通りすがりの探偵さん   作:silverArk.

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Sの罠/絡みつく思い

 

 

高校への初登校。そしてドーパントとの戦闘。望まずして中々に濃いスタートで、音沢市での学生生活を切ってしまった。しかも、人前での変身はなるべく避ける事を決めていたのに即効で破ってしまった。そして、あの少女は今頃、警察病院のベッドで取り調べでも受けている頃だろう。

ともかくそんな最悪な状況へと、図らずとも置かれてしまった俺は現在。

黒のベストにスラックス姿の仕事着で、五人の少女がそれぞれ楽器を鳴らし、音楽を奏でる様子を見学していた。有り体に言ってしまえば、高校生活二日目にしてサボってしまったのである。

しかし、遊んでいる訳ではない。現在の俺は一応仕事中だ。

―以前、音沢市で依頼を受けた事は既に述べた通りである。どうしても、翔太郎さん達の都合が付かずやむ無く俺が受けたのだが、その依頼とは護衛任務であった。

警護対象は一人のアイドルであった。幼い頃から子役としてメディアに出ていた少女である。その少女がストーカーされている、だが警察に言って事を大きくしたくないと言う事務所の判断で雇われたのである。初めては簡単なモノだと高を括っていたのだが、蓋を開けてみれば相手はドーパント。結局、荒事に発展してしまったのである。

さらに、その護衛対象が危険な目にも遭ったにも拘わらず隠蔽をしようとした社長らに、所長が。

 

『…おのれ、女の敵め!ゆ゛る゛さ゛ん゛!』

 

と意気込んだ結果、社長以下数名が不祥事を露にされ退任すると言う事態にまで発展したのである。事務所の関係者は風通しが良くなったと喜んで居たが、巻き込まれた俺にとっては正直辟易とする一件であった事は間違いが無かった。

そうして、今に至る。今回の依頼も前回に似たもので、嫌がらせ被害の調査である。

どうやら最近、件のアイドルに対しての嫌がらせが行われているようなのだ。

無言電話や、身に覚えのない荷物が届き不審な人物がうろうろとする。等々、犯罪すれすれな行為が繰り返されているらしい。すれすれな以上警察も迂闊に手は出せず、俺の様な探偵が雇われたと言う事である。

さて、どうしたものかと考えに没頭する。今回は依頼人を不審者から守ると同時に、その犯人を探さなければならない、マルチタスクの案件である。

これからどのような方針で進めるか、と思案に夢中になっていた俺は目の前の人間に気が付かなかった。

 

「で、どうだったのかしら。私たちの演奏は」

 

「ぅん?」

 

一際大きな声で掛けられた問に、俺は思考の海から脱した。集中してしまうと周囲の様子に気が向かなくなるのは悪い癖だ。

さて、此処で重要なのは一体なんだろう。さしあたっては眼前の依頼人の機嫌を取る事だ。

依頼人―白鷺さんの様子はあまりよろしい物ではなかった。不機嫌な様子を表す腕組み。その上部に鎮座する顔は笑顔ではある。しかし、その笑顔には凄みがあった。俗に言う、黒い笑顔である。

 

「えーっと、仕事の話でしたっけ白鷺さん」

 

「千聖で良いと言っているでしょう。……それより、やっぱり何も聞いていなかったのね、新」

 

「あの、はい。すみません」

 

こんな時、言葉を弄して逃げるのは得策ではない。唯でさえ、俺はボロを出しやすいのだ。ならば、小細工はしない方が良い。

そんな俺に、白鷺さんは頭に手をやりやれやれと首を振る。呆れた様子だ。

「まぁ良いわ。それより、どうだったの、私たちの演奏は」

 

「素晴らしいと思いましたよ。音楽に疎い俺でも凄いって思ったんです。ファンの皆さんも夢中になる訳だ」

 

これは紛れも無い実感だった。一昨日聞いたライブも素晴らしいものだったが、Pastel*Palettesもそれに匹敵するものだった。

俺が白鷺さんにそう言うと、彼女はふいと顔を背けてしまった。

何か失礼をしたかな、と再び思案に暮れようとした俺に白鷺さんはバッ、と向き直った。

 

