A.Q.U.A.R.I.A   作:Ирвэс

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お待たせしました!それでは今回から葵、深優、更紗の3人にフィーチャリングしたエピソードをお送りしたいと思います!

それでは先ずエピソード深優からどうぞ!こちらは三部作となっています!


第11話 突如訪れるスコールライン

 5月――――――それは晩春と初夏の境界線に当たる月の廻り。

 爽やかな緑の薫風が大地を駆けるこの時期に、霧船水泳部は本格的な活動を開始します。

 

 「次!位置に着いて!」

 

 みちるのホイッスルの音が鳴り響くと共に、所定の位置に就いた部員4人が一斉に飛び込んで泳ぎ始めます。

 或る者は自由形で、また或る者は背泳ぎ、バタフライ、平泳ぎ―――――それぞれがそれぞれ思い思いのやり方で水面を蹴り掻き分け、四角い水のフィールドを真っ直ぐに進みます。

 

 「プハーッ!もう駄目……私もうこれ以上泳げない……。」

 

 「私ももう50m1回泳いだだけで疲れたぁ……。」

 

 「そう?私はまだまだ行けるけど?」

 

 蒼國市は日本でも水泳人口が五指に入る程多い街です。それこそ小さな子供から高齢者まで、誰もが水に親しんで生きています。以前アスリートまで練習に訪れる程水泳が盛んな街とお伝えしましたが、蒼國出身で金メダルを獲った水泳選手まで過去にはいる程です。

 体力作りの為に小、中学校でも体育の時間、春夏秋冬問わず市民プールで水泳をやらされるなんて珍しくありません。

 とは言え、水泳の経験が学校の授業以外決して多くない葵と深優は、50mを1回泳いだだけでもうバテてしまいました。只、素人で50mをキチンと泳ぎ切れる辺り、最低限の体力は2人ともあったのでその点は評価出来ましょう。やはり葵と深優も、曲がりなりにも水と共に生きる蒼國市民と言う事ですね!

 因みに葵は背泳ぎが得意で、深優は自由形とバタフライが得意。但し、深優はみちると一緒で苦手な泳法は有りません。

 

 一方、更紗は未だ元気で泳げる等、1年生の中ではかなりの体力お化けの様です。そして得意な泳ぎは自由形と平泳ぎです。

 

 「五十嵐、吉池―――――」

 

 2人の名前を呼んで近付いて来たのは部長のみちるでした。

 

 「部長―――――。」

 

 「2人とも、無理しなくて良いわ。暫く休んでなさい。それと吉池、貴女凄いわね。1年生の中じゃ貴方のタイムが今の所1番速いわよ?」

 

 「本当ですか!?」

 

 「五十嵐も決して遅くはないわ。寧ろ素人で良く此処まで泳げたなって思う。2人とも未だ1年生で未だこれからよ。時間はたっぷりあるから焦らず無理しないで頑張りなさい!」

 

 そうみちるがねぎらいの言葉を2人に掛ける中、次に泳ぐのは忍と潤と2年の漣真理愛(さざなみまりあ)、そしてリラです!

 

 「汐月。」

 

 「はい?」

 

 隣に立ったリラに対し、忍が不意に話し掛けて来ます。

 

 「この前は有難うな。あたしがまた泳げんのはお前のお陰だ。」

 

 「いいえ、私は水霊士(アクアリスト)として当たり前の事をしただけですよ。」

 

 先日、自分の中の穢れを癒し、また泳げる身体にして貰った事で、忍はリラに感謝すると共にお気に入りの後輩となっていました。喜色満面な顔で改めて礼を言われ、リラは思わず顔を赤らめます。

 

 「一緒に楽しもうぜ!」

 

 「はい!」

 

 一方、潤の隣に立った同じ2年の真理愛は彼女に対して敵愾心でも有るのか、キッと潤の顔を睨んでばかりいます。訳も分からず敵意を向けられ、潤は当然困惑していました。

 

 「位置に着いて……用意!」

 

 そんな中で再びみちるがホイッスルを吹くと、4人は一斉にスタートします!

