それでは、どうぞ。
なのはたちからティアナの話を聞いたティーダは、すぐさま機動六課にあったストレージデバイスを調節して、ティアナたちの元へと駆けつけ、その場から三人を連れて離れた。
「はぁはぁ…、くっ!」
「ティーダさん!?
大丈夫ですか!?」
「平気だよ、少し息を整えれば」
先ほどの場所から離れたところで、ティーダは息を整える。
かこに傷を治してもらってるティアナは、動揺が隠せない。
「ティアナ」
「…っ!?」
まるで、親に怒られる子供のような反応をするティアナ。
それでも、ティーダは話を続ける。
「…なのはさんたちから聞いたよ。
僕が死んだあとの、ティアナのことを」
「…」
「ごめんね」
「…え?」
「僕が死んだばかりに、色々と苦労させて、辛かったよね。
ごめんね、もう少し、君と一緒に生きていたかったのに、早くに死んじゃって」
「そ、そんなっ、謝らないでよ!
私はただ、兄さんが死んで、兄さんをバカにしたやつらを見返したくて、でも私は兄さんのような才能がなくてっ、勝手に周りに当たり散らしてっ!
本当はっ、私が悪いのにっ、お高く止まっちゃってっ、それでっ!
それにさっき、あいつに兄さんと比べられて、悔しくてっ!
かこさんを、昔の自分に勝手にっ、重ねちゃってバカみたいにっ!」
「ティアナさん…」
「ティア…」
癇癪を上げた子供のように、ティアナは自棄になりながら言った。
事実、今言ったようなところは、スバルにもかこにもわかっていた。
特にかこに至っては、もしかするとそう言う気があったのではないかと、密かに思ったくらいだ。
ティアナもかこも共通して、家族を失い、悲しみに明け暮れていた。
違いがあるとすれば、悔しさをバネに立ち上がったか、立ち上がる暇もなく殺されたのか、ということだ。
「良いんだよ、ティアナ」
「え?」
「もう、無理をしなくて良いんだよ。
弱くても強くても、ティアナは僕の自慢の妹で、僕はそんな君の、お兄ちゃんなんだから」
「兄さん…」
「それに、あの戦いで死んだとき、この程度で死んでしまって、ティアナを悲しませた時点で、僕は凡人なんだ。
はは、僕も実力不足だったな…」
「そんな、兄さんは何も悪く…」
「だから、一緒に戦って欲しいんだ」
「え?」
自嘲ぎみに肩を動かしながら、ティアナと、そしてかことスバルに言う。
「実のところ、転生して間もなく暴走させられたから病み上がりでね。
上手く体が動かせてないんだ」
「…」
それを聞いて、ティアナは考えるように黙り込む。
「だから、あの転生者を倒すにも、一緒に戦って欲しいんだ。
君たちも、一緒に戦ってくれるかな?」
「それは、もちろんです!」
「私も良いですけど、ティアナが…」
「…はぁ、しょうがないな兄さんは」
「ティアナ?」
先ほど黙り込んでいたティアナが、まるで吹っ切れたかのようにため息をつき、立ち上がった。
そこに先ほどまでの精神的な不安定さも、暗い表情もない。
まるでどうしようもない兄に呆れながらも、世話を焼こうとする妹のそれだった。
「そんなに言うんだったら、私が手伝ってあげる。
兄さんこそ、足を引っ張らないでよね?」
「ティアナさん…!」
「ティア、もう大丈夫なんだね!」
「待たせたわね二人とも。
…それとかこさん、ごめんなさい。
あなたのことを、幼いころの私と重ねてしまって…」
「いえ、気にしないでください!
でも、そういうことでしたら、後で少し、お話しませんか?」
「もちろん!」
「うん、これで決まりだね。
…さて、問題はあの転生者だ。
あの転生者、完全に僕のことを狙ってきている」
「そう言えば兄さん、さっきスコルピオって言われてたけど、知り合いなの?」
「…いや、おそらくは特典が暴走してた頃の顔見知りだろう。
僕自身が話をしたわけじゃないから面識はないけど…」
一旦区切りをつけて、拳を強く握る、それは怒りだった。
「だけど、僕のことで頭を悩ませたティアナをひどい目に合わせたんだ。
僕は、あいつを許せない…!
