フェイト・T・ハラウオンの異世界漂流 或いはどろろanother 作:渋川雅史
短編ですが宜しければお付き合いください
「あかい…とつ…あのひ…あ‥よ…」
「そんな…そんな…!」
…考えばすぐ分かる事だった、タケを初めとするあれだけの数の童を養える稼ぎがある夜の仕事がなんなのかは…二人の雑兵に嬲られながら悲しげ、或いは苦しげに、呟くように歌うミオの姿をどろろは草むらに身を隠しつつ声を殺して見つめる他はない…
「おれや兄貴の食い扶持もああやってミオ姐が!…畜生!…畜生!‥‥!?」
やり場のない怒りに歯を食いしばって呟くどろろだったが、そこで信じられない光景を目の当たりにした…いきなり辺りが明るくなった。何処から?と見上げてみれば金色(こんじき)の光の環が虚空にあり、その上に人影が!その人影が何か長い物を一振りするとこれまた金色の光がミオにむしゃぶりついていた2人に吸い込まれる。彼らは糸の切れた傀儡のように引きつるとミオから離れてぶっ倒れた!…輪の上の人影はまるで鳥が舞い降りるように地面に降り立つとミオに近づいていく…どろろは草むらから飛び出した、夢中でその人影に体当たりする!
「ミオ姐!逃げるんだッ!」
「※〇×!」
いきなり体当たりを喰らって転んだらしいその人影が何か叫んだようだったがかまってなどいられない、あまりのことに呆然としているミオの腕を引っ張ってどろろは走った!
…フェイトは混乱していた。
転移事故でどこともわからない管理外世界に来てしまった、最初に目にした光景は女の子が二人の男に強姦されている(彼女にはそう見えた)現場…とっさに魔法刃(当然非殺傷設定)を打ち込んで2人を女の子から引き剥がし、介抱しようとその子に近づこうとしたらいきなり横から何者かがぶつかってきた。目の前の子に気を取られていて対応できず倒れてしまう、その何者‥子供は『ミオ姐!逃げるんだッ!』(日本語!?)と言って女の子(ミオという名前らしい)の手を引っ張って森の闇の中へ消えて行ってしまった。
『master、大丈夫ですか?』
「うん大丈夫だよバルディッシュ。…私たちはとんでもない世界に来てしまったみたい…」
『救難信号発信継続中、返信あり次第報告します。しかし今は』
「わかってる、一旦この場を離れよう…夜が明けたら周囲の状況を把握してビバークできる場所を探さなくちゃ…」
「はあはあはあ…もう大丈夫、追ってこねえや…」
森の中をどう走ったか、へたり込むどろろとミオ。ここでどろろはミオを引っ張っていた手を慌てて放した…その仕草に少し悲し気に目を伏せつつ着物の乱れを直すミオ…ほんのひと時の沈黙の後、最初に口を開いたのはミオだった。
「…どろろ 私の仕事わかっちゃったんだ?…」
「うん…」
「恥ずかしくなんてないよ、生きる為だもん。でも汚れ仕事なのは分かってる、だからどろろが私の事軽…」
「しねえよっ!」
どろろはミオが驚くほどの大声を出した!そして語る、春をひさぐことだけは絶対にしなかった、それ故に自分を残して死んでいった母親の事を!
