「ふぅ、終わったか」
「お疲れ様なのです司令官さん!」
疲れで大きくため息を吐くと、隣に座っていた今日の秘書艦、電が労いの言葉をかけてくれた。
「電もお疲れ様。ありがとうな」
「はわっ!?」
ちょうどいい位置にあった電の頭に手を乗せると、彼女の身体がビクンと大きく跳ねた。
六駆の子たちってなんというか、すごく撫でやすい場所に頭があるのでついついこうしてしまう。嫌がられてはいないみたいだし。
現に電もしばらくは頭上で前後する掌に身をゆだねていたのだが、次第に顔が赤くなっていき、しまいには勢いよく立ち上がってそそくさと逃げるように席を離れた。
「お、お茶を淹れてくるのですぅ!」
「おい電、あんまり走ると――」
ビタンッ!と軽快な音を立てて思いっきりおでこから地面に激突する電。割といつものことなので驚きはしないが、いつ見てもやはり痛そうだ。
「ほら、言わんこったない。大丈夫か?」
「ぅぅ……痛いのです……」
赤くなった電の額をさすろうかと思ったけど、また同じようなことになりそうなのでやめておいた。
× × ×
「司令官さん、この後間宮さんのお店に行きませんか?」
それからしばらくのんびりしていると、不意に電がそんな提案をしてきた。
「ん?構わんが、電がそんなことを言ってくるのは珍しいな」
「えっと……」
聞き返すと電はどこか恥ずかしそうに口をもごもごと動かしながら言い淀んだ。
「お姉ちゃんたち、……その、電も。最近司令官さんとお話しできてないって寂しがってるのです……。だから今日少し時間を貰えるかお願いしてみようって雷ちゃんと話していたのです」
慕われている……、というより懐かれているのはなんとなくわかっていたが、こうやって改めて言葉にしてくれるのは何とも嬉しいものだ。
俺はもう一度、今度は少し強めに電の頭をぐりぐりと撫でた。
「そういうことなら喜んで行こう」
すぐに出る準備を済ませると、電を連れて執務室を後にする。俺は歩きながら、どことなく機嫌がいい電に言った。
「それから、これからは寂しいならもっと言ってくれ。俺もできるだけ時間作れるようにするから」
「……!?はいなのです!!」
電を連れて間宮の暖簾をくぐると、間宮がニコニコと微笑みながら奥の方の席に案内してくれた。そこでは六駆の子たちが思い思いに談笑に耽っている。
入口の対面に座っていた暁が一番最初にこちらに気づき、俺の姿を見ると驚いた様子で声を荒げた。
「電おそいわよ……って司令官!?」
「хорошо。これは驚いた。司令官、Добрый вечер(こんばんは)」
「司令官こんばんは!さあ座って座って!」
「こんばんは、お邪魔させてもらうぞ。こら、雷押すなって」
それからは間宮が作った甘味に舌鼓を打ちながら、六駆の子たちといろいろな話をした。
最近あったこと、楽しかったこと、悲しかったこと。それと直接的には言われなかったが、彼女たちの『寂しかった』という気持ちが言葉の節々に感じられた。
やっぱりもっといっぱい艦娘の子たちと接する時間を取らないといけないよなぁ……。メンタルケアも提督の仕事なわけだし、せめて戦ってない時くらい彼女たちには窮屈な思いをさせてやりたくない。
「そういえば電と雷は知ってたの?司令官が来ること」
そんなことを考えていると、暁が雷と電に今回のことを尋ねた。
「そりゃあ、提案したのは私たちだし」
「なのです」
「もぉ。知ってたなら言ってよ……。それならもっとちゃんと……」
暁はがっくりと肩を落とし、尻すぼみに何事かを呟いた。そんな彼女を慰めるように、隣に座っている響が軽く暁の肩をたたいた。
「まあまあ。二人のおかげでこうして司令官といられるわけだし、感謝こそすれ、責めてはいけないさ」
「……そうね。ごめん電、雷。ありがとう」
「はわわっ、こちらこそごめんなさいなのです!ちゃんと言っておけばよかったのです……」
「雷たちも浮かれすぎてたわ……。ごめんなさい」
やっぱりこういった素直さが暁型のいいところだよなぁ。何を謝っているのかはよくわからないが……。
× × ×
それからしばらく時間が過ぎると楽しかった時間も終わり、今度は五人で間宮の店の暖簾をくぐった。
「司令官」
四人と別れる間際、俺を呼んだ響の声音には、いつもの落ち着いたもの以外に儚さのようなものが感じられた。手を離すとどこかに消えてしまいそうな危うさに似た儚さが。
「またこうやって、私たちと一緒に過ごしてくれるかい?」
響の後ろでは電が、雷が、暁が、みんな何かを期待するかのように不安げに揺れる瞳で俺のことをじっと見つめていた。
「もちろんだ」
俺がそう答えると、暁と雷は安堵したように息を吐き、電は嬉しそうにはにかんだ。
そして響は雪解けのように柔らかな微笑を浮かべた。
「спасибо」
六駆があまりに可愛かったため深夜テンションで書き上げました。хорошо。
ちなみにロシア語はググり&コピペです。作者は全くロシア語ができません。