通りすがりの探偵さん   作:silverArk.

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…何故か後編が長くなってしまいました。これからは気を付けていきます。それと、キャラクターの口調。これで大丈夫でしょうか。不安ながら登校します。
それと、感想と評価。ありがとうございます!励みになります。



Sの罠/解かれた悪意

「やはり妙だ」

 

白鷺さんを家まで送り届けた俺は、事務所で思案していた。

あのスパイダー・ドーパントは本来、糸を射出するなどの能力を保有している。しかし、先程戦闘したスパイダー・ドーパントはそう言った攻撃を一切してこなかった。さらに、肝心なのはスパイダー・ドーパントが爆発した後であった。

普通のドーパントであれば、爆発。つまりメモリブレイクするとドーパント化は強制的に解除され、その場に砕けたガイアメモリが残される。だが、今回はそれが無かった。 男の側に残留していたのは、ただのガラス片だけであったのだ。

明らかに可笑しい。

しかし、その場の検証は警察に任せる他ない。事、科学的な分析は本業に任せることが一番である。その他の情報、人間関係などの情報は自身で聞き出す。俺はそうして来た。

故に、俺は今日入手した情報を整理する個とにした。手帳を開き、頭の中で整理をして行く。

今日手に入った情報。その中で重要だったのは、前社長やその部下の情報だった。どうやら前社長たちは相当にあこぎな事をしていたらしい。具体的な事は口を閉ざされてしまったが、金の為には如何なる汚い手段も取る。そんな人物だった様だ。そんな人物の忠実な部下だったのだ。大方、どんな人間だったのかは押して知るべし。良い噂は無く、悪評が殆どだった。

その為、俺は今回の一件の下手人はその前社長一派であると考えていた。と言うか、ほぼ確信していた。事実とさて、嫌がらせの現場に居合わせた人が言うには、その場から立ち去る小太りの男の姿を見たと言うのだ。

そして、その裏を取るにはどうしたものかと考えていた矢先にスパイダー・ドーパントが出現したのである。さらに、ドーパントを倒して見ればその正体はと言うと、聞き込みでは全く浮かび上がらなかった人物である。混乱の極みであると同時に捜査が振り出しに戻ってしまった。

さらに悪い事に、そのスパイダー・ドーパントであった男はダメージから回復しておらず、現在は警察病院で意識を失ったままであった。

意識が戻り次第聞き取りを行い、その情報を回すと照井さんには言われている。ともかく、今はそれを待つしか無かった。 今すぐ、やみくもに動くよりもよっぽど建設的である。

万が一を考え、白鷺さんには説明をした上でバッタカンドロイドを付けたままにしているため、完全に安全とは言えないがある程度は何とかなる。

そして、俺はその日は大人しく休む事にした。その後に起こることなど知るよしも無く。

 

 

 

 

「……はい、照井さんですか。おはようございます。何かありました……はい?病室が爆発した!?」

 

連絡を受けた俺は、取るものも取り敢えず警察病院へと直行した。 現場である警察病院には多くのパトカーや、警察官達が詰めていた。

事前に連絡が行っていた為に、俺はすんなりと警察病院の中へと入る事が出来た。そして、その爆発があった病室へと向かう。

病室に到着した俺は、その凄惨さに息を飲んだ。

個室だったのだろうそこは、火事の後のような様相を呈していたのだ。爆心地であったのであろう、ベッドがあった筈の場所は軽いクレーターの如くへこんでいる。さらに、病室の壁には固まって黒ずんだ血痕が残されていた。

現場から連れ出された俺は、鑑識課の方からの説明を受けた。

曰く、此処に収容されていた件の男が行方不明。壁に飛び散った血痕と肉片を分析に回している。そして、爆発の中心はベッド。それも尋常な爆発ではなく、人一人を木っ端微塵にするには十分過ぎる程。

それを聞いた俺は、暗澹たる気持ちであった。恐らく、行方不明となった男が爆発したのだろう。そして、その理由も大体は見当が付く。口封じだ。これにより、捜査は振り出しに戻らざるを得ない。

そして、俺が現場検証を見学している内に血液鑑定が済み―男の死亡が確定した。

 

 

 

 

さて 今日も今日とて、Pastel*Palettesの練習風景を見学している俺であるが、視線こそ彼女らの方向に向けられて居るのだが頭の中では別の事に気が取られていた。

それは今後の方針である。男の死亡に伴い、犯人の特定は振り出しに戻った。本来ならば、これから情報をもっと集めるべく行動すべきである。しかし、昨日の一件がある以上。下手に白鷺さんの側から離れる事は望ましくない。