「俺だって盗人…どろどろのどろろだよ!だから姐ちゃんの事軽蔑なんてしねえ、できやしねえよ!俺たちみたいなのはそうしなきゃ生きられねえんだ!…生きて戦から、侍どもからいっぱい奪い返してやるんだろ!?姐ちゃんの夢、田んぼを手に入れるその日までよ!」
「…うん、ありがとうどろろ」
「へへへ…さ、帰ろうぜ姐ちゃん、タケ達が心配してらぁ…って…あれは、まさか!?」
「百鬼丸!?」
「おう、坊やに姐さんかい?ちょうどよかった、手を貸しとくれ」
二人は鬼神と半ば相打ち…声は取り戻したが足を取られ、琵琶丸に担がれた百鬼丸に出会う。ミオが帯を解いて百鬼丸の足の血止めをした後、4人は荒れ寺へ向かったのだった。
『気をつけてくださいmaster』
「わかってるよバルディッシュ、以後話は思念通話でね?」
『Yes sir』
‥周辺を飛んでここが中世日本そっくり(そのもの)の世界である事は分かった、救難信号は届いたものの色々な意味で厄介な監理外世界への転移準備には二三日かかる。それまでとにかく雨露のしのげる屋根のある場所を、というワケで近くに見つけた荒れ寺の門をフェイトは魔法で変装―髪の色を変え、服も再構成―してくぐったのだった。
「なんだいあんた?」
そこには体のどこかをなくしている戦災孤児数人(フェイトの胸がズキリと痛んだ)がいた、纏め役らしい片腕のない少年が警戒をあらわに尋ねる、フェイトはあらかじめ準備していた説明を口にした。
「旅の者ですが連れ達とはぐれてしまって…きっと探してくれていると思いますから二三日泊めていただけませんか?多少のお礼はさせてもらいます…」
「ふーん…ちょっと待っててくれ、姉ちゃんに聞いてくる。」
…流石にフェィトはびっくりした。少年が連れてきたのは昨日の少女―ミオだったのだ。どう見ても自分と同じくらいの歳だろうか…そんな娘が、あれは後から思えばどう考えても…認めたくない結論に気を取られていたフェィトは彼女のそばにいる子―どろろの胡散臭げな視線に気付かなかった。どろろは一足飛びにフェイトに近づく!
「くんくん…あーっやっぱり!あんた昨日の夜のっ!?」
耳目のみならず鼻もきくどろろがフェイトを指さして叫び、ミオが真っ青な顔で着物の衿を掴む…
「姉ちゃん、どろろ、知ってるヤツなのか?」
二人の只ならぬ様子にタケがフェイトに向かって身構える!…ここでフェイトを追い出したら皆がどんな目にあわされるか、それ以前に自分の仕事を暴露されたら…ミオは咄嗟に叫んだ
「う、うんそうなの!…実は醍醐の陣で乱暴されかかったところをこの人が助けてくれたんだけど…」
「そうなんだ!その方法ってヤツがあんまり凄くてオレもミオ姐も慌てて逃げちまったんだ…姉ちゃん悪い!」
「ごめんなさい!」
フェイトに頭を下げる二人。嘘は言っていないが全てを話してはいない、その意を汲んだフェイトは努めて穏やかに笑って頷いた。
「ううん気にしないで、私がいきなりあんな手を使ったから驚くのも当然だよ。」
「へ、へえ~…どんな事をしたんだい?」
まだ半信半疑のタケにフェイトは微笑みながら語った…
『‥ああ「管理外世界でのエマージェンシーにおける住人への対応」の講習を受けていて
本!当!に!良かった!』
と思いながら…
「私は旅芸人一座…手妻師の端くれ。だからちょっと幻術(めくらまし)をかけて追い払ったんだ」
「すげえな!?…なあ俺たちにも何か見せてくれよ?」
「ええいいわ」
「ホントか?おーいみんな、こっちに来いよ!」
わくわくと目を輝かせた子供たちが集まってくる…当然のことながら彼らは芝居や大道芸なぞ唯の一度も見たことがない…
「バルディッシュ。」
「Yes. Sir」
…フェイトは人差し指の指先に魔力光を灯すと、そのまま一筆書きで虚空に絵を描いていく…ミオの顔がそこに書き上げられたのを見たタケ達が驚愕の叫びと共にある子は拍手を、ある子は胸を叩き、ある子は足を踏み鳴らした!
