あれから4月も終わりの第4週目に差し掛かるまでの間、リラは体験入部と称し、色んな部活動の見学に足を運んでいました。葵達もそれは一緒でした。
バスケ、バレー、テニス、美術、陸上―――――ほぼ全制覇する勢いでしたが、全ては穢れを抱えた人間の下に近付き、癒す為です。
葵達にもその為に協力してもらっていました。
「あのっ!先輩、ちょっとお話が有るんですけど……。」
コミュニケーション能力の高い葵に頼んで言葉巧みに人気の無い場所へと呼び出し、癒しの螺旋『クラリファイイングスパイラル』に包み込んでリラは穢れを取り払っていたのです。
「うるっせぇな!気安く話し掛けんじゃねぇよ!!」
ですが、相手によってはぞんざいに、時としてにべも無く突っ撥ねられる事も有ります。そんな時は、内なる
答えは多少乱暴ですが「荒療治」です。
「力を貸して……『ドリス』!」
(よっしゃ!ウチの出番やな!!)
リラがドリスの名を呼ぶと、突然現れたのは関西弁を話す桔梗色の鯰の姿をした[[rb:水霊 > アクア]]でした。外見に付いてより厳密に言えば、“レッドテールキャット”と言う観賞魚としても人気の大型鯰です。
このドリスは蒼國市に住み着いている中級
そう言う意味では、近くに居て強い力を持った中~上級の
掌を翳してその上にドリスが躍り出ると、そのまま彼女は光を放って
そして――――――!!
「え~~~いっ!!」
癒しの槍と化したドリスを、勢い良くリラは穢れが重篤な相手の背後目掛けて投擲します。これが
クラリファイイングスパイラルを帯びた
リラ自身、投擲スキルは決して高くはありませんが、それを周囲の
ドリスが身体に刺さると、そのまま穢れを抱えた少女の周りにはクラリファイイングスパイラルが発生。復活した内なる
そうして癒しの副産物で心が凪ぎ、相手が周りを拒絶しなくなった状態になった所へ、リラは偶然を装って近付き、心のケアを施しました。
地球を廻る
「リラっち、お疲れ~♪」
「周りには誰も人は来なかったから安心して。」
勿論、部外者に見られない様にする意味でも場所と状況はしっかり選んで決行してましたし、葵と深優と更紗も協力者として人払いをやったりしていました。
部活の体験入部を口実に
彼女達が何を理由に穢れをその内に溜めるのか?有り体に言えばどんな悩みを抱えて苦しんでいるのかを………。
先輩を中心に1番多かった進路、言い換えれば自分の将来への不安……。
親からの過干渉……。
恋愛への憧れと苦悩……。
友達の出来ない孤独……。
部活関連では自身の能力の伸び悩みや、レギュラーに選ばれない事等への懊悩……。
蓋を開けてみれば「何だそんな事か」と誰もが思いそうな事でも、当人達にとっては切実な悩みである事に変わりは有りません。
思春期と言う子供と大人の境界線で、少女達は迷いと悩みの激流に翻弄されながら生きているのです。苦悩や懊悩に戸惑い、時に周りに反発したり、けれど本当は寂しくて怖くて、助けて欲しい純粋な子供の一面も有る………。
そんな女子高生達の心は、正しくサルガッソー海の様な物。
バミューダトライアングルを含む北大西洋に位置し、海藻に絡み付かれて船が難破すると言う『魔の海の伝説』で恐れられているサルガッソー海ですが、本当は世界一透明度が高く、何と66.5mもの深い所までくっきり見える程澄んでいます。まさしく思春期の少女の心の様ではありませんか!
