ジャパリパークは気候帯によって、いくつかのエリアに分けることができる。ここは海に囲まれた島であって、各フレンズは適した環境下で縄張りを持って生活している。サバンナ、竹林、海、水辺、平原、そういったエリアにおいて、元となった動物の習性を受け継いだフレンズは確かに今も生きていた。
フレンズたちは、サンドスターによって生まれたと説明された。
―――誰にだ?
「ねぇ」
火口から、虹色のサンドスターが空へ登るように固まっている。ここからも見えるのだが、島の中心には大きな火山がある。フレンズたちやセルリアンが火山に大きく関係しているとしても、あの火山からはセルリアンが生まれているとは思えない。
―――火口から、黒い雨を放出していたはずだ
「ねぇってば!」
その声で、はっと我に返る。
カラカルだけではなく、サーバルやイエイヌも心配そうだ。
「悪い……」
「また、考えごと?」
「まあ、な。」
「あんまり根を詰めないでよね。……また倒れても、こっちが困るんだから。」
どこか見覚えのある黒いセルリアンを討伐できたという事実は覚えている。気を失っていたらしいし、具体的な手段も覚えていない。
肩掛け鞄からはみ出している、武器に一度手を添えた。
「そうそう。もうすぐかばんちゃんに会えるんだから、いろいろ思い出せるとおもうよ!」
先導しているサーバルが、振り向いて笑顔で言う。
「ふふっ、わくわくしていますね。」
「かばんちゃんなら、なんとかしてくれるかなーってね!」
「一体、どんなすごいフレンズなのよ……」
完全に記憶を取り戻していないのに、かばんさんを信頼しているのだから、よほど大切なフレンズなのだろう。
「たんけん! たーんけん!」
かつて作られただろう道があるとはいえ、草や蔦が伸び放題だ。足元に気を配りながら、また茂みから襲ってくるかもしれないセルリアンを警戒しつつ、目的地もわからず歩いていく。
「うぅ。独特な臭いですね。」
「ここに棲んでいるフレンズって、こういうの慣れてるのかしらね。」
時には優れた嗅覚で苦労することになるらしい。
サーバルやカラカルも、湿気による汗が鬱陶しそうだ。
「にしても、建物がないわねー」
「ここ、また川ですね。」
「またかー?」
「はし! あっちにあるよ!」
いくつもある川には橋が架けられている。ここジャングルエリアの植物を用いた手作り感溢れる橋だ。フレンズたちによって作られたのは確かだろうけど、ヒトのフレンズの協力がある可能性は高い。
時には、隙間を跨ぎながら橋を渡る。
「おぉー!」
「ようやく、いましたね。」
しかも、4名のフレンズ。
ライダースーツの美人さんと半袖ジャージの眼鏡っ娘、ネコ科美少女たちだ。
「お姉ちゃんが一番綺麗なんよ!」
「いいえ、イリエワニさんです!」
「自分で言うんとはちがって、なんか照れるなぁ……」
「ははっ、嬉しいじゃないか。」
なるほど。
引き締まっていて抜群のスタイルだ。
なんだその巨大なおっ
「イッテ!? なんでや!」
「あれ、なんでだろ……?」
引っ掻きではなく、肘打ちがクリティカルヒットした。
カラカルはその技をいつ身につけたのだろう。
「あんたら、だれや?」
「ねぇねぇ! かばんちゃんのこと知らない!」
「お、おちつかんかい。」
俺たちに気づいたフレンズに、サーバルが突撃していった。
「あんた、もしかしてあのサーバルじゃない?」
「そうみたいですね。」
「サーバルさんのこと、知っているんですか?」
「有名だよ。なにせ、さばんなちほーのトラブルメーカー。」
「えー、なんでー!?」
サバンナエリアとジャングルエリアは隣接しているから、有名人の噂は届いているのだろう。
「まあ、否定はできないわね……。」
「そういうあんたは、サーバルの保護者だね。」
「どんな広まり方よ!?」
カラカルの名そのものは、広まっていないらしい。
「ははっ、からかって悪かったね。」
「でも、その噂は本当ですよ。」
的を得ているのは確かだ。
「フレンズさんたち、うちらとよく似てるね。お姉ちゃん。」
黒のツインテールのネコ科フレンズが、黄土色のセミロングのネコ科フレンズの背中に隠れながら言う。
「そうだね。わたしはサーバル!」
「あたしはカラカルよ。」
「ヒョウや。そんでこっちが双子の妹の」
「うちはクロヒョウ。」
「合わせてよろしゅう。」
快活な姉と内気な妹だが、姉妹仲はかなり良いようだ。
「イリエワニよ。」
「メガネカイマンです。」
メガネくいっ、が様になっている。
「イエイヌ、です。」
「イッキ、ヒトのフレンズだ。」
「「「「ヒト!?」」」」
驚愕しつつ、後退された。
そして、腰を引いて警戒態勢に入っている。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「ヒトの中でも、優しいヒトなんですよ!」
