けものフレンズ2の、にじそーさくだよ!   作:狩る雄

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第12話 だいじょうぶ

島の中心の山の向こうから、朝陽が輝く。

対して海は荒れていて、不穏な空気を醸し出している。

 

 

かつて西棟があった場所には巨大な黒セルリアンに押しつぶされた形跡がある。つまりこのホテルの中にいれば安全というわけにもいかないだろうが、意図的には襲ってこないだろう。

 

 

ザバーン!

大きな音とともに、海中から巨大な物が姿を見せた。

 

 

「ちょっと、大きすぎじゃない!?」

 

船、それも客船だ。

すでにコピーを行って黒色から、水色へと変化している。

 

一つ目どころではなく、確認できただけで4つ目。

複数体が合体しているということだろう。

 

「イッキさん!カラカルさん!」

 

ナルカ、そしてマルカやドルカが海から顔を覗かせた。

 

「あんたたち、無事でよかったわ!」

 

「うん。ぼくたちはだいじょーぶだよ!」

 

「イッカクちゃんたちががんばってるし!お母さんもいるからね!」

 

「ですが、あのセルリアンだけは……」

 

彼女たちは索敵として、船のセルリアンを追いかけてきたのだろう。砂浜に上がってきたと同時に、4本の足を生やしてどこかへ歩いていく。

 

「こっちは、俺たちがなんとかする。海のことは、頼んだ……」

 

「わかりました。お気をつけて……」

 

マルカやドルカは元気よく返事してくれたが、ナルカは浮かない顔のままだった。そもそも海底火山による、セルリアンの発生なんてどうやって止めればいいかわからない。治まるまで待つしかなくて、自然災害に俺たちは抗うことはできないのだ。

 

 

だから、今は船セルリアンをどうにかしないと。

朝陽の方向であって、島の中心に向かっているだろう。

 

 

「ねぇ、あっちって。さばんなちほー、よね……」

 

「そうだな。だが俺たちだけじゃ……」

 

懸念するべきだった。

 

「っ! 先走るな!」

 

カラカルにとっては生まれ育った故郷で、友達もたくさんいるはずなのだ。カラカルのことをよく知っている気になっていたけれど、彼女の好きなことを聞いたことはない。俺はフレンズたちのことを深く知ろうとはしなかった。

 

今まで見てきた中で、一番速く走っていく。

バイクでなければ、追いつけないだろう。

 

「ど、どうしたのね?」

 

「セルリアンを倒しに行く。」

 

「な、なにかできること、ないでしょうか。」

 

彼女たちは何が得意か知らない。

飛べるとか、遠くの音が聞こえるとか、硬さとか。

 

戦えるかどうかで言えば、得意ではない…と思う。

 

「……避難してくれ。」

 

それだけ告げて、バイクを発進させた。

森の中へ入り、かつて道だったと思う場所を通っていく。

 

 

見覚えがあるって、カラカルと出会った場所。

はじまりであって、無力感を味わった場所。

 

 

「カラカル!」

 

ロバと、たぶんシマウマだ。

彼女たちを庇うように船セルリアンと対峙している。

 

「だいじょうぶ」

だから『逃げて』

 

 

そんな目で、そう告げたのか。

かつての俺は。

 

 

「やああー!」

 

勢いよく跳んで、彼女の自慢の爪を突き立てて。

 

「そんな……」

 

包みこまれるように、―――

 

 

 

****

 

 

 

 

 

動物に戻ったり、記憶を失ったりすると聞いた。

そして最悪の場合、消滅。

 

 

バールを引き抜いて、走り出した。

間に合え、それだけが頭の中を埋め尽くす。

 

 

「あなた、ヒトのフレンズね?」

 

ライダース―ツを着た女性が、立ち塞がる。

 

「……あんたは?」

 

「質問を質問で返さないでほしいわね。私はカバよ。」

 

「そこをどけ。」

 

「あなただけで、勝てるならね。」

 

確かに、このまま戦っても無駄だろう。

『武器』がこの手になければ、俺は無力なのだ。

 

「もっと、周りを見なさい。あなたは独り?」

 

ロバとシマウマ、そしてカバ。

周りには頼れるフレンズがちゃんといる。

 

「なんでも自分だけでやろうとしないで。本当に辛い時は、誰かを頼ったっていいのよ?」

 

その言葉にハッとする。

たぶん、ずっと自立することばかり考えてきたんだろうな。

 

かばんさんには、まだまだ勝てそうにない。

 

「よしっ」

 

知ること、それが俺の好きなことだ。

ここジャパリパークで生まれて、彼らは教えてくれた。

 