 

 当然と言うべきか最初は忍が優勢でしたが、次第に2年生の真理愛がそれに肉薄して来ます。やはり1年半ものブランクは大きかったのか、忍との差はグングン縮まって行きました。

 けれど、潤も嘗て水泳の経験者であるだけ有って引き離されません。

 

 「凄い…ブランク1年以上も有ったけど日浦先輩やっぱ速いじゃん……。」

 

 「でも普通そんだけブランク有るのに一週間練習した位じゃ、あそこまで泳げる様になんてならないよ。多分、リラっちのアクアリウムが効いてるからじゃない?」

 

 確かに1年半のブランクの為に忍は全盛期の半分程の力も出せていません。けれど、肉体其の物のスペックは深優が指摘する通り、リラの手によって癒されると共に嘗ての水準の半分にまで回復していたのです。

 特に更紗の内なる水霊(アクア)であるプラチナの強さと逞しさをクラリファイイングスパイラルに仕込んだのが功を奏し、思った以上に早く回復出来たのは忍にとってもみちるやリラにとっても嬉しい誤算でした。

 後は彼女が如何に故障に気を付けながら嘗ての力を取り戻し、それ以上先の領域へと行けるかです。ゴールデンウィークの間中、リハビリを兼ねて忍は市民プールでみちると一緒に連日、それでいて筋肉に負荷を掛けない程度に無理無く練習を続けました。

 筋肉をしっかりとほぐし、泳ぎの感覚を取り戻す――――――その為だけに忍は泳ぎ続けて来たのです。大会に勝つとかそんな余計な事は考えず、純粋に楽しむ気持ちだけで―――――。

 

 (忍……あんなに楽しそうに泳いでる。遠くからでも分かるわ。貴方の泳ぎにはもう余計な気負いや焦りが無い。)

 

 「リラが最初に助けた飯岡先輩も、ブランクが有るけど漣先輩と良い勝負ね。」

 

 そして泳ぎの結果は忍が2年生2人と僅差で1着、2年生の潤と真理愛が同着で2位、そして彼女達に遅れてリラが最下位でした。

 

 「あーあ、やっぱリラ負けちゃったか……。」

 

 「水霊士(アクアリスト)としては水に強いのにね~。」

 

 「それと泳ぐ腕は別物って事ね。」

 

 葵達3人が率直な感想を述べている中、当人は先輩達とこんな会話をしていました。

 

 「凄いですね、先輩達は。やっぱり1年の私じゃ未だ勝つには早かったですか。」

 

 「何言ってんだよ?確かにお前あたし等より遅かったけど、そん代わり長く息止めて潜ってられんじゃん?」

 

 そう、リラは泳ぎのスキルは1年の中では葵と同じで並でしたが、今いる部員達全員の中で1番長く息を止めて潜っていられる肺活量と潜水能力が持ち味で、平泳ぎと其処から派生したバタフライが得意だったのです。

 特に息継ぎの問題から、多くの人間が敬遠するバタフライを並外れた肺活量でクリアしている点は、同じくバタフライが得意な忍も大きく評価していました。

 

 「確かに汐月さん、貴女の潜水能力の高さは折り紙付きね。それって水泳選手として凄い事だって思う。」

 

 「本当だよリラちゃん!リラちゃんさんなら絶対もっと上へ行けるって!!」

 

 「漣先輩……飯岡先輩……。」

 

 先輩達からもそのポテンシャルを認められ、リラはこそばゆい気持ちになります。

 すると其処へ、みちるがやって来て話し掛けます。

 

 「4人ともお疲れ様。忍、またタイム縮めたわね。」

 

 「まぁな!」

 

 「でも余り無茶しないでね?また故障するなんて私、絶対嫌よ。」

 

 「分かってるって。だから最後に何時も“あれ”やってんだろ?」

 

 忍はリラを一瞥してみちるにそう返しました。

 

 「汐月、練習終わったらまた“あれ”頼むわ……っておい、汐月?」

 

 「日浦先輩、リラならあそこです!」

 

 忍がそうリラに話し掛けた時には彼女は其処には居らず、葵が指差した方を向くと其処には水の中を潜水しながら縦横無尽に泳ぐリラの姿が有りました。

 

 「またあの子1人でプール中泳ぎ回ってる……。」

 

 「って言うか息止めるの長過ぎないあの子?良く溺れないわね……。」

 

 他の2年生の星原瑠々(ほしはらるる)濱渦水夏(はまうずみずか)の2人が手を後ろ手に組んだ姿勢で真理愛と共に呆れてそう呟くのも我関せず、リラはまるで広大な海を泳ぐ魚かイルカの様に楽しそうに泳ぎ回っています。

 何も知らない一般人の子はその様を呆れて眺めていますが、彼女の正体を知る者達は皆知ってるし分かってもいました。

 

 (水泳部の活動は楽しそうね、リラ。)

 

 (うん、勿論だよテミス。私、今まで生きて来てこんなに毎日が楽しいって思った事無い!)