それに、あいつが僕のことを狙ってるというのなら、僕は戦う!
このミッドチルダにも、機動六課にも近づけさせてなるものか!!」
「兄さん…」
その瞬間、空から二つの光がティーダに向けて降ってきた。
それはセイザブラスターと、紫と紺の二つのキュータマだった。
「これは…!」
突然降ってきたそれを目にすると、頭の中に使い方が流れ込む。
「…そうか、これを使えってことか!
行こう、ティアナ、皆!」
「えぇ!」
「了解!」
「わかりました!」
「っ!
何ださっきの光は!
へっ、そこにいるってことなんだなスコルピオ!」
刀を振り回しながら探していた男は、空から降ってきた光を頼りに探していた。
すると、目の前にティーダたちが現れた。
「そこまでだ!」
「よっ、さっきはどうして逃げたんだスコルピオ…!?
おい待て、何でてめぇからスコルピオの気配が感じねぇ?
さっきは一瞬だったんで気付かなかったが、どういうことだ?
てめぇティーダ・ランスターなんだろ、特典はどうしたんだ!?」
「さてね、君には関係のないことさ。
それに、僕の大事な妹をあんな目に合わせたんだ。
君をここで倒す。
…行くよ!」
『マワスライド!』
『イッカクジュウ サソリ オオカミ カメレオンキュータマ!
セイザチェンジ』
『スターチェンジ!!』
三人はそれぞれのキュータマをセットして変身する。
一方でティーダは二つの内の紫のキュータマ、イッカクジュウキュータマをセイザブラスターにセットし、トリガーを引く。
すると、イッカクジュウ、いやユニコーンの顔を模したバイザーと角の装飾がついたヘルメットがティーダの顔を覆い、肩には馬を思わせる毛皮が手足には蹄を思わせる鎧が装備されて、全体的に紫の鎧を身に纏った。
「ナイトスター ユニコーンバイオレット!」
「ポイズンスター サソリオレンジ!」
「ビーストスター オオカミブルー!」
「シノビスター カメレオングリーン!」
「究極の救世主!」
『宇宙戦隊 キュウレンジャー!!』
「…お前は僕のこと、スコルピオとは面識があるみたいだけど、あいにく僕は初対面なんでね。
ここで倒させてもらう!」
「ちっ、じゃあてめぇはここで死ねや!!
はぁー、斬りてぇなおい!」
ティーダとスバルが前に出て、ティアナとかこが後ろから攻撃する。
『キュークロー!』
『キュースピア!』
スバルとティーダは武器を構えて男に肉薄する。
男も負けじと刀で二人に対抗する。
だが、男はあることを思い付いたのか、すぐ二人から離れ、刀を地面に突き立てて水分を蒸発させる。
「なっ!」
「こ、これはさっきの!」
周りの煙がティーダたちを覆い、景色を歪めていく。
「これは、陽炎!?
それにさっきのあの刀、もしかしてトリコのバーナーナイフ!?」
「さすがにわかっちまうか!
まぁ、トリコの世界では専ら人とか食材斬るのに使われてたが、やろうと思えば陽炎作ることもできるんだよ!」
「くっ、当たってるはずなのに、手応えがない!」
「近くにいるはずなのに、一体どこから!」
「…それでしたら、これを!」
『センサーキュータマ!
セイザアタック!!』
かこはセンサーキュータマを使い、周りの反応を探る。
「…っ!
ティーダさん、後ろです!
後ろのすぐそこに!」
「…!」
「へっ、今さら気付いたところで遅いんだよ!」
「兄さん、危ない!!」
「ぐっ!?」
ティーダが攻撃されそうになったところを、ティアナがキューショットで男の肩を撃ち抜き、動きを怯ませて、周りの陽炎が解除される。
「くっ、凡人のくせによくも!」
「はっ、だから何よ!