腕捲りをして、古ぼけた帽子を被り直す。

 

「協力してほしい。」

 

「ええ。手伝ってさしあげますわよ。パークの危機、いえ、あなたの大切なフレンズのために。」

 

「サンキュ。」

 

「わ、私たちにもできることがあれば!」

 

「ああ。何が得意だ?」

 

ロバとシマウマのことについて詳しく知らないのなら、本人から聞けばいい。

 

 

「はい! 私は体力が自慢です!」

 

「隠れることと、走ることですよ。あと、ロバちゃんや私って目や耳がいいんです。」

 

「私は、セルリアンに負けないほどのパワーを持っていますのよ。」

 

「ありがとう。」

 

進行方向より、戦闘場所はサバンナになる。

低木がまばらで、草原が広がっている。

 

セルリアンの弱点であるへしは見当たらないし、巨大な敵への攻撃手段も限られてくる。

 

「あれだ。あの人工物にぶつけさせて、身動きを止める。」

 

俺が目覚めた場所。

思い浮かべるのは、ジャパリホテルで固まった黒セルリアン。

 

「岩に、埋もれさせるということですわね。」

 

「カバと俺で、あのセルリアンを誘導。そして、身動きの止まったやつに、一斉攻撃を加える。」

 

「ですが、私たちだけでは」

 

「ああ、だから。シマウマ、ロバ。誰かを呼んできてほしい。」

 

「わかりました!」

「ハンターの方が、近くにいるといいんですけどね。」

 

彼女たちは別々の方向へ、勢いよく走っていった。

彼女たちなら、サバンナ地方を駆けまわることができる。

 

「よろしく。」

 

どれだけ多くのフレンズを集められるかにかかっている。

 

 

 

カバは俺の後ろに乗り込んだので、バイクを発進させる。

 

 

 

 

****

 

黒セルリアンはいまだに山の向こうの、朝陽を目指している。

 

「野生解放」

 

身体が熱くなり、頭が一気に冴えてくる。

『道具』を使う、それが人のフレンズである俺のスキルだ。

 

 

ハンドルを握る力が強まり、スピードアップ。

セルリアンより、前に躍り出た。

 

 

「ずいぶんと無茶をしますわね。」

 

そうカバが告げるように、空腹感と疲労感が俺を襲う。

 

「あと少し」

 

しかし追いかけてくるセルリアンを誘導するには、持続させるしかない。

 

わざと、スピードを落とした。

影が俺たちを包み込んだ、そのタイミング。

 

「今よ!」

 

見覚えのある建物の前で、急に方向転換。

飛びこんできた巨体は、壁を破壊して崩れた瓦礫に埋もれた。

 

 

「これで……」

 

「あなたの想い、伝わったようですわね。」

 

 

プロングホーンは突き上げるように、彼女に似たフレンズがジャンプして振り下ろすように、槍を振るう。

 

「私たちが一番乗りみたいだな。」

「そうみたいね。」

 

「さすがです! プロングホーン様!スプリングボック様!」

 

爪による一閃。

しかし、チーターと、彼女に似たフレンズが汗水を垂らしている。

 

「体力で負けたことはもう言い訳にしない。もっと速くなって勝てばいいのよ!」

「ええ。もっと速くなりましょう。」

 

 

彼女たちの攻撃でもセルリアンを倒すことには至っていない。

しかしロバやシマウマは、『大丈夫です』と告げた。

 

 

「朝だから眠いだの、おなかすいただの、と。」

「後で、かばんとイッキのりょうりを食べれるのですよ。」

「美味しいりょうりのために、我々も力を貸してあげますよ。」

 

 

『トモダチを助けに来たよ』、そう聞こえた。

 

「サーバル! みんな!」

 

「親友を助けにきたよ!」

 

山に向かっていたはずのかばんさんたちに加えて、パンダたち、ゴリラたち、PPP、それにオオミミギツネたちも来てくれた。そして青セルリアンたちまでもが協力してくれるようだ。

 

「困難は群れで分け合え、ですわよ。」

 

みんなが得意なことを合わせて、カラカルのために。

 

 

「イッキ。君の想いはきっと届くよ。」

『がんばってね』

 

かばんさんとラッキーさんが応援してくれる。

 

 

勇気が溢れてくる。

俺は、また踏み出すことができた。

 

彼ら彼女らの、そして彼女の手を借りることはない。

 

「俺はもう、大丈夫。」

 

いつも手を引いてくれた彼女とは、まだまだ一緒にいたいから。

 

 

虹に、手を伸ばした。

 

 

 


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