最後に見たのは、満天の星空だったはずだ。
見上げてごらん、青空だ。
檻の中で、ドナドナされているのだよ。
周囲を見渡しても、カラカルやサーバルどころか、フレンズがいない。
「よしっ」
持ち物を没収していないことを後悔するがいい。
2人とも、木でできた荷台でこの檻を重そうに運んでいる。
バッグから、バールを引き抜く。
そもそも、バールとは単なる打撃武器にあらず。独特のフォルムから繰り出される『てこの原理』こそが、人類が生み出した科学の産物なのだ。バールのようなものではなく、正真正銘のバールだからこそ、可能とする奥義なのだ。
「おりゃあ!」
「「わぁーー!?」」
檻を無理やり開けようとしたので、荷台のバランスが崩れた。
「ヴェアアアアーー!?」
結果的に、荷台は横転して俺にもダメージが入る。
「「「いたた……」」」
ともかく、檻は破壊された。
「ま、待て、話せばわかる。離せばわかるから!」
今から逃げる方法を画策する。
あらかじめ考えて動けばよかった。
「絶対に逃げてしまうでしょうね……」
「えー、そうなの?」
「なぜバレたし。」
コミュニケーション力が足りなかった。
時間稼ぎにもならない。
「ふむ。ヒトのフレンズ、侮れませんね。」
「これ、もう直せないよね?」
「偶然見つけたものですし、いいのでは。」
「いいんだな……」
まあ、人工物はフレンズにとってはガラクタなのだろう。その利用方法もあまりわかっていなくて、檻の閉め方も雑だった。
偶然見つけて、運びやすいから俺を放り込んだだけなのだろう。
「君を持ち上げて、運ぶの無理なんだよねー」
「そこまで太ってないし!」
「重いのは、確かですよ。」
力持ちのフレンズではないらしい。
「ていうか、なんで拉致したの。」
「らち?」
「あー、ここまで、どうして連れてきたのでしょうか。」
「依頼主が会いたがっているからですよ。」
「ようやく、ヒトのフレンズを見つけたからね!」
そんなに希少なのかよ。
サーバルの知り合いを探すことは苦労しそうだ。
「じゃあ、会いに行くか。」
「え? いいの?」
「まあ、埒が明かないみたいだしな。案内してくれ。」
筆記用具は、まだあるしな。
武器としてはバールもあるし。
「わっかりましたー!」
「こちらです。」
意気揚々と歩いていく2人の後ろを、歩いていく。
時折りこちらを向くのだから、油断ならない。
「あー、そういえばごめんね。」
「どうした?」
「ここまで、無理やり連れてきちゃったみたいだし。」
「ヒトのフレンズをようやく見つけて、つい熱くなってしまいました。昨夜の恩を、仇で返すことになってしまったようです。」
2人は探偵気質なのだろう。
頼まれたことを達成しようとするフレンズだ。
「いいよ。2人とも連れていくことに必死だったらしいし、フレンズには得意不得意あるんだし。」
「そう言ってもらえるとは…」
「それに、あの場に留まるのもマズかった。」
「ええ、朝になったらいなくなっていたとはいえ、用心に越したことはありませんから。」
「サンキュ」
「ねぇ、センちゃん! ヒトって、優しいフレンズなんだね!」
「個人差はあるけどな。」
「そうなんだー。あっ、あれって依頼主さんじゃ?」
「そうですね。ふむ。匂いに、気づいたのでしょうか。」
こちらに近づいてくるフレンズがいる。
急に飛びついてきて、食べられる気配はない。
「あなた、ヒトですね?」
水色と橙色の瞳、全体に灰色っぽい。
首輪にも思えるアクセサリーが特徴的だ。
「まあ、ヒトだな。」
さて、どうくる?
