通りすがりの探偵さん   作:silverArk.

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はい、前回から大幅に遅れてしまい申し訳ありません。勿論、理由はあります。新学期や、色々な事が立て込んでいた事と少々ショックな事件がありまして、このように遅れてしまいました。
次回はこのように長くならない様にいたしますのでこれからも宜しくお願いします!


悩みのH/拗れた感情

 

 

その少女は普通だった。

否、その表現は適切ではない。如何に努力しようと、如何に率先して動こうと。周囲にいる人々と比べれば、自分は普通であると少女は思ってしまっていた。

そして、その思考は少女の周囲に居た仲間達にも伝染して行く。

普通であって普通に非ず。しかして、少女は大いなる普通と呼ばれていた。

そして、その呼称が定着して行くにつれて少女の胸中には僅かにだが、嫉妬の心が芽生え始めていた。

隣の芝は青い。

正にその通りである。少女は努力しか取り柄が無いと悲観し、才気に溢れる仲間へと嫉妬をして行ったのである。

始めは極々小さなものであった。しかし、数々の出来事(イベント)を経て、少女の嫉妬はゆっくりと憎悪へと変じて行った。だが、勘違いしないで頂きたい。

少女が憎悪を抱いたのは自分自身。才気が無いと思い込み、仲間に置いていかれると思ったが故である。

だからこそ、少女は選ばれたのだろう。

いつもの練習が終了した少女は仲間達と別れ、一人帰路に着いていた。疲れきり、ボーッと歩いていた少女は何時しか、普段は通る事の無い路地へと入って行く。

そして、ハッと意識を取り戻した瞬間。少女の目の前には一人の男が立っていた。

その男を形容するならば、白銀であった。白いスーツに白い帽子。靴までもが真っ白である。

そんな、得体の知れない人物が目の前に居るのだ。少女は脱兎の如く逃げ出そうとして―しかしその場から動くことは無かった。

それは、少女の目の前に開いて差し出されたトランク・ケースの為であった。

そのトランク・ケースの中には色とりどりの大きく細長いUSBメモリの様な物が大量に並べられていた。

少女はそのUSBメモリを目にした途端、何かに憑かれたかの如く、一つのそれに手を伸ばした。

そして、それをつまみ上げしげしげと観察する。

そんな少女の様子に満足げな男は、此処で初めて口を開いた。

それは、そのUSBメモリを買うかどうかである。その言葉に、一瞬正気を取り戻した少女は、値段を尋ねた。が、返っていた返答に呆気に取られる。なんと、男はほぼ無料(タダ)同然の値段を告げたのである。

しかし、得体の知れないそれに少女は迷いを抱いた。もし、危険な物であればそんなものに触れる訳には行かないからである。

そんな少女に、男は告げた。このメモリを使用すれば、超人となれる。そして、“特別“な人間である証ともなると。

それを聞いてしまった少女は揺れる。今まで、普通で有った自分が、特別に成れる。その甘美な響きに揺れて揺れて、そして。少女は遂に頷いてしまった。

そして、彼女はソレを使ってしまった。

 

 

 

「やっと、終わった……」

 

本日最後の授業、そしてSHRが終了した事を確認した俺は、ゆっくりと息を吐き出した。

一週間ぶりの学校。それは俺に大きな負担を掛けた。と、言っても苦しかったのは授業ではない。

問題は、俺に寄せられた視線である。

花咲川への登校を白鷺さんと丸山さんと行った。加えて、別クラスである彼女らがわざわざ俺へと話にやってくるのだ。当然、男女問わず嫉妬混じりの視線が俺を射ぬいた。

しかも、その嫉妬混じりの視線中には何かを迷っている様な視線も存在した。恐らくは、先週の教室で起こったドーパント事件、その際に俺の変身を見ていた人間だろう。

これはスパイダー・ドーパントの事件後に、花咲川の校長から聞かされた事であるが、どうやら教室での変身を見た面々には厳重なが敷かれている様だった。口外は許されない、しかし俺の事は知りたい。その為にある種のもどかしさを感じているのだろう。

しかし、授業も終了した現在。俺はこの煩わしい視線から解放――される事は無く、氷川さんからの呼び出しを受けていた。

昼休み、中庭で何故か俺の位置を感知した白鷺さんと丸山さんと共に昼食を取っていた時の事である。

突如として出現した氷川さんは、白鷺さんと丸山さんの知り合いらしく、挨拶を交わすと俺へと話しかけた。

 

「こんにちは、門矢さん。教室では言えませんでしたが、一週間ぶりですね」

 

「こんにちは、氷川さん。お久しぶりです」

 

「……すみませんが、お聞きしたい事があります。今日の放課後、宜しいですか?門矢さん」

 

「あ、はい。構いませんが、場所は」

 

「屋上が空いています。では、そう言う事で」

 

事務的に、それだけのやり取りをすると去って行く氷川さん。その後に、二人―特に白鷺さん―から猛烈な質問攻めにあった事は言うまでも無いだろう。俺はその圧に押されてしまい、教室での一件を話さざるを得なかった。

