白露日和   作:夜咲ひつぎ

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二年目の誕生会

「金剛さん、時雨ちゃん」

「「「「「「誕生日おめでとう」」にゃし」なのです!」ですぅ!」っぽい!」

 

 今鎮守府の敷地内の広場には豪勢な食事が並べられ、ここに所属する大半の艦娘が集まっている。

 吹雪が音頭を取ると、それに続いて大勢の娘らが盛大に声を上げた。

 

「Oh、ありがとネー!」

「みんなありがとう。ふふっ、ちょっと照れるね」

 

 そして彼女らの前方には二人の艦娘。うちが誇る第一艦隊の精鋭たる金剛と時雨だ。

 今日は二人の誕生日ということでこうして皆で祝っている。

 基本的には誰かの誕生日の時はその姉妹のみで祝うのだが、群を抜いた活躍を見せる二人が同じ日に進水したということでこの日、5月18日は豪華なパーティが開かれる。ちなみに提案者は明石。あいつ、絶対自分が騒ぎたかっただけだろ……。

 ただ、二人はこれだけの規模で祝われるわけだが、二人に限らずうちの鎮守府ではプレゼントを渡していいのは原則その姉妹のみということになっている。実のところ俺も、というか特に俺は物品で何かを渡すことを禁止されている。うちも百人近い大所帯なので、全員にプレゼントを配っていたら本当にきりがない、ということで艦娘の娘たちが気を使ってくれたらしい。

 戻ってきた時雨と金剛は俺の両隣に座った。その奥には白露型と金剛型の娘らが座っている。

 

「提督ぅ~!ミーにあ~んしてほしいネ!」

「金剛、英国淑女の嗜みはどこにいった……」

「そんなものラヴの前にはトリビアルなことネ!」

 

 ……ただし禁止されているのは物品のみ。それ以外のことなら躊躇いなく甘えてくる。

 艦娘たちから慕われているのはもちろん嬉しいのだが、金剛の場合は時々スキンシップが過剰になるからな……。

 

「んぅ~、ベリーデリシャスネ!」

 

 頬に手を当てて唸る金剛の後ろで、比叡と霧島が微笑ましそうに見つめている。榛名はなんというか、妬まし気にジト目を向けてきていた。

 

「提督……。その、僕も……」

「はいはい」

 

 金剛と違って、時雨は普段こんな風に言ってくることは滅多にない。今日くらいは存分に甘えてほしいものだ。

 

「うん、美味しいや」

「あーあ、顔緩んじゃって。嬉しそうだねぇ時雨」

「時雨姉さん、……うぅ、羨ましいですぅ」

「夕立も提督さんに甘えたいっぽい……」

「はいはい夕立、今日は時雨姉さんの誕生日だから」

 

 時雨の隣に座る夕立が唸るのを村雨が宥め、春雨がどこか物寂しそうな表情をしている後ろで、白露は頬杖をついてニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。

 少しの間そんなことをしていると、瑞鶴が最初時雨たちがいた台の上に立って声を上げ、みんなの注目を集めた。

 

「エントリー1番!あの瑞雲に乗ったリンゴを射抜いて見せるわ!」

「おいバカやめろ。私の瑞雲が危ないじゃないか」

 瑞鶴が示すのははるか遠方。演習での彼女たちしか知らない俺としては少し無謀な挑戦に思えるが……。

「瑞鶴頑張って!」

 翔鶴の声援を受けて弓を握った瑞鶴に、加賀が声を掛ける。

「瑞鶴」

「……なによ?」

 訝し気に加賀を振り返った瑞鶴に無茶な提案が為された。

「左で射なさい」

「ひ、左なんてできるわけないでしょ!!時雨と金剛のためにも失敗できないんだから!」

 

 瑞鶴がそう言うや否や、加賀はどこからともなく取り出した矢を弓につがえ、あろうことか左手で弦を引いた。

 限界まで引き絞られた矢は空間を切り裂かんと弾け、刹那のうちに深々とリンゴを貫いた。もちろん加賀は右利きだ。

 果汁が飛び散るのをしり目に加賀は瑞鶴の方へ嘲笑を向けた。

「ふっw」

「……」

「……」

「……」

「やってやろうじゃない!!五航戦の誇りを見てなさい!!」

「ず、瑞鶴!?右で撃って!!」

 

 ……なにやってんだあいつら。

 

「クスッ。騒がしいね」

 

 彼女たちの様子を見て、時雨は口元を抑えながら笑った。

 

「去年はもっと静かだったのに」

「ああ、そうだったな」

 

 あの時はまだ艦娘の数が今の十分の一くらいしかおらず鎮守府も今ほど大きくはなかったので、会議室を使って祝ったんだったか。

 時雨はそっと目を閉じ、壊してしまわないように優しく包み込むように、左のおさげに手を添えた。……そういえばあの頃はまだルールもなかったな。

 

「来年はどうなってるかな?」

「まだわからないさ。だから――」

 

 先のことなんて何一つわかりやしない。明日、それどころか一瞬先に生きてられるかさえわからない。

 けれどそんな環境だからこそ、こうした普通の日常が何にも代えがたい時間となる。

 だから、そんな『今』を――。

 

「俺たちで作っていくんだ」

「まったく、君はほんとうに……」

 

 時雨は小さくため息を吐いて、呆れたように、けれど優しい笑顔を見せた。

 

「そうだね。うん、そうだ」

 

 時雨は何かを確かめるようにゆっくりと頷いた。

 

 ふと辺りを見渡すと、どの艦娘もこの瞬間を精一杯楽しんでいるように見えた。

 高らかに響く笑い声が磯風に乗せられて、ずっと遠くまで聞こえていた。

 

× × ×

「そういえば二人は誕生日が同じだから一緒に祝われるけど、誕生日くらい提督を独占したい!とか思わないの?」

「Of course!考えたことがないと言ったらlieになるネ」

「But、残念ながら提督はみんなの提督デ~ス」

「それにここの艦娘たちはみんないい娘ネ。だから提督が誰を選んでもセレブレイトするつもり」

「でも負けるつもりはないヨ」

「提督のハートをつかむのはこの私ネ!」

 




時雨、金剛誕生日おめでとう(遅い)。突貫執筆でしたので内容やら終わり方やらネタやらいろいろ雑ですが大目に見てください。

ps 五月雨以降の娘たちも登場させたいのですがいかんせんキャラが濃いうえにつかめてないのでしばらく出しません。でも江風と山風が可愛い。

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