 

 そう、リラがプールに群がる無数の水霊(アクア)達と楽しく交流していると言う事を――――――。

 

 「リラ、もしかして水霊(アクア)達とお話してるのかな?」

 

 「もしかしなくたってそうだよきっと。」

 

 「リラにとって水泳部って、そう言う意味じゃ役得なのかもね。」

 

 「役得なのはぁ、私も同じだけどねっ♪」

 

 そう言って深優は突然更紗の背後に回り込むと、また何時もの様に彼女のバスト86も有る胸を揉みしだきます。

 

 「あっ、ちょっと……んん~~~~~っ♥」

 

 深優と更紗がふざけ合っている中、みちると忍の2人もプールの中を潜水しながら泳ぎ回るリラを見て言葉を交わします。

 

 「やれやれ、あいつまたあの水霊(アクア)ってのと遊んでんのか?」

 

 「全く、あの子も仕方無いわね。」

 

 困った笑みを浮かべながらそう言うと、リラをプールサイドに連れ戻すべく、みちるがプールに飛び込みます。

 

 (リラちゃん、あんなに沢山の魚達と一緒に楽しそうに泳いでる……良いな、わたしもあんな風に………)

 

 あれ?ちょっと待って下さい。以前リラに助けて貰った時、彼女のアクアリウムの能力を間近で見た潤の『リラと同じ藍色の瞳』には見えている様ですよ?

 リラと同じく、“水霊(アクア)”が――――――――。

 

 「~~~~~~~~~ッ!!」

 

 反面、自分の事を見ていない潤を、真理愛が何やら面白く無さそうに睨んでいる事に潤本人は気付いていないみたいですけど……。

 

 

 それから練習が終わった後の事です。

 

 「んっ……あぁっ!!」

 

 クラリア達メダカ型の水霊(アクア)の大群による簡易版のクラリファイイングスパイラルに包まれ、忍は肉体の損傷のメンテナンスを行っていました。

 彼女はリラに肉体を癒して貰ってから、練習の度にみちるや葵達の立会いの下、アクアリウムの能力で癒して貰っていたのでした。

 

 「はい、先輩。今日は此処までです。」

 

 「フゥ……何時もありがとな汐月。」

 

 施術が終わると、そう礼を言って忍は軽く腕を伸ばしてストレッチします。

 今更だとは思いますが、アクアリムは水の精霊の力を借りて術を行使する能力である為、施術されれば当然素肌も着ている服も濡れます。

 然し、濡れるのは一瞬で術式が完了すれば衣類に浸み込んだ水も、顔や手足に掛かった水も、況してや周囲の地面や壁に飛び散った水も直ぐに気化して無くなる為、何も問題は有りません。

 寧ろ、雨が降った後の様な綺麗で清々しい空気が全身に纏わり付き、肺を満たしてくれる為、心身揃って非常に爽快な気分になるのです!

 因みにリラは水霊士(アクアリスト)としての力で素肌や衣類に浸み込んだ水を濡れる度に除去している為、身体を拭いたり服を洗濯したりなんてしません。

 

 

 「いいえ、私も先輩には学校の勉強や水泳とか教えて貰ってるからお互い様ですよ!」

 

 「フフッ、貴女達2人もすっかり仲良しさんね、忍、汐月♪」

 

 2人の様子を、微笑ましく部長のみちるは見つめていました。

 

 ―――――と、この様に水泳部に入部したリラ達4人は、部長のみちるやエースの忍、そして2年生の潤達と共に水の青春を謳歌していたのでした。

 

 

 (良いなリラっちは……あんな漫画やラノベやアニメみたいな事が出来て―――――)

 

 そんな中、深優はリラの事を羨ましいと思っていました。水霊士(アクアリスト)としてその力を駆使し、水の精霊足る水霊(アクア)達と対話をするリラの姿を―――――。

 

 

 前置きが長くなりましたが今回は、そんなリラの力に憧れる深優のお話です。

 

 

 「ちょっ、待って深優!其処は……あーーーーーーーーーッ!!!」

 

 「やった勝ちーッ!!って言うか葵弱過ぎ!」

 

 或る日の昼休み、深優は葵と携帯ゲームで対戦していました。結果はどうやら深優の快勝だった様です。

 