しかし、だ。どうにも胸騒ぎがするのである。それが俺の中で何とも言いがたい不安感となってこびりついていたのだ。

鳴りやんだ音に、ふっと思考が中断される。どうやら、休憩となったらしい。その証左に白鷺さんと、ピンク頭の少女が此方へとやって来ていた。

しかし、ピンク頭の少女は何故か尻込みをしていた。もじもじと、何処か気後れしている様子だ。俺の顔を見ては小さく首を振っている。

その様子に痺れを切らしたのか、白鷺さんはその少女の背中真っ黒な(素敵な)笑顔で押した。不意を突かれたのか、よろけながら少女は俺の前へと躍り出た。そして、気恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら口を開いた。

 

「みっ、みなさんこんにちはー☆ まんまるお山に彩を!Pastel*Palettesの丸山彩でーす!」

 

「……えっと」

 

「………」

 

これは自己紹介なのだろうか。正直、へんてこなポーズとともに口にされたそれに、俺は何とも言えず口を濁してしまった。

一方、丸山彩と名乗った少女も俺の気の抜けた反応を考慮して居なかったのだろう。固まってしまっていた。

さて、こうなってしまった場合。どうも出来ない。女性の扱いと言うものは俺の専門外である。俺は相手のリアクションを待つ他無く、恐らくそれは相手も同じであるのだろう。

故に、奇妙な硬直状態が出来てしまっていた。お互いがお互いに行動しなければ解けない硬直。

下手をすれば永遠に続く、見つめ合ったその状態。しかし、それを壊したのは白鷺さんだった。

俺と少女の顔を片手で掴み、押し退けた。

「何を…見つめ合って…居るの…かしらっ!」

 

「…ム」

 

「痛い、痛いよ千聖ちゃん!何で!?」

 

押し退けられた俺は、軽く嘆息した。明らかにけしかけたのは白鷺さんである。しかし、どういう訳か少女と俺が硬直状態になった途端に不機嫌になってしまった。

一体、どういう積もりなのだろうか。しかし、丸山さんは自己紹介をしている。それに対して無視は良くない。アイサツにはアイサツを返すべきだとコジキにも書かれている。

故に、俺は丸山さんへと声を掛けた。

 

「初めまして。俺は鳴海探偵事務所で探偵をしております、門矢新と言います。宜しくお願いします、丸山さん」

 

「あ、はい!こちらこそ宜しくお願いします!」

 

「…彩ちゃん、敬語は要らないわよ。新は私達と同い年だから」

 

「え、本当?すっごい大人っぽいのに…」

 

突然の褒め言葉に少々照れてしまう。大人っぽいと言われると言うことは、翔太郎さんや義父に近づけている証拠めあるからだ。しかし、当の丸山さんはきょとんとしており、何故俺が照れているのかが分かっていない様子だ。

どうやら丸山さん、思った事が直ぐ口に出るタイプの様である。芸能界に居る人なのに凄く素直だ。この先騙されたりしないか心配に思えてしまう。

 

「えっと、同い年なら名前で呼んでも良いよ?」

 

「いえ、これは俺の癖でして。お気遣い、ありがとうございます」

 

「むー、固いなぁ」

 

俺が苦笑いをしつつも断ると、丸山さんは軽く頬を膨らませて抗議してきた。…これ素なのだろうか。それとも演技なのだろうか。演技にしては、やけに演じる人特有の緊張が感じられない。どうやら素らしい。

どうやら丸山さんと言う人は、成るべくしてアイドルになった人物の様である。

その後も、軽く二人と談笑する。それが気になったのか、遠くで話していた三人が此方へと向かってきた。

水色のショートの少女。茶髪に眼鏡のショートの少女。白髪のツインテールなのだろうか、それも編み込みなのだろうか。よく分からない髪型の外国人っぽそうな少女。その三人だった。

そして、その内の一人。水色のショートの少女に感じていた既視感の正体がようやく晴れる事となる。

 

「あたしは氷川日菜。ギターやってまーす。気軽に日菜って呼んでいいよ~」

 

「ジブンは大和麻弥っス。上から読んでもしたから読んでも、大和麻弥です。宜しくっス」

 

「えーっと、押忍!若宮イヴです、よろしくお願いします!」

 

「丁寧にありがとうございます。門矢新です。宜しくお願いします」

 

三人の挨拶にきっちりと自己紹介を返す。どうやらこの三人は先ほどの丸山さん程奇抜では無いらしい。大和さんはグレーゾーンではあるが。

そして、俺は此処で既視感の答えに行き着いた。氷川さんである。この氷川日菜と名乗った少女は氷川さんにそっくりなのだ。名字の共通、そして名に含まれる夜と日。恐らく二人は姉妹又は、それに類する縁者なのだろう。

