ドラゴンクエスト ~勇気に願いを~   作:へっぽこビルダー

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モンゾーラ使節団

魔王軍迎撃から数日、ブレイブは目まぐるしくイベントに追われていた。

というのも先の作戦で、おてんば姫を体を張って守り切ったことがなぜか表彰され、見事上級兵士と認められたのである。

上級兵士と言っても仕事の内容自体にはそう変わったことは無かったが、舞踏会のようなイベントに上級兵士は出席が義務付けられているため、慣れない社交辞令にブレイブは日夜へとへとであった。

 

そんな毎日を続けていたブレイブへ突如王宮からの呼び出しがかかった。

玉座に招かれたブレイブは、モンゾーラ王の前に頭を垂れた。

「久しぶりじゃのう、兵士ブレイブ。其方の昇進式以来か。」

「は、ご期待に沿えるよう日々努力しております。」

「そう固くなるでない。――まぁ良い、それでは本題に入ろうかの。」

「まずは、先の我が娘の護衛見事であった、聞くところによるとあのマンドリルさえ、一人で倒したと聞く。」

姫が武術を扱えるというのは秘密となっている為、先の戦闘は全てブレイブ一人の功績となっていた。

「そして、ムーンブルクの陥落の知らせじゃ。」

「儂は、より各島との関係をを強め同盟を結ぶべきと判断した。ゆえに我が娘を中心とした使節団をシドー王国へ派遣するつもりである、其方もその使節の一員として、娘の護衛をしてもらおうと思う、良いな?」

「は、ありがたく拝命させていただきます。」

「うむ、よい返事じゃ。」

そう言って王は近くの大臣へ目配せをする。

大臣は一呼吸置くと、「兵士ブレイブ、詳しい話は追って説明する今日はこれで帰りたまえ。」そう言った。

ブレイブは王へ一礼すると、玉座を後にする。

――なんだか大変なことになってしまったな。

ブレイブは何か大きなことが起きそうな予感を感じ、胸中は穏やかではなかった。

 

数日前に出港式を済ませ、ブレイブは今シドー島へ向かう船の上に居た。

ブレイブの目の前では姫が子供の様にはしゃいでいて、今にも海へ落ちて行かないか気が気ではなかった。

 

彼らが向かうシドー王国は、世界の中央にある島とされており、創造神シドーが一番初めに作った島ともいわれている。

中央に創造神シドーを祭るシドー教の総本山であるシドー神殿があり、北西の雪に覆われた地域にシドー王国の城が存在し、北東の草原にはモンゾーラほどではないが、大きな農村が広がり、南東の砂漠には巨大なピラミッドが商業拠点として大きく栄えている。

ブレイブたち使節団の目的はシドー王国とシドー神殿に向かい、現状の世界情勢の確認と同盟の強化であった。

 

「ブレイブ、シドー島ってどんなところなのかしらね、楽しみだわ!」

「まずは、島の中央のシドー神殿へ向かう予定になっています。」

「シドー島から来た商人が言っていたのだけれど、山のてっぺんにある豪奢で大きな神殿らしいわ。金とか宝石とかふんだんに使われているのかしら!」

――姫は使節の目的を理解しておられるのだろうか?

姫の様子はまるで浮かれた旅行者であり、これから世界の情勢について話し合う大事な使者には到底見えなかった。

 

 船に三日ほど揺られると甲板から島影が見えるほどの距離まで来ていた。

船着き場からずらりとレンガ造りの建物が色鮮やかに広がって、木造建築が主流の茶色や黄色一辺倒なモンゾーラとは大違いである。

「わぁ!すごいわ、まるで城下町じゃない、これで港町だなんて信じられる!?」

相変わらずのハイテンションな姫ではないが、この光景にはブレイブも少なからず感動していた。

近づけば近づくほど、町の喧騒が聞こえてくる。

船上から見えるだけでも、見たこともない商品がいくらでも見つけられ、シドー島がどれだけ活気づいた街なのか否応にも知ることが出来た。

「これでも、最近は魔王の影響で商人の行き来が減っているのさ。」

ブレイブの後ろに居た船長が声をかけてきた。

「こんなに活気づいているのに?」

「表向きはな、だが、憲兵の人数は増えたし、魔物の襲撃も増えている。商売しづらい時代になっちまったもんだ。――さてと、そこをどいてくれねぇか、そろそろ入港の準備をしなきゃならねぇ。」

ブレイブは船長の言葉に、その場を離れたあと、ふとモンゾーラの方角を見た、そこには青い海が広がっていた。

――まさか、モンゾーラを離れる日が来るなんてな。

ブレイブは緑の大地に少し後ろ髪を引かれながら、港町の喧騒に心を躍らせることにした。

 