その凡人の攻撃喰らって、能力を解除しちゃうなんて、あんたの方が凡人じゃない!」
「こ、このクソアマ!!」
「私のほうも、忘れないでよ!」
「っ!」
スバルのキュークローが男を切り裂いた。
手応えはある、今度こそ攻撃が当たったのだ。
しかし、それは当たったからこそ、だった。
「なーんてな!」
「っ!?」
切り裂いた箇所から、男の体が切り離され、スバルの周りに浮いているのだ。
「これは、さっきの!」
「まさか、バラバラの実!?」
「ハハハハっ、残念だったな!
てめぇは俺の体を切り裂いて勝ったつもりでいたかもだが、俺には効かねぇんだよ!」
「それなら…、マッハキャリバー!」
スバルは即座にマッハキャリバーのリボルバーナックルを装着し、殴ろうとするが今度は当たる直前に分裂させて
回避した。
「はっ、のろいんだよ!」
「がぁっ!」
「スバル、くっ!」
スバルの元へと駆け寄ろうとしたティーダに、男の刀を持つ手や他の体のパーツが襲い掛かり、キュースピアで捌くのが精いっぱいだった。
「このままじゃ兄さんとスバルが!」
「…ティアナさん」
かこはティアナの手を握りながら話しかける。
それはまるで、狙いを定めてさせてるようにも思えた。
「か、かこさん!?
一体何を!」
「あの転生者は、バラバラの実を使う転生者です。
あぁやって、自らの体をバラバラにすることで、二人を攪乱しています。
ですが、あの浮いてる体を見て、何か足りない物はありませんか?」
「かこさん、だから何を言って…!」
ティアナは困惑しかけてるが、男の体のパーツで浮いてるのを見て、あることを察した。
それを見たかこは、今度はティアナの、キューショットを持つ手に添えるように触れた。
「そうです、ですから撃ってください。
今のうちに、あの場所を!」
「…!」
ティアナは撃ち抜いた。
その瞬間だった。
「がっ!?
まさか…!?」
男は苦悶の表情である場所を見た。
それはバラバラになった時、どうしても起点になる箇所。
つまり、地面についてる足だ。
その肩足の甲を、撃ち抜かれたのだ。
「こ、このアマ、俺の足を!
だが、その程度で俺がこれを解除するとでも…!?」
男は次に、ある異変に気付いた。
足を中心に、バラバラになった体が引き寄せられているのだ。
「ま、まさか、戻されてる!?
まさか、お前がさっき撃ったのは…!?」
「そうです、ティアナさんに撃ってもらったのは、悪魔の実の能力者共通の弱点、海楼石です!
さっきティアナさんに触れたときに、キューショットの中で再現しました!」
「これであんたは、バラバラになることができないってことよ!
兄さん、スバル、今よ!」
「あとは任せてくれ、ティアナ、かこさん!」
「ありがとう二人とも!」
「あのガキとアマが!
捕まえて裸にひん剥いてやるぜ!!」
「残念だけど、お前の相手は僕たちだ!」
「女の子に向かって、随分と失礼なことを言ってくれるね!」
男の前に、ティーダとスバルが割って入る。
男は先ほど足を撃たれた痛みで陽炎を作ることが出来ず、その足に海楼石を埋め込まれたため、バラバラになることが出来ない。
「このっ!」
「はっ!」
スバルが男の攻撃を弾き、蹴り飛ばす。
男はその蹴り飛ばされた勢いを利用して、刀でティーダを切り裂こうと振り回した。
「…!」
「まずはてめぇからだスコルピオ!
勝った、死ねぇ!!」
「ふっ!」
ティーダは武器を持っていない手で、刀の側面を弾き、その反動を利用して、キュースピアで男の体を切り裂いた。
手が籠手で覆われてるため、ダメージはない。
「ぐはぁ!?
ぐっ、この!!」
男は踏ん張り、もう一度切りつけようと刀を振り回す。
「はぁあ!!」
『ユニコーンキュースピア!』
ティーダはキュースピアに意識を集中させると、キュースピアの先端が炎に覆われ、ユニコーンの角を思わせる螺旋状の角へと変化し、ユニコーンキュースピアへと変化する。
「変化したからってどうってことも…!」
「それはどうかな?」
「何…!?」
ティーダがユニコーンキュースピアで男の刀と攻撃すると、刀が溶けるかのようにへし折れて、そのまま男の体を突き穿つ。
「ぐぼぁ!!
