鎮守府の一角、個人で使うために設けられたキッチンで一人の少女が鼻歌交じりで包丁を振っていた。
「ふんふ~ん♪」
濡れ羽色の三つ編みを上機嫌に揺らす彼女の後ろでは三人の少女が座っている。
「時雨~まだ~?」
「もうすぐできるから待っててよ、姉さん」
四人の長女、白露はテーブルに顔を突っ伏しながら足をパタパタと動かしていた。
「やだ~お腹空いた~!」
「長女なんだからしっかりしてよ……」
「まったくもう、これだと村雨の方がお姉さんらしいよ」
三女、村雨はそんな長女を呆れたように笑った。その横で四女の夕立はきょろきょろと辺りを見回している。
「提督さんは?」
「まだ起きてないみたいだね。夕立、悪いけど起こしてきてくれない?」
「行ってくるっぽい!」
立ち上がった夕立は勢いよく部屋の外に駆けてゆく。その後ろ姿を白露は眩しいものを見るかのように見送った。
「夕立は元気だねぇ……」
「姉さんもいつもあんな感じじゃん」
「うそぉっ!?」
「ほんと」
次女、時雨が白露に冷ややかな目を向けるのを、村雨は楽しそうに眺めていた。
× × ×
「提督さ~ん!」
霧がかかったような覚めない意識の中、俺を呼ぶ声が聞こえる。遠いような、近いような場所から届く心地のいい声。
「もう朝っぽい!」
独特の口癖はもう違和感を感じない程耳に馴染み、それが聞こえることに安堵さえしている。
「むぅ」
だからか、浮上しかけた意識は再び深海へとしz「いい加減起きるっぽい!!」「ぐえっ!」
モーニングコールはつぶれたヒキガエルのような自分の声。しかも夕立が飛び乗ってきたせいでめっさお腹痛い。
「……おはよう、夕立」
「おはようございますっぽい!」
どうせならその可愛らしい声でもうちょっと頑張って起こしてほしかった……。
紅い目をこちらに向けて元気よく挨拶をするのは白露型四番艦の夕立。それなりに人数のいるこの鎮守府の中でも最古参の一人だ。
「それと飛び乗るのはやめてくれな」
「ごめんなさいっぽい……」
しゅんと犬耳のような髪を垂れさせる夕立だったが、わしゃわしゃと頭を撫でると気持ちよさそうに目を伏せた。
「わかればいいさ」
俺は夕立の頭から手を離すと、一度捲った布団をまた被った。
「じゃあおやすみ」
「ここまできて二度寝!?往生際が悪いっぽい!」
「春眠暁を覚えずってな、ほら、夕立もどうだ?」
俺は一人分のスペースを開けて夕立に悪魔の囁きを投げかけた。
「……」
「……」
「……一緒に寝るっぽい!」
「素直でよろしい」
長い葛藤の末、彼女の中の天使夕立は負けてしまったようだ。
入ってきた夕立とリの字を作って、再び眠りについた。
× × ×
「ごめんなさいっ!遅れましたかっ!?」
夕立が去ったあと、桃色の髪を慌ただしく跳ねさせながら一人の少女が時雨たちの前に現れた。
五女、春雨が謝るのを時雨は笑って許し、部屋に招き入れた。
「僕たちは任務があるから早く起きただけ。春雨は今日おやすみでしょ」
「そうそう、もっと寝ててもいいのよ?」
「ううん、それだと白露姉さんみたいになっちゃうから」
「こらぁ!どういう意味だ!そんなことを言うのはこの口か!?」
「やめふぇねえふぁん」
白露が春雨の頬をムニムニと伸ばしていると、時雨が時計を見てため息を吐いた。
「夕立遅いね」
「ほうひえはふうはひほへえふぁんは?」
「……姉さん、離してあげて」
「ごめんごめんっ」
「あぅ」
白露が手を離すと、春雨は小さく悲鳴を上げて頬をさすった。
「それで、夕立姉さんはどこに?」
「ああ、提督の部屋だよ。ちょうどいいや、春雨、様子を見てきてもらってもいい?姉さんか村雨でもいいけど。朝ごはんの準備変わってくれるなら僕が行くし」
「私が行きます!」
「そう?じゃあお願い」
× × ×
「……司令官?」
「夕立姉さんがいないけど……。とりあえず起こしちゃいましょう!」
「司令官、朝ですよ~」
可愛らしい声と、優しく揺らす手によって、最高の目覚めで新しい朝を迎えた。そうそう、これだよこれ。ヒキガエル?知らない子ですね。
「ん、おはよう春雨」
「はい!おはようございます司令官!」
眩しい笑顔と共に挨拶をしてくれる彼女は白露型五番館の春雨。夕立とは真逆で先日迎えたばかりの新人だ。とは言ってももう一月くらいは経っているが。
「それで司令官、夕立姉さんを知りませんか?ここにいるって聞いたんですけど……」
「ああ、夕立なら――」
そのとき、ちょうど俺の隣で夕立が体を起こして伸びをした。
「ぽい~~」
「ここだ」
「夕立姉さん!?司令官の布団の中でナニを……はっ!?」
そんな夕立の姿を見た瞬間、ついさっきまで表情豊かだった春雨は唖然として動かなくなってしまった。何か勘違いしてない?
「し、」
「し?」
「失礼しましたぁぁ~~!!」
「春雨ぇぇ!?」
脱兎のごとく部屋から出ていく春雨に手を伸ばすが、既に彼女は遥か遠方に行ってしまっていた。
はぁ、とため息を一つ吐いて、俺は目をごしごしとこすっている夕立に視線をやった。
「起きるか」
「ぽいっ!」
× × ×
「遅いよ提督」
「悪い悪い」
彼女たちの下に行くと、真っ先に時雨に怒られてしまった。それから俺の後ろに隠れながら部屋に入った夕立も、抵抗むなしく時雨に叱られた。
「夕立も、起こしてきてって言ったのに」
「気付いたら一緒に寝てた。摩訶不思議っぽい!」
「もぅ……」
口ではそう言う時雨も、目元は優しく笑っている。その隣では春雨が小さく『……そういうことだったんですね』と呟いて、頬を微かに赤く染めていた。
村雨はニコニコと皆を見つめ、白露は威勢よく立ち上がってグラスを手に取った。
「それじゃあ二人も来たことだし!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
吹雪により艦これを知り、時雨と夕立愛でたさに艦これを始め、春雨可愛さに筆を取った新米提督です。まだキャラに慣れてないので口調や態度に違和感があれば教えてくださいm(_ _)m