けものフレンズ2の、にじそーさくだよ!   作:ヒラメもち

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第11話 あったかい

サバンナ地方を南へ、バイクで駆け抜けていく。

真っ暗な道を、ライトと月が照らしている。

 

背後には火山があってどんどん遠ざかっていた。振り向くことはないけれど、この曇り空が状況を表しているように思えた。今もかばんさんたちはジャパリバスで火山に向かっていることだろう。

 

「そろそろ!」

「ああ!」

 

大きな声で言葉を交わす。

 

 

光源のほとんどないジャパリパークにおいて、暗闇の世界を照らしているのがジャパリホテルなのだろう。目測で8階くらいのホテルだが半壊していて、突っ込むようにして完全に固まっている塊は、黒セルリアンの成れの果てに見える。

 

 

「しかし静かだな。」

 

海底火山が活発化していると言われているのに、海の波はやけに穏やかだ。薄暗い周囲を見渡しても辺りにセルリアンの姿はないし、カラカルを見ても首を振った。さすが夜行性。

 

「誰か、こっちに来ているわ。」

 

「そうみたいだな。」

 

灰色のセーターを着ていて、カラカルたちより横に広く大きな耳が目立つ。しかし、ゆったりとした服に隠された大きな「ヴェアッ」……また肘打ちか。ジト目がつらいし、眠気覚まし的にも気を引き締めるにはいい喝だった。

 

「また変なこと考えてるんじゃない?」

 

「夜遅くによく来てくれたの。どうかしたの?」

 

「気にしないで。あんたは?」

 

「私はオオミミギツネなのね。一応、このジャパリホテルの主なの。」

 

「あたしはカラカル、こっちはイッキよ。」

 

「よろしくなの。あなたたちも旅をするフレンズなのね。休憩していくといいの。」

 

「ちょ、ちょっとー」

 

嬉しそうに俺たちの背後に回って、背中を押してくる。

 

「いいのいいの、キタキツネたちのところみたいに、体が浸かれるくらいのお湯で水浴びできるのね。」

 

「いや、それよりもなんだけど。」

「あの黒い塊は最近できたのか?」

 

温泉のことをもっと詳しく聞きたい気持ちを抑える。

 

「元からあったものなの。どうかしたの?」

 

「いや、それならいいんだ。最近、へしのないセルリアンを見ていないか?」

 

「見たの。知らないフレンズが倒してくれたけどね、なんだか苦しそうだったの。」

 

「それってあの娘じゃない?」

 

「ああ。たぶん、ビーストだろう。」

 

ジャングル地方に来る前にこの辺りを通ったのだろう。なんていうか、彼女は本能的に何かを探しているようにも思える。そしてセルリアンを狩る時だけは、意志が見えるような気がするのだ。

 

 

「ちょっとあんた!」

「あの子たちが危ないのね!」

 

 

一早く、カラカルたちはフレンズの悲鳴を聞き取った。オオミミギツネが勢いよく駆けて行く。それを追いかけるカラカルにも追いつけそうにないが、俺もできる限りのスピードでホテルに向かう。

 

 

「た、たすけてくださ~い!」

 

外側に若干はねている黒のロングヘアーで、ハイビスカスの花を模した髪飾りが目立つ鳥のフレンズがこちらへ走ってくる。頭部にある翼はロードランナーよりも小さくて、飛ぶのは得意ではないのだろう。

 

「な、なんくるないさ~」

 

目をキュッとして小さな翼を羽ばたかせ木に登る。そんな彼女を追いかけてきているのは、サーバルやカラカルを模したような1つ目黒セルリアンだが、大きさは小さくてその原型を留めようと必死にも見える。

 

バッグから引き抜いたバールでその身体を叩いただけで、パッカーン、である。しかし、その数は多いし、視界も悪い。たぶんフレンズ自体を模したのではなくて、ぬいぐるみを模したのだろう。

 

 

「こっちこっち~ですよ~」

 

