けものフレンズ2の、にじそーさくだよ!   作:ヒラメもち

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第1話 目覚めろ

あたしは忘れない。

あんたの声、温もり、笑顔……その優しくて純粋な心

 

どれほどの時が経っても……

あんたが全てを忘れてしまっても……

あたしは決して忘れない

 

本当に、ありがとう

 

いつかまた、きっとあたしたちは出会えるから……

 

今は、

 

 

°

°

°

°

 

 

 

知らない天井だ。

それどころか、瓦礫の上に眠っていた。

 

軽く背伸びし、頭をガシガシとかく。

 

こういうときは自身の置かれた状況を確認するに限る。自分の身体をさすって怪我はないことは確かめられたし、特に不快感もない。また、ここは人工的な建造物であることは間違いない。つまり人がいる。窓と壁の穴から日光が差し込んでいることで昼、気温は高くて空気は乾燥していて、もしかしたら日本ではないかもしれない。

 

「いや、日本ってなんだ?」

 

そう呟いた。

まるで記憶にノイズがかかったような感じだ。エピソード記憶が特に欠落していて、知識はいくつかあるもののサブカルネタばかり浮かんでくる。残念ながら戦闘技能に関するものはないので、レベル1村人からスタートである。

 

 

アイテムを確保するため、薄暗い部屋を捜索することにしよう。瓦礫を軽くどかしてみる。

 

使いこまれたスケッチブックと筆記用具の入った肩掛けバッグ、そしてバールを手に入れた。

 

ふっ、勝ったな。

 

 

「ステータスオープン!」

 

………まあ、今は安全確保だ。そもそも普通に呼吸できる世界でよかったし、ゾンビの呻き声も聞こえないし、銃器の音もしないし、たぶん放射線汚染もないし。意外と平和な世界が広がっているかもしれない。

 

 

意気揚々とドアノブに手をかけた。

ただし中腰でいつでも閉められるように。

 

 

「なんだよ……」

 

ホッとした。

広大な平野には、人間も魔物も、そして動物すらいない。行き先も決めず、前に歩き続ける。

 

 

穏やか、という言葉が一番合うだろうか。澄んだ水が流れる小川、遠くに見える山々、鳥の声さえ聞こえない静かな森、どれだけ耳を澄ませても風の音しか聞こえない。

 

 

森に入っても静かすぎる。ここには偶然人がいないのか、もしくは……そこまで考えて、首を振る。

 

 

ガサっという草が動く音がして、振り向く。

 

「見慣れない顔ね。」

 

「うひゃあ、で、でたぁー!?」

 

「きゃっ……もう、ビックリさせないでくれる?」

 

薄桃色を基調とした可愛い服を着ていて、ミニスカートとニーハイソックスに挟まれた肌色領域がグッとくる。首元の少し大きめのリボンも彼女の可愛さを引き立てる。凝視している俺を覗き込んでくる水色の瞳は澄んでいるし、耳の房毛がイイ感じで、まるで本物のような獣耳が真っ直ぐ伸びている。

 

 

「コスプレか?」

 

「こすぷれ? あんた、何言ってんの?」

 

「ファッションといいますか、おしゃれといいますか。」

 

「さっきから訳の分からないことを……って、今はそんな場合じゃないか。あんた、さっさとこの森から出た方がいいわよ。」

 

「……後ろのペットは、お知り合い?」

 

指で彼女の後ろを指して、近づいてくる存在を伝える。

彼女は首を傾げたままこちらを向いているので、ペットではないようだ。

 

「一つ目の化け物ぉ!?」

 

美少女の手を咄嗟に取って、逃走する

むっ、この手のひらの柔らかさは癖になる。むにむに。

 

 

「あんた、グズグズしてたら食べられちゃうわよ!」

 

ドキドキする間もなく、彼女の走る速さによって、逆に引っ張られるようになった。

 

 

「初戦は、スライムかもこもこだろ!」

 

「セルリアンよ! もしかしてあんた生まれたばかりなの!?……って!?」

 

「ぐへっ」

 

急に彼女が止まったことで、足をもつれさせて無様にこけた。

 

見上げれば、俺の身長の3倍ほどはある大きさの化け物が2体だ。そのまだら模様のような表面は波打っていてキモいし、カメラを怪人化すればこんな感じだろうか。助けてぷぃきゅあ。

 

 

 

 

バッグから半分ほど飛び出しているバールを持とうとするが、震えている手では上手く掴めない。腰を抜かして立ち上がることすらできず、彼女の足手纏いにすらなっている状況で、俺は歯嚙みするしかない。

 

 

決して、目を閉じることだけはしない。

 

 

「だいじょうぶ」

 

隣にいる彼女の声が聴こえたとき、虹色の粒子を発散してセルリアンが弾けた。たぶんその大きな耳で駆けつけてきた知り合いの存在に気づいていたのだろう。

 

 

「おまたせー!」

 

元気よく挨拶をするのは、新たな美少女だ。

薄黄色の、彼女と似たようなコスプレをしている。

 