 「もーう、あれから練習して強くなったって思ったのにぃ……。」

 

 負けて素直に悔しがる葵ですが、無邪気に笑う楽しそうな幼馴染みの顔を見ると何故か憎めません。

 人懐っこくて元気っ子な一方、勉強も運動も高い水準でこなす深優ですが、意外にもヲタクな趣味を持ち合わせていたのでした。

 

 「2人とも楽しそう……。」

 

 「幼馴染みだもんね葵と深優って。私達より積み上げて来た時間が長いから。」

 

 そんな2人の様子を友人のリラと更紗は羨ましそうに見つめていました。霧船に入って出会い、友達になった4人ですが、やはり積み上げて来た時間の長さから来る葵と深優の2人の世界は、割って入れないと思う程の距離感を感じます。

 

 「そんでさぁ、昨日観たアニメの話なんだけどー……」

 

 「あぁ、魔法少女ホワイトビッキー800ね……」

 

 ヲタク趣味に精通した深優も随分ですが、そんな彼女の趣味や嗜好を理解した上で、自分をそれに難無く合わせて的確にコミュニケーションの取れる葵もまた大した物。リラから見て、そんな葵の姿はまるで深優と言う器に柔軟に収まり切る水の様でした。

 同時に深優もまた、葵と言う『自身の手綱を完璧に握ってくれる存在』が居るからこそ有りのままの自分は曝け出せる事を良く理解しています。同時に、そんな葵と巡り会えた自分が如何に幸せ者であるかと言う事も―――――。

 

 

 時と場所が変わって放課後の部活動の時間がやって来た時も―――――。

 

 「次!」

 

 みちるのホイッスルの音色と共に飛び出す深優。やはり持久力が未だ心許無い物の、最下位とは言え2年の先輩相手にもどうにか引き離される事無く泳ぎ切るそのポテンシャルには、忍とみちるも感心していました。

 

 「あいつ、やっぱり大した奴だな。こりゃ2年もうかうかしてられねーぞ。」

 

 「そうね。1年の中で1番タイムが着々と伸びてるのはあの子だし……。」

 

 「大会まで何処まで伸びんのか、見物だな―――――。」

 

 「そうね―――――。」

 

 まるで鴛夫婦の様に、忍とみちるは深優の今後の成長を見守るのでした。

 

 「あんた、吉池って言ったっけ?凄いわね。私達相手に引き離されないなんてさ。ビリでもそんなに差は無いわよ?」

 

 「私も小学生の頃からずっと泳いで来たけど、油断してたら追い越されそう……。」

 

 「下手したら私よりも……って、はああんっ♥んぅっ、……ちょっ、何するの吉池さ……あああぁぁ~~~~~んっ♥」

 

 一緒に泳いだ2年の水夏と瑠々と潤が思い思いの感想を述べる中、隙だらけの潤の背後に回って脇の下に両手を潜らせると、胸を執拗且つ思いっ切り揉みまくります。

 

 「う~~ん、やっぱり2年の先輩も揉み応えがある人ばっかりで嬉しいです♪それじゃ揉みしだきまーすっ♪」

 

 「もももう揉んでるじゃ……んんんああぁあ~~~~~~ッ♥」

 

 「コココ……、コラ吉池さん!あああああ貴方、先輩に一体ななッ、何をやっているの!?」

 

 慌てて2年生のリーダー格と思しき真理愛が注意すると、深優は彼女の胸の膨らみに目を落とすなり、突然潤から離れました。そうかと思えば今度は、真理愛の胸を背後から揉みしだきます。

 

 「じゃあ先輩なら良いんですねっ♪」

 

 「ああっ、コラッ!!そんな訳なああああぁぁぁ~~~~~いゎょんッ♥」

 

 そんな彼女の様子を、離れた場所でリラ達は苦笑いしながら見つめていました。将来有望な水泳選手なのは認めますが、あの病気だけは本気で何とかならないのでしょうか?

