地図によると、砂漠地方の隣に目的地であるジャングル地方があるらしい。ここは島なのだが様々な気候帯が地域ごとがあって、それぞれの地方名がどの気候帯かを表している。
砂漠地方を一気に抜けるためには準備が必要なのだ。太陽で熱される車両なんて乗りたくはないし、夕方から朝にかけて移動することが最善だろう。つまり、寒さを凌げる物と水の確保が今回の目的である。
「ぼうけん!ぼうけーん!」
サーバルたちは今日も新たな地方で楽しそうである。
おしくらまんじゅう、でもいいか……うへへ
「イッキ、もう少し速く歩けないの?」
「わ、悪い。考えごとをしていた。」
地図に大きく描かれている湖畔を目指して、俺たちは歩いている。
「どんなこと、考えていたんですか?」
純粋で優しい眼差しがまぶしい。
「いや、砂漠で寒さをどうしようかなって。」
「さばくちほーって寒いのかしら?」
「暑くて寒い。」
「どういうことなのでしょう?」
「日陰がほとんどないから昼は暑いのだけれど……、そうだなぁ、夜は冷えるのが早い。」
厳密には、温かい空気が上空へ逃げていってしまうことを防ぐものが少ない。
「なるほどね。」
「なるほどーぉ!」
ヒトは寒さにも暑さにも弱い。イエイヌも砂漠の暑さ寒さは堪えるだろう。夜行性なカラカルやサーバルも、直射日光や昼の暑さはあまり得意ではないだろう。
慣れない気候で活動するには、それ相応の装備が必要だ。
そう、学んだ。
―――学んだ?
「なにかくるよ!」
「なにこのスピード!」
「ビースト、でしょうか……?」
大きな耳でサーバルやカラカルが察知し、次にイエイヌもそちらを向いて、そして俺がようやく反応できる。もし俺だけだったのなら、気づくこともなく狩られているだろう。
「ヴェ!?」
両腕を掴まれて、俺は投げ飛ばされた。
たぶんみんな軽やかに退避していることだろう。
「て、敵か……?」
「たぶん、ちがうみたいよ。」
カラカルがそう告げて、俺は安堵の息をついた。
「サンキュ」
手を握り返して立ち上がる。
「あら、ごめんなさい。」
服装はサーバルによく似たシャツとミニスカートだ。
しなやかな美脚がグッとくる。
「ちょっと! 危なかったんだけど?」
「あなた。誰、ですか?」
カラカルやイエイヌが、ムッとしている。
軽々と避けたよね、2人とも。
「私? チーターよ。お姉様の次に、地上最速なの。」
長い髪をふぁさっとする仕草は、様になっている。
「そうそう、悪かったわね。驚かせたみたいで。」
「いや、気にしてない。危険察知のいい練習になったし。」
「そう?」
セルリアンやビーストじゃなかったのだから、問題ない。
カラカルやイエイヌの、そのやれやれ顔はなんなのだろう。
「すっごーい、速かったね!」
「あ、ありがとう……」
チーターってば、純粋に褒められると弱いタイプだ。
背後を見て、彼女は溜息をついた。
「ああもう、追いつかれちゃったじゃない。」
「待たせたな!」
自分自身の角を模した槍を片手に、走ってきた。
槍に結ばれた青いリボンが風にたなびいている。
「待ってないわよ!?」
白シャツとジャージは、陸上選手を思わせる。
なんともバランスよく筋肉の付いた足だ。
「プロングホーンさま~」
「おお、いい走りだな!」
もう1人、走ってきた。
「はぁはぁ……」
半袖シャツとスパッツ、鳥のフレンズなのに走る方が得意そうだ。
「む? キミたちは、チーターの走り仲間かな?」
「初対面よ。」
「そうか。プロングホーンのプホンだよ。この娘はグレーターロードランナーだ。」
「プロングホーン様の舎弟をやらせてもらってる。ロードランナーでいい。」
「私はサーバル!」
「カラカルよ。」
「イエイヌです。」
「ヒトの、イッキだ。」
「キミたちも、走るのが好きなフレンズか!?」
思ってたのと違う反応をされた。
「まあ、人並み。フレンズ並みには。」
「そうかそうか! チーターと一緒に『ホーンチェイサー』に入らないか?」
「なんでもう決まってるのよ!?」
「お前らっ、プロングホーン様直々のスカウトなんだぞ!」
「どういう意味!?」
「ごめん、角ないから。」
「そこ気にするの!?」
「細かいことは気にするな!」
「なんだかたのしいフレンズだね!」
「もうっ、あんたたちねーー!!」
チーターの大声が、平原に響き渡った。
ツッコミ役はもう限界らしい。
「こほん。……それで?」
あっ、なかったことにする気だ。
「うむ。一緒に走ろう。」
「まあ、待ちなさいよ。」
「そうですね。どうして、チーターさんを無理にでも?」
カラカルやイエイヌが割って入る。
「そうだな。共に地上最速を目指すフレンズを探したいんだ。」
「あの、あたしじゃ、ダメなんですか……?」
「いや、慕ってくれるロードランナーには感謝している。でも、この、ぽっかりと空いたような、そんな……」
「プロングホーン様……」
表情が曇る。
サーバルと似た事情なのだろうか。
「……いいわよ。でも1度だけだからね!」
「いいのか? 長距離走なんだぞ。」
「さ、先に言っておくけど。地上最速流には反するから……、万が一負けても仕方がないんだからね。」
「そうか。ありがとう。」
「か、かんちが」
「ねぇねぇ! わたしたちも走ろうよ!」