 姫を含む女性の使者たちが、港町をたった一日で離れることに抗議を申し出るというハプニングがあったものの、使節団のリーダーを任された男が何とか場を宥め、無事計画通りにシドー神殿の前に使節団は辿り着いた。

美しい白い壁で彩られ、立派なステンドグラスが威厳を主張させた巨大な建物、それがシドー神殿であった。

 施設の男たちはその重苦しい雰囲気に自然と姿勢を正し、女たちは豪奢なステンドグラスにうっとりと、目をくぎ付けにされていた。

「ゴホン、良くいらっしゃいました、モンゾーラの使節の皆さん、私はこの神殿で神父やシスターたちの長をさせてもらっている、レドウィグと申します。」

そこには、白髪交じりの頭を揺らした老人がにこやかに立っていた。

「は、レドウィグ殿、此度はよろしくお願いいたします。」

「ははは、そうかしこまらずとも良いですよ、長と言っても便宜上です、教義では我々神父やシスターに階級というものはないのです、とはいえ、それでは不便なことがあるため、長を名乗らせてもらっているだけですから。」

使節団のリーダーとレドウィグが会話を始めた。

「シドー教は神父間では上下関係はないが、聖女と呼ばれる女性だけは明確にシドー教団にて最高の地位に存在している――うん、勉強したとおりだわ。」

ブレイブはつぶやかれた声の方を見ると、姫が手帳を開いているのを見つけた。

「あら、ブレイブ、これが気になるの?」

視線に気が付いた姫が手帳をひらひらと振りながら、ブレイブに問いかけた。

「モンゾーラに居た時に勉強してきたの」

そう言って、手帳を開いて見せた。

そこには、「聖女はシドー教最高権力者ではあるが、シスターとは呼ばれない、聖女は代々ルルという名前を継承している。」と書かれていた。

「それでは皆、これから聖女ルル様へ謁見させてもらう、粗相のない様に。」

使節団のリーダーが声をあげ、神殿内へ歩いて行く。

ブレイブたち使節団はその後をついて行った。

 

神殿の中も外観に負けず劣らず立派なものであった、赤いじゅうたんが床に敷き詰められ、四方を大きなステンドグラスに囲われ、宝石の様に丁寧に磨かれた石の十字架が目を引く赤い布がかぶせられた教壇に鎮座していた。

そして一際目を引くのが、こん棒とハンマーをクロスさせたとても大きな石のレリーフである。

「こん棒とハンマー?」

ブレイブは教会に似つかわしくない二つの道具に首を傾げた。

モンゾーラの教会ではこん棒もハンマーも見たことが無かったし、こん棒もハンマーも神聖な物のイメージではなかった。

思わず口に出ていた言葉にレドウィグが気付いた。

「こん棒がシドー様を表すのです。」

「シドー様がこん棒?」

姫も興味津々と話に入り込んでくる、彼女も知らなかったらしい。

「ええ、今ではほとんど知る者もおりませんが、ここシドー神殿はそもそも創造神シドー様だけを祭る場所では無いのです。」

「どういうことですか?」

ブレイブの言葉にレドウィグはにこやかにうなずく。

「シドー神殿は、創造神シドー様と伝説のビルダー様と共に、人々がモノづくりのすばらしさ、楽しさを伝えるために建てられた神殿なのです。そして二人の功績を讃える者たちにより教団が出来上がり、神殿は二人を祭るための建物に変化したのです。」

「ビルダーとは何ですか神父様。」

珍しくかしこまった声で姫がレドウィグに聞いた。

「世界でモノづくりを広めた者たちのことです、そして伝説のビルダー様はシドー様にモノづくりとは何かを教えた偉大なお方ですよ。」

「そのビルダー様がハンマー?」

「ええ、ハンマーこそモノづくりの真理、破壊と創造の象徴なのです。」

ブレイブの言葉にレドウィグは力強くうなずいた。

 

「ここが聖女の間になります。」

神殿の中でひときわ大きな扉の前でレドウィグが立ち止まった。

レドウィグの指示で、扉の前に居た衛兵がゆっくりと扉を開けてゆく。

「初めまして、私が聖女ルルよ。」

力強い眼差しをした妙齢の婦人がこちらを見つめていた。

「初めまして、我々はモンゾーラから参りました。」

「ええ、聞いているわ。」

使節団のリーダーと聖女が会話を始める。

暇であるブレイブは粗相のない様に姿勢を正しながら周囲を見回した。

部屋の中は思ったよりも女性らしい物は無くどちらかと言えばクールな雰囲気を醸し出していて、付きの者たちも必要最低限というべき人数しかおらず、とても合理的な性格の持ち主であることが窺えた。