何にせよ、現実の奔流の中に在って、それでも前に進もうともがく彼女達の問題は、本来1人1人が解決すべきそれ。故に、
然しその一方で、多感な時期の子供の心と言うのは非常に脆く、ともすれば暴走して有らぬ方向へ進んでしまう危うさすら孕んでいる物。余り相手が苦悩で根を詰め、ストレスで己自身を徒に追い詰めて穢れを溜め込まない様にする意味でも、その心を癒す存在と言うのはやはり必要でしょう。
それこそが
さて、延々とリラの営みを駆け足でお話して来ましたが、此処からが本題です。それは、4月も残り一週間を切り、生徒達がこれからゴールデンウィークに突入せんとしている時期の事でした。
「ねぇリラ、皆の事頑張って癒してるけど、部活はもう決めたの?」
「体験入部って事であちこち回ってたけど、そろそろ部活決めないと不味いんじゃないかな?」
HRを何時も通り無事に終え、荷造りを始めるリラに葵と深優が話し掛けて来ます。
「そう…だね。まぁ、私は別に帰宅部でも良いんだけど、折角の高校生活なんだから部活動で青春の汗を流す位はしたいよね。」
「何その理屈?テンプレ過ぎない?」
リラの言い分にそう苦笑いしながら深優が突っ込みを入れると、徐にリラは近くを泳ぐグッピー型の
「あ~でもどうせだったら水に関係した部活動なら良いんだけどな…。」
「この前の
「ボートも良いんだけど、やっぱり直接水に触れ合うのが私は1番楽しいって思うの。
すると更紗が思い出した様に言いました。
「――そう言えば、未だ回ってない部活が1つ残ってたよね?」
更紗の言葉を受け、リラは重大な何かを見落していた事に気付いた様にハッとなります。
「あぁっ、あれね。確かに水関係でリラにはドストライクかもだけど、あの部活ってもう少ししなきゃ始まんないんじゃ……ってあれ、リラ!?」
葵がそう返し終わるか終わらないかの内に、リラは弾かれる様に教室を飛び出して行きました。アクアフィールドを展開していないから3人には見えていませんが、その部活の場所へと急行する彼女の周りには既にグッピーやプラティ、モーリーの様なメダカ型の下級
テミスは今回は付き従っていませんが、リラの内なる
「着いた!此処だわ!」
リラが立っている場所。其処は――――――――『霧船女子学園水泳部』の部室である更衣室でした。
そう、未だリラが唯一見学していない部活動――――――それは水泳部だったのです。確かに水と直接肌で触れ合えると言う意味では、リラにとってこれ以上ない程ピッタリでしょう。然し、
(―――――リラ、此処に強い穢れの残滓を感じる………。)
クラリアの言葉を受けてアクアリウムの能力を発動すると、確かに大きな黒い染みの様な物が更衣室の扉に浮遊しているのが分かります。水泳部に所属する子の中に、強い穢れを抱えているのは確実です。
それ以前にも他の部活動見学でリラは水泳部の更衣室の近くを何度か通り過ぎましたが、その度に嫌な感じを覚えていました。どうやらその直感は間違ってはいなかった様です。
内なる
「やっと追い付いた!」
「も~~~う、リラったらいきなり飛び出してくんだもん!行くなら一言声掛けてよ!!」
不意に背後から響く声。何事かと思って振り返ると、葵と深優と更紗の3人が追い付いて来たのでした。
「ごめん。でもどうしても穢れを綺麗にしたくって……。」
「穢れって……そんなに酷いの?」
更紗に問いに対し、リラがアクアフィールドを3人の足元に展開すると、彼女達の視界に飛び込んで来たのは黒い雲の様な大きな穢れの塊でした。然し、それを下級
「うわぁ、こんな汚い雲みたいなのが穢れなんだ…。」
「凄く大きな綿埃みたいなのがあっちこっちに浮かんでるよ。何か嫌な感じ………。」
「でも、
浮遊する黒い穢れを見て率直な感想を述べる葵達3人の一般人。然し、リラは最後の更紗の言葉に対して訂正の言葉を述べます。
「駄目よ更紗ちゃん、確かにこの辺の穢れを今この子達が綺麗にしてるけど、これは“穢れの残滓”なの。そして穢れを生み出す原因は、人間の中にしか無い。この2週間で何度も見てるから分かるよね?」
その言葉に対して返答したのは深優でした。
「穢れの元になってる人の事を癒さなきゃ、根本的な解決にならないって事だよね。うん、それは分かってる。」
「でも、これだけ凄い穢れを出す人って一体――――――?」
想像しただけで葵はそこはかとない不快感を感じました。これだけの穢れを残滓として周辺に漂わせるとは、原因となっている人間の心は相当苦しくて追い詰められているに違いありません。
ともすれば嘗てのリラ同様、自殺を思い立っても何ら不思議では無い位に―――――。
「ちょっと貴女達、其処で何をしているの?」
すると突然近くの廊下から、自分達4人に話し掛ける声が響きました。心なしか言葉には強い語気が含まれています。