「んんッ。それより!考えて直してくれたのかしら。私、専属の護衛になる事」

「…その話ですか」

 

話を替える様に白鷺さんから放たれた提案。それは以前から打診されていたものだった。

一体、何が彼女の琴線に触れたのだろうか。あの一件以来、白鷺さんは俺にそう言った打診を掛けて来ている。その度に断ってはいるのだが、全く諦める様子は無かった。

 

「それは以前から言っている通り、断らせて頂きます。……もしかして、今回の依頼はこれが目的ですか?」

 

そう白鷺さんに問いかける。すると彼女はつと、目を逸らしながら返答した。

 

「…嫌がらせとかの件は本当よ。でも、もしかしたらって考えたのはある…かも…知れないわ」

 

「……かも知れない、ですか」

 

「……本当はそう思ってました」

 

その返答に俺は嘆息した。薄々そんな所では有るまいかと思っていた所である。

しかし、嫌がらせの件は本当である。さて、どうしたものかと視線を別の方へと向けると、丁度他のメンバーが退出する所であった。

その中の一人に、緑の髪を持つ少女を認め既視感に襲われた。最近、彼女に似た人物を見たような気がしたからである。

さて、誰であったかと思いだそうとした俺に白鷺さんが口を開く。

 

「練習も終わったし、これから遊びに出るのだけど…。その、どうかしら」

 

若干、言いにくそうに掛けられた提案。俺はその提案に真摯に答えた。

 

「これから、各所に聞き込みに行くので…無理です」

 

その結果、アイドルというものは拗ねていても可愛いと言う事を知ったのである。

 

 

現在、白鷺千聖は拗ねて居た。何の誇張も無く不機嫌MAXであった。その原因となったのは勿論、門矢新である。

気晴らしにウィンドウショッピングをしつつも、その頭からは新の姿は消える事は無い。むしろ、苛立ちが増すばかりである。

折角、アイドルでもあり女優でもある自分が誘いを掛けたのに全く揺るがない。それどころか、のらりくらりと避けられてしまう。その憤懣たるや、今すぐ彼をサンドバッグにしたい程である。

そんな風に苛立ちながらも考え事をしていた彼女は、自身に接近する不審な男に気が付かなかった。

普段はそんなヘマはしない。しかし、唸りながら考え事をしていた彼女は端的に言って周りが見えて居なかったのである。

 

「…ああ、本物の千聖ちゃんだぁ」

 

「ひッ」

 

一見して普通のサラリーマンの様な男だった。しかし、その眼光は危険な光を放っていた。

それを認めた彼女は喉奥から絞り出した様な声を出す。さらに、本能的に一歩後退りしてしまった。

その様子を見た男はうつむき、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

「…やっぱりそうだ。こうやって皆、僕から逃げる。千聖ちゃんも皆皆!」

 

そして、激昂する。完全に情緒不安定な状態であった。そして、俯いていた顔を上げる。その目は完全に座っていた。

 

「やっぱり、こうするしか無い、かぁ」

 

《SPIDER》

 

鳴り響く音声。男がガイアメモリを突き立てる前に、彼女は一目散に走り出した。本能的危機感がそうさせたのである。

しかし、その彼女をスパイダー・ドーパントと化した男が追う。

その身体能力の差は歴然。故に彼女は自分でも分からないくらい滅茶苦茶に走った。

適当に角を曲がり、適当に路地を走る。その結果。

彼女の目の前に現れたのは袋小路。踵を返そうにも、追い付いたスパイダー・ドーパントが道を塞いだ。

「お~い付いたぁ、鬼ごっこはお仕舞いだよ」

 

ジリジリと袋小路に入ろうと接近してくるスパイダー・ドーパント。最早これまでか、と目を瞑る。

しかし――

 

《CLOCK OVER》

 

衝突音、そして機械音声。ソッと、目を開いた彼女が見たものは、先程までスパイダー・ドーパントが居た場所に止まる、特徴的なバイクに股がる一本角の戦士の姿だった。

 

 

 

