下の風景は竹藪が目立ってきた。
車両はここで各駅停車のようで、一度ここに止まった。
「うっ…うーん、止まったの?」
「ああ、おはよう。」
時刻はたぶん9時を過ぎている。
あくまで腹時計だとか勘だとかで、太陽の位置から時刻を推測することなどできない。こういうときスマートフォンがあればなと思う。異世界転生ものなら、基本的にくれるだろうに。ていうか、他の『転生特典』の方が欲しい。赤龍帝の籠手じゃなくて黒い龍脈とか、サポートによさげだよな。
まあ、所詮はないものねだりだ。
それに俺には、このバールがある。
「うみゃあ~」
「サーバルも起きなさい。」
「え? 着いたの?」
「そうみたいよ。」
「そっか。冒険だね!」
この夜行性の2人、朝まではしゃいでいそうだ。
昼休みは長そうだな。
一度車両から降りて、駅から出る。
未知の世界にカラカルもキョロキョロしている。
「ね! なにこの木!?」
朝から元気ハツラツなサーバルが見たことのないものに興味を示す。
「竹だな。木ではない。」
「そうなんだー!」
サーバルが面白がって揺さぶれば、ガサガサと音を立てている。
その音でさらに喜ぶ。
「よく知ってるわね。」
カラカルも、片手で握れるほどのサイズを揺らしてみている。
「ヒトのフレンズだからな。」
純粋に褒められると、むず痒い。
「ね! もっと奥に行ってみよ!」
はやる気持ちを抑えられず、竹藪の道の果てを指差している。
ていうか、ぴょんぴょん走っていった。
「はいよ。」
「あんたたち、目的を忘れてない?」
「そうだな。建物を探すことと、水場を探さないとな。」
「結構考えているのね。」
「まあな。でも、旅って楽しむものだし、サーバルのはしゃぎ具合も間違ってはいない。」
「それもそうだけどね。」
「ね! あなた、なんのフレンズ? この小さいのは尻尾なの!?」
白と黒を基調としたセーラー服を着ている。
丸い耳と尻尾を持つフレンズが、平たい岩の上で横になっていた。
「パンダのフレンズか?」
「ねぇねぇ、寝てるだけなの? お腹痛かったりしない?」
「だ~れ~?」
「あっ、ごめんね。起こしちゃったみたいだね。」
「いいよ~、わたしはジャイアントパンダ~」
のんびりとした話し方で、そういう性格が滲み出ている。
「わたしはサーバルだよ!」
「あたしはカラカルよ。」
「俺の名はイッキ。通りすがりの冒険者だ。」
「そうなんだ~」
イケボを華麗にスルーされた。
気を取り直して。
「質問なんだが。この辺りに、珍しい場所だとか、ヒトが作った物とか、ないか?」
「う~ん、あるよ~」
「ほんと!?」
「どこにあるの?」
「えっとねー、ここをまっすぐいって~」
「うんうん!」
「大きな岩を、右に曲がって~」
「うんうん!」
「えっと~~……スヤ~」
「あんたね……」
「眠るのが得意なフレンズなんだね!」
しかし肝心の情報が途切れたとはいえ、あることは確かめられた。
「あー!ジャイアントパンダちゃん、またこんなところで寝ちゃってるんだ。」
黒を基調とした服、髪や尻尾は茶色の美少女だ。
全体的に少し細い体つきをしている。
「あんた、だれ?」
「レッサーパンダって言います。」
「はじめまして。俺の名はイッキ。とおりすが」
「わたしはサーバル!」
「カラカルよ。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「あなたもパンダのフレンズなんだね!」
「ええ。ジャイアントパンダちゃんと比べて、地味、ですよね……」
「えー、そうかな?」
「わたし、ジャイアントパンダちゃんみたいに、魅力、ないですよね……」
「だいじょーぶ、フレンズによって得意なことは違うから!」
「でも、お役に立てるかどうか……」
まあ、そういう悩みは俺にもわかる。
戦える勇気も力もまだまだなくて、いまだに『転生特典』を求めてしまう。
「じゃあ、質問なんだが。珍しい場所だとか、ヒトが作った物とか、見たことないか?」
「ヒト、ですか?」
「ジャイアントパンダちゃんが知ってるって言ってたんだ!」
「あっ、でもでも、珍しいものなら知っています!」
「どこにあるかわかる?」
「わかりました! 案内しますね!」
「やったーっ!」
「助かるわ。」
竹藪の道を歩いていくけれど、そういう場所は見当たらない。
ていうか、レッサーパンダ本人がキョロキョロしている。
少しずつ霧が立ち込めてきていて、明らかに山登りをしている。
「すっごーい! たかーい!」
「いい眺めね。」
遠くの風景を一望できる。
モノレールの先も見えていて、まだまだ先は長そうだ。
老朽化で欠落していないかどうか、実は心配だった。
「あの、その……ごめんなさい!」
「どうかした?」
「実は、わからないんです……」
「まあ、薄々感じていたわ。」
「でも、レッサーパンダちゃんのおかげで、ここに来れたよ!」
「そ、そうなんですね。」
「俺としても、いろいろ知ることができた。」
「そうらしいわよ、よかったじゃない。」
カラカルやサーバルもあまり気にしていないらしい。
まあ、まだまだ続く旅なのだ。
「うえええーん、役に立てたんだ~~」
「あーもう、泣かないの。」
「ね! 一度休憩しようよ!」
