じてるんだ。勝手にね」
「…弟くんも、お父さんとお母さんも真鈴ちゃんがいないのは寂しいだろうな。こんな明るくていいお姉ちゃんなんだもん」
「両親はそうかもねー特に父親は気軽に麻雀打てる人がいなくて寂しがってるかも」
「真鈴ちゃん麻雀好きなんだ」
「そうそう。結構得意なのよこれでも」
正直ドンジャラとの違いがわかってない。ドンジャラの難しい版ぐらいの認識しかしていなかった。
「でも、弟が入院してるから両親はアタシのことどうこうどころじゃないと思う」
「怪我とか…?」
「ううん、『天恐』」
「……てんきょう…」
さらっと当たり前の常識のように真鈴ちゃんはその名前を口にする。しかし俺には聞き覚えがない。
「知らない?『天空恐怖症候群』」
「ごめん…」
「別に謝ることないけど…そっか知らないんだ……天空恐怖症候群ってのはバーテックスが飛来してきた空を極端に怖がる病気のこと。要は精神病の一種」
「………………」
俺がバーテックスという存在を知ったのは神樹館小学校のみんなと一緒に勇者になってからのこと。それまでは当たり前のように四国だけの世界で普通に生活してきて空が怖いなんて、考えもしなかった。
でも今この時間を生きる人たちはそうじゃない。多くの人がバーテックスの襲来を経験してるんだ。
「バーテックスに襲われてPTSD…えっと心的外傷後ストレス障害っていう精神病のことをそう言うんだけど、それを発症した人たちがたくさんいたの。中でもバーテックスが現れた空を過剰に恐れる症状はただのPTSDとは違う可能性があるってことで『天空恐怖症候群』略して『天恐』って区別されたわけ」
「それに真鈴ちゃんの弟さんが…」
精神の病…人の真ん中にある心を蝕み巣喰ってしまうもの。
「うん。アタシの弟は症状が重くてね、空の下を歩けなかったり外出ができなかったり。中には幻覚とか幻聴とかで発狂しちゃう人もいるんだって」
空はどこまでも広がっててどこにでも在るものだから、そうなってしまったらどんなに苦しいのか………想像もしたくない。
「で、弟はバーテックス襲来の時以来ずっと入院してる。アタシは曲がりなりにも大社の巫女だからあんまりお見舞いにも行けてない。お姉ちゃんなのに」
『お姉ちゃんなのに』
お姉ちゃん、過去に来てからその言葉を口にしたのは千景ちゃんに少しだけ自分のことを話した時だけ。
この時代で、千景ちゃんだけが俺に姉がいることを知っている。
あんなに口にして呼んでたのに、今は何をしているのか知る術もない。
遠く遠く遠くただひたすらに遠くに俺のお姉ちゃんはいる。
「弟の病気を優先的に診てもらえると思って大社の巫女になって、今でも私はここにいるけど……ほんとはずっと迷ってる。そんなことより私は弟の…家族の一番近くにいてあげなきゃいけないんじゃないかなって」
真鈴ちゃんは自分の決断に迷い続けている。自分の決めたことは、したことは果たして正しかったのか。大切な人のためになっているのか。
自分が本当にしたかったことなのかどうか、本当の気持ちと向き合い続けている。
「それと同じで、球子や杏ちゃんの側に一緒にいた方がいいのかなって思う時もあるんだ」
「…ひなたちゃんみたいに?」
「そう…アタシは上里ちゃんみたいにできる自信はないけど…たいして役に立てなくても一緒にいるだけで、それだけで十分なんじゃないかって……明日にでも死んじゃうかもしれないんだから」
「随分と辛気臭い顔だな」
「……すいません」
午後の授業終わり、俺はその足で烏丸さんの部屋に来ている。自分から来たくて来た訳ではない。烏丸さんに『ちょっと話がある』と半ば無理矢理連れてこられたのだ。
「別に謝ることじゃない。お前はすぐに謝る。謝罪が趣味なのか?」
「…………」
「黙秘もそうだったな。まあ自分を護るためにはそこそこ使える趣味ではあるが」
「…自分の殻に閉じ籠るなって言いたいんですか?」
「いや違う。閉じ籠りたきゃ好きにすればいいさ。世の中はむしろお前みたいな奴の方がよっぽど多い。特に今はこんな時代だ。普通のことだよ、普通の」
「それ褒めてるんですか…?」
「そのつもりだ。一応な」
足を組みながら椅子に背を預け、何をするでもなくただひたすらにこちらを見つめてくる。目を合わせたくもないが目を逸らし続けるのもそれはそれでやりづらい。
俺は寝転がれるほどの大きさのソファーに座ってるが居心地の悪さのせいか座ってる気がしないし落ち着かない。
「あの…私に話があるんじゃ…」
「ああ、あるな」
「じゃあその話って…」
「では単刀直入に聞く。上里樹、お前はどこから来た?」
一瞬、何が起こったのか俺にはわからなかった。
でもすぐにわかる。何も起きちゃいない、ただ一言烏丸さんは俺に質問をしただけ。
「どこ…って……」
でも、その質問はあり得ない質問で
「そうだな。例えば未来、とかか?」