 

大きな声で、セルリアンたちの攻撃目標を攪乱させてくれる。木の上にいるフレンズを狙って群がっているのだから、1体1体確実に背中から不意打ちしていけばいい。彼女を追いかけてきた10体ほどのセルリアンをパッカーンした。

 

 

「た、たすかったですよ~」

 

「こっちこそ。俺だけじゃヤバかった。」

 

「そ、そうだ。ハブちゃんたちがまだホテルに~!」

 

「急ごう。」

 

 

セルリアンの発生源があるかもしれないので気を引き締める。屋内に入ると、灯りがついていた。長い廊下は古ぼけた布が敷かれていて、いくつもの個室が存在している。かつて多くの人間がここに泊まっていたことを考えると、ジャパリパークは観光地だった可能性が高い。

 

つまり、『輝き』で溢れている。

 

恐らくホールに、カラカルたちの姿だけが見えた。

どうやら、黒セルリアンはいないらしい。

 

「無事、か……」

 

「ぁん…やめなさいよぉ……」

 

平原地方で会ったフレンズとは、別の蛇のフレンズだ。カラカルのふさふさな桃色の尻尾を、迷彩柄のパーカーのフレンズがハムハムしている。痛がる様子はなく、歯を突き立てていないのだろう。

 

「なに、やってるんだ……?」

 

「イッキ、無事だったのね。ぅみゃぁ…」

 

「ハブちゃん、もう勘弁してあげるのね。」

 

解放されたカラカルが倒せそうになるのを俺は支える。彼女の頬は紅く染まっていて、呼吸が早まっている。そして、さっきまでハムハムされた尻尾は時折りぴょこぴょこと動いている。

 

「なにはともあれ、助かったのね。ありがとうなのね。」

 

器用によじ登られて、大きな耳のハムハムをされながらそう告げる。

 

「どういたしまして……」

 

 

周囲を見渡して、目に入ったのはお土産屋だ。

デフォルメされたフレンズたちの人形がある。

 

……かつて、人間とフレンズは交流していたのだろう。だがしかし、人間のことを知るフレンズはそう多くはない。イエイヌはヒトを求めていたが、人間と会った頃の記憶はほとんど摩耗しているらしいし。

 

フレンズは生まれ変わっている、のだろうか。

何度か脳裏に浮かぶ光景、それは俺も例に漏れない理由のかもしれない。

 

 

「アカミミガメちゃん、もう大丈夫だよ~」

 

「は、はいぃ~」

 

立派な甲冑を着ているが、あまり戦うことが好きではなさそうなフレンズだ。

 

「紹介するのね。ハブさん、ヤンバルクイナさん、アカミミガメさんなのね。」

 

「はじみてぃや~さい」

 

「なんていうか、おもしろいメンバーだな。」

 

「ここが気に入って、この子たちも住み着いているのね。」

 

「私はお湯が気に入ったんですよ~」

 

「お外は苦手ですし……お、屋上の日向ぼっこが私は好きなので。」

 

「俺は、ここに来るいろんなフレンズをハムハムするためだ。」

 

「あ、あんたね~」

 

「ははっ、ごめんって。」

 

「……それで、今日は泊まらせてもらうか?」

 

「そうね。外も暗いし、あたしも疲れたわ。」

 

 

かばんさんの話を聞き、セルリアン騒ぎについて知らされ、そして慣れないバイクでの長距離移動に、黒セルリアンとの戦闘だ、カラカルもかなり体力を削られたのだろう。ホテルの入り口にあるシャッターを閉めておけば、黒セルリアンはわざわざ入ってこないだろう。

 

 

「助けてくれたお礼に、一番いい部屋を案内するのね。」

 

「あ、疲れたならお湯に浸かるといいですよ~?」

 

「ふ、不思議と、元気になれるんですよ!」

 

「へぇ~、よさそうね。行きましょう。」

 

