「あっつ……」
「もうすっかり夏ですね……」
さんさんと窓の外で輝く太陽を睨みながら恨み言を吐くと、隣に座る吹雪は額を制服の袖で拭いながら顔を上げた。
「こうも熱いと仕事も捗らんな……」
「それじゃあ少し休憩にしますか?」
「だな」
そういうと吹雪は音もなく立ち上がると冷蔵庫の方に行き、二つのコップに氷と麦茶を限界まで入れて持ってきた。
「どうぞ司令官」
「サンキュ」
差し出されたコップを受け取り一息に呷ると冷たい感触が喉の奥を通り過ぎていく。火照った体を冷ますようで心地がいい。
扇風機によって生み出される風を浴びながら、俺はパタパタと胸元を扇ぐ。
「やはり冷房をつけれないのが辛いところだな」
今は夏真っ盛りより少し前の時期。こんな時に限ってうちのエアコンは壊れてしまった。さらに悪いことには、同じような境遇の人が多いのか修理を頼んだもののもうしばらく予定が空いていないらしい。
「修理の予約がいっぱいなんじゃ仕方ないですよ」
氷を口の中でコロコロと転がしている彼女の首元にもしっかりと汗が玉になって浮かんでいる。そんな吹雪を見ていると何の理由もなく、至極どうでもいいことが頭に浮かんだ。
「吹雪ってなんか冷たそうだよな」
俺がそう言うと吹雪はひどくショックを受けた様子で首をがっくりと落とした。
「え……、私司令官にそんな風に思われてたんですか!?」
ん?何か誤解してる?とそこまで考えて思い当たる節があった。
「ああ、違う違う。物理的にな。ほら手が冷たいとかそういうの」
「そっちですか。……よかったぁ」
吹雪は小さく咳ばらいをしてから改めて俺に向き直った。
「それにしてもどうしたんですか急に?」
「いや、なんとなく名前的にさ」
吹雪なんて名前だし体温低かったりするんだろうか?と思って先の発言をしたのだが、正直全く意味などない。頭が暑さでやられているのかもしれないな……。
「それが私結構体温高いみたいなんです」
そう言いつつ吹雪は俺の方に手を差し出してくる。軽くその手を握ると確かに少し暖かい。
「本当だ」
「白雪ちゃんたちとやったときも私が一番暖かくって」
「へぇ、そうなのか」
そうやって吹雪と特に意味のない会話をしていると、気づけば結構な時間が経ってしまっていた。俺は再度椅子に座り直し、転がしっぱなしにしていた羽ペンを握った。
「そろそろ再開するか」
「はいっ!私も頑張ります!」
まだ休んでいたい気持ちもあるが、いつまでもこうしてばかりじゃいられない。
あちこちに生えた木々から蝉時雨が鎮守府の中に響き渡る。空いた窓からは一陣の風が吹き入り、窓枠に着けた風鈴がチリンと涼しげな音を鳴らす。
「夏だなぁ」
「夏ですねぇ」
暑さに辟易しながら、俺と吹雪は小さくため息を吐いた。
本当に何もない日常ですが、こういうのを書くのが割と好きだったりします。
ps 最近ヴァイスに艦これで参戦しようと思い始めています。白露型と吹雪使ったいい感じの駆逐艦デッキレシピがあれば教えてください。