「はぁ…」
機動六課の病室の前で、ティアナは椅子に腰を掛けてため息をつく。
あのスコルピオが、死んだ自分の兄、ティーダだったのだ。
それで今ティーダが目を覚まして、スバルやなのは、はやて、右京が話を聞いている。
その際、DNA鑑定も、魔導師のティーダにしかわからない質問などして、間違いなくティーダ・ランスターであることが証明された。
ちなみに特典が封印されたことによって、もう更正することもできないようになっていた。
本来ならば、当事者である自分も聞くべきなのだろうが、今は身内と話をするのは酷だろうと、なのはたちの配慮として席を外させてもらっている。
それは良かったと、ティアナは思っている。
もしあのまま話を聞いていたら、自分はどんな顔をして、兄と話をすればいいのわからなくなるからだ。
それに、ティーダは自分が幼い時に死んだのだ。
つまり、この世界では死人だ。
ティアナは今でも覚えている、ティーダの死を、葬式も、遺体が墓に葬られる瞬間も。
だからわかる、ティーダは生き返ったのだと。
それはとても嬉しかった。
だがそれでも素直に喜べなかったのだ。
そんな時だった。
「ティアナさん?」
「かこさん…」
通りかかったかこは、心配そうな目でティアナに話しかける。
「あの転生者だった人、ティアナさんのお兄さんだったんですね」
「そうなんです。
でも、やっぱり素直には喜べなくて…」
「それはどうして、ですか?」
「…」
「す、すみません!
やっぱりそういうのは、あまり聞くべきではないですよね…」
「いえ良いんです。
ただ…」
ティアナが俯きながら話した。
「…私は、転生者としてですが、兄さんが生き返ってくれたのはとても嬉んです。
でも、それと同時に、本当にこれで良かったのかって、思うことがあるんです」
「…」
「かこさんもわかってるとは思いますが、このセイザブラスターには封印能力があります。
それを知って、私は、スコルピオの正体を知りたくて、この能力を使ったんです。
けど、それが、兄さんの命を弄んでるんじゃないかって…!」
「そ、そんな!
待ってくださいよティアナさん!
そんなの、想像でしかないじゃないですか!」
「想像がついただけでも、私には恐ろしくもあるんですよ…!
もっと早い段階で気付いていれば、私はこれ以上兄さんを苦しませないためにも、楽になって欲しいために、更生もできたかもしれないのに」
「ティアナさん…」
ティアナの言ってることに、かこは反論できない。
ティアナにとっても、なのはたち管理局の職員にとっても、ティーダは死んだ人間なんだ。
特典が暴走していたティーダを、これ以上苦しませないためにも、更正する形で消し去ってしまえば、ティーダにとっても、ティアナにとっても、どれだけ楽だったのだろう。
場合によっては、ティーダがこの先上層部に連れていかれて、拷問されるか敵対するジャークマターの転生者として実験動物みたいな扱いを受けるかもしれない。
だから、ティアナからすれば特典を封印するという行為は、死んだ兄の命を弄んでると、そう思ってしまったのだ。
だが、ティアナにはもう一つ、理由があった。
その時だった。
「ティア」
「っ!
スバル、何よ」
病室から出て来たスバルに、ティアナは驚いてしまう。
「…ティーダさんが、どうしてもティアに会いたいって。
一目でも、会ってあげても、良いんじゃないかな?」
「…わかったわよ」
「ティアナさん」
「…?」
「無理は、しないでくださいね」
「…」
黙って頷き、ティアナはティーダのいる病室に入っていった。
「…」
病室に入ると、ベッドを囲むように、なのはとはやて、右京が立っていた。
そしてその中央にはティーダが上半身を起こした状態でティアナを見ていた。
その顔は少し弱弱しながら、優し気に微笑んでいた。
「…兄さん」
「やっぱり、君だったんだね、ティアナ」
「え?」
「実は彼、特典が暴走してる中で、あなたの声が聞こえたそうでしてねぇ。
それで、あなたにお礼を言いたいそうなんですよ」
「…!」
「それにな、ティアナ。
ティーダさんは魔導士としての実績と性格のこともあるから、今回のことも踏まえても、上からは何も悪いことはされへんと思うねん」
「そう、ですか…」
二人の言葉がティアナに突き刺さる。
先ほどまで想像していた悪いことが、晴れていった気がした。
だが、それでもティアナにすれば、胸が痛むことでもあるのだ。
「ティアナ」
「…!」
「助けてくれて、ありがとう」
「なっ!」
ティーダの言葉が、ティアナの心に突き刺さる。
良いこと言ってるはずなのに、ティアナにすれば、それどころではなかった。
嬉しいはずなのに、兄が生き返ってくれて嬉しいはずなのに。
どうしようもなく悲しくなってきたのだ。
「や、やめてよ…っ!
