「提督、桜を見に行かない?」
夕暮れ時、差し込んだ日差しが執務室を茜色に染め上げる頃。書類の山も二本の指で測れるほどの高さになり、ようやく終わりが見えてきたとき、時雨がそんなことを言った。
「花見ならこないだしただろ?」
「あの時は花より団子って感じだったじゃないか」
「確かにな……」
団子っつうか酒だな。特に隼鷹と飛鷹と那智。
「それに、僕は提督と二人で行きたいんだ。ダメかな……?」
普段こういった風に甘えてくることの少なく、いつも何かしら抱え込みがちな時雨の頼み。それを断ることなんて俺には到底できそうになかった。
「まだ仕事が残ってるから歩くだけになるが」
「うん、それでいいよ」
「じゃあ今から行くか」
「うん!」
あまりそういった感情をあらわにしない時雨にしては珍しく、俺の前を歩く彼女の足取りは軽かった。
× × ×
「桜、綺麗だね」
「ほんとうにな」
「提督がそう思ってくれてよかったよ」
執務室を出てからしばらく歩き、俺と時雨は鎮守府内の並木道に来ていた。
毎年この季節になると満開の花を咲かせるここの桜はうちの艦娘たちに人気のスポットだと、ついさっき時雨から教えてもらった。
春の陽気を帯びた一陣の風が吹き、木々の枝を軽やかに揺らす。
髪が乱れないように側頭部を抑える時雨の姿と、その周りを踊るように舞い散る桜吹雪はさながら一枚の絵画のように美しく、つい見惚れてしまった。
「ん?僕の顔に何かついてる?」
「いや、なんでもないよ」
そうやって時雨と二人、街行く中で桜を眺めていると、やがてポツリポツリと雫が落ち、アスファルトの色を黒く変え始めた。
「あ、雨だね」
時雨が手を仰向けて呟いた。
突如振り出した夕立ちは次第に強くなり、たまらず俺たちは近くにあった軒下に避難した。
「ちょっと待ってろ」
確か鞄に折り畳み傘を入れてたはずなんだが、たまたま二本入ってたりは……しないよなぁ。
俺は時雨に一本だけあった傘を差しだした。
「時雨使ってくれ」
しかし彼女はその申し出を拒む。
「いや、提督が持ってきたんだからていとくが使いなよ」
「いやいや、お前こないだ風邪ひいただろ。ぶり返さんとも限らんし使えって」
「いやいやいや、もう完全に治ってるから。それより提督に風邪ひかせたら僕がみんなに合わせる顔がないよ」
「むぅ……」
時雨は俺が雨に濡れることを良しとしない。しかしだからと言って時雨を雨空の下に晒すのは論外。
……仕方ないか。
「ちょっと狭いが二人で使うか」
「提督が折れてくれないしそれしかないかな」
「そうだな、時雨が退いてくれないからな」
そんなことを言い合って、俺と時雨は曇天の下に足を踏み出した
ふと隣を見ると時雨のわずかにはみ出した肩が濡れている。そして不自然に開いた俺と時雨の隙間
どのみち傘の大きさ的に濡れるのは仕方ないけどできる事はすべきだろう。
「もうちょっと詰めるぞ」
「えっ、あ、……うん」
少し強張った返事を肯定とみなし、俺はもう一歩時雨に近づいた。
「時雨は雨が好きなんだったっけ」
「好きだよ。……それに、いまもっと好きになったかな、なんて」
「どういうことだ?」
「ううん、なんでもない。気にしないでよ」
「……?わかった」
気にはなったが、時雨の嬉しそうな表情を見ると追及しようとはとても思えなかった。
某夕張の発明品と提督と卯月のせいで鎮守府が内部崩壊しかけるやつのmmd見てたら遅くなりました。本当に申し訳ない。腹筋と表情筋が痛いです。
ps3−2が勝てない…だと…。春雨への道は遠い。