しばらくの休息を経てまた鎮守府にいつもの忙しさが戻ってきた。
久しぶりの仕事に勘が鈍っていたのか少し多いくらいの作業量でも手こずってしまい、まだ書類の束を抱えたまま辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
今回は明らかに俺の不手際なので自分で何とかすると言ったのだが、やはりこういうところだけ強情な春雨は隣の机でカリカリとペンを走らせている。その目はどこか焦点があっておらず、率直に言ってかなり眠そうだ。
「春雨、もう戻ってもいいんだぞ?あとは俺がやっとくから」
「いやです!司令官はどうせまた無茶するんですから」
頑なに休もうとしない春雨。しかしそろそろ疲れが表情にも出てきている。
だが正直なところ、彼女の言う通り、俺一人だとこの山を片付けるころには日は昇りきってしまっているだろう。そうなれば今度こそ吹雪や古鷹が目を放してくれなくなるのは間違いない。提督として情けない限りだが今日は春雨を頼らせてもらうか。
「すまない春雨。助かる」
「そう言うなら司令官はもっと私たちを頼ってください。春雨も、姉さんたちも、吹雪さんも。みんな司令官の力になりたいんですよ?」
もう十分頼ってしまっていると思うのだがな……。それに彼女たちの本来の仕事は深海棲艦と戦うこと。間違っても書類を相手に戦うことではないのだ。
「疲れたらいつでも休んでいいからな」
「春雨は大丈夫です!」
それから数時間、目に見えて減った眼前の山と引き換えに、とうとう春雨の瞳から生気が消えてきた。
「まだやれます……。眠くなんか、ないです……」
そうは言うものの頭はコクリコクリと揺れ、瞼がゆっくりと閉じていく。次第に彼女の動きは鈍っていき、ついには机に突っ伏してしまった。その小さな口からはかすかに寝息が聞こえてくる。
「すぅ……すぅ……」
「ありがとう春雨。ゆっくり休んでくれ」
春雨を起こさないように静かに腕に抱え、自室のベッドに寝かせた。できれば白露型の部屋にまで運びたかったんだが少し遠いからな……。すまん春雨、俺の布団で。
可愛らしい春雨の寝顔を見ていたいのだが、いつまでも長居している暇はない。まだやることは残っている。
「さて、残りやってしまお――」
立ち上がり部屋から去ろうとした俺を引き留める力が働いて再びベッドに尻を着いた。視線を落とせば俺のものと比べると随分小さな手が袖をしっかりと握りしめている。
「……司令官」
「参ったな……」
後ろ髪をガシガシと掻きながら安らかに眠る春雨を見つめた。この手を振りほどくことは簡単だ。いくら艦娘といえど艤装がなければ年頃の女の子と何ら変わらないのだから。
けれどその手には確かな意志が込められていた。
『これ以上はだめです。司令官も休んでください!』
目の前に横たわる、意識のない少女の声が鮮明に聞こえた気がした。
「んぅ……」
桃色の髪を梳くように撫でると、春雨は口を閉じたまま気持ちよさそうに声を漏らした。
「わかったよ」
一度気を抜くとどっと疲れが肩にのしかかり、猛烈な睡魔が襲い来る。目を開けているだけでやっとなくらいで今すぐにでも寝れそうだ。
しかしどうしようか。ベッドからは離れれられないし、縁にもたれようにもそれでは春雨の腕が変な方に向いてしまう。つまりは初めから選択肢などなかった。
「すまん春雨……」
俺は春雨の隣に体を入れて横たわった。
もう限界だ。
「……えへへ……しれえかん♪」
その声を聞いたのを最後に、俺の意識は微睡みの中に落ちていった。
× × ×
「あれ、私寝ちゃって――」
「し、司令官!?」
「なんで私と司令官が一緒の布団で……。春雨を運んで寝ちゃったのかな」
「やっぱり疲れてたんじゃないですか、もぅ」
「……私は司令官のためならどこへでも行きます。なんでもします。だからもっと力にならせてください」
なんでもに反応した人、正直に挙手。
ps スマ〇ラばっかしてて艦これ全然できてない……。ごめん鎮守府のみんな。