そんな本来なら荒唐無稽な例え話にしかすぎない言葉が刃物のように俺の胸に突き刺さって痛い。
「…………変なこと…言わないでください」
「未来で勇者としてバーテックスと戦っていたが、その戦いの只中でこの過去の時代に来てしまい勇者に変身することもできなくなってしまった」
「……だから」
「とはいえそんな話他人にできるわけもなく色々と誤魔化しながやここまでやってきた」
「…私はそんな」
「誰かに話したところで帰る手段が見つかることもないだろうからな。話したくもないのも当然だ」
「もうやめてくださいっ…!」
俺は思わず立ち上がって低く叫ぶ。
「あなたに俺の何が……っ何が…!」
「お前感情が高ぶると一人称が変わるのか」
「烏丸さんみたいな人にはわからない!何もわかってないくせにっ!」
「そうだな。所詮今話したことは全部証拠の一つもないただの妄想だ」
烏丸さんは表情一つ変えはしない。こちらの気持ちの高ぶりに少したりとも反応を示さない。俺だけが拳を握りしめている。
「一つ追加で言うとしたら私はこの妄想の話をここ以外でするつもりはない。ただお前の反応が面白いかもと思ってこうやって話してるだけだからな」
「………っ」
俺は握りしめていた拳を解いてゆっくり座り直した。全身に巡っていた力が抜けてどこかふわふわした感覚だけが残っている。
(俺……安心したのか……)
ただでさえ定まっていないところに立っているこの時代における自分という存在を根本から壊しかねない烏丸さんの
仮に烏丸さんが大赦の神官や巫女、そして勇者のみんなにこのことを話したら……誰もが馬鹿げた妄想だと信じないだろうか。
大多数はそうだと思う。でもその中の一人でも烏丸さんの言葉に耳を傾ける人がいたら…
「樹を見てると懐かしい知り合いを思い出す」
「………………」
烏丸さんは椅子から立って本棚を物色し始めた。そして目当ての本をすぐに見つけたようだった。
「これ、貸してやる」
そう言って烏丸さんは一冊の絵本を差し出す。
「なんです…これ」
「オスカー・ワイルドの『幸福の王子』の絵本だ。今言った懐かしい知り合いが描いた」
「…名前だけは聞いたことありますけど」
「ということは読んだことはなかったか。ならちょうどいい」
「……大切なものだったりするんじゃないですか…?」
「まあな、だから読んだら返してくれ」
「…その人は…友達なんですか?」
「どうかな。向こうはそうは思ってなさそうだが」
「………その人のこと、好きですか?」
「———そいつの生き方は嫌いだな。だがその生き方をひたすら貫き通そうとするそいつ自身のことは気に入ってる」
「…よくわかんないです」
「普通は嫌いだが、普通に生きるために必死になれるような奴は好きってことさ」
「もっとわかんないですよ………烏丸さんは変な人だし嫌な大人の人です」
「自分がクズ人間だって自覚はあるよ」
烏丸さんから差し出された絵本の表紙を改めて見ると、そこには全身金の彫像の王子と一羽の燕が可愛らしいタッチで描かれている。
「でもこの本は有難く読ませてもらおうと思います………それからこれ」
携帯を取り出して写真のアプリを開き、目的の写真を烏丸さんに見せる。
たった一枚だけ撮った友奈ちゃんとの写真。この絵本のタイトルのように『幸福』を全身で表現しているかのような友奈ちゃんの姿を烏丸さんは黙ってまじまじと見つめた後、椅子に座り直した。
「友奈ちゃんと約束したので。この写真烏丸さんに見せるって」
「あいつは、写真とかは撮りたがらない性格だと思ったがな」
「これ一枚しか撮ってないです。一枚で伝わるからって」
「そうか、友奈らしい。相変わらず私には理解できない奴だが———なるほど、確かに成長してるみたいだ。前に会った時はもっとガキの見た目をしてた」
「ガキじゃなくて女の子ですよ」
「そのまま———せいぜい長生きすればいいが、私には友奈が早死にする気しかしない」
「…ひどいこと言いますね」
「そうなる前に友奈にもその絵本見せてやってくれ。たぶんあいつも読んだことない」
「いいですけど…」
「私と友奈の共通の知人が描いたと言えば伝わるよ。少しは自分の在り方を考え直すかもしれん———あの死に急ぎバカめ」
烏丸さんは吐き捨てるようにそう言って
「さぁもう帰っていいぞ。手間をとらせたな」
と、一方的に話を終わらせた。
その吐き捨てた感情の裏あるいは奥に何があるのか誰がいるのか大赦に滞在する間に少しはわかるようになるかもしれない。この時の俺はそう思った。
でも、そうはならなかった。
勇者たちが予定よりもずっと早く四国に帰還したからだ。
次はおそらく勇者側の話をちょっと書くことになると思います。誰目線での話を書こうか色々考えてはいますが、なるべく早く投稿できるように自分を信じて。
またどうかお願いします。