 キントキダイの様に顔中真っ赤に羞恥心で赤らめつつも、潤はみちると同じバスト90もの大きさを誇る両胸を両手でガードしながら、自分の身代わり人形(スケープゴート)となった真理愛の様子を見守っていました。

 

 「またやってるよ深優ちゃん……。」

 

 「毎回毎回飽きないね……。」

 

 「後で先輩達にまた謝っておかないとね………。」

 

 すると其処へ、見かねた忍が助け舟を出して来ました。

 

 「おい吉池!もうその辺にしとけ!!他の奴等の練習の邪魔になるだろ!」

 

 「は~~い……。」

 

 忍に釘を差されて渋々止めると深優はリラ達の所へ戻って行きました。

 そして次にホイッスルが響く時、水面を蹴って泳ぐのはリラとみちるでした―――――。

 

 

 そして練習が終わって下校する時の事です。

 

 「あの、部長から聞きましたけど、日浦先輩って漫画描くのが趣味なんでしょう!?」

 

 人懐っこい雰囲気を纏って目をキラキラと輝かせながら、興味津々と言わんばかりに深優がそう尋ねると、忍が言います。

 

 「えっ?あ、あぁ……まぁな。けど、それがどうかしたのかよ?」

 

 「じゃあ今度、一緒に新刊描いてコミケ出ませんか?私、同人活動もやってるんですよ!」

 

 そう言って深優は鞄の中から自分の描いた同人誌を出して見せ付けました。

 

 「深優ちゃん、同人誌なんて描いてたんだ……。」

 

 「深優の奴、ゲームやアニメだけに飽き足らずあんなの中学からやってるのよね。」

 

 「へぇ……意外な趣味持ってたんだね。」

 

 三者三様に深優の趣味への感想をリラ達が漏らす中、忍は半ば呆れた調子で溜め息を吐いて返しました。

 

 「お前なぁ……あたしは3年で来年受験なんだよ。おまけに夏の大会も有んだしお前の趣味にまで付き合う暇なんて有る訳無ーだろ。」

 

 「ですよねぇ~~……。」

 

 至極真っ当な答えを返されてガッカリする深優ですが、此処でツンデレ振りを発揮して忍が言いました。

 

 「―――まぁ、勉強や練習の片手間の息抜きにだったら描いてやっても良いぜ。つーかお前の絵、下手糞だな!あたしの方が絶対上手く描けるっての!」

 

 「本当ですか!?有難うございますぅ日浦先輩!!」

 

 すると深優は欣喜雀躍して忍に抱き着くと、此処でも流石と言うべきか彼女の脇の下から手を伸ばして忍の、更紗と同じで決して小さくないバスト86の胸を懲りもせず揉みしだきます。

 

 「なッ!?コラ止せって……んああああ~~~~~~~~ッ♥」

 

 「忍!?」

 

 「もう!深優ったら良い加減にしなよ!!」

 

 遂に3年生まで、深優はその毒牙に掛けました。

 慌ててみちるが止めに入り、何とも愉快な下校風景がせせらぎの響き渡る黄昏の水の都で繰り広げられるのでした。

 自分の良き理解者と心からの友人、慕うべき先輩達に囲まれ、自身の持って生まれた才覚をフルに活かして人生を心から楽しんでいる深優。

 

 虐めと言う辛い過去を乗り越えて来たリラ以上に、この学園でのスクールライフを謳歌しているのが他でも無く彼女自身である事が、これだけでもお分かり頂けるでしょう。

 

 

 

 然し、深優にはこの時知る由も有りませんでした、これから自分自身に大きな嵐が差し迫っている事に……。

 

 それから数日後の昼休みでした。

 葵が再び対戦ゲームで深優にリベンジしようとしていました。

 

 「勝負よ深優!私もあれからまた一杯練習したもん!今度は絶対負けないんだから!」

 

 「フフン、掛かって来給え♪返り討ちにしてあげるから!」

 

 何時も通りまたゲームで対戦しようとした……その時でした。

 

 『生徒の呼び出しをします。1年2組、吉池深優さん。至急職員室まで来て下さい。』

 

 突然学園に流れる、深優を呼び出す放送(アナウンス)

 

 (吉池……?)

 

 (あの子どうしたのかしら?)