「水場とか知らないか?」
「ぐすっ、それならわかります! こっちです!」
さっきよりもうきうきと案内してくれる。
このマーキングは……、フレンズの習性なのだろう。
ともかくレッサーパンダのおかげで川までたどりつけたし、流れもちゃんと穏やかだ。
「ここが、オススメなんですよ!」
小魚や虫は、いないんだな。
「ありがとう。喉がからからだったのよ。」
「冷たくておいしいね!」
標高が高いこともあって水が澄んでいる。
腹は壊さないだろう。
俺も手で掬って飲めば、ひんやりとしていて美味い。
「イッキ!はやくはやくー」
「はいよ。」
バッグから、ジャパリまんを手渡していく。
もちろん、レッサーパンダにもだ。
「えっ、いいんですか?」
「もちろん!」
「まだまだあるわよ。」
「ほらな。」
バッグの中にある大量のジャパリまんを見せる。
「持ち運びしているなんて。イッキさんって、すごいんですね!」
「ヒトのフレンズの、知恵だな。」
すでに中身のないジャパリソーダの容器に、川の水を汲む。
「なにしてるの?」
「旅には、水が必須だろ。いつでも飲めるしな。」
「……あんた、天才?」
カラカルですら、水場は探して飲むものらしい。
だがサーバルは川に口をつけてゴクゴク飲んでいるし、水場はその都度探す必要がある。この量では圧倒的に足りないだろう。
「きっもちーい!」
フレンズたちが、汗や汚れを流すために飛び込み始めた。
しかも衣服を着たままである。つまり、すけ……
そもそも、服を脱ぐという習慣がないのだろう。
「あんたも来なさいよー!」
「ぜひとも!!」
あくまで、水浴びしただけだ。
夜行性たちのために休憩も挟んだ後、一度ジャイアントパンダのところへ帰ることにした。
「ここって なになに!」
公園の遊具、その部品が散らばっている広場を偶然にも見つけた。
「ヒトの作った物の、残骸だな。」
「ジャイアントパンダが言っていたのは、これのことかしらね。」
「あ~いた~」
「あっ、ジャイアントパンダちゃん!」
「ここなんだ~、教えようと思ったとこ~」
「そっか!」
「ヒトのフレンズはいなさそうね。」
「まあな。」
この広場には、生活している感じはない。
ヒトのフレンズだったら、道具を集める習性があるはずだ。
現に、なにか使えそうな物がないか俺が探している。
「なんかくるよ!」
「セルリアンね!」
一早く、サーバルやカラカルが大きな耳で危機を察知した。
昨日会った個体より小さいが、数が多いし宙を浮いている。
俺たちではなく、壊れた遊具を襲ってきたように見えた。
しかしその攻撃対象は、俺たちに向いた。
まるで、極上の餌を見つけたような。
「いくよー!」
「あんたたち、動かないでね!」
腰を沈めて、駆けていく。
自慢の爪で切り裂いていけば、次々と消滅していく。
「わ、私も!」
ブランコの成れの果てに軽々と登って、勢いをつけて爪で引っ掻く。
「きゃっ」
しかし倒せたのは1匹。
地上に降りたレッサーパンダを数匹のセルリアンが襲おうとする。
「わたしのトモダチに、なんてことするの!!」
ジャイアントパンダが、力強い拳で、消滅させていく。
その威力は、明らかにオーバーキルである。
「一緒に、やるよ~!」
「うん!」
背中を守り合う2人を見て、俺もバールを引き抜く。
「おりゃあ!」
他のフレンズと比べれば、非力で拙い振り下ろしだ。
それでも、1匹は消滅させることができた。
「イッキ、やればできるじゃない!」
「やったね!」
「サンキュ」
各自20匹は討伐しただろうに。
まあ、自分の力でちゃんと一歩は進めた。
「疲れたから~、寝るね~」
「ジャイアントパンダちゃんったら!」
「そうそう~、いつもこんな私に構ってくれて~ありがとうね~」
「ううん、大切なトモダチだから。」
「そっか~、こちらこそ、これからもよろしくね~」
「はい、よろしくお願いします!」
今回出会えたフレンズたちは、さらに仲が深まったようだ。
俺たちもほっこりとした気持ちになる。
「じゃあ、あたしたちは行くわね。」
「旅をしているんでしたね。」
「そう! ヒトを探しているんだ!」
「そういえば、ヒトを探しているというフレンズさんに、会ったことがあります。」
「それはヒトじゃないのか?」
「いいえ。えっとー、ヒトではなかったですね!」
「忘れてるんじゃないの……」
「てへっ!」
こういう生き生きしている姿が、レッサーパンダは輝いている。
「じゃあ、またな。」
「はい! いつかまたここに来てくださいね!」
「ジャイアントパンダにもよろしく言っておいて。」
「まったねー!」
夕暮れの中、またモノレールに乗り込んだ。
海賊コスプレラッキービーストが運転してくれる。
「あー、楽しかったー!」
「次は、どんなところに行くのかしらね。」
カラカルもまた、うきうきしている。
「な、なによ?」
「旅って、いいだろ。」
「イッキがいるからかしらね。」
「な、なんでだ?」
「いろいろ知ってるからよ。」
「ま、任せな!」
そう褒められると、頬が熱い。
「ね! なにかおもしろい話をしてよ!」
「じゃあ、竹に関する話とかどうだ。竹取物語っていうんだが。」
「聞かせて?」
今夜は、寝かせてくれなさそうだ。