白露日和   作:夜咲ひつぎ

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病み時雨

「時雨が風邪引いた?」

 

 早朝の静けさに包まれた執務室に俺の声が木霊する。

今本当ならここにいるはずの時雨に代わり、村雨が開口一番にそう伝えてきたのだ。

 

「そうよ、だから今日は私が代わりに秘書艦するからよろしくね」

「ああ。こちらこそよろしく頼む」

 

 そして何事もなかったかのように二人で書類と戦い始めたのだが……。

 

「ここ間違ってる」

「あ、悪い」

「ここも数字ずれてるわね」

「マジか。ごめん」

「珍しいわね提督、ミスが多いわよ?」

「うっ、すまん……」

 

 あまりに心ここにあらずな俺を見て、村雨は小さくため息を吐いた

 

「まだ昼前だけど休憩にしましょうか。集中できてないみたいだし」

 

 村雨は席を立ち、棚からマグカップを取り出してコーヒーを淹れてくれた。

 

「はいどうぞ」

「ありがとう」

 

 冷めないうちに啜ると苦みと共に熱い液体が喉の奥を通り過ぎていく。

 カタッと音を鳴らしながらカップを置くと、俺は村雨に時雨のことを尋ねた。

 

「ところで時雨は大丈夫なのか?」

「そんなに心配なら様子見に行ったら?」

「だが執務が……」

 

 提督である以上私情で仕事を放りだすわけにいかず、しかしながら艦娘のケアもまた提督の仕事。

 板挟みに囚われた俺を見て村雨は呆れたように肩をすくめた。

 

「もう、時雨姉さんと仕事、どっちが大事なの?」

「時雨」

 

 もちろん時雨だけでなく村雨や吹雪たちも含めて、この娘たちより大事なものなど存在しない。

 

「じゃあなら行ってあげて。書類は私が何とかするから」

「すまん、すぐに戻る」

「ごゆっくり」

 

 ガタッと音を立てて立ち上がった俺に向かって村雨はひらひらと手を振った。

 

「あ、提督。かえって来たら村雨も構ってね」

「任せとけ」

 

 こう見えて意外と寂しがりやだからな、村雨は。

 

 白露型の部屋の扉をノックすると、奥から少し掠れた声が聞こえてきた。

 

『……はい?』

「俺だ。入っていいか?」

『提督?』

 

 ガチャッと音がして扉がゆっくり開くと、中から淡い藍色の寝間着を纏った時雨が現れた。

 

「どうしたの?」

「見舞いだ。入っていいか?」

「うん、もちろんだよ。ちょうど暇してたんだ、話し相手になってよ」

 

 時雨に続いて部屋の中に足を踏み入れ、季節外れのこたつに二人で入った。

 

「もう大丈夫なのか?」

「薬飲んで寝たら結構マシになったよ。心配してくれてありがとう」

 

「ん、今日は一日休んでいいからちゃんと治せよ」

「うん。姉さんと村雨にはお礼言わないとね。姉さん、朝からずっと看病してくれたんだ。大げさだって言ったんだけどね」

 

 時雨は照れくさそうに頬を掻いていたが、その口元は嬉しそうに歪んでいる。

 

「へえ、白露がねえ」

 

 今は遠征に出ていて姿が見えないが、ついさっきまで熱心に看病をしていたらしい。なんだかんだ言っても流石は長女ということか。

 

「さて、俺はもう行くよ。村雨に怒られる」

 

 実際はゆっくりして来いと言われたが任せっきりにするわけにもいくまい。

 別れ際、時雨は申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「ごめんね提督、迷惑かけて。この分はきっと取り返すから」

 

 さらに彼女は去ろうとする俺の背中にそんな言葉を投げかける。

 ったく、お前はいつもいつも責任を感じすぎだ。

 俺は振り返って時雨の頭を撫でた。そして、ハッと顔を上げた時雨に向かって笑いかける。

 

「迷惑上等だ。俺はお前らの提督だからな」

「ふふっ、なにそれ」

 

 時雨は口元を抑えながら微かに笑い声を漏らす。それから僅かばかり間を置いて、俺のことを呼んだ。

 

「提督」

「ん?」

「ありがとう!」

「……どういたしまして」

 

 軍帽を目深に被り、今度こそ俺はこの部屋を後にした。

 




ヤンデレかと思った?ざ~んねん、病気でした。

ps はるさミンが足りない
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