「…」
スバルは遠目で、バンたちの戦いを見ている。
話を聞く限りでは、どうやら自分は操られていたそうだ。
スバルには、操られていた時の記憶が朧気ながら覚えている。
自分の体が、自分の意思で動かせなくなる感覚を覚えて、すごく嫌だった、とても悲しかった。
だけど、今は一番辛い人がいる。
それはアヌビス神に操られてる男だ。
どのくらい前から操られていたか知らないが、きっと自分よりも長い。
男はどんな人なのか、名前すらも知らない。
でも、アヌビス神に操られたせいで、一体どれだけ自分の意思とは無関係に人を斬るなど、やりたくもなかったであろうことを、やらされてきたのだろう。
あの人はどれだけ、心の中で助けを求めたのだろう。
どれだけ涙を流したのだろう。
それは実際にそうなのかは、スバルには知る由もない。
もしかしたら、そんな行動すらも許されていないのかもしれない。
ならば、なおさらあの男の人を助けなければ。
スバルは疲れている体を無理矢理起こして、震える足で立ち上がる。
体が軋む、体が痛む、足元が覚束ない。
まだ全快の状態には戻れていない。
だが、それがどうした。
自分だって痛いのは嫌だ、だけどそれはバンたちも同じだ。
そして何より、操られてる男の人は、もっと痛いのだ。
だったら立ち上がるんだ、助けるために。
この拳は、人を助けるために、守るために使うと決めたのだから。
「…戦うんだ、あいつに操られてるあの人を助けるために!
私は、私たちは、戦うんだっ!!!」
スバルの叫びは空高く響く、そこには強い覚悟が籠められていた。
瞬間、それに応じるように、空からスバルに目掛けてセイザブラスターとキュータマが降ってきた。
セイザブラスターは左腕に装着され、青いキュータマは手の中に収まっている。
「…っ、マワスライド!」
『オオカミキュータマ!
セイザチェンジ!!』
「スターチェンジ!!」
スバルは先ほどの戦いでやり方を見ていたので、すかさずキュータマを回してセイザブラスターに装着、変身する。
するとスバルの体はオオカミを思わせる毛並みのあるスーツを身に纏い、オオカミ型のバイザーの付いたヘルメットを装着した。
しかも両手足の指先から獣の爪が伸びている。
スバルは変身した自分の体を動かす。
先ほどまでの疲労は見られない、力が漲る。
これなら自分はまた、ちゃんと戦える。
さぁ、今こそ立ち向かうんだ、皆で。
「ほらほらどうした!
キュウレンジャーとやらはその程度なのか!?」
「くっ!」
バンたちはアヌビス神の剣捌きに苦戦していた。
しかも先程スバルを操っていたこともあって、もはや隙が見えないほどの剣技だった。
そんなときだった。
「はぁぁぁっ!!」
突然青い影が飛び出して、アヌビス神を蹴飛ばして距離を取らせる。
その青い戦士の姿に見覚えはなかったが、バンたちには、その声に聞き覚えがあった。
「お前、もしかしてスバル、なのか?」
「…お待たせしました、バンさん、皆さん、そしてティア!」
「まさかティアナさんだけでなく、スバルさんまでもキュウレンジャーに変身するなんて…」
「しかも、このスーツ、モフモフするよ?」
「アストルフォさん、気持ちはわかりますが、女の子の体に無闇に触るものじゃないですよ?」
「えぇ?
この間スバル、ティアナの胸を触って揉んでたじゃんか。
ボク、遠目でだったけど、しっかり見えてたんだからね?」
「ぶふぅ!?
ちょっ、何でそんな事知ってるんですか!?」
「えっ、そんな事してたんですか、ティアナさん」
「いや、違うんですよかこさん、私たち、そういう関係じゃ…」
「というかアストルフォお前、そんな具体的に見えたってことは何かで覗きやったのか?」
「違うよ!?」
「でも、アストルフォちゃん、いつも女装してるから、本当に女の子にしか見えないから、言われないと、男の子だって気づかれないよね」
「へっへーん、ボクの女装のクオリティはすごいんだから!」
「いやそれ誇るほどでもないだろ、要はお前男として見られてないってことなんだぞ!?」
「てめぇら、いい加減にしろぉ!!」
「…っ!」
「さっきから俺のこと無視しやがってよ!
良い度胸してるじゃあねぇか!」
自分を無視して話し込んでいるバンたちに腹が立ったのか、アヌビス神は目を血走らせながら叫ぶ。
「もうこうなったら、容赦はしねぇ!
てめぇら全員皆殺しにしてやるぜ…!?」
アヌビス神が刀を構えようとした途端、先ほど正面にいたはずのスバルが背後から羽交い絞めにする。
「いくら剣技がすごいからと言っても、こうしても動かなくすれば、何もできないよね!
ティア、お願い!」
「わかったわ!」
ティアナの尻尾が、アヌビス神に操られてる男の腕を刺した。
すると体が動かなくなっていき、刀を持つ力も緩くなる。
「ぐぉ!?
な、なんだこれ、体が、力が抜ける、刀が、持てなく、なる…!」
「どう、一時的に動きをマヒさせる神経毒よ!