「――そう、ついに魔王の手がモンゾーラにまで及び始めたのね。」

「はい、モンゾーラの魔王軍は無事、我々だけで撃退できましたが、これからはもっと強力な魔物が現れないとも限りません、だからこそ各国間の関係を密にし同盟を結びたいのです。」

「その心配は実に正しい物だわ。我々シドー教団としてもぜひ力になります。」

「ありがとうございます、聖女様。」

「では、同盟の証に我が教団でも腕の立つ僧侶を貴方の使節団に同行させてもらえないかしら?」

そう言って、近くの付き人に指示を出すと、一人の女性が聖女の間にやってきた。

彼女は青白い肌に目元にはっきりとした隈を付けたひょろひょろした容姿をしていた。

「紹介にあずかりました、シドー教団の僧侶をしています、グノアと申します。」

しかし、見た目に似合わぬはっきりとした通る声で彼女はあいさつをした。

「この度の謁見誠に有意義なものとなりました。それでは我々はこれからシドー王国へ向かおうと思います。」

グノアが使節団の方を歩いてくるのを見て、使節団のリーダーは聖女へ言葉を交わす。

「ええ、私たちの同盟に幸が有らんことを。」

使節団を祝福する聖女に頭を下げ、使節団はシドー神殿を後にした。

 

神殿を北に進むと、雪が舞い始めた。

「真っ白だわ!見て見て、真っ白!すごいわブレイブ!」

モンゾーラの使節団はその白に覆われた世界に目を見張った。

モンゾーラは温暖な気候であり、冬が無いため使節の殆どが雪を見たことが無かったのだ。

ある者は恐る恐る雪を手に取りその冷たさに驚き雪を放り投げたり、あらかじめ使節団に用意してあった初めて履くブーツで雪を踏んで沈み込む感覚を確かめたり、姫は雪玉を作ってブレイブに投げつけたりして各々初めての雪を楽しんでいた。

「姫、結構痛いです。」

ぼす、ぼす、と白い雪玉がブレイブへ当たっては砕けた。

あはは、と楽し気に雪玉を作っては投げ、作っては投げてくる姫に内心イライラしていたブレイブの横へグノアがやってくる。

「投げ返せばいいじゃない、貴方も。」

「――万が一、姫に何かあってはいけないので遠慮します。」

「そう。」

グノアはそう言うと、唐突に雪玉を作り始める。

ブレイブはいぶかしんでそれを眺めていると、グノアは、姫が雪玉を作るために後ろを向いて屈んでいる背中へ雪玉を投げつけた。

姫はびっくりして立ち上がり、こちらを見てくる。

するとグノアはあろうことか無言でブレイブを指差した。

「へぇブレイブ、やってくれるじゃない。」

そう言っていたずらっぽい笑顔を見せると雪玉を思いっきり投げつけてくる。

ばすっ、と先ほどより強い音がブレイブから響く。

「痛!待ってください姫!私では、――痛。」

姫は、それはもう楽しそうな笑顔でブレイブへ雪玉を投げまくった。

「雪玉は強く握って作るといいですよ姫。」

グノアも心なしか楽しそうな声でそんなことをいうものだから、ブレイブは、味方はいないのかと嘆きながら、姫から逃げ回る羽目になるのであった。

 

