冬の寒さが落ち着きを見せ、春の暖かさが戻り、もう冬服もしまっちゃわなきゃなぁーという季節。
なんだかんだありつつも(クリスマスのご馳走がケーキとチキン…じゃなくてケーキとうどんだったり年越しを迎えるのがうどんだったり、お姉ちゃんオススメのうどん屋さんが安くて早くてうまかったり)
犬吠埼樹として迎える二度目の春を迎え二年生になった俺は、去年できなかったお花見を家族でしに来ていた。
「んーーーうまいっ!!」
「相変わらずよく食べるね…お姉ちゃん」
満開に咲いた桜のすぐ近くでレジャーシートを広げてお弁当やら飲み物やらを広げる。お花見というのもあってかお弁当はなかなか豪華で驚いた。(嬉しい)
あと卵焼きが甘いのは樹的にポイント高いよ!
「風、あんまりがっつくと喉に詰まらすわよ」
「へーきへーきっ……んぐっ?!」
あーあー言わんこっちゃない。
「お姉ちゃんお茶飲んでお茶」
紙コップに注がれた緑茶をお姉ちゃんに手渡す。緑茶はいいよね緑茶は。
ごくごくごくごく…
(飲み方おじさんみたいだよ、お姉ちゃん…)
「っはぁ…!はぁはぁ……助かったわ樹…」
「いいけど……気をつけてね?」
「あはは…ごめんね」
そんなこんながありつつも桜の下穏やかに食事は進み
「お父さん酔ってる?」
「…………」
「お父さん?」
「…………」
「…大丈夫?」
「…………あぁ」
表情ではわかりにくいけど速攻で酔っ払うお父さんや
「樹、あなたまたちょっと大きくなったわね」
「それは嬉しいけど……お母さん飲みすぎじゃない…?」
「何言ってのこんぐらいで。まだ日本酒も開けてないのに」
「缶ビールだけじゃなかったんだ…あとお父さんもうダメそうだけど」
「あーーあの人は昔から弱いからねぇ」
「缶ビールをそんなポンポン飲んでて次にそんな瓶の日本酒飲もうとするお母さんが強いだけだと思う」
お父さんとは真逆のお酒にめっぽう強いお母さん
「骨つき鳥はやっぱり『ひな』が一番ね〜」
「えー私は『おや』の方がおいしいと思うけどなー」
「いくら可愛い樹の言うことでもそれは聞き捨てならないわねっ!いい樹?ふっくらした柔らかさに食べやすさそして勢いよくかぶりつける若鶏の『ひな』が一番よ!!」
「歯ごたえと噛むほどに滲み出る味の深さ、骨つき鳥の本当の美味しさは親鳥を使った『おや』にあるんだよお姉ちゃん!!」
正直言うとどっちも美味しいし好きだけど、某きのことたけのこだって散々争って割には別にみんなどっちもおいしいと思ってるでしょ?あれはどちらかといえばってこっちってだけで。
ちなみにたけのこの方がおいしいのは当たり前だよね?
てな感じで最終的にきのこ、たけのこ論争に発展したりした。
食事もそこそこにお姉ちゃんに遊びに誘われた俺は酔いで頭がポーッとしているお父さんと酔いで気分がハイになってるお母さんを尻目に
フリスビーやバトミントンに興じた。
ちなみに大体負けた。悔しいっす。
お姉ちゃん運動神経いいんだもん。(いじけてる)
そして何回か目の勝負をしている時にバトミントンの羽があらぬ方向に飛んで行ってしまった。
あ、犯人は俺です。
「お姉ーちゃんー羽取ってくるよー」
「はーい。気をつけてね〜」
「うーーん」
さて早く羽を取ってお姉ちゃんに対する作戦を考えなければ………なんて思っていたら思わぬ障害が待っていた。
「……………」
…うわぁ……おじさんというよりおじいちゃん…?が居る。
居るというか釣りしてる。
やだあぁ話しかけるの…かといってお姉ちゃんに今更代わりに取ってもらうのもあれだし…
あ…
おじいちゃんが羽の存在に気づいたのか顔の向きを変えた。そのまま羽を取りつつこちらを見てくる。
「あのぉ……えっと…」
「これは」
キリッと目を細めてこちらをさらに凝視するおじいちゃん、思わず冷や汗が出てくる思いがした。まだ春なのに。
「お嬢ちゃんのかい?」
「え・・・あ…そうです…」
「ふむ」
「あ、だ…大丈夫ですよ。取りに行きますから…」
おじいちゃんはたぶんわざわざ羽を取って親のところに持ってきてくれようとしたところを遮る。
多少ビビりながらちょこちょこと近づいていく。歩幅狭いんだよね、うん。
「花見か?」
羽を回収しつつさてもうさっさと戻ってしまおうとしたところで一声かけられる。
「は、ハイ」
語尾の音が上がったのはバレてないでほしいなって。
「あれは友達か?」
「えっ……あ」
なんのことかと思い振り返ってみる。
「おーい、どうした樹ー」
小走りでお姉ちゃんがこちらに向かってきていた。てか足早いね。スポーツテスト男子にも負けないぐらいだったって自慢してたもんね。
「あの、姉です…はい」
「なるほど、元気でいいな」
「ははっ、ですね」
…今普通に返事できてた…すごい…。
「こんにちは〜」
お姉ちゃんが合流した。開口一番おじいちゃんへの挨拶を忘れないあたりはさすがだ。
「こんにちは。––この子のお姉ちゃんだってな」
「そうですそうです。この子が樹でアタシが風って言います!」
「樹と風…いい名前じゃないか」
「えへへ〜ありがとうございます!」
コミュ力おばけめ。(血涙)
「結構釣れたりしますか?」
「それなりだな。ほれ」
素っ気なくバケツを差し出すおじいちゃん。お姉ちゃんと二人して中を覗き込んでみる。
「「おぉ〜」」
中にはそれなりの数のちっちゃい魚?みたいなちょっと顔がおっかないのがスイスイと泳いでいた。
「これなんですか?」
「ハゼだ」
「ハゼ!食べれるんですか?」
「うまいぞ、天ぷらとか唐揚げがいいな」
「へぇ〜〜」
コミュ力おばけめ(血涙その二)
てかこいつら食べれるんだ。……ふぅん〜〜
「なんか可愛いですね」
え?……え?