案内された先には、『男』と『女』の文字が書かれたありふれた暖簾だ。女湯の方がずいぶん大きく作られているようで、『フレンズはこちら』・『男子禁制』という文字が書かれているのだが、ほとんどのフレンズは字を読めないだろう。

 

「そうそう。ふくを脱ぐといいぜ。」

 

「ギンキツネたちが言っていた、すごい発見なのね!」

 

「ふくって?」

 

「これなのね。」

 

首を傾げたカラカルの服を軽くつまんで指し示す。

 

「えっ、これって取れるの!?」

 

「取ると、つるつるして気持ちいいのね。」

 

「ずいぶんと身体が軽くなりますよー」

 

亀のフレンズが、甲羅を模した甲冑を脱いでいいのか。

俺はそれぞれの暖簾を指差して、指示を出す。

 

「じゃあ、俺はこっち、みんなはそっちな。」

 

「広い方がいいのに、どういうことです~?」

 

「イッキだけって、さびしいじゃない?」

 

たまぁーにフレンズをそういう目で見る時はあるが、一線を越えるつもりはない。ていうか、彼女たちに恥じらいというものが存在しない。

 

「……こっちはヒトのフレンズ、専用なんだ。」

 

「それは知らなかったのね。」

 

「なんだか煮えきらないんだけど。まあ、また後でね。」

 

なんとか、なったか。

 

 

 

 

****

 

たぶん久しぶりの、温泉を満喫した。

 

「あー……」

 

部屋のベッドへ、ドサッと寝転ぶ。

ジャパリパークで目が覚めてからずっとドタバタとした毎日で、こうして静かな場所で1人きりになるのは珍しい。少しずつ空は明るくなってきていて、そろそろ日の出が始まる時間だろう。

 

青い海の向こうには別の島が見えた。

もしかしたらそこに人間がいるのでは、と。

 

航海している船の姿はないし、一度も飛行機雲を見たことはない。

もしかしたらもう他の人間はいないのでは、と。

 

「なんだかなぁ」

 

俺の答えは、まだ見つからない。

過去を振り返ることも、前に進むこともしないまま。

 

 

「まーた、考え事?」

 

「……なんで同じ部屋…同じ場所なんだ。」

 

「なんでって、今まで近くで眠ってたじゃない?」

 

「それはまあ。野宿とは違って、仮のおうちみたいなもので……まあいいや。」

 

いつも、こっちが動揺させられてばかりなのだ。

 

部屋にあったタオルで、ベッドに腰掛けたカラカルの濡れた髪を拭き始める。全く手入れされていないのに、綺麗な髪をしているのはフレンズだからなのだろう。水浴びする度に自然乾燥させるのだから、いつも気になっていた。

 

「くすぐったいわね。」

 

「気持ちいいだろう。」

 

「それはまあ、そうだけども……ふみゃあ~」

 

手櫛だけで形の整う、さらりとした髪だ。

 

 

「……ね、ねぇ。最近、身体の調子が変なの。」

 

「それは、どういう風に?」

 

俯いて、

申し訳なさそうに告げるのだから、自然と真剣になる。

 

「お腹じゃなくて、胸がね。いっぱい動いた後ってドクドクってするじゃない。それ、今もそうなの。」

 

「お、おう……?」

 

 

「一応サーバルに聞いたんだけど。あたしが、ちゃんと食べてないから、しっかり寝てないから、かしら。お湯に浸かったからかしら。………こんなこと聞いちゃってごめんなさい。イッキもいろいろ悩んでいるじゃない?」

 

 

その答えを、伝えていいのだろうか。

かばんさんと違って、俺は覚悟できていない。

 

 

「それは、」

『パークの非常事態につき、お客様はお外に出ないでください。』

 

警報と館内放送、そして窓を塞ぐシャッターが次々と降りていく。

 

「な、なんなの!?」

 

『館内は安全です。繰り返します、館内は安全です。』

 

どうやら、寝かせてくれないそうだ。

 

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