あ、熱い!
まさか、俺のバーナーナイフ以上の火力を…!」
「一瞬だけだけどね!
さて、これで終わりだ!!」
ティーダはそう言って、男を投げると、スバルとティアナ、かこがやって来て、それぞれのキューザウェポンにキュータマをセットする。
「皆、行くよ!」
『ギャラクシー!!』
「モノケロスインパクト!!」
「アンタレスインパクト!!」
「ルプスインパクト!!」
「ハミリオンインパクト!!」
毒針や爪、そしてカメレオンの舌を思わせるような曲がる複数のエネルギー弾が発射され、その上から巨大な炎の角型のエネルギー弾が発射され、男に直撃し、そのまま更正された。
「…これで、任務完了ね」
それから無事機動六課の隊舎に戻ってきたティーダたち。
別の部屋でティーダとティアナが面と向かっていた。
ティアナは、改めて兄の顔を見ると、緊張しているようだった。
「…ありがとう、ティアナ。
一緒に戦ってくれて」
「あ、あんなの、朝飯前よ!
私だって、幼いころとは訳が違うんだから!」
「うん、知ってるよ。
本当に強くなって、大きくなったね。
昔は僕が抱き抱えてやっと僕の顔を、見上げずに見れたのに」
「…」
昔のことを言われて恥ずかしかったのか、ティアナは恥ずかしそうに目をそらした。
「ねぇ、兄さん」
「何だい?」
「兄さんもキュウレンジャーになったんだから、これからも私たちと一緒に、戦ってくれるのよね?」
「うん、さっきはやてさんや右京さんからも言ってたからね。
だから、これからはずっと一緒だよ」
「…っ!
兄さん、お兄ちゃん…っ!!」
ティアナは涙を流しながら、ティーダに抱きついた。
「今までっ、寂しかった…っ、ずっとっ頑張ってきたけど、寂しかったよぉ…っ!」
「あーあ、本当に泣き虫なんだから、ティアナは。
でも、ティアナは一人じゃない。
君には、友達がいるんだから」
「うん、うんっ!」
「だからね、もう無理しなくて、良いんだよ。
僕を、仲間を信じよう。
そして一緒に戦おう」
「うん…!」
そのあとも、ティアナはティーダの胸の中で、今まで溜め込んできた物を吐き出すように泣いた。
その傍らで、スバルとかこは、優しく見守っていた。
エリートとか凡人とか関係ない、どこにでもいる二人の兄妹を。
「もう良いんですか、ティアナさん…」
「えぇ、もう大丈夫です。
それで、話って、何ですか?」
いっぱい泣いたあと、ティアナはかこと話をする。
「…ティアナさんが、私のことを、かつてのあなたと重ねてるのは、薄々気付いてたんです」
「…!」
「ご、誤解しないでください!
私とティアナさん、経緯こそは違えど、過去は似てるなってところは、ありましたので」
「…」
「正直なところ、最初私はティアナさんに対して、情報だけですが、苦手だったんです。
気が強くて、何かあれば怒られるのではって、思ってたんです」
「それは…」
「でも、実際に話をして、その印象はなかったんです!
実際はプライドが高くて気が強いところはあるけれど、とても優しい人で、私のこと、気にかけてくれて、親しみやすいなぁって…、だから、その」
「…?」
「私と、友達になって、くれますか…?」
「…!」
少しオドオドしながらも、かこはティアナの目を見て、そう言った。
でも、その目は嘘を言ってるようには見えなかった。
だから、それを聞いたとき、ティアナの中で答えは決まっていた。
「もちろんよ!」
ティアナは、これまでにない笑顔で、そう答えたのであった。
翌日、ティーダはバンたちと顔を合わせて、全員にあることを伝えた。
それが、バンたちにとって、最初に向かう場所になったのだった。