何事かと思って声のした方を向くと、170㎝は有ろう長身の女子が立っていました。モスグリーンの瞳に先端を結った茶髪のロングヘアーで、水泳には邪魔では無いかと思う程の大きな胸を大震災と言わんばかりに揺らしながらこちらに近付いて来ます。
「うわ大っきい……90は有るかも―――――?」
「えっ、あっ、いや、その私達は………。」
深優がそう不謹慎な事を呟く中、突然話し掛けられて面食らうリラは上手く言葉を返せません。元々の性格も相まって、相手に強気に出られると委縮してしまうタイプなので無理は有りません。
思わず更紗の陰に隠れてしまうリラの事を慮ってか、真っ先に口を開いたのは葵でした。
「私達、水泳部に入りたくて来たんです!!」
葵の出した助け舟に、リラは思わず彼女の顔に視線を落とします。口角を挙げてニッと微笑む葵のフォローを受け、リラも気を取り直して隠れるのを止めて続きます。
「そ、そうです!取り敢えず体験入部だけでもと思ってッ……!!」
リラの言葉を受け、背の高い女子は先程までの険しい表情から一転、穏やかな顔で答えました。
「あら、入部希望者だったの?それなら話は早いわ。立ち話も何だし、一先ず部室に入りましょう?」
そうして5人は更衣室に入ると、設えられた椅子に座って話をする事となりました。
「私の名前は『
みちると名乗った水泳部部長の言葉に促され、4人も自己紹介をします。
「わ、私は汐月リラ。1年生です!」
「同じく1年生の五十嵐葵です。」
「1年生で葵と幼馴染の吉池深優です!」
「長瀞更紗。1年生です。」
「汐月さん、五十嵐さん、吉池さん、それに長瀞さんね。宜しく。」
名前と合致させるべく4人の顔を見渡しながらそう返すと、みちるは言いました。
「入部してくれるのは嬉しいけど、見ての通りウチは未だ本格的なプール開きはしていないの。未だ後一週間はしてからじゃないとね。霧船じゃ毎年4月の末頃にプールの清掃が行われるんだけど、次の5月のGW明けじゃないと正式なプール開きにはならないの。」
通常、学校でのプール開き、及びその為の清掃は早くても5月、遅くても6月初頭に行われる物ですが、末頃とは言え4月とは早い位です。これも人々が泳ぎに親しむ水の都たる蒼國ならではの特色でしょう。
「えっ?じゃあ泳げるのは未だ先なんですか!?」
残念そうにリラはそう返しますが、勿論これは未だ泳げないのが惜しいからでは無く、部員である女子の穢れを浄化する為に体良く近付く事が現段階で難しいからです。勿論、
こうしたアフターケアこそが、リラの
そんなリラの心中など気付く事も無く、その表情から相手を「早くウチで泳ぎたい位水泳に対して情熱の有る子」と思ったみちるは微笑みながらこう返します。
「大丈夫よ。この蒼國は水の都なんだから、学校のプールが使用禁止の時でも水泳部員の子達は皆市民プールや安全な川辺とかで自主練してるわ。だから学校のプールが閉鎖されてたって平気。でもやっぱりホームグラウンドのプールの方が、私も皆も練習に身が入るのは事実だけどね♪現に今の私も、早く学校のプールで泳ぎたくてウズウズしてるもの!」
未だプール開き処か清掃すらしていないのに、目の前の部長の少女はとても水泳に対して直向きで情熱のある先輩である様子。アクアリウムの能力をこっそり発動してみると、みちるの内なる
然し、
このままでは、何れみちるの内なる
「言われて見たら確かにこの街って泳ぐとこ一杯有りますよね!」
「プールが使えなくても泳ごうとするなんて、流石は水泳部ですね。」
みちるや未だ顔も知らない部員の子達の直向きさに、率直な感想を漏らす葵と更紗。因みに深優はみちるの顔を見ている様に見せ掛け、終始その豊満な胸に先程から視線を相手に気付かれない様送っていました。
そんな中、意を決したリラは、みちるに尋ねました。
「あの、前橋先輩……1つ訊きたい事が有るんですけど―――――。」
「何かしら汐月さん?」
不躾ながら自身に質問をしようとするリラですが、みちるは迷惑がる素振りを見せずにやんわりとこれを受け付けます。本題に入るべく、リラは口を開いて言いました。
「先輩は悩み事とかは無いんですか?例えば“誰かの事”とかで―――――――」
リラがその言葉を口にした途端、「なッ!?」と声を挙げると共に、先程まで穏やかだったみちるの表情が曇り始めました。まるで晴れた青空の海に、これから時化が押し寄せんとする前触れの様に………。
その様子に葵、深優、更紗の3人は困惑しながら、リラとみちるの2人の顔へと交互に視線を送ります。
「い、いきなり何を言い出すのかしら?別にそんなのは無いけど…。」
努めて平静を装ってそう返すみちるですが、突然目を逸らして余所余所しい態度を取る彼女の姿勢にリラは確信しました。“どうやら穢れの大元の人物に心当たりが有る=鍵を握っているのはこの先輩で間違い無い”と言う事を―――――――!!