 

 突然流れ出した後輩を呼び出す放送に、忍やみちる達水泳部の面々が怪訝な顔を浮かべる中、当の1年2組の教室では――――――。

 

 「深優、あんた何か有ったの?」

 

 「さぁ?何だか分かんないけど、兎に角行ってみる!」

 

 心配そうに尋ねる葵を背に、深優は職員室へと向かって行きました。

 それから昼休みが終わっても、どうした訳か彼女は戻って来ませんでした。

 

 「深優ちゃん、チャイム鳴ったけど戻って来ないね?」

 

 「本当にどうしたんだろうね深優……?」

 

 (深優……。)

 

 リラと更紗が言葉を交わす中、葵だけが何も言わずに黙って深優の事を案じていました。

 何時までも深優が戻って来ない事に対して一抹の不安を覚えながら、次の授業の準備に入ろうとすると、突然自分達の携帯の着信音が鳴りました。何事かと思って画面を見ると、深優からのメールです。

 

 『みんなゴメン(≧≦) 今日は学校早退します。でも明日は部活ちゃんと出るから許してって先輩に伝えといて!』

 

 突然告げられた深優からの午後の早退。

 あの深優が突然どうして……?

 

 まるで小川の水が流れ流れて巨大な海になる様に、一抹の不安は言い様の無い巨大な胸騒ぎとなって3人の心を呑み込みます。

 お陰で午後の授業も何処か上の空で全然頭に入って来ません。そして部活でも―――――。

 

 「あれ?貴女達、今日は3人だけ?吉池はどうしたの?」

 

 「それが―――――。」

 

 葵が深優の早退の事を話すと、みちるは昼間のアナウンスで深優が呼び出された事を思い出しました。

 

 「そう、あの呼び出しの後、吉池は早退してたのね……。」

 

 「あたし等も気になっちゃいたけど、一体あいつどうしたんだろうな?」

 

 曲がりなりにも忍にとっては恩人の1人であり、みちるにとっては彼女を共に癒す戦友でもあった深優が早退していたと知り、2人も心配な様子でした。

 

 「先輩達、あの子の事が気になるのは分かりますが、今は練習に集中しましょう!ホラ、汐月さん達も準備体操始めるわよ!」

 

 そんな中、3年の2人や1年のリラ達と違って深優とも距離の有る、2年生の先輩の真理愛が代わりに陣頭指揮を取ってその日の練習はスタートするのでした。

 

 

 翌日の事です。

 

 「お早う深優!」

 

 「うん、お早う……。」

 

 何時もの様に通学路で葵が幼馴染みの深優に話し掛けますが、深優はそう素っ気無く返すだけです。昨日までの元気印が、嘘の様に鳴りを潜めたその様子に葵は只々戸惑うばかりでした。学校に着いてもそれは変わらず、葵がどうしたのか訳を訊いても、全く相手は答えてくれません。

 

 

 彼女の突然の変化は、水泳での練習にも如実に出ていました。

 

 「次!」 

 

 みちるのホイッスルと共に、他の部員と一緒に泳ぎ始める深優ですが、泳ぎに全く精彩が有りません。先輩は兎も角、同級生相手にも最下位になる始末です。

 

 「どうしちゃったんだろう、深優ちゃん?」

 

 「さぁ………?」

 

 リラと更紗が深優に対して疑問を抱く中、忍が深優を詰りに掛かります。

 

 「おい吉池、何だ今の泳ぎは?」

 

 「はい、ごめんなさい……。」

 

 けれど、深優は相変わらず絶不調でまるで振るいません。おまけに何時もだったら他の部員の胸を嬉々として揉みしだきに掛かる所を、まるでそうしないのです。

 

 (深優……一体どうしちゃったのよ?何で何も言ってくれないの……?)

 

 「吉池、一体どうしちゃったのかしら?」

 

 「昨日呼び出されてから早退してたみたいだけどよ、それが何か関係してんのか?」

 

 幼馴染みの葵が心配し、みちると忍が突然の深優の変わり様に疑念を抱く等、釈然としない空気のまま、その日の練習は終了しました。

 

 

 練習が終わって家路に就いた後、リラはアクアリウムの能力で、そして葵はLINEで深優に何が有ったかを探ろうとしました。

 然し、リラが水霊(アクア)達から地球で起きた出来事を音や映像付きで脳に流して貰う術である『ストリームメモリアル』による情報開示を求めても、テミス達は答えようとしません。

 

 (残念だけど、それは話せないわ。友達だからこそ知って欲しい事も有れば、知って欲しくない事だって有る。今回の深優さんの事は、貴女にとっては後者のそれ。彼女が自分の口から話してくれるのを待ちなさい。)

 

 (でもテミス、話してくれなかったらどうするの?)