「そうそう! ぜんぜんこわくないよ!」
カラカルたちの擁護に涙が出そうだ。
「ほんとかいな?」
「隠しているんやろか?」
「でも、確かに強そうには見えないね。」
「親分に聞いてみましょうか。」
ワニと比べて勝てるヒトは、そう多くはいないだろう。
そのワニよりも強いフレンズとは一体。
「誰か、来ます。」
一早くイエイヌや、ネコ科フレンズが気づく。
何かを叩いて、ポンポンと鳴らす音が聞こえてきた。
「「「「ゴリラの親分!」」」」
ニット帽と白のタンクトップのフレンズだ。
ゴリラのフレンズなのだから、かなりヒトに似ている。
ていうか、さっきのはドラミングだったのか。
「お前ら、なにかあったのか?」
「親分。こいつって、あのヒトなんか?」
「……なに?」
目を細めて、こちらを見てくる。
「た、食べちゃだめだからね!」
「イッキさん、下がって。」
彼女たちより前に出ようとした俺は止められた。
手は震えていて、瞳は揺れていて。
「ヒトのフレンズよ、ついてこい。」
「……ああ。」
「あ、あたしたちもいい!?」
「ふむ。お前らならいいだろう。」
やり取りを離れて見ているヒョウたちをその場に置いて、ゴリラに付いていく。
「ふぅ……」
どすっと、縄張りの台座に座った。
「フレンズたちよ。……あいつらは、来ていないか?」
「え? 来てないわよ。」
自慢の耳や鼻なら、確信が持てる。
「あぁー、よかったぁ……」
だらけた。
葉っぱを敷いているとはいえ自動販売機だよな、その台座。
「ずいぶんと、その……」
「今のあんた、威厳ないわね。」
「そうなんだよ。あー、腹がいてぇ。」
「ええ! だいじょうぶなの!」
「ああ、いいよいいよ。あたし、胃が弱いから……」
ストレスによる可能性が高い。
「悩み事でもあるのか?」
「聞いてくれるんだな、やさしいなぁ。」
「でしょでしょ!」
そう言われてサーバルたちが嬉しそうだし、なんだかむず痒い。
「あいつらの喧嘩に喝を入れて、それから親分って慕ってくれるようになったんだ。でも、あたしってそういうの苦手でさぁ……」
「彼女たちの期待を裏切りたくないと?」
「そういうこと。」
そして彼女たちの中では、ヒトのフレンズがゴリラ並みの力を持っていることになっているらしい。
「あんた、ヒトのフレンズなんだね。」
「もしかして、ほかに知っているの!?」
「ああ、知っているとも。とても優しいフレンズだよ。すぐに解決できないことを謝ってくれて、何度も悩みを聞いてもらっている。」
「そうなんだ……」
サーバルが息を吞む。
しかし口を開くことはなく、カラカルと同時に後ろを向いた。
「ねぇ、もしかしてクロヒョウの悲鳴!?」
「う、うん! そうだと思う!」
「なに!?」
「こちらです!」
全員、急いで走っていく。
匂いを必死に嗅ぎ分けているイエイヌが案内してくれた。
「みんな、無事かぁ!!」
「親分、来てくれたんや。」
クロヒョウを庇いつつ、ヒョウたちはビーストと対峙している。
「あいつ! もしかして、追ってきたの!?」
そう簡単に砂漠を抜けられるとは思えないし、俺たちと違って島を時計回りしてやって来たのだろう。
「このフレンズ、様子がおかしいですね。」
確かに、前に会った時よりあまり覇気がないように感じられる。
よく見ると、虹色の粒子が身体から出ている。
「あいつ、もしかしてサンドスターが……」
「親分、どうする?」
彼女たちからすれば、勝手に縄張りに侵入して危険因子だ。
イリエワニはすでに戦闘態勢に入っている。
「あぁ、どうしよぉ……」
「「「「え……」」」」
「いや、だってフレンズじゃないか。争うことなく仲良くできたら、一番かなぁって。」
自信なさげに、そう告げる。
「親分……」
「いいやん!」
「優しいんだね。」
「……ねぇ、なんとかできない?」
ヒトのフレンズの俺に判断を任せてくれた。
フレンズはみんな想いを託してくれた。
「危険です!」
「任せろ。」
イエイヌの心配してくれる気持ちも嬉しい。
「大丈夫。」
「ほんと?」
大丈夫だ。
なぜなら戦うことはしないから。
鞄から取り出すものは、武器じゃない。
「ジャパリまん、どうだ?」
片膝をつき、片手で差し出す。
両手を地面につけた彼女は目を見開く。
「腹、減ってるだろ。」
そう告げれば、口に咥えて去っていった。
緊張が解けて、フレンズ全員が安堵の息をつく。
2枚の羽根飾りがついた古ぼけた帽子を被っていて、少し小さめのカバンを背負っている。
「無茶なことをするね。でも、いいことをしたと ぼくは思うよ。」
その声の主にサーバルは駆けていく。
「食べないでね サーバルちゃん」
「食べないよぉ かばんちゃぁん」
「サーバルちゃん…って、呼んでくれ…たね」
「約束...だからね」
(1番大好きな、ぼくのフレンド)
『ボクもいるヨ』