白露日和   作:夜咲ひつぎ

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病める白露

 つい先ほどコーヒーを淹れたマグカップから湯気が立ち昇り、仄かに漂う香りと共に部屋の中に立ち込める。

本日の秘書官は白露。

彼女は執務が苦手なので調子はどうかと思い隣を見ると。白露が辛そうに書類と向き合っていた。いつもの『事務仕事やだー』というのとはまた違う、しんどいのを我慢しているような表情に見え、俺はたまらず声を掛けた。

 

「白露、なんか顔色悪いが大丈夫か?」

「え?あ、うん。大丈夫……!」

 

 古参の一人である白露との付き合いももう一年近い。そんな彼女の強がりを見抜けない程この期間は短くないのだ。

 

「嘘つけ。ちょっと触るぞ」

「うぇっ!?」

 

 俺は白露に熱があるか確かめるため、彼女のライトブラウンの髪をかきあげ、俺の額を彼女のそれに押し当てた。

 やはり幾ばくか熱く感じ、さらには頬もうっすらと赤みを帯びている。

 こないだ時雨の看病していたみたいだし風邪が感染ったか?

 

「やっぱり熱いな。もう今日はいいから戻って休め」

「熱いのは提督のせいじゃないかな、なんて……」

 

 白露は頬を隠すように俯いて目線を逸らした。

 

「あほなこと言ってないで早よ寝ろ」

「でも、久しぶりの秘書艦だし、提督、最近忙しくて構ってくれないし……。だから、その……」

 

 彼女の声は妙に歯切れが悪く、尻すぼみになって言ったこともあって最後の方は聞こえなかった。けれどまあ、何が言いたいかくらいは分かる。

 白露は秘書艦業務が苦手だから嫌なのかと思って当番を減らしていた。多少の時間があってもわざわざ会いに行こうとはしなかった。

 俺が自嘲気味に大きくため息を吐くと、白露はビクッと肩を震わせた。

 まったく、休めと言っているのに吹雪といい白露といい、何でこの鎮守府にはこういうときだけ聞き分けの悪い艦娘が多いんだか……。

 

「今度どっか連れてってやるからそれで我慢してくれ」

「いいの……?」

 

 まだ顔を俯けたまま、白露は躊躇いがちに上目遣いで俺の目を見てくる。俺の言葉が本当かどうか確かめるように。

 

「ああ、もちろんだ。ただし白露が元気になったらな」

「……約束だからね!」

 

 白露は喜びの色を露わにして笑顔を浮かべた。今度は強がったものではなく、いつもの向日葵のような眩しい笑顔。

 やっぱり白露はこうじゃないとな。

 

「だから今は休んでくれ」

「うん!白露、帰投します!」

「お大事に」

 

 バタンと扉が閉まり、一人残された俺は秘書艦机の上に置いてある書類を取り上げた。

 

「っし、やるか!」

 

 今日は少し早く終わらせないといけない。俺は自分で頬を軽く叩いて気合を入れ、ペンを走らせた。

 

× × ×

 

 鎮守府の長い廊下に夕暮れ色の日差しが差し込み、影が長くなった頃。白露型姉妹の部屋の扉を数度叩き、俺は物音を立てないようゆっくり中に入った。

 

「あ、提督。姉さんの見舞い?」

「えっ、提督!?」

 

 ベッドの横で白露の看病をしていた時雨が俺の姿を見つけ、白露も時雨の声で俺が入ってきたことに気がついた。他の白露型姉妹は遠征に言っているのでこの部屋にいるのは俺達三人だけだ。

 

「提督。僕はおかゆを作ってくるから、姉さんをお願いしていい?」

 

 俺が頷くと時雨は安心したように微笑んで、俺と入れ替わるように部屋から出て行った。

 俺は先ほどまで時雨がいた椅子に座り白露の様態を見ると、朝よりは顔色がよくなっているようでほっとした。

 

「よかったの?忙しいんじゃない?私が休んじゃったし……」

「仕事はちゃんと終らせてきたさ。だから安心して休め」

 

 風邪で心も弱っているのか、普段ならめったに見れない落ち込んだ顔で尋ねてくる。俺は白露を安心させようと、彼女の頭をゆっくりと撫でた。

 

「えへへっ。……風邪ひいてちょっと良かったかも」

「馬鹿なこと言うなよ。みんな心配してんだから」

「わかってるよぉ……。言ってみただけ」

 

 白露の口調にはまだどこか覇気がない。やはり多少マシになったとはいえ体調がよくないのだろう。

 気を使わせても仕方がないし、病人の部屋にあまり長居するものではないか。それに、俺よりも姉妹の時雨にいてもらう方が白露も安心できるだろう。

 

「俺はもう戻るよ。時雨を呼んでくるから少し待っていてくれ」

「もう行っちゃうの……?」

 

 白露は寂し気に立ち上がろうとした俺の軍服の裾を摘まんだ。その力は弱弱しく、振りほどこうと思えば容易にそうできた。しかし彼女の表情を見てしまうとこれ以上足が前に進まない。

 

「あと少しだけここにいて欲しいな……、だめ……?」

「……わかったよ、お前の気が済むまでいる」

「やたっ!」

 

 結局その日は白露が薬を飲んで寝るまで一緒にいたのだった。

 

 

 

× おまけ ×

 

「お姉ちゃん復活っ!」

 

 翌日、すっかり元気になった白露は俺と時雨がいる執務室に顔を出していた。

 

「姉さんごめんね、風邪感染しちゃって」

「気にしない気にしない!それにいいこともあったし」

「いいこと?」

 

 俺が気になって訊いてみると、白露はまるで村雨のような蠱惑的な笑みを浮かべた。普段見れないものだが、不思議と彼女に似合っていて一瞬目を奪われてしまった。

 

「提督には教えないからっ!」

「えぇ……」

 

 

 




普段明るい娘が弱ってる姿って異常に可愛いですよね。よね?(真顔)

ps ふぶきミンも足りない
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