時は少々、巻き戻る。

事務所や関係各所への聞き込みをしていた俺。何件かの聞き込みが終了し、次へと向かおうとした瞬間。携帯が鳴った。

懐から携帯を取り出し画面を見る。そこにはバッタカンドロイドからの中継映像が写し出された。

このカンドロイドは以前、中々に濃いキャラをした社長から頂いたものである。そして、俺はこれをもしもの保険として白鷺さんの近くに居るように放っておいたのである。緊急時には連絡をする様にして。

果たして、写し出されたのは頭に赤黒い蜘蛛を張り付けたドーパントから逃げる白鷺さんの姿であった。

俺は素早くバイクへと飛び降り、発進。現場へと急行した。幸いにしてバッタカンドロイドにはフィリップさんの改造でGPSが内蔵されている。それを追えばいい。

しかし、事態は急を擁した。白鷺さんが追い詰められてしまったのである。焦った俺はドライバーを装着。片手でカードを取り出した。

「変身!」

 

《KAMEN RIDE―――DECADE》

 

バイクで走行しながらの変身。さらに、この速度では到着する頃には手遅れになる未来が予測出来た俺は次なる手を打った。

 

《KAMEN RIDE―――KABUTO》

 

瞬間、俺はディケイドからカブトへと姿を変える。その目当てはカブトが保有する特権だ。

 

《ATTACK RIDE:CLOCK UP》

 

そして、俺は超高速の世界へと踏み込んだ。全てが静止して見える世界で一人だけ、動くことが出来る。それは、白鷺さんが乱暴を受ける前に到着出来る事を示していた。

いや、正確には余裕を持ってだが。CLOCK UPの制限時間内に到着出来る。それは良い。しかし、時間が少しだけ余ってしまい、結果。

――グシャ

 

バイクがスパイダー・ドーパントを轢いてしまった。そして。

 

《CLOCK OVER》

 

時間の流れが元に戻る。ドーパントとは言え、相手は人間。それを轢いてしまった俺は罪悪感に駆られてしまった。

 

 

 

ともあれ、ギリギリ間に合った。白鷺さんは追いかけられた恐怖こそあるが、無事である。

スパイダー・ドーパントはCLOCK UP轢き逃げのダメージからようやく立ち直ったのか、フラフラと立ち上がる。そして、此方へと目を向けると―一目散に逃げ出した。

意外過ぎる行動に、一瞬呆気に取られる。しかし、折角見つけた下手人(仮)。あっさりと逃走などと許す事はしない。

「逃がすかァ!」

 

バイクから飛び降り、カブトの脚力を以て全力で追い掛ける。スパイダー・ドーパントは先程のダメージが抜けていないのか、若干動きが鈍い。

そして、その好機を逃す俺では無かった。

 

《ATTACK RIDE:BULLET》

 

呼び出したハンドガンを用いての射撃。狙いはスパイダー・ドーパントの脚だ。

走りながらではあるが、放たれたビーム。その一射は地面を抉る。しかし、抉られた地面はスパイダー・ドーパントのすぐ近くだった。それに怯んだスパイダー・ドーパントは脚を一瞬だけ止める。それで十分だった。

続く二射、三射はスパイダー・ドーパントの脚へと命中。その体勢を崩し、地へとその身を倒した。

その期に乗じて俺はハンドガンを投げ捨てると、素早くスパイダー・ドーパントへと接近。その目の前へと立つ。そして、スパイダー・ドーパントが立ち上がると同時。

 

《FINAL ATTACK RIDE:KA KA KA KABUTO》

 

叩き込むは回し蹴り。無防備にもライダーキックを頭部に直撃されたスパイダー・ドーパントは軽く吹っ飛び、爆発した。

「…妙だな」

 

それを確認した俺は変身を解除し、スパイダー・ドーパントだった男へと近づいた。男が使用していたガイアメモリを回収する為である。

だが、ガイアメモリは欠片程も見当たらない。

これは何かがある。俺の勘はそう囁いていた。

 

 

 




補足して置くと、千聖さんは女性としての尊厳が奪われる寸前に主人公に助けられています。これは好意を持つのも仕方ないネ!しかし、当の新は過去の出来事(主に周囲に居た女性に受けたイジメ)が原因で意図せずして拒絶してしまっています。
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