 

 (その時は残念だけど、触れないでいてあげなさい。貴女だって、自分の全てを葵さん達に話している訳じゃ無いでしょう?それはお互い様。多少秘密が有った所で揺らぐ程、人間同士の友情や絆は脆い物でも無いんだし―――――。)

 

 (それはそうかも知れないけど、でも――――――)

 

 テミスからそう返されても、やっぱりリラは納得出来る物では無く、胸にモヤモヤとした気分を抱えたままその日は就寝と言う運びとなりました。

 周りに打ち明けられない程と言う事は、相当大きな事を深優が抱えているのは想像に難くありませんが、実態が分からない以上リラにはどうする事も出来ません。

 葵の方も葵の方で、幾等LINEで深優に何が有ったか尋ねても、相手は無言で全く返す気配が有りませんでした。

 

 「どうしちゃったのよ深優……?お願い…返事してよ………!」

 

 昨日まであんなに仲良しだったのが、まるで嘘の様に冷たくなった――――それが今、葵が深優に対して抱いた気持ちでした。今までこんな事、只の1度も無かったのに……。けれど、葵にはどうする事も出来ません。スマホの画面を一頻り見つめた後、葵は諦めて部屋の電気を消し、ベッドの布団にくるまるのでした。

 

 明日には、幼馴染みが元に戻っていると信じて――――――。

 

 

 然し、深優の様子は昨日を含め、3日連続で変わりませんでした。

 相変わらず授業の時も部活の練習の時もずっと元気が無く、何処か鬱屈として塞ぎ込んだままだったのです。アクアリウムでリラが確かめると、彼女の中は依然濁ったままでした。

 

 「深優ちゃん、本当にどうしたの?何か有ったの?」

 

 「吉池!悩みが有んなら黙ってねぇで何とか言えよ!!」

 

 「お願い深優!良い加減話して!」

 

けれど、周りが幾等問い質しても深優は何も答えようともしない為、ますます深優と周囲の人間関係は拗れて行く一方でした。リラだって、無理矢理癒した所で原因が分からなければ、また穢れを溜め込むだけなので迂闊にアクアリウムも使えません。その原因だってテミスに訊いても、相手は黙ったままで何も答えてくれないのです。

 

 深優の事で進展が有ったのは、更に翌日の4日目の事でした。

 

 4日目の翌朝、リラが登校の為に校門にまで足を踏み入れた時でした。

 

 「待ってよ深優!」

 

 リラの視界に飛び込んで来たのは、自分と同じく登校して来た深優と葵でした。何時もの様に深優から訳を聞き出そうと、性懲りも無く葵が追い掛け回していたのです。

 必死で走って逃げる深優を葵が後ろから追い掛けると言う、普段仲良く登校している2人の姿からはおよそ掛け離れたこの光景も、4日連続で見せ付けられてはリラも慣れてしまっていました。呼び出されて早退した翌日は信じられない光景として呆気に取られていたのに……。全く、慣れとは恐ろしい物です。

 

 自分の目の前を横切る深優と、不意にリラは視線を合わせました。その目は何故か悲しげで、助けを求める子供のそれでした。

 

 (深優…ちゃん………?)

 

 そのまま海を泳ぐ魚の様にリラの目の前を通り過ぎると、深優は校門の昇降口へと消えて行きました。

 擦れ違い様に見せた深優のあの表情―――――あんなに悲しそうな顔の彼女は今まで見た事が有りません。

 何か、仲の良い相手にも言えない様な悲しい出来事でも有ったのでしょうか?

 

 (友達だからこそ知って欲しい事も有れば、知って欲しくない事だって有る。今回の深優さんの事は、貴女にとっては後者のそれ。)

 

 昨日のテミスの言葉が、リラの脳内を落ち着き無く泳ぎ回る金魚かコリドラスの様に縦横無尽に駆け巡ります。

 

 「ハァ……ハァ………深優……どうしちゃったのよ、一体………?」

 

 仲の良かった幼馴染みの突然の変わり様に、葵は悲しみを禁じ得ませんでした。

 アクアリウムの能力で葵を見ると、彼女の中が薄らと濁り始め、穢れの温床が出来上がりつつ有りました。

 

 「葵ちゃん、気持ちは分かるけど、今はそっとしておいてあげようよ。」

 

 「リラ……。」

 

 再び穢れを溜め込ませまいと、リラは優しい言葉でそっと葵を諭しに掛かりました。

 

 「幾等仲の良い幼馴染みだからって、言いたくない事だって有るわ。深優ちゃんが話そうって思うその時まで、私達は何も訊かないでいてあげようよ。それが今のあの子にとって大事だって思うから―――――。」

 