そんなこと言うの…!」
「ティアナ?」
ティーダもその場にいるなのはたちも、ティアナの異変に気付いた。
ティアナは頭を押さえながらふるふると泣いていた。
「私は、兄さんに生き返ってくれて、嬉しかった…!
でも、嬉しいのにっ、死んだ兄さんのために今まで頑張ってきたのに、兄さんが目の前にいたら、私は、何のために魔導士になったの…!?」
「ティアナ!」
ティアナは泣きながら病室を出ていき、なのはたちも引き留めようとするが、すでにいなくなっていた。
外にいたかことスバルも、すぐに追いかけたのか、複数の足音が外から聞こえた。
「…どうやら、彼女も複雑な心境のようですねぇ」
「え?」
「あのね、ティーダさん。
ティアナは実はあなたが亡くなってから…」
そうして、なのはとはやてがティアナのことを、ティーダに話すのであった。
あれからどれくらい走ったのだろうか。
少なくとも、隊舎からしばらく離れたところなのだろう。
追いかけてきたスバルとかこを何とか振り切ったことを確認する。
そして走り疲れたのか、息を荒くしながら壁にもたれ掛かり、ティアナは涙に濡れた目で空を仰いだ。
「もぉ、私にはわからない…!
嬉しいのに、兄さんが生きてて嬉しいのに…!
兄さんが生き返ったら、私は何のために魔導師になったの…!?」
「はぁーあ、斬りてぇなぁ…」
「…!」
声に反応して振り返ると、そこには刀を持った男がいた。
「…あんた、転生者?」
「あ?
そういうお前、ひょっとして凡人のティアナ・ランスターか?」
「…っ!
だったら何よ、私に何のようなの!」
今では気にしなくなっても、今の弱ってる時に凡人と言われて怒りをあらわにするティアナ。
男はそれを面白そうに笑う。
「へへへ、そう怒るなよ、可愛いだけだからよ。
で、お前このミッドチルダでスコルピオの奴を見てないか?」
「だったら何よ。
わたしがそんなこと、簡単に教えるとでも?」
「いや、そうは思っちゃいないさ。
けど俺は今ものすごく何かを斬りたい気分なんだよ、だからさ…」
男はそう言うと、手に持っていた刀を構えて、舌なめずりをする。
「てめぇにはその相手になってもらうぜぁ凡人さんよぉ!!」
「…人が弱ってるのに」
ティアナは震えることでキュータマを回し、セイザブラスターにセットする。
『サソリキュータマ!
セイザチェンジ!!』
「気安く凡人呼ばわりするんじゃないわよ!!
スターチェンジ!!」
ティアナはサソリオレンジに変身し、男に目掛けて攻撃を仕掛けた。
だが、男にはその攻撃は当たらなかった。
いや、当たってるはずなのに、手ごたえがないのだ。
しかも、どんどん男の姿が歪んでいく、それはまさに陽炎。
「うわぁああああああああ!!!!!!」
「おいおい、俺は痛くも痒くもないぞ凡人?
ただただ撃つのが、お前の戦法かよおい」
「黙れぇえええええええ!!!」
ティアナは今度こそ、男の胴体を撃ち抜いた、はずだった。
だが、それは陽炎となって消えた。
「っ!?」
「どこ見てんだよこっちだこのアマ!!」
「え?
きゃあ!!」
真横に先ほどの男が姿を現して、ティアナを肩を斬りつけられる。
「うっ、うぅ…!」
切り口が熱い、まるで炎で切り裂かれたような痛みだ。
「今の攻撃もまとも避けることもできないなんて、お可愛いことだな。
エリートな兄貴だったら、この程度は簡単に捌くことはできたはずなのによぉ!」
「っ!!
