見渡す限りの敵に囲まれている。別段俺の脅威となる数じゃないが、如何せん今は状況が悪かった。
「何だ、何が起きた! どうしてこれほどの魔物が……。おい、そこの傭兵。どういう事か説明しろ!!」
「知らんね。気付いたらこうなっていた。乱交パーティの真っ最中だったんじゃないか」
「ふざけるんじゃない。大方、警戒もせずにさぼっていたのだろう。これだから下賤な連中の手を借りたくなかったのだ!!」
「怒鳴るならお宅の部下に頼みますよ。進行ルートを決めたのはあんたらだ。俺らは荒事専門と契約書にもある。それよりも、内輪揉めしてる場合じゃなさそうだぜ?」
「なん―――きゃぁ!?」
凛々しい女隊長殿の真横を何かが掠めた。飛行タイプの一匹が高速突撃を仕掛けて来たらしい。
「随分と可愛らしいお声な事で」
「―――っ」
げらげらと笑ってやると、尻もちをついた女は身を震わせる。次いで、周りの傭兵連中も噴出していた。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ。さっさと仕事するわよ」
「何だよレミィ。お前もこの手の奴は嫌いだったじゃないか。少しはガス抜きしといた方がいいんじゃないの」
「お馬鹿。今回はギルド結成初の依頼なのよ。出足から躓いたんじゃ、それこそ良い笑い物だわ。バスター、これは本来なら長である貴方のやるべき事でしょ」
しまったな。真面目君がいたのを忘れてた。こりゃあ、後で説教コースだわ。
ちっちゃい体躯を怒らせる(一部分を除く)勇ましい女はレミィと言う。本名はやたらに長ったらしかったので忘れたが、まあこれで通じているからどうでもいいや。
「おいマスターさんよ。痴話喧嘩はそこまでにしとけ。向こうもそろそろ限界みたいだぜ」
「ああ? 本当だ。ほんじゃまぁ、そろそろ戦るかー……。よし、聞いた通り仕事の時間だ。他の護衛騎士はどうでも良いが、王女様だけは確実に守る様に。てめぇら、しっかり稼いで来いよ」
適当に号令を掛けると、返事も同じくやる気に欠けた応だった。何とも締まらないが、寄せ集めの傭兵に期待するだけ無駄だ。魔物の注意を引いてくれるだけで恩の字か。
「という訳で取り掛からせて貰いますわ。あくまで警護対象は王女殿下だけですので、自分の面倒はちゃんと見ておいて下さいよ」
「貴様に言われるまでもないわ! フィーリス様の御身は我々が守る。傭兵共はさっさと敵を駆逐せよ!! ジリエラ、殿下の様子は如何か!」
俺が差し伸べてやった手を払い、女隊長はヒスりながら馬車へ駆けて行く。何と言うか、もう少し愛想を良くしても罰は当たらんと思うけどなぁ。
「あらら、振られちゃったわねぇ。なんなら慰めてあげましょうか?」
「ベットの上なら大歓迎だけど」
「あ、それなら俺も混ぜて欲しいっす。最近女日照りで溜まっちゃって」
ノリの良い調子で会話に混ざる声。
振り返った先には、掌でナイフを踊らせる金髪の野郎がいる。確か名はフレッドだったかな。
「おいす。しかしフレッドよ、腰を振るのも良いが、ノルマをこなさないと宿代以前に夜飯も厳しいんじゃないか?」
「マスター、それの心配はご無用っす。もう小鬼を5匹と魔鳥を3匹狩っときました。この辺り、大分静かになってるでしょ? 俺ってば仕事が早いの何のって」
「下の方も?」
「そそそそ、そんな訳ないじゃないっすか! 俺のスーパーテクニックで鳴いた女が故郷にはごまんと……」
この手の話を追及するとやけに焦る男なのだった。
しかしその真偽を追及する前に、隣の気配が減っている事に気付く。
「お、らぁあああああああ!!」
『………』
俺達から100メートル程離れた地点で怒声と轟音が吹っ飛んで来る。
150に届くかという背丈の女が、大鬼(オーガ)の群れを薙ぎ倒している様に二の句が継げない男達は何を思うか。
「あれ、鳴かせるの?」
「別の意味で涙が出そうっすね。赤い色の」
局地的な暴風を発生させているあいつこそ、鬼じゃないのか。俺とフレッドは無意識に股間を押さえていた。