「私は、イエイヌです!」
「ぐほっ」
勢いよく抱きつかれる。
「会いたかったー!」
「ギブギブギブ!」
尻尾が、ブンブン振られている。
「依頼は完了ですか?」
「はい、ありがとうございました。これはお礼です。」
「わーい、ジャパリスティックだ!!」
「イエイヌ、また何かあれば呼んでねー!。もちろんヒトのフレンズさんも!」
「お詫びに、あなたはサービスでお請けしますよ。」
「おう、またな。」
「ではー!」
「では。」
2人とも、遠くへ去っていく。
なかなか酷い目にあったけど、ちゃんと和解できてよかった。サーバル風に言えば、フレンズになれてよかったということだ。
「ていうか、どうしてヒトを探していた?」
「まずはこっちです!」
「急ぐな急ぐな」
俺の手を引っぱって、道を走っていく。
こういう感じの飼い主、前世で見たことあるな。
河川敷、だっけか。
「着きました!」
その声で意識がここに戻ってくる。
寂れた家がいくつか建っていたが、人の声どころか、他のフレンズの声もない。
「ここには昔何人もヒトがいたんです。よく私も遊んでいました。」
「……へぇー」
1つの家の扉を開ける。
ピンクの内装で、目ぼしい小物はほとんどない。
「でも、みんないなくなってしまって。……でも、でもいつか……。」
「今もここに住んでるのか?」
「はい、お留守番しているんです。」
鍵閉めるのかよ。
たぶん人間の行動を見ていたのだろう。
ヒトの生活をよく学んでいる。
「ふむ。何もないか。」
タンスを開けても、中身はない。
全国の勇者が舌打ちしそうである。
「あの!」
「なんだ?」
「な、なにか言ってください。」
「な、なにを?」
「私にあれをやれとか、これをやれとか!」
「な、なんでもか!?」
「なんでも! 遠慮なく!」
頬を赤くした美少女が顔を近づけてくる。
ゴクリと、息を飲んで……
首を振る。
そもそも猫派だったわ、俺。
でも、犬もなかなか良いのでは‥‥
「おすわり。」
「はい!」
「お手。」
「はい!」
頬を赤くして、涙を流して喜んでいる。
美少女にやらせてるのだから、犯罪行為だな。
でも、やめられない。
「次はあれを!」
「フリスビーか。」
「ふりすびーって、言うんですね!」
「外、行くか。」
「はい!」
建物に囲まれた広場だ。
ここなら、ケガもしないだろう。
「いくぞー」
「わー!」
フリスビーは空を舞い、それを追いかけていく。
口に咥えて、帰ってくる。
ヤバい、俺捕まる。
おねだりに流されて、またやってしまう。
ちょっとだけ! あと1回だけだから!
「やーっと、見つけたー!」
その声で中断した。
サーバルとカラカルがこちらへ向かってきている。
「……何者です?」
「友達だ。」
「ともだち、って?」
飼い主としか、深く関わってこなかったのだろうか。
「あー、家族みたいなものだ。一緒に旅をしているフレンズだ。」
「……そうなんですね。旅、ですか。」
「はい!これ!」
「サンキュ」
ジャパリまんは、すでに食べられたか。
サーバルから手渡された色鉛筆を、筒に戻す。
「イエイヌ。この2人は、サーバルと、カラカルだ。」
「はじめまして。」
礼儀正しく、イエイヌが頭を下げる。
「うん!よろしくね!」
対して、サーバルはいつもの元気ハツラツである。
「なんだか仲が良いわね。」
カラカルがむすっとしている。
「まあ、いろいろあってな。」
「勝手にいなくなって、そして遊んでたっていうの?」
「えーと、いろいろ、重なってしまったというか。」
「はっきりしなさいよ!」
「俺のせいじゃ……いや、心配かけたな。」
「……無事で、よかったわ。」
俺たちは、こういうフレンズだから。
時には喧嘩もするし、ギクシャクしてしまう。
でも、ちゃんと仲直りする。
「すみませんでした。私が、ここに来させるようにしたので。」
寂しそうな表情で、イエイヌがそう告げる。
「……ねぇ、イッキはこれからどうするの?」
「みんな!」
サーバルが、腰を低くして戦闘態勢に入った。
続いて、イエイヌやカラカルも同じ方向を見る。
そのけものの声に、俺も遅れて気づく。
「少々、厄介なやつが来ましたね。」
「知っているのか?」
「ビースト、そう呼んでいました。」
「来るわよ!」