此処で聞くのは簡単だが、場違いな気もする。後でこっそり聞いた方が良いと考えた俺は口をつぐんだ。

しかし、当の氷川日菜さんは俺の頭から爪先までをじろじろと舐めるように見渡した。

俺は咄嗟に、変な格好をしていたかと考えてしまった。今日はワインレッドのシャツに黒の上着。そして黒のスラックスだ。ソフト帽もあるが、室内と言うことで脱いでいる。

一通り、俺を検分した氷川日菜さんはニマリと笑うと口を開いた。

 

「うん!るんっ♪って来た!」

 

……訂正する。氷川日菜さんも大概だった。突如として放たれた擬音に疑問を持った俺は、傍にいた白鷺さんに問いかけた。

 

「…あの、るん。て何です?俺にはさっぱり」

 

「私もよ。アレは日菜ちゃん独自の言語のようなもので、面白い時に言うそうよ」

 

「な、成る程…」

 

中々に個性的な言語表現である。少なくとも俺には難しいものだ。

微妙な空気が漂う。そこに、氷川日菜さんは爆弾を放り投げた。

「えっと、あらたんが千聖ちゃんを助けたんだよね!」

 

「あ、あらたん…?ま、まぁそうですが」

 

「なら、あらたんが仮面ライダーだったんだ!」

「ッ!?何故です?」

 

「だって前に千聖ちゃんが話してたし。それに昨日!変身した所見たんだ~」

 

逃れようが無かった…。白鷺さんの話はともかくとして目撃証言までは誤魔化せない。俺は無言で頭を縦に振った。

心底楽しそうに俺へと笑顔を向ける氷川日菜さん。その屈託の無い笑顔が今は少々憎らしく感じた。

そして、この後の展開は容易に予測出来る。

 

「え、本物っすか!な、なら是非変身を見せて欲しいっス!」

 

「わ、私も!新くんの変身見てみたい!」

 

ブシ(仮面ライダー)サムライ(仮面ライダー)ですか!」

 

これである。やはり、仮面ライダーと言うネームバリューは何かしらの魔力があるのだろう。仮面ライダーと言う正体が発覚した場合、十中八九。変身を見せて欲しいと言う言葉が帰ってくる。

既に、これと同じような事例には何度も会っている。故に、その対処法もある。

 

「すみませんが、変身は見せられません」

 

「えぇ~、ケチぃ!」

「出し惜しみですか!」

「ズ、ズルいです!」

 

非難轟々である。しかし、ここは曲げる訳には行かない。俺は、彼女らの非難を遮りながら言葉を発した。

 

「俺は、力って物は見せびらかす物ではないと思うんです。力を誇示して、人に認められる。そんなのを求めちゃ駄目だと思います。必要だから変身して、必要だから戦って。これが仮面ライダーに求められた事なんです。だから、今は変身出来ません。でも――」

 

そこで一旦、言葉をを切る。既に、彼女らの非難は収まっていた。

俺は一度深呼吸をすると、言葉を吐き出す。誓いを述べるように。

 

「そう、でも。誰かが助けを求められれば、俺は変身して戦います。それが仮面ライダーですから」

 

俺が発した言葉に彼女らは固まっている様子だった。しかし、その表情からは俺の決意が伝わっている事が伺えた。

今回は相手が同年代、しかも話を聞いて理解してくれる。そのため、説得と言う方法を取った。因みに、小さい子ではこうは行かないのだが。

しばし無言であったのだが、それを白鷺さんが破った。

 

「やっぱり凄いわね、新は」

 

「はい!一寸の虫にも五分の魂です!」

 

「イヴちゃん、それなんか違うよ…」

 

張り詰めていた空気が、緩やかなものへと変わって行く。それは、はっきりと感じられるものだった。

そして、そのまましばし談笑の時が流れる。その最中、白鷺さんは時計に目をやると他のメンバーへと声をかけた。

 

「皆、休憩は終わりよ。練習を再開しましょう」

 

その言葉に従って彼女らは行動を開始した。…確か、白鷺さんて何かの雑誌で女王とかと書かれていたが、あながち間違ってはいないのかも知れない。

等と考えていると、楽器の方へと向かっていた白鷺さんは、突如として踵を返した。

まさか、俺の考えが読まれたのかと危惧する。

「えっと、今週の土曜日なのだけど…暇、かしら」

「その日は、何か予定が?事に因っては護衛に着きますが」

 

しかし、そうでは無かった。白鷺さんは何故か躊躇いがちに言葉を発する。それに対して俺は今依頼の観点から質問を返した。質問返しは失礼に当たるが仕方ない。

「土曜日にPastel*Palettesのライブがあるのだけど、見に来てくれるかしら…?」

 