 リラが葵をそう優しく諭すと、遅れてやって来た更紗が言葉を続けます。

 

 「確かにそれが良いかも知れないね。何が有ったか知らないけどきっと深優、3日前に職員室の先生から聞かされた事が自分の中で余りに大き過ぎて、気持ちの整理が付いてないんだと思う。」

 

 そう……今彼女に必要なのは時間―――――――。

 ならば今暫くはそっとしておいて、彼女が話したいと思った時に聞けば良い。

 リラと更紗が優しく宥める事により、葵の中の濁りが薄れて行くのをリラは確認しました。取り敢えず彼女がまた穢れの温床になる事を防げて一安心です。

 

 気が付いたら学校のチャイムが始業の時を高らかに告げた為、残る3人も急いで教室へ急行するのでした。。

 学校では何時も通り授業を受けている深優ですが、どうした事でしょう。何かに付けて席の離れた場所にいるリラの方を向いて、彼女と視線が合うと途端に引っ込める……。

 その鼬ごっこの繰り返しでした――――。

 

 

 それから午前中の授業が終わった昼休み。

 リラ達が何時もの様に中庭で昼食を終え、教室へ戻ろうとした時でした。

 

 「リラっち、ちょっと良いかな……?」

 

 「深優ちゃん?」

 

 「2人で話したい事が有るんだけど……。」

 

 「何よ深優?私達は聞いちゃいけない事なの?」

 

 「あぁ、いや……水霊(アクア)の事でリラっちに訊きたい事が有るからさ、ね?」

 

 そう言って眼鏡を外して目を擦ると、深優はリラの腕を引いてその場を足早に立ち去ります。

 

 「えっ?あっ、ちょっと深優ちゃん!?」

 

 「2人は先に教室帰ってて!」

 

 戸惑うリラの腕を引っ張って遠ざかって行く深優の背中を見送る葵と更紗ですが、幼馴染みの目は誤魔化せません。

 

 (怪しい……何が「水霊(アクア)の事でリラに訊きたい事が有る」よ?見え透いた嘘なんか吐いて!!深優の奴、そんなに私に言いたくない事隠してるの!?)

 

 人間は嘘を吐く時、何かしらの仕草を無意識に行う物です。

 先程深優は眼鏡を外して目を擦っていましたが、それが『彼女が嘘を吐く時に出る癖』である事を、葵は長い付き合いで良く知っていました。

 

 

 一方、深優はリラを人気の無い理科室に連れ込んで2人きりになったのを確認すると、念の為に戸をしっかり閉めます。

 

 「あのさぁ深優ちゃん、水霊(アクア)の事が知りたいならそれで良いんだけど、それってわざわざ2人だけでする話なの?」

 

 すると深優は自ら閉めた戸の方を向いたまま、リラに対して背を向けて言いました。

 

 

 「………嘘なの。」

 

 

 「え?」

 

 “嘘”と言われて困惑するリラですが、深優は気にせず続けます。

 

 「本当はね………リラっちにお願いしたい事が有ったの。葵やサラサラには頼めない大事な事だから………。」

 

 そう語る深優の身体は、静かに小刻みに震えていました。リラが恐る恐るアクアリウムを展開すると、深優の身体が黒くくすんで午前中の葵以上に濁り、穢れの温床がすっかり出来上がっていたのです。

 

 「深優ちゃん!?」

 

 すると突然深優は俯きながら踵を返し、そのままリラ目掛けて走って来てしがみ付くと、顔をガバッと上げて目に大粒の涙を浮かべながらこう叫びます!

 

 

 「お願いリラっち…パパを………パパを助けて!!」

 

 




キャラクターファイル12

ノーチラス

年齢   無し(強いて挙げればみちると同じ)
誕生日  無し(同上)
血液型  無し(同上)
種族   水霊(アクア)
趣味   瞑想
好きな物 忍を観察する事


みちるの中の内なる水霊(アクア)。純白の殻に水色の身体をしたオウムガイの様な姿をしている。
頑丈な殻の中に大量の穢れを取り込んで浄化する事が出来る他、50mもの長い射程を誇る触手で相手を拘束したりも出来る。
家を飛び出して自殺を思い立った忍の行動を阻止すると共に、彼女に取り憑いていた穢れ水霊(アリトゥール)達を捉えて動きを封じる等の活躍を見せた。
口数自体は多くないが、宿主のみちると同じで慈悲深い性格。
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