春の陽気が訪れ、気候穏やかな季節。ここ最近は深海凄艦の進行もなく、この鎮守府は穏やかな空気に包まれていた。
「じゃあ提督、僕は開発の依頼をしてくるよ」
「ん、頼んだ。それ終ったら一六○○まで休憩していいぞ」
「わかった。行ってくるね」
本日秘書艦の時雨はそう言い残して部屋から去っていく。その背中を見送ると、俺は再び室内に目を向けた。
「んで?夕立は何しに来たんだ?」
時雨と入れ替わるようにして入って来た夕立はいつもと違ってどこか元気がない。彼女の紅い目があまり開いておらず、その足取りもどこかおぼつかない様子。端的に言うととても眠そうだった
「……おねむっぽい」
「わざわざここに来んでも……」
百隻近くの艦娘の中でも、白露型の面々は執務室に来ることが多い。特に夕立はことあるごとにこうやって遊びに来てたりする。
眠たいなら自室で寝りゃいいのに。ベッドどころか布団もない、せいぜいうっすい毛布があるくらいのここじゃさぞ寝心地悪かろう。
「提督さんお仕事は終わったっぽい?」
聞いちゃいねえ……。
「ああ、今ちょうど休憩中だよ」
「じゃあ一緒にお昼寝するっぽい!」
「わかったから袖引っ張るなって!」
夕立に連れられて季節外れのこたつの中に連れ込まれ、流されるままに入り込んだ。一度仕舞おうとはしたんだが、白露が駄々こねまくって結局そのまま放置してんだよなぁ。
座布団を枕にして寝転ぶと、夕立は俺の上にうつ伏せでのしかかった。こんな体でどこからあんな火力が出るんだって程に彼女の身体は軽い。
「夕立、ちゃんとご飯食べてるか?」
「?? 鳳翔さんのご飯はおいしいからいつもおかわりしてるっぽい!」
「そうか。ならいいんだが」
その栄養はどこに……。もしかしてこの駆逐の娘にしては厚めの胸部装甲か?改二になるまではこんなスキンシップも気にならなかったんだが、今は少し、ほんの少しまずい。
邪気はなく、純粋に愛でようと顔だけこたつから出した夕立の髪の毛を梳くように撫でると、彼女は気持ちよさそうに瞼を閉じた。
「てーとくさんの手、優しくて安心するっぽい……」
「それは良かった」
そのままゆっくり撫で続けていると、やがて腹の上から安らかな寝息が聞こえ始めた。
ふにゃふにゃに緩みきった彼女の寝顔を見ていると、俺もだんだんと眠くなって――。
× × ×
「提督、開発成功したよ……って寝ちゃってるし」
工廠から帰ってきた時雨はコタツムリと化した提督を見つけて、大きく肩を落とした。
「提督起きて、そんなところで寝たら風邪ひくよ……って、あれ?」
提督一人分にしては明らかに膨らんだ布団をまくると、夕立が提督にしがみ付いて眠っている。
「夕立まで……」
時雨は少し乱れた夕立の前髪を手で揃え、彼女の頬を人差し指で軽く突くと、それに反応したのか夕立は『ぽい~……』と指を避けるように小さく首を動かした。
「でも二人とも、すごく気持ちよさそう。そんなの見てたらぼくも……ふぁぁ……」
突如睡魔に襲われた時雨は数度瞬きしたあと、提督と夕立が眠る炬燵をまじまじと見つめた。
「これだけ眠いとまともに執務もできそうにないし、もとはと言えば提督のせいだから仕方ないよね、うん」
何の責任を提督に押し付けているのか本人さえわかっていないが、時雨は自分に言い聞かせるように呟いた。
「提督。隣、失礼するね」
時雨まで同じ場所に入ったせいか窮屈そうに見える三人はしかし、皆が幸せそうな寝顔を浮かべていた。
睡魔放出兵器夕立
ps 6-2が遠いです(現在2-4)。なんで春雨だけこんなに入手難易度鬼畜なんですかね……。