「す、すげえ!どうやったらこんな事ができるんだ?」
「それはナイショ、私達の口すぎのタネだもの」
「そ、そっか」
「さあさあ、凄い物を見せてくれた礼を言って。…タケ、これから山に入るんだろ?いつも言っているけど気を付けてね?」
「わかってるよミオ姉。大丈夫さ、醍醐と酒井があそこで睨み合ってるうちは村の連中は山に入ってこねえよ…今のうちにドングリやら山芋やら芝やらかき集められるだけかき集めてくる。」
「うん、お願い。私も夜になったら仕事に行く、今日は酒井の陣だけにするよ」
「それがいいや、それまでゆっくり寝てくれよ?」
「そっちはオレに任せてくれ!」
「頼んだぜどろろ。」
…胸の前で指を組み、山に入っていく子供たちを見送るミオ…その悲し気な、心から心配している事がありありと分かる面差しにフェイトは思わず声をかけた
「あの、そんなに山に入るのって危険なんですか?…そんなに険しい斜面じゃなさそうだけど…熊やマムシが出るとか、」
「?」
フェイトはその質問自体がわからないというミオの表情に更に困惑する、そこへどろろが心底あきれたという表情と口調で声を上げた
「あんたホントにどこから来たんだよ?入会(いりあい)権のない俺たちみたいのが山に入って木の枝一本でも取ってるのを村の連中に見つかったら、取っつかまって村に引っ張って行かれて…簀巻きにされて吊るされるか、袋にされるか、生き埋めにされるか…とにかく殺されるに決まってるじゃねーか!」
「そ、そんな!?」
「その姉さんはそんな事がない所から来たんだろうさ、違うかい?」
いきなりの大人の声…濡れ縁に座っていたどう見ても盲目の琵琶法師(国語の授業で習った…)が自分を真正面から見据え、全てを見透かした様にゆっくりと近づいてくる…どろろがフェイトをにらみながら訪ねた
「坊さん、魂の色は?…どうしたんだい?」
「…いや、正直おどろいてるのさ。姉さん、あんた何者だい?…この姉さんの色はそりゃあ見事な黄金色(こがねいろ)さ…砂金や稲刈り前の田んぼすら敵わない位きらきら光っていて眩しい位だよ。さっきの芸だってありゃ手妻なんかじゃない、あんたの魂の光で書き上げてたじゃないかね?」
「すげえ…じゃああやかしや鬼神じゃないんだな?…やれやれ、安心した。な、姉さんあんたの名前は?」
「フェイト…フェイト・テスタロッサ・ハラウオン」
「ふぇ、ふぇぃと・て…なんだその名前?」
「空に浮かんで…雑兵達に使ったあの力、黄金色の魂…もしかしてあなたは天女様ですか?」
「違う違う、私は唯の魔導士…あ!」
真剣なミオの質問につられて口にしてしまった一言、フェイトは両手で口を塞いだが後の祭りである
「まどうし…って…魔法使い!?」×2
「へえ~…なるほどねぇ~」
琵琶丸が頷き、顔を見合わせたミオとどろろが異口同音に叫ぶ!慌てふためいて頭を下げるフェイト!
「お願いします!このことは他の子達には!…私たちの世界では管理外…魔法のない世界の人に魔法の事を知らせるのは禁じられてるんですっ!」
「なるほどね…」
頷く琵琶丸の横でどろろとミオが今度は真剣な表情で頷きあった。
「ええと、ふぇいと…さん…魔法で怪我が直せますか!?」
先程以上に真剣なミオの問いかけにたたらを踏みながらフェィトは答える
「その…私は治療・回復魔法はあんまり得意じゃなくて…あ、でも外傷‥切傷や裂傷、打撲、骨折なんかの応急手当は標準実装されているし講習もうけているからなんとか…」
「魔法って、何でもできるわけじゃないんだ…」
「ごめんなさい」
「それでもいいや!兄貴をみてやってくれよ!?」
「お願いします!百鬼丸がひどい怪我なの!」
「わかった、私にできる限りの事はやってみる。」
ここまで来ては引き返せないし、二人の様子からしてそのヒャッキマルという男の子は重症らしい…意を決したフェイトはどろろに引っ張られつつ本堂に足を踏み入れたのだった。
当然ながら「水樹奈々」繋がりで思いついたクロスオーバーでございます。
他にも2話こんな「あり得ざる」出会いで始まる短編を企画しておりまして、よろしければ今作同様お付き合い下さい。