その誘いに対して、俺はかなり驚いた。昨日、襲撃の事件があったばかりである。にも関わらず、このようにライブが出来るとは…。なんという胆力なのだろうか。

俺は白鷺さんの誘いにしっかりと依頼の面も考慮して答えた。

 

「勿論、行かせて頂きます。護衛として」

 

それを聞いた白鷺さんの顔は、なんとも微妙なものだったと答えておこう。

因みに、本日の帰り際。白鷺さん以外のPastel*Palettesのメンバーが謝罪をしに来た。白鷺さんに今日の一件で謝罪していない事を指摘されたと言う。それを聞いて素直に行動出来る彼女らも凄いが、周りを良く見ていると白鷺さんに感服したものであった。

 

 

 

 

土曜日のライブに向けて、彼女らの練習は佳境を迎えていた。

俺も白鷺さんを護衛する傍ら、聞き込みなどを行って居たのだが、その成果は良いとは言えないものだった。何と言うか、答えに辿り着くパーツはあるのに、その一つ一つが繋がらないのだ。後一つ、キーワードが足りない。そんな感じであった。

そうして日は流れ、ライブ前日。金曜日を迎えた。ライブをする場所はCiRCLE。既に警備体制を警察と協力して整えていた。

前日のリハーサルをしているPastel*Palettesの面々によってCiRCLEを追い出された俺は、芸能事務所へと戻った。スタッフと当日の動きについて確認する為である。

自動ドアが開き、中へと入ろうとした俺に何かがぶつかった。それは、何処か見覚えのある中年の男性であった。

衝突した事を謝罪しようとした俺だが、男性はじろと目を動かし、さっさと行ってしまった。

その事を不思議に思いつつ、事務所へと入る。そこには、何故か怒っている受付の女性がいた。俺はその女性へと声を掛ける。

 

「すみません。何かありましたか?」

 

「…ああ、さっきの人!あれ、前の社長なのよ!なんだか知らないけど、千聖ちゃんが出るライブの日時を教えろーって煩くって」

 

成る程先ほどの男性は前社長であったか、と合点が行った俺は、女性へと礼を言い脚を動かし―脳裏に閃く物を感じた。

それは、小さな違和感であった。どうして、追い出された前社長がわざわざ白鷺さんの予定を聞きに来るのかと言うもの。しかし、今迄得た情報がその違和感を大きくさせる。

しかし、答えが出ない。熟考した結果、俺は人に頼る事にした。餅は餅屋である。

携帯を取り出し、コール。その人物は2コールもしない内に電話に出てくれた。

 

「すみません、急に。ええ、此方は大丈夫です。申し訳ないのですが、力を貸して下さいフィリップさん」

 

 

 

 

 

ライブ当日。俺は会場であるCiRCLEで警備を手伝って居る、訳では無く。とある建設工事中のビルを昇っていた。警察やスタッフ達には話を通しているがPastel*Palettesのメンバーには不安を与えない為に言っていない。それに、会場は大盛況。俺が居ても居なくとも分かるまいと言う計算が有ったからだ。

カツリカツリと靴音を響かせて、ビルを昇る。そして、五階へと到達。此方へと背を向ける目的の人物を発見した。

 

「……こんな所で、そんなにCiRCLEの方を凝視してどうなさったのです?前社長ともあろう人が」

 

掛けられた言葉に、前社長はゆっくりと振り返った。その瞳は濁っており、明らかに正気では無かった。

「…何だ、貴様は。いや、どこかで見たような……。そうか、あの時の小僧か」

 

「覚えていましたか。なら、話は早い。…今回の一件、主犯はアンタだな」

 

確信を以て、告げる。前社長は、その宣告に片頬を吊り上げて嘲笑(わら)った。

 

「ほぉ…。何故、私だと?」

 

「最初は、アンタの部下が独断でしている事かと思ったんだ。でも、違った。お粗末過ぎたのさ。嫌がらせをするにしても、目撃者が必ず居た」

 

そこまでは俺の推理。違和感を感じて居た所だ。この何とも言えないモヤモヤが胸中を占め、前社長の部下を捕らえられなかったのだ。

だが、ここからは事実だ。推理では無く、フィリップさんから得た事実を突きつける。

 

「部下を動かしていたのはアンタだ。そして、わざと証拠を残した。直ぐに捕まると思わせ、油断を誘う為に。そして、俺が護衛に着いたと知るや一般人を唆してドーパントへと仕立て上げた!つまり、本物のスパイダー・ドーパントはあの男じゃあ無い。そしてあの男を爆死させたのはアンタだ。アンタこそがこの事件の主犯、スパイダー・ドーパントだ」

 