初めての雪を堪能した使節団は荘厳極まる城門の前に立ち、先ほどまでの浮かれた気分が嘘の様に静まり返っていた。

城の周囲には過剰とも思われるほどのたくさんの魔法で動く罠が仕掛けられ、城門からも様々な大砲や大弓が顔を覗かせていた。

「良くいらっしゃいました、私は皆さまの案内を王から承っているローと申します。それでは中を案内いたしましょう。」

城門の前で、派手で立派な鎧を着て、大きな宝石がはめ込まれた剣を腰に下げた騎士が使節団に頭を下げた。

彼は手で何か合図をするとガラガラと門の鉄の扉が重々しく開いて行く。

「では、こちらへどうぞ。」

武骨な石のタイルの上をカツカツと足音を立てて歩く使節団一行は、ローに連れられ城の中の応接間へ案内された。

「こちらにお座りになってお待ちください、準備が整い次第お呼びいたします。」

ローは頭を下げて部屋を出て行った。

「ローの腰に下げている剣が魔法剣だとしたら、おそらく彼は魔法戦士よ、初めて見たわ。」

姫がブレイブに言った。

――あれが魔法戦士。

魔法戦士とは、高い格闘技術だけでなく魔法にも精通した上級職業である。

今のブレイブにとって遥か高みに居る戦士ローへ羨望を抱くブレイブであった。

「ほう、一目で魔法剣を見抜くとはなかなかの慧眼の持ち主じゃな、お嬢さん。」

虚空から響いた声に使節団は皆はぎょっとした。

ブレイブと姫が声のした方を見ると、薄く輝くまるで幻のように揺らめいたおおきづちが宙に浮いているではないか。

「しろじい様!」

グノアが声をあげる。

「ふむ、久しぶりじゃな。」

しろじいと呼ばれたおおきづちはグノアにウインクをする。

「なぜ、このようなところに?」

「いやはや、面白い者たちがいると思ってのう、楽しそうだからついてきてみたのじゃ。」

「グノア、この方は?」

姫がグノアに説明を求めた。

「この方は、しろじい様、精霊のようなものらしく、ここシドー島の守り神だとレドウィグ様が言っておりました。」

なんだか腑に落ちない返答に、ふーんとうさんくさげな眼差しをしろじいへ向ける姫。

「む、信じておらぬな、儂はすごいのじゃぞ、シドーの師匠で、儂がいなかったらこの世界は生まれておらんのだからな!」

そう言って胸を張るしろじい。

「なんというか、突拍子が無さ過ぎて、何とも言えないわ。」

「ですよね、私もそう思います。」

しろじいの説明したグノアさえもそう言い放った。

「グノアちゃんまで!?」

およよ、と泣きまねをするしろじいは、「みんながいじめるのじゃぁ」と言って消えてしまった。

「なんだったの?」

姫が疑問を口にする。

「おそらく、本当に遊びに来ただけだったのでしょう。」

グノアが言ったところで応接室の扉が開く。

「お待たせいたしました、こちらへどうぞ、玉座へ案内いたします。」

部屋の外でローが案内をした。

使節団はしろじいの来訪で緩んだ気を再び引き締めローの後について行った。

 

「よくぞ参った、モンゾーラの使節団よ。」

モンゾーラの玉座より、より機能的で武骨な雰囲気を醸し出すシドー王国の玉座には鎧の上から、煌びやかな服を羽織り、戦士然とした雰囲気を隠さずに堂々と王座に座る王が使節を出迎えた。

「たびたびの歓迎、誠にありがとうございます。」

使節のリーダーではなく、今回は姫が堂々と頭を下げた。

「うむ、其方と会ったのは、十数年前のモンゾーラへの視察以来か、大きくなったな、リーン姫よ。」

「いえ、私もまだまだ若年の身、学ぶことばかりであります。」

「ほう、あの元気をそのまま人の形にした幼き少女がここまで立派になるか、時間の流れとは早い物だな。」

「本題に入りたいのですが?」

「うむ、分かっておる、答えは同意じゃ、むしろ遅かったぐらいかもしれぬ。」

「遅かったとは?」

「そもそも、同盟の依頼はシドー王国の王たる私から話をするべき事であった、しかし、今の私の力及ばず、オッカムル島では商人たちの独立運動が顕在化しその対処で手いっぱいになってしまい、モンゾーラの手を借りることになってしまった。真に申し訳ないと思う。」

「オッカムル島の独立運動ですか?」

「うむ、今のオッカムルでは明確な支配者がいないのだ。先代のオッカムルの支配者が跡継ぎなくこの世を去ってしまってな、今はその後釜になろうと力を持った商人たちがオッカムルの自治権を各々に主張し、オッカムル島は分裂しているのだ。」

「それでは、オッカムル島との同盟は!?」

「うむ、この問題が収束しないことには真の同盟には至らないだろう。」

「なんとしてでも、オッカムルの指導者を擁立するべきでは?」

「うむ、平時ならそれでも良いだろう、だが今の懸念事項はそこではない、魔王だ。」

は、と息を飲む声が使節団の中から上がる。

「そう、魔王の脅威がある中、強引に立てられた指導者なんかについて来るものはいるかな?万が一でも魔王側へつくものが出てくるようであれば、こちら側の不利にもなりかねんのだ。」

王は頭を振ってから話を続けた。

「我々シドー王国としても手を尽くしておるのだが、なまじ商人たちは手堅い、難航しておる。」

「――我々がオッカムルへ参りましょう。」

少しの間の後、姫は快活に答えた。

「何?」

「我々の目的は各島との同盟です、それはもちろんオッカムルだって含みます、なら我々がオッカムルへ向かってもおかしくはないでしょう?」

「オッカムルの統一を手伝ってくれるのか?」

「統一までするかは分かりませんが、オッカムルが手を取り合って魔王と対抗してもらえるまでは尽力します。」

「そうか、それは良い!――そうだ、其方達使節団に兵を貸そう。」

そう言ってうんうんとシドー王国の王は頷いた。

「話が決まったようなので我々はこれからオッカムルへの準備をいたします。」

「うむ、後のことは追って連絡しよう。」

「ありがとうございます。」

玉座を後にした使節団は、今日はシドー城で一夜を明かした。

 




こんな感じで物語を進めていくつもりですが、書き置きが尽きたので、ここからは不定期投稿になります。


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