現れたのは、トラだ。
腕についた鎖が、特徴的だった。
目は輝いていて黒い瘴気を纏っている。
途方もない怒りを感じた。
「後ろにいてください! ここは私が!」
そう告げて、イエイヌが取っ組み合う。
しかしトラに対して、勝つことはままならない。
サーバルやカラカルも、有効打がない。
セルリアンとは違って、姿はフレンズなのだ。
「もう!どうしたらいいのかしら!?」
殺すことを、避ける。
「絶対に、守りますから!」
何か、俺にできることはないかと必死に探す。
動きを止めるにしても馬鹿力だ。
檻、いやそれはダメだ。
入ってみて、その苦しみは思い知った。
「……ふぅ」
一度後ろに引いてきたサーバルが、深呼吸する。
そして、再びビーストと対峙する。
サーバルもビーストも、同じように目が輝いていた。
睨み合う。
2人の威圧感に、震えが止まらない。
踵を返した。
森の中へ、ビーストが去っていく。
「逃げたの……?」
「はぁはぁ」
「サーバル、大丈夫か?」
「うん、なんともないよ!」
「……そうか。」
「あんたも大丈夫?」
カラカルの手を取って、イエイヌが立ちあがる。
「ありがとう、ございます。……あの、私は、役に立てましたか?」
「ああ、ばっちりだ。」
ていうか、俺が足手纏いだったし。
「あたしたちだけじゃ、危なかったわ。」
「そうですか、よかったぁ……私、戻りますね。」
「あんた……」
「ヒトに会えて嬉しかった。あなたの居場所は、あのおうちではないのですね。」
「まあな。イエイヌはどうするんだ?」
「私はお留守番を続けます。それが使命ですから。」
「ちょっと、あんた!」
「最後に! 最後に、言ってもらえませんか、『おうちにおかえり』って。」
泣きそうになりながら、告げることではないだろう。
一度、大きく息を吸って両手を突き上げる。
「うるせェ!!いこうーー!!」
「……え?」
シャキっとしろってカラカルもいつも言ってくれるし。
「探しに行くんだよ、ヒトを。」
「わたしたちも探しているんだ!」
「み、みなさん……」
「もちろん、あたしも付き合うわよ。」
今度は、イエイヌはちゃんと泣いていた。
その背中をさすってあげる。
「で、でも……お留守番」
「書き置きするか。」
「かきおき?」
「言葉を残していくことだ。あー、そう、ヒトがやるマーキングだ!」
「な、なるほど……」
「あんた、何言ってんの……?」
イヌのマーキング方法とは違わい!!
「文字って言ってもわからないしな……。ヒトの特有の、会話?」
「なんだかすごそう!」
「ふっふーん、ヒトのフレンズの力を見直したか。」
「すごいけど、あんまり調子乗らないの。」
「へい。」
「ふふっ、じゃあ、お願いしますね。」
イエイヌの言う通りにメッセージを残せば、こっちから探しに行ける。
「ていうか、ずいぶんとモノレールから離れちゃったな。」
「ここまでの道は、覚えているわよ。」
「さすがカラカルだな。」
「ほ、褒めても何も出ないんだからね!」
あら、顔を逸らされた。
夕日に照らされた顔を見て、俺も顔を逸らす。
こうして旅に新たなメンバーがくわ
「ねぇねぇ! イエイヌって、なにが得意なフレンズなの!?」
「そうですねぇ、ヒトと心を通わせることでしょうかね。」
「いいないいなー!」
「カラカルさんも得意みたいですね。まあ、私ほどじゃありませんけどね。」
「な、何を言ってるのかしら!? い、イッキが単純なだけじゃない?」
「そうかも!」
「ひでぇ……、まあ他のヒトに会ったら、わかるんじゃないか。」
「ふふっ、そうですね。よしっ、探しますよー!」
「おーーっ!」
夕日に向かって、みんなで歩いていく。
まだまだセルリアンとビーストと戦う力も勇気もない。それでも、こうして1人のフレンズを救えたのだ。ヒトは1人では無力だけれど、助けてくれるフレンズがいるから、少しでも俺も力になりたいと思う。
「ところで、イエイヌって夜行性なのか?」
「いえ、今の時間帯が一番」
「一緒に、苦労しよう。」
「はい?」
「ね! 狩りごっこしない!」
「しょうがないわねー。この前のリベンジ、やってやるわ!」
「負けないんだから!」
「……なるほど。」
カラカルまでテンション上がるのだから、サーバルを止めるフレンズがいない。