ありったけの事実を突き付ける。これは、紛れも無くフィリップさんが“視た“事実だ。もっと詳しく言う事も出来たのだが、前社長は不適な笑みを消す事無く、答えた。

 

「正解だよ、小僧。しかし、良く気が付いたな。あの時。事務所で衝突した時には見当も着いて居なかっただろうに」

 

「生憎、師匠の地球の本棚(協力)でね。“視て“貰ったのさ。それより、自首をする気はあるか?」

 

それは一応の確認だった。相手の態度を見れば一目瞭然ではある。しかし、俺はこの期に及んで戦わないと言う選択があると考えてしまっていた。

事実、俺の提案を前社長は拒んだ。

「……嘗めるなよ、小僧。私はそんな半端な覚悟で、この場に居るとでも思ったか!」

 

「なら、最後に聞かせてくれ。何故、こんな事をしたのか」

 

俺の問いに前社長は、激昂した表情から理性ある表情へと戻り、語り始めた。

 

「芸能事務所を維持する為には、多くの労力が必要だ。所属する俳優や女優がスキャンダルや事件に巻き込まれれば、他の事務所にとっては格好の的だ。確かに私は汚い手も使った。しかし、あの隠蔽は事務所を守る為だった!それなのに!あの半人前が被害を訴えた為に!私の全てが壊された!…それまで築き上げて来た全てが、だ。確かに、あの一件で全ての攻撃は私や、裏工作をした部下へと向かった。しかし!一歩間違えれば事務所は終わっていた。ただ、運が良かっただけ。そして、私達が不幸になっているにも関わらず!あの女は!幸福だ!………だからこそ、あの半人前へと思い知らせるのだ。私達と同じ絶望をなぁ」

 

それは紛れも無く、前社長の本心だった。全てを一瞬にして失った彼は、行き着く所まで行ってしまったのだろう。その証拠に達者な論説と共に瞳は徐々に、狂気に満ちていた。

しかし―

 

「アンタ、間違ってないか」

 

「何?私の、一体何処が間違って居るのだ!」

 

ピリと、空気がひりつく。どうやら前社長は戦闘する事にしたらしい。俺も、ドライバーを右手に納める。

 

「確かに、白鷺さんはアンタの人生を壊したのかも知れない。しかし、一歩間違えれば壊されていたのは彼女の方だろう。隠蔽によって事件が公表されなければ、また同じ被害を受けたかも知れない。今度は警察や俺が居ないかも知れない。それを鑑みた事はあるのか!自身の利益の為に他者を犠牲にする。それは正しいのかも知れない。だが!俺はそれを認めない。他者を犠牲にして得た幸福なんて意味が無いからだ。そして、最後にこれだけは言わせて貰う」

 

「大したご高説だな。で、何だ小僧」

 

「自分が不幸になったからって、それを他者にも与えるのは卑怯だ。自分は不幸だ、ならお前もなんて勝手な理由があるものか!」

 

言い放った言葉に、前社長はギリギリと歯ぎしりをした。そして、震える手で懐からメモリを取り出す。

それを確認した俺はソフト帽を脱いで、その場へと置くとドライバーを腰へ。そして、デッキケースからカードを引き抜いた。

 

「小僧、お前はただの探偵では…。何者だ」

 

「通りすがりの探偵だ、覚える必要はない。変身ッ!」

 

《SPIDER》

 

《KAMEN RIDE―――DECADE》

 

そして、その場には二つの異形が現れた。一つは仮面ライダー。一つはドーパントだ。

だが、前社長が変身したスパイダー・ドーパントは、爆死した男が変身したものとは違った。

体長は大きく膨れ上がり、赤黒い毒々しい模様が表れる。腕には何かを射出するものの様な物体が装着された。

それはあたかも、人と蜘蛛の融合した姿の如くであった。

俺があまりの姿に絶句していると、スパイダー・ドーパントは嘲る様に語った。

 

「どうした?私の姿がアレと違ったか。私にガイアメモリを渡した者曰く、ハイドープであるらしい。つまり、上位種だよ」

 

心底、誇らしげに語るスパイダー・ドーパント。俺は、それを話半分に聞きながら新たなカードをドライバーへと差し込んだ。

 

《ATTACK RIDE:SWORD》

 

出現した直刀。それをしかと掴み、スパイダー・ドーパントへと突きつけた。

 

「行くぞ」

 

「嘗めるな!小僧ォ!」

 

それは、戦闘開始を告げる号砲だった。

 

 

 

 

 

ディケイドの基礎ステータスは高い。百メートルを六秒で走り、飛べば二五メートルに達する。

しかし、現在の俺はスパイダー・ドーパントに苦戦を強いられていた。

 

「どうした、小僧!威勢は口だけか!」

 

「チイッ!」

 