当初、この氷川さんによる質問に二人は同行する積もりであったようだ。しかし、丸山さんはバイト。白鷺さんはTV番組の打ち合わせが有った為、参加出来なかった。俺はそれに胸を撫で下ろし、一方の二人は悔しがった。

そして、放課後を迎えたと言う訳である。追従する視線を振り切り、万が一にも白鷺さんと丸山さんに見つからない様に行動をする。

……正直、尾行の為に覚えた気配を消す技術を此処で使用するとは思わなかったが。

そうして、誰にも見つかる事なく屋上へとたどり着いた。氷川さんが教室を出てから、ワンテンポ遅れて俺が行動した為、屋上には既に彼女の姿が有った。

鉄製の扉の開閉音に気がついたのだろう。氷川さんはそれまで俺へと背を向けていたが、ふっと振り返った。

そして俺の姿を認め、きッと顔を引き締めた。

俺は後ろ手に、扉を閉めると氷川さんへと歩み寄った。氷川さんも俺へと近付く。そして、話をするには十分な距離になると、口火を切った。

 

「ご足労、ありがとうございます。…それでお聞きしたい事なのですが……」

 

やはり話が早い。まだるっこしい事なく、直ぐに本題へと入ってくれる。氷川さんとの話は早そうだ、と感じた俺だが。どうした事か、氷川さんは何故か言葉を詰まらせた。

視線は右往左往。少々落ち着きが無い様に感じられる。

大丈夫か、と声を掛けようとする。寸前、氷川さんは意を決した様に口を開いた。

 

「ありがとうございました。あの時、門矢さんに助けて貰わなかったら、私は……ッ」

 

「あ、いえ!此方こそ、すみません。助けが遅れてしまい、氷川さんを怖がらせてしまいました…」

 

氷川さんが、深々と俺に頭を下げる。それに合わせて俺も頭を下げた。

確かに、氷川さんを助ける事は出来た。しかし、あの場面での戦闘には問題があったのも確かである。

衝撃波で吹き飛ばされた。それは良い。しかし、照井さんに連絡を取っていた。此処が俺の思う問題であった。

連絡は後でも出来た。しかし、俺はそれを優先してしまった為に氷川さんは危うく命の危機に晒されてしまったのだ。

それに、氷川さんに礼を言われてしまったが、そんなモノは求めちゃあいない。人々を助ける為に、人々の希望である為に仮面ライダーはある。その責務を全うしただけであるのだ。

そして、少々続いた謝罪合戦はやがてどちらでも無く笑い始め、それでお仕舞いとなった。

笑いが治まり冷静さを取り戻した俺は、氷川さんも冷静を取り戻した事を確認し、口を開いた。

 

「それで、要件は何ですか氷川さん」

 

「……あの、門矢さんは探偵なのですか?」

 

そこで、脳裏に過るのはあの瞬間である。何時もの如く、教室で上げてしまったあの口上だ。

どうやら、ばっちり氷川さんに聞かれていたらしい。

 

「……はい、数年前から探偵をしています。それがどうかしましたか?」

「あ、いえ。それなら……失踪した方とか探せるのでしょうか?」

 

「出来ますが…もしかして依頼、ですか」

 

「いえ!出来るのでしたら、大丈夫です。もしかしたら依頼するかも知れないので、その確認がしたくて…」

 

その言葉に疑問を持った俺は、氷川さんへと問いかけた。聞いてみれば、どうやら質問とは建前で、礼を言うのが本来の目的だったらしい。

それを聞いた俺は、要件が済んだ事を確認。立ち去ろうと踵を返し―氷川さんに呼び止められた。

 

「待って下さい、門矢さん。まだ、お礼が……」

 

「礼なら既に頂きましたが…?」

 

「いえ、そう言う事ではなく。物理的なお礼がしたいので…」

 

「俺は、礼の為に助けた訳では無いのです。ただ、助けたかったから助けた。そこに代価は要らないのです。ですから、そんな物は不要です」

 

俺は氷川さんの言葉に、鋭く反駁した。探偵は仕事であるから料金は頂く。しかし、ライダーとして人を助ける事。それは、仮面ライダーとしての義務である。そこに、対価は要らない。

そう答えた俺に、氷川さんは尚もいい募った。何度断っても諦めてはくれない。

俺を真っ直ぐに見つめる氷川さんだが、その瞳には強い意思の光があった。

こう言ったタイプの人間は諦める事を知らない。翔太郎さんも、この場合は諦めろとの教えで有った。

「なら、一つ。俺も聞きたい事があるのですが――」

 

こんな場合もある。俺は質問の返答を聞きながら、小さく嘆息した。

 

 

 

 

 

「…旨いな、此処の珈琲」

 