有り体に言えば図星だったと言う事です。
「ちょっとリラ、駄目だよ初対面の人にいきなりそんな事言うのは……。」
「そうだよリラっち、そう言うのはもっと親しくなってから……。」
慌ててリラを止めに掛かる葵と深優ですが、リラは御構い無しに続けます。
「本当にそうなんですか?先輩は何か知ってるんじゃないんですか?私、力になりたいんです!悩みや苦しみを抱えて、穢れを溜め込む人の事を……」
「良い加減にして!!何なの貴女!?初対面の相手に向かっていきなり『悩みが無いか』なんて訊いてどう言う心算よ!?入部希望者なら受け付けるけど、冷やかしだったら出て行って頂戴ッッ!!!」
そう怒ってみちるが思わず豊満な胸を揺らして勢い良く立ち上がると、4人はそのまま彼女の剣幕に威圧されて言葉を失いました。深優はこんな時でも上下に大きく揺れる震源地をじっと見つめています。
「……ごめんなさい先輩。いきなり失礼な事言っちゃって………。」
そうしおらしくなったリラは頭を下げて謝罪します。
「前橋先輩、この子には後で私からも言って聞かせますから許して下さい。それと、私達は冷やかしじゃ無いです。」
「そうです先輩!私達、この2週間入る部活探して色々と見学してたんです!」
「最後に残ったのがこの水泳部だったんですけど、前橋先輩の話聞いて私も水泳やってみたいなーって思う様になりました!」
口々に弁解する更紗と葵ですが、深優の言い分は明らかに建前であると言うのは秘密にして置いて下さいね?
「そう……私もごめんなさいね。つい大声出したりして……。其処まで入りたかったら入部届を出すと良いわ。私からも顧問の村上先生に頼んでおくから…。」
みちるがそう言うと、4人は「では、失礼します!」と言ってそのまま更衣室を出ました。
「悩み……か………。」
4人が居なくなった後、1人俯いてそうみちるは呟きます。そうして立ち上がって窓を開け、解禁の時を待つ霧船のプールを彼女は見つめました。
すると彼女の頬から、突如一筋の雫が伝い落ちます。気付けば身体も小刻みに震え、その目には大粒の涙が溜まっていました。
「もう今年だけだよ……私達がこの学校で泳げるの……………?何時になったら帰って来るの…………?ねぇ………………『忍』―――――――――……!!」
と言う訳で、リラの入る部活は水泳部でした!……って水がテーマだから定番っちゃ定番かな?他にボート部や水球部ってのも有るだろうけど、やっぱり水にまつわる部活動の王道は水泳部!って感じで自己弁護してますけど、ともあれ水泳部の問題を果たしてリラは無事に解決し、スッキリ入部出来るのか!?乞うご期待下さい!
キャラクターファイル7
前橋みちる
年齢 17歳
誕生日 6月21日
身長 170㎝
血液型 B型
種族 人間
趣味 書店巡り
好きな物 カモメとの触れ合い(家の周りを良く飛び回る為)
霧船女学園水泳部の部長。女子としては長身の部類である170㎝もの背丈に加え、バスト90と言う明らかに泳ぐのに邪魔ではと思わざるを得ない程の豊満な胸を誇り、モスグリーンの瞳に先端を結った茶髪のロングヘアーが特徴で良く手を後ろ手に組む。また、その背の高さ故に手足も相応に長く、モデルにスカウトされた事も有る程の美少女である。包容力が有り、普段は穏やかだが怒ると怖く、他の部員をしてまるで海の様と言わしめる性格で、取り分けいきり立つと胸が大きく揺れる。
水泳部部長であるだけあって苦手な泳ぎは無く、1番得意なのは自由形。
因みに実家は世界的な大企業のトップであり、文字通り深窓の令嬢である。