スパイダー・ドーパントが両腕のシューターから鋼鉄の輝きを放つ糸を、射出する。実際、その糸には十分な殺傷能力があった。

俺はその糸を直刀を以て、逸らす。射出のベクトルに刃を合わせて受け流す。

そして地面を全力で踏みしめ、半ば飛翔の勢いで駆けた。そのまま、反応が遅れたスパイダー・ドーパントの胴を薙ぐ、

しかし直刀はスパイダー・ドーパントを斬り裂く事は無く、代わりに鋼と鋼が衝突したような金属音を響かせ、スパイダー・ドーパントの体表に僅かな裂傷をつけたのみであった。

それが意味するのはスパイダー・ドーパントの堅牢さ、そしてディケイドのパワーが足りない事だった。

糸を凌ぐにはハンドガンでは足りず、直刀では斬れない。そして、スパイダー・ドーパントの攻撃は体力の問題で、何時までも回避は出来ない。

既に戦況は不利に傾いていた。

コンクリートの柱を盾に糸の攻撃をやり過ごす。隙を見ては接近、斬撃を仕掛ける。だが、俺の攻撃は通る事は無く、体力のみが削られて行く。流石に次の一手を打つべきかと思考した。

戦闘の最中、一呼吸入れる為に柱へと身を隠した。

 

「それは既に見たぞ!」

 

そして俺が脚を止めた瞬間、衝撃が走った。それは予想外の一撃だった。鋼の糸をただ射出するのではなく、鞭の如く振るったのである。鋼の鞭は柱を砕き、無防備であった俺を凪ぎ払った。

溜まらず、一瞬視界がブラックアウト。ゴロゴロと転がってしまう。しかし、今まで培ってきた戦闘スキルが俺から直刀を手放させず、即座に意識を復帰させた。

這いつくばった姿勢からスパイダー・ドーパントへと目を向ける。だが、スパイダー・ドーパントが此方へと掌を向けている事に脳が危険信号を発した。

即座にその場から飛び退くべく、四肢に力を込める。そして踏み切った瞬間、糸が射出された。

ここで俺は気付くべきだったのだ、糸が今までの物とは違い鋼の輝きを放っていない事に。

射出された糸に合わせて直刀を構える。刃先を地に向けて構え、受け流しの体勢を整えた。しかし、糸は刀身と激突した瞬間に四散した。

さらに糸は俺へと、まるで蜘蛛の巣が如く絡みつく。その瞬間、俺は失策を悟った。それは、攻撃用の糸ではなく、捕縛用の半ば液体の糸であったと言う事である。

その勢いに押され、柱へと叩きつけられる。そして、そのまま柱と癒着した。

 

「―ぐッ!」

 

しっかりと射出された糸は俺と柱を繋いだ。最早身体を動かしようにも、糸を直接受けた直刀以下右腕は完全に硬直してしまっている。動かせるのは僅かに左手のみである。

俺の戦闘能力を削いだと考えたのか、スパイダー・ドーパントはゆったりした足取りで俺へと接近した。

 

「無様だな、小僧。大口を叩いておいて、それか」

 

「……ッ」

 

「良いことを教えてやろう。私の能力は、糸を吐き出す以外にもう一つあってな。私は、人間へと極小の蜘蛛を植え付ける事で―その人間を爆弾へと変える事が出来るのだよ。その威力は、あの男が示しただろう?」

 

「…アンタ」

 

「察しが着いたか。そう!私は部下どもに蜘蛛を植え付けた!まもなく、奴らからCiRCLEに到着したと連絡があるだろう。後は私が蜘蛛を起爆すれば、お仕舞いだ。あの女が死ねばそれで良し。死ななくとも、地獄の様な苦しみが待っているだろうさ!」

 

そうして、スパイダー・ドーパントは笑い声を上げた。それは勝利を確信した笑いであった。

さらに、スパイダー・ドーパントは糸をゆっくりと放出。それを寄り合わせて一本の剣を編んだ。

俺はスパイダー・ドーパントの言葉に動揺しながらも、狭い可動域をなんとか活用しデッキケースからカードを引き抜いた。そして、ドライバーのバックルを開く。

 

「だが、小僧。貴様はその光景を見ることは無い。さらばだな!」

 

突き出される剣。その軌道は真っ直ぐに俺の心臓を狙っていた。

だが、剣が俺を穿つよりも早、くカードが差し込まれた。

 

「どうか、なッ!」

 

《KAMEN RIDE―――HIBIKI》

 

瞬間、俺の身体が燃え上がった。紫炎に包まれながら不可思議にも、和楽器の音が響く。そして炎を振り払うようにして、俺は変身をした。

それは鬼の戦士であった。

変身の際に発した炎が糸を焼き、俺は自由を取り戻す。そうして、自由となった俺は突きだされた剣を左手で掴んだ。

 