これであんたが操ってる男の体がしばらくの間動かなくなるわよ!」
やがて男の手から、アヌビス神の本体である刀は抜け落ち、それと同時に男は気を失う。
そしてスバルが男を引き剥がした後で、バンたちがセイザブラスターを構えて刀を囲む。
『ギャラクシー!!』
「サンキュー、スバル、ティアナ!
行くぜ!」
『オールスタークラッシュ!!』
5人の強烈な一撃をまともに喰らったアヌビス神の刀は、絶叫しながら粉々に砕け散った。
だが、その残骸から印籠らしきものが浮かび上がり、砕け散った。
『ヒカエオロー!』
すると、巨大化した獣人型のアヌビス神が出現し、手には巨大な刀が握られていた。
「あいつ、ジャークマターを名乗るだけあってキョダインロンを持ってたのか。
…おい、俺たち5人ならあれができるんじゃないか?」
「あれとは…!?
まさか…!」
「そう、そのまさかだ。
セイザブラスターを通してやり方とかもわかるだろ、行くぜ!」
『了解!!』
かこたちは最初何を言ってるのかと思ったが、何かを察して、セイザブラスターを操作する。
『セイザゴー!!』
『シシボイジャー!』
『カメレオンボイジャー!』
『ワシボイジャー!』
『サソリボイジャー!』
『オオカミボイジャー!』
すると、5体もの巨大なボイジャーが召喚され、バンたちの体を覆うように巨大なキュータマ型のコクピットが出現、ボイジャーと接続する。
『セイザドッキング!!』
さらにセイザブラスターを操作することで、バンたちが乗るボイジャーが変形する。
バンの乗るシシボイジャーが胴体になるように変形し、それからかこたちが乗るボイジャーも変形し、シシボイジャーに集まるように合体する。
ワシボイジャーが右腕に、サソリボイジャーが左腕に、オオカミボイジャーが右足に、カメレオンボイジャーが左足になるように合体し、最後にシシボイジャーの頭部が回転することでロボットの頭が出現する。
『キュウレンオー!!』
「これがキュウレンオー…!」
「す、すごい…」
「何これ、キュータマがコクピットになってる!」
「体の各部で私たちが担当するのかな」
「でもこの感じ、色々と組み合わせできそうね…!」
キュウレンオーに合体し終えた5人は驚きを隠せないでいた。
しかし、すぐに切り替えてアヌビス神を見る。
「巨大化しようが、俺はぜぇ~~~~~ったいに負けない!
覚悟しろ、キュウレンジャー!!」
「それはこっちのセリフだぜ!
行くぞ、お前ら!」
『了解!!』
キュウレンオーとアヌビス神が激突する。
アヌビス神の剣捌きを、キュウレンオーの左右のワシボイジャーとサソリボイジャーが弾き返していく。
「ちっ、でかくなっても素早いな!」
「バン隊長、ならば私が!」
かこがそう言うと、左足のカメレオンボイジャーの口から舌が伸びて、アヌビス神の足に絡みつく。
「うおっ!?」
「今だ!」
アヌビス神がバランスを崩した隙を狙って、ワシボイジャーの翼で、サソリボイジャーの尻尾と鋏で切り裂き、突き刺した。
それにより大きく怯んだアヌビス神の腹に目掛けて、右足のオオカミボイジャーが力強いキックで蹴り飛ばした。
「ぐおおおあああああ!!??」
地面に叩き付けられたアヌビス神はフラフラと刀を杖代わりに立ち上がるが、まともに戦える状態ではなかった。
「これでとどめだ!」
とどめと言わんばかりに、バンたちはセイザブラスターを操作して、アヌビス神に向けてトリガーを引いた。
『キュウレンオーメテオブレイク!!』
『スーパーギャラクシー!!』
キュウレンオーの左腕のサソリボイジャーがチャージしているエネルギーを、右腕のワシボイジャーが弓のようにつがえて構えて、強力なエネルギーの矢になって、アヌビス神を射抜いた。
「ぎゃああああ!!?
ジャークマター、バンザーイ!!」
体を貫かれたアヌビス神は、そう言って仰向けに倒れて、爆散し光となって消えた。
「…任務完了!」
「いやぁ、まさかスバルとティアナが変身するなんて思いもしなかったな…」
「そうですよね。
それにしてもティアナさん、初めてキュウレンジャーに変身したのに尻尾とかよく使えましたよね?
すごかったですよ!」
「いやぁ、あれはまるで今まで自分に尻尾がなかったのが不思議に思うぐらい、思い通りに動いたと言いましょうか…」
「私もキュウレンジャーに変身できたのはびっくりだけど、結構スピードが出たな…」
「…何というかそれぞれ変身したときに、別々で能力があるのかな?」
アヌビス神を倒した後、操られていた男を保護し、アヌビス神の被害にあった人たちを全員保護及び治療し終えたバンたち。
スバルたちにも、なぜキュウレンジャーに変身できたのかは知らない。
だが、5人ともまだキュウレンジャーの力を使いこなせていないところがあるので、練習をしなければと改めて思うのであった。
後に右京やはやてやなのはたちに、スバルたちのことを話したらかなり驚かれたのは、別の話である。