うわぁああああああああ!!!!!」
もはやティアナに冷静な判断ができない。
それまでに先ほどのことや、この男が言ってることが、ティアナの心を抉りに行ってるのだ。
「っ!
スバルさん、あれを!」
「ティア!!」
遅れて駆けつけたかことスバルはカメレオングリーンとオオカミブルーに変身してティアナに加勢しようとする。
だがティアナは二人が見えたないのか、陽炎になってる男を撃つためにやたらめたらに撃っている。
「…っ、ティアナさん!」
「ダメ、私たちの声が聞えてない…!」
「がぁあああああああああああああああああ!!!!」
二人はティアナの攻撃で近づけない。
「おいおい、せっかくお仲間さんが来たってのにそれはねぇだろ?
おらよ!」
「がっ!?」
男の攻撃で、ティアナは吹き飛ばされ二人にぶつかる。
「…はっ、スバル、それにかこさん…!?」
「良かった、正気に戻ったんだね!」
「良かったです…!」
二人は喜ぶが、ティアナはそれどころではなくなってしまった。
特に、かこの顔を見た途端にだった。
精神的に不安定になってるせいか一瞬だけだが、幼いころの自身が写ったのだ。
それが、かこと重なるように。
その途端、ティアナがかこの前に立って、キューショットを構えた。
「私は大丈夫だから…!
あなたは下がって!」
「ティアナさん?」
「ティア、どうしたの?」
二人は明らかにティアナの様子がおかしいことを察した。
「ちょ、ティア!
ここは三人で合わせてあの転生者を…」
「うるさい!
私は、私は凡人なんかじゃない!
私は、兄さんの妹だから…、天才のあんたの手を借りずとも!
かこさんを守って見せる!」
「ティアナさん、一体何を…!?」
「ティア、まるで昔に戻ったみたい…」
「クロスファイヤーシュート!!」
二人の声が届いてないのか、ティアナは周りに魔力弾を展開し発射する。
その瞬間だった。
ティアナの体を、刀が貫いたのだ。
「がっ!?」
「ティアナさんっ!!」
「何で、あの技の間合いにあの刀が…!?」
スバルはあるものを見て驚く。
それはティアナの体を貫いている刀を持つ手が、手首から先がないのだ。
それだけじゃない、その周りで、肘、足、腰、胸、首と、男の体のパーツが浮いているのだ。
しかも、そんなバラバラの状態なのに、男は何の痛みもないどころか、見下すように見下ろしていた。
「がっ、がぁうあ…!」
傷が焼かれて、凄まじい痛みにマスクの下で顔が歪む。
二人が呆気に取られてる間に、それを楽しそうに見ていた男は体を元通りにくっつけた後で、ティアナを変身解除させた上で踏むつけて、首元に刀を突きつける。
「…さて、こいつで遊ぶのも飽きたし、お前ら二人にも聞くけどさ。
スコルピオのやつ、知らないか?
あぁ、ちなみにこいつの兄貴でな。
俺んところのご主人、あいつを暴走させた後でここに降下させたわけどな、後で反応がなくなったもんで拾いに来たんだ」
「くっ、ティアを放せ!」
「おっと、少しでも動いてみろ。
この女の首が焼け切れるからな。
お前たちに許されてるのは、スコルピオの居所を吐くだけだ」
言えない、言えるはずがない。
もしそんなことを言えば、今度は隊舎が危ない。
だけど、言わなければ、ティアナの命が危ない。
その時だった。
「たぁ!!」
「ぬっ!?」
何者かが、男を蹴飛ばし、ティアナと距離を取らせる。
「あれは、ストレージデバイス?」
「それに、その顔は…!」
「…にぃ、さん?」
「けっ、やっぱりいたか、スコルピオ!」
そこにいたのは、病室にいたはずのティーダだった。
ティアナも正気を取り戻し、朧気ながら兄の顔を見上げた。
「…」
三人のこの状態を一瞥した後、ティーダはデバイスに指示を送り、強烈な光を発した。
「ここは一度引こう、しっかり捕まって!」
「ぐあっ、待ちやがれスコルピオ!!」
目眩ましをされて男が怯んでる隙に、ティーダは三人を連れてその場を離れた。
ちょっと中途半端になりますが、この辺りで区切らせてもらいます。