「何ッ!」

 

「俺も良いことを教えてやるよ。既にアンタの計画は知ってた。アンタが蜘蛛を植え付けたのであろう部下は全員、拘束。んで、隔離してある。今、起爆しても被害はアンタの部下だけだぜ。それでも良いなら起爆しなよ」

 

「ば、馬鹿な…。既に知っていただと!?しかも今の発言…正気か!」

 

「正気さ。大を生かす為に小を…なんて言う訳じゃあ無いがな。撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴だけ、自爆テロをしようってんだ。なら、相応の覚悟はあるだろう。もしかしたらハッタリかも知れないぞ」

 

しかし、これは事実だった。フィリップさんから前社長の計画を聞いていた俺は、警察の協力の下。蜘蛛を植え付けられた人間を勾留。テロを不発にさせていた。

罪を憎んで人を憎まず。これも大切だ。しかし、倒さなければならない悪は絶対にある。今回、こうしなければCiRCLEの中で爆発が起こる。その結果、多くの死傷者が出るだろう。俺はその事態をどうやってでも回避しなければならない。たとえ、この方法が間違っていても。

スパイダー・ドーパントの剣を引き寄せ、体勢をぐらつかせる。そして、俺は前蹴りを無防備な腹部に叩き込んだ。

スパイダー・ドーパントはくぐもった声と共に吹っ飛び、柱へ激突。柱を砕きながら倒れこんだ。

先程の戦況とは真逆の状況。それを可能としたのは響鬼のスペックだ。響鬼はかなりのパワーファイターだ。脚も跳躍力も筋力も、軒並みディケイド以上である。

それが分かっている俺は、今度は逆にスパイダー・ドーパントへとゆったりとした足取りで接近した。

蹴撃のダメージから立ち直ったスパイダー・ドーパントが、鋼鉄の糸を射出する。その糸を、俺は無造作に斬り伏せた。

スパイダー・ドーパントとの距離が五メートルを切る。その瞬間、俺は弾かれた様に動いた。

スパイダー・ドーパントの両腕から射出された糸をスライディングを以て回避する。そして、起き上がりながら直刀を振るった。

それをスパイダー・ドーパントは渾身の力を掛け剣を振るい、迎撃した。

ギリギリと音を立てて、鍔競り合いが発生する。それを予め見越していた俺は、デッキケースから新たなカードを引き抜き、ドライバーへと差し込んだ。

《ATTACK RIDE:ONIBI》

 

カードを差し込むと同時、仮面の口部分が変形。そこから紫炎が放射された。

そして、炎がスパイダー・ドーパントを包み込む。火だるまとなったスパイダー・ドーパントはつんざくような悲鳴を上げて転がり回った。

その姿は完全なる無防備に他ならない。俺は止めを刺すべく、金色のカードを引き抜いた。そのまま、カードをドライバーへと差し込もうとした瞬間、パシンと何かが弾ける音が響いた。

音と共に俺を強力な脱力感が襲った。そして、開かれていたバックルからカードが排出される。

排出されたカードは、色を失っていた。それが腰のデッキケースへと入ると同時、響鬼からディケイドへと戻ってしまった。

俺のディケイドには一つの制約があった。それは、ディケイド以外のライダーへのKAMEN RIDE。その時間制限である。ライダーによって時間はまちまちではあるが、その制限を過ぎてしまうと強制的にKAMEN RIDEは解除されてしまう。

今回はそれが起こってしまったのだ。KAMEN RIDEの強制解除は、俺へと大きな負担を掛ける。その証左に、俺は膝を突き呼び出した直刀は消えてしまっていた。

それを好機と見たのだろう。スパイダー・ドーパントは完全に消火には至らず、全身に焦げ跡や火の燻りを残しながら立ち上がり、駆け出した。

建設途中のビル故に、窓も何も無くがらんどうだ。あるのは骨組みと床だけ。その為、ドーパントの身体能力を以てすれば、ビルから他のビルへと飛び移るのは容易だ。さらに、今スパイダー・ドーパントが駆けた方向にはCiRCLEがある。

つまり、スパイダー・ドーパントは自身の手で直接爆破する積もりであるのだ。

 

「させるかよ!」

 

《ATTACK RIDE:BULLET》

 

新たなカードをバックルへと差し込む。それによって現れたハンドガンを俺は追いかけながら、即座に放った。

しかし、フラフラと不安定に駆けるスパイダー・ドーパントに、俺も同じく疲労し走って居るため銃口がブレ、命中しない。

そして、ビルの縁へと到達したスパイダー・ドーパントは向かいのビルへと向けて跳躍した。粘性のある糸を射出する事で安全に着地すると言う手も打って。

俺もワンテンポ遅れて縁へと達したが、下手を打てば逃げ切られる事は確実。

故に、俺はその場でデッキケースからカードを引いた。そして、今度こそ金色のそれをバックルへと差し込む。

 