「サーバル、いくわよ!」

「うん!」

 

軽快な足取りで駆ける美少女戦士2人は、残りのセルリアンを翻弄する。2人とも圧倒的な跳躍力を見せているのだ。

 

 

一体どんな必殺技で倒すのかと思っていたら、光り輝く爪である。まるでソードスキルのように思えて、獣の爪を模した指で、セルリアンの背後から突き立てるという獣爪拳だ。

 

 

「やったね!」

 

満面の笑顔な美少女と、ホッとしている美少女の、ハイタッチは絵になる。

 

「もう遅いわよ。」

 

「えへへ、ごめんねー」

 

「来てくれてありがとうね。」

 

「うんうん!」

 

「それにしても最近のセルリアンって、へしがないから、なかなか骨が折れるわね。」

 

「だよねー。ところでー?」

 

2人は、なんとか立ち上がった俺の方を向いてくる。

 

「森で見つけたのよ。あんた、何のフレンズ?」

 

自己紹介をカッコよく決めようとしたら、先に発言された。

 

「フレンズ?」

 

「……ヒトだよね?」

 

「まあ、人だな。うん。」

 

寂しげに告げられたので、曖昧な答え方になった。

 

 

「そっか! なんかそんな気がしたんだ!」

 

「へー、本当に尻尾とか無いのね。珍しいわ。」

 

美少女にじっくり見つめられるのだから、目を逸らしてしまう。

 

 

「昨日のあれで生まれたのかなー?」

 

「そうかもね。ところであんた、それはなに?」

 

「ショルダーバッグ。それか肩掛けカバンだな。」

 

「かばん...?」

 

こういう物は珍しいのだろうか。

文明崩壊してそうであるが、美少女戦士が2人もいるからもう何も怖くない。

 

「俺の名前はつ……イッキでいい。」

 

「イッキね、よろしく。あたしはカラカル。」

 

「わたしはサーバル! よろしく、イッキ!」

 

「よろしく、カラカル、サーバル。」

 

まるで動物の名前だな。

 

 

「あのさ、ここはどこ?」

 

「ここはジャパリパークだよ!」

 

両手を広げて元気ハツラツで教えてもらったが、聞き覚えはない。一応これも聞いておくか。

 

「ヒトって、他にもいるのか?」

 

「サーバルは、一緒に旅してたのよね。」

 

「うん……でも、うまく思い出せないんだよね。」

 

いつも元気いっぱいのサーバルが時折り寂しげな表情を見せるのだ、訳ありなのだろう。

 

「じゃあ、もう少し遠くへヒトを探しに行ってみる?」

 

「そうだね、さばんなちほー以外も探してみようか! ね!イッキも一緒に行こ!」

 

「お、おお、それはありがたい。」

 

「あんた、もう少しシャキッとしなさいよ。」

 

「はい……。」

 

「で、どうやって探せばいいのかしら。」

 

「さばんなちほーにはいないと思うよ。」

 

「あんた、フレンズのみんなに聞き回っていたものね。」

 

「闇雲に探すのもな。だが家を探せばいい。」

 

「いえ?」

 

「ヒトの住み処のことだ。それは建物であることが多い。」

 

「その、たてものって?」

 

「木や石で組み立てる、巣だな。雨風をしのぐための場所。」

 

「へぇー。鳥のフレンズみたいだね!」

 

「なんだかよく分からない大きなもの、それを探せばいいのかしらね。」

 

彼女たちからすれば、不思議な物になるのだろう。俺から人間からすれば、オーパーツだの歴史的建造物に相当する。

 

「まあ、そんな感じだ。」

 

「手がかりが増えたわね。」

 

「よーし! じゃあ、レッツゴー!」

 

 

 

こうして、俺たちの旅は始まった。

未知の世界への旅立ちは不安でいっぱいだけど、

「ねぇねぇ!」

 

「……なんでしょう?」

 

「わたしの得意なことは狩りごっご! イッキは何が得意なの?」

 

モンスターハンターのことなのか、リアル狩りのことなのか。先ほどの戦闘もその狩りごっこの賜物なのだろうか。

 

「……なんだろう。食べること?寝ること?」

 

「あんた……」

「ナマケモノのフレンズみたいだね!」

 

「いや、まだセルリアンとは戦えないなって思って。」

 

「別にいいわよ、ちゃんと逃げてくれたら。」

 

「そうそう!フレンズによって得意なことは違うから!ヒトのフレンズって、いろんなこと知ってるんだよね!」

 

「お、おう、そうだな。」

 

2人の優しさが傷ついた心に染みる。

がんばろ……

 

 

 

具体的に言えば、このバールを上手く使いこなして、

「ねぇねぇ! バッグには何が入っているの?」

 

「食べ物はないぞ。」

 

「それだったらー、あそこ! 寄っていかない?」

 

前方にある移動販売車を指差して、真っ先にサーバルが勢いよく走っていった。

 

 

「……いつものことよ。」

 

好奇心旺盛なサーバルに対して、カラカルはもう慣れているのだろう。呆れた仕草をしつつも、なんだかんだ放っておけないと思っている、そんな優しいフレンズだ。

 

