白露日和   作:夜咲ひつぎ

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ぶっきー、キレる

 のどかな春風が開いた窓から吹きおろし、ちょうど手を離していたのか春雨の目の前にあった書類が宙を舞い、少し離れたところにいた吹雪のところに飛んでいった

 

「あっ。すいません!すぐ拾います!」

「大丈夫、私が拾うよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 慌てて立ち上がろうとした春雨を手で制し、吹雪は拾い終えた書類を手にしたまま時計を見て、俺達に笑いかけた。

 

「ちょうどいい時間ですし一休みしましょうか司令官、春雨ちゃん」

「だな」

 

 吹雪が発したその言葉に俺はペンを置き、続いて春雨もきりよく書き終えたところで大きく背中を逸らした。

 

「んっ、ふぅ……」

「お疲れ様、春雨」

「いえ、私はまだまだ大丈夫です!」

 

 春雨は、むんっと気合を入れ直すようにぞいの構えをとる。

 その間に吹雪はポットに水を入れながら棚からカップを取り出した。

 

「二人はコーヒーか紅茶、どっちがいいですか?」

「今日は紅茶かな」

「吹雪さん、私が淹れますから!」

「いいからいいから。春雨ちゃんはどっちがいい?」

 

 先輩にやらせるわけにはいかない、と焦る春雨だが、吹雪はそれを許そうとしなかった。吹雪が任せる気がないことを悟った春雨は渋々ながらも引き下がる。

 

「……紅茶でおねがいします」

 

 数分後、吹雪が淹れた紅茶と春雨が持って来てくれたクッキーを並べて、すっかりティータイムの準備ができていた。カップに注がれた紅茶を一口含んで、吹雪の方を見る。

 

「吹雪もありがとな。非番なのにわざわざ手伝ってくれて」

「いえ、私が好きでやってることですから!」

「……確か前のときも手伝ってくれたよな。そろそろちゃんと休めよ?」

「そう言う司令官こそ休み取ってるんですか?」

「うっ……」

「司令官が休まないのに私が休むわけにはいきません!」

「参ったな……」

 

 前線で戦う彼女たちには十分な休息をとらせなければならないのだが、吹雪はなぜか俺よりも多く休むことを嫌う。こういうところは真面目じゃなくてもいいんだけどな……。

 その横で俺達の会話を聞いていた春雨は、どこか気落ちした様子でうつむいた。

 

「すいません、私、非番の日に呑気に休んでて……」

「いや、それでいいからな?こいつが働きすぎなだけだから」

「司令官は人のこと言えないじゃないですか」

 

 吹雪も俺も頑として譲らず、このまましばらく言い争っていそうだったが、春雨がふと口を挟んだおかげで中断された。

 

「そういえば司令官と吹雪さんって仲いいですよね。その、遠慮がないというか」

「まあ吹雪は初期艦で一番付き合いが長いからな」

「一年前は私と司令官しかいなかったんだよ?」

「ちょっと信じられません」

 

 今では百人近くいるこの鎮守府も、始まりは俺と吹雪だけだった。

俺たちは懐かしむように揃って執務室を見渡した。

 

「最初はこの執務室もミカン箱しかなくてな」

「懐かしいですねぇ……。真っ先にあの机を買ったんでしたよね」

「そうそう」

「……ちょっと羨ましいな」

「?」

「いえ、なんでもないです!」

 

 ポツリ、何かを呟いた春雨はどこか物憂げで、俺と吹雪がそんな彼女を訝しく思った、ちょうどその時だった。

 

「ティーのスメルがするネ!」

 

 バァン!とけたたましい音と共に扉が勢いよく開かれる。もう顔を見なくても誰がやったのかわかってしまう。

 紅茶あるところに彼女あり。英国淑女の金剛がティーセットの匂いにつられて執務室に現れた。

 

「ティータイムならミーも混ぜるネ!」

「……金剛さん?」

「ひっ……、ぶ、ブッキー!?ホワイ!?今日のシークレッタリーはハルサメのはずじゃ!?」

「ちょっと手伝ってたんですよ。で?」

 

 吹雪はつかつかと金剛の方に歩き出す。金剛は気圧されたように後ずさる。

 やがて金剛は壁に退路を阻まれ、ついに吹雪と対面した。

 

「前にも言いましたよね、ドアは静かに開けてくださいって。金剛さん、それで今までに何回壊しました?」

 

 両手を腰に当てて怒気を露わにする駆逐艦の吹雪に、戦艦の金剛がすっかり怯えている。

 何度見ても面白いなこの光景……。

 

「に、二回ネ……」

「二回目の時私がなんて言ったか覚えてますよね?」

「……『次は許しませんから』」

「はい、その通りです」

 

 吹雪の口元はにっこりと笑っているが、しかしその目に一切の慈悲はなかった。

 

「それで、どういうつもりですか?」

「ソレは、その……」

 

「あの、司令官?」

「どうした?」

 

 春雨はおろおろと俺の顔と吹雪たちの方を交互に見ながら俺に尋ねた。

 

「これは、その、どういう……?」

「この鎮守府には鉄の掟があってな」

「鉄の掟?」

 

 春雨のような新人出なければ誰でも知っている絶対のルール。つっても金剛と卯月、時々白露以外はめったに破らないが。

 

「『絶対に吹雪を怒らせるな』だ。普段は優しいし真面目でいい娘なんだが、怒るとめちゃくちゃ怖いんだよ」

「みたいですね……」

 

 それから長く続いた金剛への説教が終わる頃には、すっかり吹雪の紅茶は冷めていた。

 

 




ついに白露型以外がまともに出てきました。……吹雪ってこんなんだっけ?

ps 今回の執筆時間 
本編 1時間 
金剛が春雨を呼ぶときの呼び方を考えるの 30分
結局無難なところに落ち着きました。呼び方一覧みたいなのないですかね?
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