ある日の昼下がり、執務が一段落ついてグッと背中を伸ばすと、窓の外にのどかな青空が見えた。最近運動なんてほとんどしていなかったし偶には散歩も悪くはないかもしれない。
思い立ったが吉日と言わんばかりに、俺は外套を羽織り執務室を後にした。
もう冬は過ぎたとはいえまだ少しばかり肌寒い。ちょうど一迅の春風が目の前から歩いてきた彼女たちの首筋を撫で、二人は首を縮こまらせて身震いした。
「三月とはいえそんな薄着してたら寒いぞ」
「あ、こんにちは提督。いい天気だね」
「提督さん!こんにちはっぽい!」
落ち着いた雰囲気の時雨と、元気いっぱいの夕立。姉妹でありながら白露型は皆個性豊かで、見ていて本当に飽きない。……いや、地味なのがダメなわけじゃないけどな。ほら、吹雪とか可愛いし。
「二人はどうしたんだ?」
「ちょっと暇だったから散歩。よかったら提督もどう?」
目的を同じくする以上ここで断る理由もあるまい。一人で歩くよりも華があるしな。
「じゃあお言葉に甘えようかな」
「やったー!いっしょにお散歩するっぽい!」
「誘っといて言うのもなんだけどよかったの?忙しいんじゃない?」
飛び跳ねんばかりに喜ぶ夕立の隣で、時雨が不安そうに首を傾げた。
「根を詰めても書類は減らないからな」
「それもそうだね」
「というかお前たちこそよかったのか?」
こんなおっさんと散歩したって面白味もないだろうに。
「はぁ……」
時雨はため息とともに首をすくめた。今度のはきっと寒さのせいではない。
「提督、そういうところは変わってないよね」
「どんなところかは知らんが、むしろ変わったところあるか?」
彼女たちと初めて会ってから約一年。長いようだがとても短く感じたこの時間の中で周りは多く変わったにしても、俺自身が何か変わったようには思えなかった。
「あるよ。階級だって上がったし、昔はそんな口調で話してくれたことなかったじゃないか」
「あ~、そういやそうだったな」
最初は距離感を保とうと、誰と話すにも敬語を使っていたんだったか。
「それにこないだのあれだって」
「あれ?」
「ほら、春雨が進水したとき。提督かっこつけちゃってさ。今まであんなことしなかったのに。だめだ、思い出したらまた……ふふっ」
「おいこら笑うな。あれは威厳を出そうとだな」
久しぶりに迎えた新しい艦娘だったので柄にもなくかっこつけようとした結果、時雨や吹雪に笑われたのはあまり思い出したくない記憶だ。
「ごめんごめん、でもやめといたほうがいいよ?春雨、ちょっと怖がってたし」
「うっ、それは悪いことしたな」
「大丈夫だよ。もうすっかり提督になついてるみたいだし。……ほんとに、すっごくね」
「何か言ったか?」
「何でもないよ。とにかく僕は、それに夕立も。ううん、この鎮守府の皆、提督と一緒に居られて嬉しいんだから」
艦娘を指揮する提督として、艦娘からそう言ってもらえるのは冥利に尽きるというものだ。
「……そうか」
何と答えればいいのかわからず、少し無愛想な返事になってしまった。そんな俺の内心を見透かしているかのように、時雨はやれやれと言わんばかりに軽く肩を揺らした。
「提督~!時雨~!早く来るっぽい!」
少し離れたところで夕立が俺たちに向けて大きく手を振っている。
「早く行こう。夕立に怒られちゃうよ」
「だな」
俺と時雨は顔を見合わせて笑い、同時に足を踏み出した
だいたいこんな感じのゆるい話ばかりです。
ps ぽいぬが可愛い