 

「カラカルさん!」

 

「久しぶりね、ロバ。」

 

「はい! この間助けてもらったお礼ですので、カラカルさんもいくつかどうぞ。」

 

 

灰色の女子学生服を着ていて、たぶんロバの耳のあるフレンズが売り子をしている。そろそろわかってきたが、この世界の人間は基本的には獣人なのだろう。ヒトの耳を持つことはなく、まっすぐ伸びたケモミミである。決してコスプレなどではなかった。

 

 

「ジャパリまんに、ジャパリパン、ジャパリチップスにー、ジャパリソーダ。」

 

いくつも抱えて、俺やカラカルへ見せてくる。

 

「ね! どれがいい?」

 

「あたしはジャパリパン貰うわよ。」

 

「とりあえず、ソーダとパンを。」

 

このソーダ、温いな。

パンはコンビニを思い出す食感と味で、少し苦みがあるのは何かしらのビタミン剤でも混ぜたようだ。

 

 

「これ、入れておいて!」

 

「ちょっ!」

 

いくつものジャパリまんをバッグに詰め込んでくる。

 

 

 

「どこかに行かれるんですか?」

 

「ちょっとヒトを他のちほーまで探しにね。」

 

「長い旅になりそうですね。」

 

「まあね。たぶん、そうなるのよね。」

 

 

 

確かに食料は旅に必要だけれど、決してこのバッグは四次元ポケットではない。

 

「これはなに?」

 

「スケッチブックな。」

 

パラパラ開いてみても、どこかの風景画だ。

 

「うーん、わかんないや!」

 

「まあ、俺が描いたんじゃないしな。」

 

ジャパリまんでいっぱいのバッグに、入れておく。

 

 

「ありがとう。しばらく会えないわね。」

 

「ええ。お気をつけて。」

 

「じゃあね、ロバ!」

 

2人の会話も終わったようで、再び果てなく続く道を歩いていく。

 

 

 

風化した人工物を見て寂寥感が湧き出てくるが、元気ハツラツなサーバルや何かと気にかけてくれるカラカルのおかげで、前を向けている。

 

 

 

 

「つか…れた……」

 

広大な自然を嘗めていた。

 

雲一つない青空ということもあって、どんどん体力を削られたのだ。サーバルやカラカルも、肩で息をしていてつらそうだ。

 

「ちょっと休んでいこっか!」

 

「そ、そうね。あそこまでがんばりましょう。」

 

サーバルは気にしていないことを教えてくれるし、カラカルもちゃんと心配してくれる。日陰となっているところまで行って、人工の建物の壁に寄りかかって座る。喉を潤すものがソーダしかないので、水の大切さを思い知らされた。

 

カラカルたちに至っては、地面に寝そべっている。

 

 

「ところで、こういうのがたてもの?」

 

「そう。たぶん、ヒトの住みかではないけど。」

 

「なるほどね。」

 

「ね!入ってみようよ!」

 

今はもう動かない改札を抜けて階段を上がれば、車両が1台だけある。サバンナを横断するモノレールの駅といったところか。もしこれに乗ることができたなら、下の風景を見ながら遠くまで行くことができる。

 

「ボス……?」

 

「誰が?」

 

『扉閉まりまーす、ご注意ください』

 

「なんだ、このマスコットキャラ。」

 

「ボスね。」

 

海賊の格好をした小型のハロっぽいのが運転手らしい。

海賊とモノレールでベストマッチ!でしょうかね。

 

 

『発車しまーす』

 

「おっ、動いたな。」

 

「しゃ、しゃべった...」

 

「え?」

 

お互いに顔を見合わせる。

 

 

「すっごーい!飛んでるみたーい!」

 

うきうきしているサーバルへ、視線を俺たちは向ける。

 

 

「とにかく、これでヒトが見つかるかもね。」

 

「そうだな。」

 

 

「わーいわーい!」

 

「もう、落ちるわよ。」

 

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

 

まずは、サーバルが窓から身を乗り出すのをやめさせるか。

 

 

 

夕日が、俺たちを照らしていた。

 

 

「サバンナから出ることは初めてだけど、なんだかワクワクするわね。」

 

「旅って、楽しかったことは覚えてるよ!」

 

「そうか。そのヒトと一緒に旅をしたんだな。」

 

「うん、そうみたい!」

 

こうして、俺たちの旅は始まった。

 

未知の世界への旅立ちは不安でいっぱいだけど、ワクワクもしている。サーバルは友達を探しに、俺はヒトを探しに、カラカルはサバンナ以外の世界を見るために。

 

 

「じゃあ、一眠りするか。」

 

「えー、今から夜じゃんか!」

 

「ヒトのフレンズって、夜行性じゃないのね。」

 

カラカルも昼のサーバル並みにテンションが上がっている。これって昼夜逆転生活しなければならないかもな。

 

 

手持ち無沙汰なおかげで、車内の壁で爪砥ぎをするフレンズたちに呆然とした。

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