「へっ、だが、お前らが追いつけるわけねぇだろぅ?」
「だいじょうぶ! 狩りごっこで鍛えてるから!」
確かに、狩りごっこも走るからな。
「どうする……?」
「どうしますか……?」
俺に判断を任せるのか。
「じゃあ、あの湖畔まででどうだ。俺たちはあそこを目指しているんだ。」
「なら、共に走ろうぞ!」
「まっけないぞーー!」
「地上最速の力見せてあげる!」
スタートダッシュでサーバルたちが飛び出した。一番速いのはやはりチーターだが、どこまで体力が続くかだろう。ていうか、サーバルが互角の勝負をみせるのは狩りごっこの恩恵なのだろうか。
鞄の紐を短くし、靴紐を結ぶ。
「待ってください~、プロングホーンさま~!」
「私たちも行きましょう。」
「イッキ、無理はしないで来なさいね。」
「おう。」
俺たちも走り始める。
やはり最高速度は、ヒトのフレンズはずっと劣る。
サーバルたちの姿なんて、もはや見えない。
顔の汗を、パーカーの袖で拭く。
渓谷に入れば、イエイヌやロードランナーの姿が見えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「なっ、追いついてきたのか!?」
さすがに追い越すのはマズかったかもしれない。
もし限界を超えて倒れでもしたら困る。
あまり長距離を走るフレンズではないのだから。
「イッキも、速い、のね……」
「まあな……」
カラカルに並んでも、リズムのいい走りを続ける。
前にいたチーターの姿が見えなくなった。
下に落ちていったともいえる。
「あたしの、勝ちね!」
カラカルが湖に飛びこんだ。
この真下は、ほどよい深さなのだろう。
すでにサーバルたちが水浴びをしている。
「やっと……だぜぇぃ……」
「はぁ…はぁ……」
イエイヌたちがクールダウンしながらやってくる。
「おう、お疲れ。」
「お前ら、や、やるじゃねぇか。」
走ると気持ちいいのは、確かだな。
湖畔へ斜面をざざざーっと降りる。
ロードランナーは、ふわふわと飛んで降りた。
勝敗も気にせずに、美少女たちが水浴びしている。
「どうか…しました……か?」
「建物を見てくる。ここで休んでいてくれ。」
「そうさせてもらいます。」
高床式の、プレハブ倉庫だ。
錆びれている階段をおそるおそる登る。
扉を、ゆっくり開けた。
部屋の中央に歩き
「ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
「ヴェアアアアーー!?」
「な、なんだお前!?」
「お、おちつけ、俺はセルリアンじゃない!?」
「見たらわかる……。ヒト…なのか。しかし、かばんがいるだろうに。」
ブツブツと何かを言っている。
フード付きパーカーワンピースで、首元にはピンク色のリボンを巻いている。
一体何のフレンズだろうか。
『セルリアンよ!!』
その声で部屋から飛び出す。
飛び出す時、咄嗟に黒い筒を背負った。
「でけぇ……」
今まで見てきたセルリアンよりはるかに大きい。
4足歩行で黒く淀んでいるその姿は、何かを模したとは思えない。
「こいつ、どうすれば!」
「かたすぎるよー!」
サーバルやカラカルが自慢の爪で足を攻撃しているが、あまり効果はないようだ。
「へしを探せ!」
いつのまにか隣にいたフードのフレンズが、そう叫ぶ。
「ロードランナー!」
「はい、プロングホーン様!」
ふわりと浮かび上がり、そのへしを探す。
「背中です!」
背中と言っても、4足歩行のセルリアンだ。
周りに木もないし、サーバルのジャンプ力でも届かないだろう。
「引きつけるから。あんた、なんとかできない!?」
「でも、あたし、あんまり飛びながらだと……」
「あのタイプなら、水が効くはずだ!」
「イエイヌ!」
「はい!」
パーカーのフレンズから受け取ったバケツを投げ渡す。
セルリアンの動きはそこまで速くはない。
イエイヌが湖で汲んだ水をセルリアンの足にかければ、その部分が石のように固まる。
「うみゃあ!」
「ここなら!」
その部分になら効果があることがわかったサーバルたちが、攻撃を集中する。
「ちっ……」
引き金を引いたが、弾は出ない。
老朽化しているのだろう。
「お前、使い方がわかるのか!?」
「なんとなくだけどな!」
俺は階段を駆け上がる。
暴れながら、横転したトラックに向かっている。たぶん、その『輝き』を求めているのだろう。この巨大なセルリアンがそれをコピーしたとなると、そう簡単には止めることはできない。
紫色の水晶、へしが見えた。
セルリアンを止めようと、フレンズが必死になっている。
身体が熱くなり、力が溢れてくる。
「ヒトの力、みせてやる」
引き金を、この手で引く。
轟音とともに俺に反動がきた。
°
°
°
°
「なんとか持ち堪えるんだ!」
黒い粒子が空から降っている。
まるで、雨のようだ。
「まつんだ、君たち!?」
セルリアンたちに彼女たちは勇猛果敢に立ち向かっていく。
先導しているのはサーバルに似ている。
「はやく倒れろ!」
彼女たちに当たらないように、援護することしかできない。
「ちくしょう!」
膝をついた少女のもとへ、俺は駆けた。
「にげて! にげてよ!」
「大丈夫!」
フレンズには笑顔でいてほしいから