頼んだ珈琲を口にした俺は、思わずそう口にしていた。 現在、俺が居るのは羽沢珈琲店と言うカフェである。

先程、氷川さんに聞いた事。それは、付近にあるカフェやコーヒーショップの有無だった。

風都に居た頃、俺はほぼ毎日珈琲を口にしていた。翔太郎さんや所長の煎れた微妙な珈琲に、照井さんの煎れた絶品と言える珈琲。

それらを毎日口にしていたため、珈琲への禁断症状とまでは行かないものの、渇望があったのである。

勿論その渇望の訳には、俺が珈琲を煎れられないという問題がある。料理の腕も決して高いとは言えない為、こうしてカフェを探していたと言う事だ。……まぁ、義父の知り合いの方は料理やその多も非常に高い能力を保持していた。もう二度とエンカウントしたくは無いが。…何が悲しくて、カイザとイクサに追いかけられなくてはならなかったのだろうか。

過去のトラウマに、少々気分を沈ませていた俺であるのだが、先程からの変わらぬ背後感じて振り返り、苦笑いをした。

俺が苦笑いをした理由。それは、ニコニコと機嫌良く笑う背後の少女が原因だった。

無論、知らない人間ではない。先日の依頼で出会った少女、若宮さんだった。

どうやら此処で働いて居るようで、俺がカフェに入ってからずっとこの調子であった。

気に掛けない様に、目をそらし続けていたがもう我慢の限界だった。背中を刺すような視線の圧、それに無言の圧力。こうなっては珈琲に集中する事も出来ない。

実の所、若宮さんが話掛けてくるまでは不干渉を取る事を考えて居たのだが、こうまで成ってしまっては俺が辛いだけであった。

そのため。

 

「…えっと、何か御用ですか?若宮さん」

 

「はい!御用ですアラタさん!」

 

何とも早いレスポンスである。いい反応と言うべきか。

話を聞いてみると、どうやら若宮さんは探偵と言う職業が何をしているのかが知りたかったらしい。

仮面ライダーとしての事を聞かれる想定していた俺にとっては拍子抜けも良いところであった。

多少脱力しながら、探偵が実際どのような職であるのかを説明して行く。流石に、知り合いを邪険にする程俺は冷たくはない積もりであるからだ。

そうして、一通りの説明が終了した。どうやら想像していた物とは違っていたらしく、若宮さん少々混乱していた。…現実とはこんな物である。想像と違う事なんて幾らでもあるのだ。

少々停滞した空気。それを打ち消す為に、俺は若宮さんへと問いかけた。

 

「…それはそうと、この珈琲はどなたかが煎れたのですか?凄く美味しいですね」

 

「珈琲だったらツグミさんです!」

 

そう言って、若宮さんは一人の少女を指差した。指を刺された事に気が付いたのか、件の茶髪の少女が近寄って来た。

 

「どうしたの?イヴちゃん」

 

「ツグミさん!アラタさんが珈琲が美味しいと言っていました!」

 

「ええ、美味しいですね此処の珈琲。また来たいです」

 

「でしょ!だって私が煎れた珈琲だから!」

 

会話の開始はそれだった。このようにして始まった会話であるが、ツグミさんと若宮さんに呼ばれていた少女に一つの違和感のようなものを感じていた。それは妙に自信家な様な感じであるのだ。しきりに、私だから。などを連発し、自身が特別である様な印象を与えようとしている。

それは、俺に強烈な違和感と既視感を与えた。その既視感になんとも言えないもやもやを感じているとカフェの扉が開き、赤メッシュ、銀髪、桃髪、赤髪の少女達が入ってきた。

…なんだか既視感がある面子である。

それを視認したツグミさんは、俺たちに断りを入れてから少女たちの方へと向かった。

そうして、少女達が何やら話を始めた。俺はそれを若宮さんと会話する事で意識外へと置いていた。置いていたのだが、ちょこちょこ耳に入ってくる単語から察するに、少女らはバンドをしているらしい。

当初は和やかに進んでいた少女らの会話であったが、何が切っ掛けであったのか、空気が少々険悪な風味へと変わって行く。

荒ぶる女性は恐ろしい。こういう場合は関与しないことが一番である。

そうやって少女らの様子をシャットアウトしていたのだが、赤メッシュの少女が発した言葉が耳に入った。

 

「どうしたの、つぐみ可笑しいよ。何時も通りに普通にしてなよ」

 

恐らく、当人にとっては何気ない一言であったのだろう。しかし、それはその言葉を投げ掛けられたツグミさんにとっては違ったらしい。

その言葉がスイッチであったかの如く、激しい口調でその言葉が放たれた。

 

「……普通、普通って!みんなにそうやって普通って言われる私の気持ちが分かる訳無い!普通じゃないのがそんなに可笑しいの!?」

 

そう言って羽沢珈琲店を飛び出して行くツグミさん。それを慌てた様子で追いかけて行く少女達。

いきなりの展開で硬直する俺と若宮さん。

ふっと、我に返った俺の足に何かがぶつかった。初め、羽沢珈琲店に来た時には無かったものだ。どうやらツグミさんが扉を乱暴に開けた際に、何処かにぶつけてポケットか何かから落ちたらしい。

無造作にそれを拾い上げ、俺は硬直した。それは金色に光る細長い箱状の物――ガイアメモリであった。

 

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