《 FINAL ATTACK RIDE:DE DE DE DECADE》

 

そうして現れるのは十枚の金色のホログラム状のカードだ。しかし今回、そのカードは俺の前では無く、ハンドガンの銃口の前へと現れていた。いや、正確にはハンドガンではない。FINAL ATTACK RIDEを放つ上で、ハンドガンそれに見合った形に。特徴的なライフルの様な姿に変じていた。

そして一つ深呼吸をすると、照準を合わせ引き金を引いた。

 

「ディメンジョン・マグナムッ!」

 

銘と共にライフルから放たれたビームは、カードを通過するごとに爆発的にその威力と速度を高めた。俺は撃った反動を受け、僅かに後退する。 そして、放った瞬間とは最早別物とも思える程巨大化したビームは、狙いを外す事は無く、スパイダー・ドーパントを刺し貫いた。

撃墜されたドーパントは断末魔を上げながら自由落下。地表からそう遠く無い場所で爆発した。

気絶し、地に伏した前社長。その側には砕けたガイアメモリが確かに存在した。

 

 

 

 

 

その後の話である。

前社長が保有していたガイアメモリを砕いた事で、植え付けられた蜘蛛は消滅。殆どの人間は釈放された。しかし、前社長等は現在取り調べを受けている所である。彼らがやろうとした事は紛れもないテロ行為。しっかりと罪を償って貰いたい。…あの時、前社長は蜘蛛を起爆する事は出来たのだ。だが、彼はしなかった。復讐の鬼となり、ガイアメモリの毒に侵されてもその判断は取らなかった。そこに彼の善性が有ったと俺は信じる。

因みに、だが。ビルの建設業者にはしっかりと謝罪に向かった。それはそれ、これはこれ。壊した責任は負わなければならないからである。

そして、肝心のPastel*Palettesのライブだが。勿論、大成功であった。ファンも沸き立ち、彼女らの評判はうなぎ登りである。

そして俺がライブを見ていなかった事だが、バレる事無く終わる―訳も無く。ライブ後に、白鷺さんから説教を頂いた。そして、次のライブには必ず来る事を約束させられた。しかし、あの数から俺が居ないと分かるとは。アイドルの凄さを実感した瞬間である。

最後に。あの白鷺さんを襲った男が使用したガイアメモリだが、その正体を前社長は知らなかった。何でも、ガイアメモリの売人が彼の計画を知り、サービスだと言って渡して来たと言うのだ。

ガイアメモリの複製を作れる、ガイアメモリは数在れど残るのがガラス片だけでは…とフィリップさんがぼやいていたが。ともかく、この一件は要調査対象である。

 

 

月曜日。ほぼ一週間ぶりに花咲川高校へと登校していた。依頼、しかもドーパント絡みだったとは言え、一週間も登校しなかった為に、中々に形見が狭い思いがするのだろう。等と考えて居ると、後ろから声を掛けられた。

 

「あ、新くんだ !おはよ~」

 

「本当ね。おはよう、新」

 

……聞き覚えのある声だ。ゆっくりと振り返って見れば、そこに二人の少女が立っていた。

一人は丸山さん。にっこりと笑みを浮かべ、挨拶をしてくれた。

もう一人は白鷺さん。にっこりと、何故か凄みのある笑みを浮かべて挨拶をしてくれている。

俺は二人へと向き直ると、口を開いた。

 

「おはようございます。白鷺さん、丸山さん。奇遇ですね」

 

軽く白鷺さんの説教がトラウマとなっている俺だが、声が震えなかった事を誉めるべきだろう。

そんな俺に白鷺さんは何故か軽く笑った。何か変であっただろうか、と考えていると白鷺さんが口を開いた。

 

「偶然?そうかしら。よく、私達の制服を見てみなさい」

 

「……あ」

 

それは、つい一週間前に見た事のある制服だった。具体的には花咲川高校の教室で。

固まる俺に、二人が言葉を放った。

 

「新くんも花咲川だったんだね!これから学校でもよろしくね、新くん!」

 

「そう言う訳だからよろしくね、新」

 

俺の平穏な学生生活が遠ざかっていく。そんな予感がした。

 




次回の、通りすがりの探偵さんは―

「お聞きしたい事があるのですが、宜しいですか?門矢さん」
「…旨いな、ここの珈琲」
「皆にわたしの気持ちが分かる訳ない!」

『悩みのH/拗れた感情』

これで決まりだ
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