提督の朝は日が昇り切る前に始まる。
朝の支度を手早く済ませて執務室に入ると、薄暗い部屋の中に暁の光が仄かに差し込んでいる。灯りを付けて窓の外を見れば、水平線から朝日が顔を出し始めていた。毎朝この時間は一人だとはいえ、秘書艦のいない執務室ってなんか静かだなぁ……。
そしてもう少し下に目線を落とせば、まだ朝も早いというのに吹雪と古鷹が敷地内を走っていた。彼女たちは毎朝ああやってランニングをしており、俺も何度か混ぜてもらったことがある。レースはいよいよ佳境に入り、二人がわずかに速度を上げる。あくまでもランニングのためデッドヒートというわけではないが、それでもどこか相手より先にゴールしようという気概が見受けられた
そしてその背後から猛然と迫る影。
二人が目印としている木にたどり着くまさにその瞬間、その影は二人の間を疾風の如く駆け抜けて幹に触れた。
『いっちばーん!』
声は聞こえないけど絶対そう言ってる。何やってんだ白露……。
吹雪と古鷹は初め、突然の乱入者に戸惑いはしたが、すぐに三人で和気藹藹と話し始めた。
さて、吹雪や古鷹も頑張ってたし、俺も頑張らないと。
椅子に座ると、とりあえず執務机に置いてある当番表に目をやった
「今日の秘書艦は村雨か」
いつも世話になってるしできるだけ楽させてあげたい。今のうちに少し執務を減らしておこう。
「……今日もやりますかぁ」
× × ×
「はいはーい、おまたせ―!○七○○、村雨参上しました!」
「……」
う~ん、どうにも資源に偏りがあるな。
弾薬とボーキは結構余ってるけど鋼材と燃料がかなり少ない。遠征の計画を一度見直すか。
「あの、提督?」
開発も艦載機か対潜の方を進めるべきだな。
「お~い、提督ぅ~?」
あとで明石に連絡と、金剛や赤城にもその旨を伝えて。
「そうですか~、この村雨を放置ですか~……」
ってこの三日間空母は出撃させていないのにやけにボーキが……。
「村雨そんな趣味ないから!構ってー!」
「うぉっ!?村雨いたのか!?」
「いたのか?じゃなーい!私何回も呼んだのにぃ……」
「すまん、考え事してた」
村雨の負担を減らすためにやっていたというのに村雨を待たせるとは本末転倒だな……。
「忙しいのは分かるけど、その、私も構ってよ……」
「悪かったって、ほら、かわりに今日の書類結構終わらせたから早めに上がらせてやれるぞ」
「えっ、これ全部終わったやつなの?」
「おう、そうだ」
「もうこんなに……」
村雨は俺が片づけた書類の束をパラパラと縁を指でなぞった。
「村雨にはいつも世話になってるからな。今日はゆっくりしていいぞ」
俺が若干胸を張って自慢げに言うと、村雨は小さくため息を吐いて苦い笑顔を浮かべた。
「……やっぱり、ちょっと優しさがずれてるのよね」
「なんて?」
「なんでもないわ。それと私、提督と執務するのは嫌じゃないわよ?むしろ好きなくらい」
「え、そうなの?」
執務なんて好き好んでやるようなものじゃないんだし、そんな感想が彼女の口から出てくるとは思ってもいなかった。
「だって提督と一緒にいるのは楽しいもの」
「っ……」
面と向かってそんなことを言われてはどうにも照れ臭く、俺は村雨からわずかばかり視線をずらした。
「だから、終わったらいっぱい村雨を構ってね」
「もちろんだ」
そこまで艦娘に言われて応えなければ提督の名折れ。残った仕事が片付いたら思う存分村雨を可愛がろう。
村雨は紙束を半分ほど取り、秘書艦用の机に着いた。
「よ~し!村雨のちょっといいとこ見せたげる!」
あの放置ボイスはずるい。
p.s. 私に天使(古鷹)が舞い降りた!