「わかるか?」
「なんか顔がブニョってしてて可愛いです」
「どうだ、やってみるか?」
「やってみたいです!!」
「よし」
…俺もやってみたいなぁ…
「お前さんもどうだ?」
「…!」
「楽しいぞ、なかなかな」
「はっはい。やってみたいです…!」
「よし」
そんなわけでおじいちゃんは急遽俺とお姉ちゃん二人分の釣竿と餌のセッティングの仕方そして簡単な釣り方の説明をしてくれるとのことだった。
「「ギャーーー!?!?」」
セッティングの仕方を説明してくれるのは本当にありがたいです。
でもその虫?みたいなのは絶対ダメ!!
思わずお姉ちゃんと抱き合う。でもお姉ちゃん流石に痛い痛い痛い!
跡できるから!
「ははっ、やっぱりイソメはダメか?」
いや楽しそうに笑わんで。あとその地球外生物こっち持ってこないで!!!
「ほら、自分でつけてみろ」
「「絶対イヤッ!!」」
「冗談だよ、つけてやるから安心しろ」
「「あぁ…キモいのが針に刺さってウニョウニョ…」」
お姉ちゃんと苦手なものを初めて共有できた気がしたのだった。
そしていざ釣りへ
「イェーイ!六匹め〜」
「…………」
お姉ちゃんと何か共有できるものがあってちょっと嬉しいって思ってたところで差を見せられた気分…
「釣れないか?」
みかねた様子だったのかおじいちゃんが声をかけてくれる。さっきよりも少し柔らかい表情になったわじゃないかなぁーって思ったりも。
「あ…む、難しいですね」
「そんなもんだ。お前さんの姉さんは筋がいいからな。初心者にしてはよく釣れてる方だよ、あれは」
「さすがお姉ちゃんだなぁ…」
「お!この感じは?」
七匹めが取れそうみたいだった。
「竿、見てみろ」
「えっ?」
お姉ちゃんの方に気を取られてたからか、竿がピクピクっと反応を示していることに気がつくのが遅れた。
「え!?何?何!?グンッって来た!!」
「大丈夫だ、落ち着け」
「これ魚?ハゼ?強いよ!?」
「お前さんはおっちょこちょいだなぁ」
落ち着け落ち着け!そーっとそーっと……えいっ!
感覚的にここだ!っと思ったタイミングで竿をパッと引く。
「ふわーっっ!」
「釣れたな」
記念すべき人生初ハゼだった。…ハゼはよくあんなの(イソメ)食べれるね。
「「ありがとうございました!!」」
「二人とも初めてでそれだけできれば十分以上だよ。釣ったやつは美味しく食べてやれ」
「「はい!!」」
通りすがりの釣りおじいちゃんに二人して手を振る。おじいちゃんも最後に少し振り返してくれた。
「儂はちょくちょくここに釣りに来る。だからまた会えるかもな」
おじいちゃんはそんなことを去り際に言っていた。
イソメは衝撃の気持ち悪さだったけど……またやりたいなって思った。
「またやりたいね樹!」
「うん!」
お姉ちゃんも同じ気持ちで嬉しかった。
そのあと釣ったハゼは家でフライに。
あんなにあったのにアタマとワタ取っちゃうと結構少なくなっちゃうんだなぁってどこか不思議に思ったりもした。
あとお母さんがハゼを捌いたら中から地球外生命体がっ!って騒いでて思わず笑っちゃった。結局お父さんが頑張ってくれましたとさ。
身がふわっと柔らかくて美味しかったです。
ゆゆゆいって今後どうなってくんだろう?(素朴な疑問)