遡るは時の流れ   作:タイムマシン

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とりあえずヒュアキントス戦はこれで終了!
1話で終わらせようと思ったらいつもの倍くらいになったから分割するかも
ギャグみたいなタイトルだけど割と真面目なお話してる

      ()


貴様の名は。

『さぁ、盛り上がってまいりましたー! これより、第一回眷属闘争(ファミリアバトル)を開催します!!』

『俺がガネーシャだ!!』

 

【ガネーシャ・ファミリア】の団員と主神が祭りの始まりを告げると、オラリオが湧いた。闘技場(コロシアム)の中だけでなく、街行く人々もそろって声を上げる。彼らの視線の先には宙に浮かぶ不思議な鏡──神の力(アルカナム)によって作られた遠くを映す奇跡の産物。娯楽好きの神々によりオラリオ中にばらまかれた、みんなでイベントを楽しむための必需品だ。

 

 怪物祭(モンスターフィリア)で用いられたモンスターや、【ガネーシャ・ファミリア】の団員による前座も終わり、いよいよ始まるのは誰もが待ち望んだ冒険者たちの健全な争いだ。酒に酔ったわけでもない、気に食わない冒険者を寄ってたかって叩くわけでもない、殺し合いをするでもない。純粋な力比べ。遥か太古より、人間(ヒト)の本能に刻み込まれた血が滾る1vs1(タイマン)である。不参加を決め込んだ神も、下界の住民も目を向けさせられる強い引力がある。

 

『では、まず最初の対戦は──!? ……【モージ・ファミリア】のルヴィスvs【マグニ・ファミリア】のドルトム! お互いLv3の高レベル冒険者、一体どんな戦いを見せてくれるのか!? どう思いますか、ガネーシャ様!』

『俺が、ガネーシャだ!!』

『はいありがとうございました。では早速──選手入場!』

 

 大きな音で食う方が空に打ち上げられると、出入り口から二人の選手が入場してくる。

 一人は背中に弓を背負い、腰に剣を下げたエルフの青年──ルヴィス。もう一人は斧を手に持ったドワーフの青年──ドルトムだ。二人はお互いににらみ合っていて、すでに火花を散らしている。

 

『おおっと、どうしたのでしょうか? 『楽しく』を信条に行われるイベントですので、長きにわたる因縁とかはご遠慮いただきたいのですが!』

 

「分かっているな、ドルトム。敗者は大人しく引き下がるのだぞ。あいにくと私は、負け惜しみを言うドワーフなど見ていられん」

「それはこっちの台詞(セリフ)じゃ、ルヴィス。勝者が──エイナちゃんに先に告白する権利を手にする!」

「我らがエルフの女王陛下の名に誓って、負けるわけにはいかないッ!」

 

『思ったよりも浅い因縁でしたのでどうぞ思う存分戦っちゃってくださーい!』

『俺がガネーシャだ!!』

『ガネーシャ様うるさい!』

 

 ギルドで働いている半妖精(ハーフエルフ)の受付嬢が思わず顔を抑えたという。

 

 

 ◇◇

 

 

 休日の昼前から始まった催しはますます白熱していき一向に冷める気配を見せない。観客席には前もってチケットを入手していた手際のいい人間が席を確保しており、特等席で戦いを見守っていた。最前列にはオラリオ外からわざわざ視察に来た重鎮や、強豪ファミリアが列をなしている。勿論、【ロキ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】である。主催側としての権力を存分に使用したのであろうことは、見るものが見ればすぐに分かった。

 

「……まもなくベルの番ですね」

 

 配布表(パンフレット)を手に取ったリューがポツリとつぶやく。激しい戦いを繰り広げてきた後のような傷と汚れを残したまま、食い入るように目の前の戦いを見つめる。

 

「ベルはとっても強くなったから、大丈夫です……」

「む……」

 

 その横に座るアイズも小さく頷いて口を開く。彼女もまた戦闘を終えた後のような格好で、ジャガ丸くんを片手に試合を観戦している。

 

「もう、リオンったら。何時までも拗ねてないの! 私たちの出番は終わったんだから、あとはベルを応援してあげないと!」

「そうだぜ~リオン。運がなかったと思って割り切るんだな」

「全くだ。こんな調子でベルの師が務まると思っているのか」

 

 そう次々に口をはさんでくるのは【アストレア・ファミリア】の団員だ。団長であるアリーゼもリューたちと同じように体には戦いの跡が見て取れた。誰と戦ったのかは、まぁ明白だろう。

 

「そういえば、【凶狼(ヴァナルガンド)】はどこに? 先ほどから姿が見えませんが」

 

 分が悪いと判断したリューが話を変える。

 リューたちが現在座っているのは選手が入場してくる扉の付近で、ほかの【ロキ・ファミリア】の団員や主催側の神々はその反対方向に座っていた。ベートも恋愛脳な女子に囲まれながら試合観戦などごめんだったので、試合をする予定だったアイズたちとは別れ、試合までの間ベルを連れてロキやフィンと試合を見ていたはずだったのだが、どうにも姿が見えない。もうすぐベルの試合が始まるのに何をしているのか。そうリューが不満げにつぶやくと、アリーゼが「あ!」と声を上げた。

 

「何か知っているのですか、アリーゼ」

「ええ! そういえばベルと一緒にどこかに行くのを見たから、多分控え室にいるんじゃない?」

「なっ──」

 

 絶句する。その手があったか。横にいる少女との戦いやベルの戦闘に気を取られて、そこまで気が回らなかった。アイズを見ても、彼女も小さく目を見開いている。試合前、一番緊張しているであろうベルのそばにいるという美味しい役(ビッグイベント)があったにもかかわらず、みすみすそれを逃してしまうとは。

 

『リューさん……』

『どうしました? ベル』

『……手を、少し握ってもらってもいいですか?』

『勿論、構いません』

 

 ほわほわと頭の中でそんな妄想が出てくる。呆然としているアイズの頭の中も大体同じようなものだろう。この一ヵ月間、ほとんどベルと会うことができなかったからこそ、ベル成分を補給しておく必要があったのに。

 なんて惜しいことをしたのだろう、と二人はそろって肩を落とした。

 

 

 ◇◇

 

 

「──で、どうして貴様がここに居る? 狂犬」

「テメェの面を拝んどこうかと思ってなァ」

「ふ、二人とも落ち着いて……?」

 

 一方、控え室では三人の男性が集まっていた。ここにも神の力(アルカナム)によって作られた鏡が存在していて、壁の向こうで戦っている二人の冒険者を映していた。今から戦うわけでもないのに、ベートとヒュアキントスの雰囲気は険悪で、なぜかベルが仲裁に入っていた。緊張している場合ではない。

 

「大体、どうして控え室が一つなのだ。反対側にもう一つ置いてあるだろう」

「あ、それは僕も思いました」

「ロキたちがわざわざ決めたんだよ。同じところから出てきた方が印象が良いんだとよ」

 

 ヒュアキントスの問いにベートが答える。『楽しいイベントやから、一緒に入場した方が仲良しに見えるやろー? いっそ手を繋ぎながら出てきてくれても良いねんで!』とは会議でロキが発した言だ。

 怪物祭(モンスターフィリア)と同じく、一般人と冒険者の間にある溝を埋めることも目的に入っているため、その辺の細かいことは考えられているのだ。

 

「……くだらん、何にせよ、私は私の使命を果たすまで」

 

 そう言って、鏡に目を向ける。男が首元に剣を突き付けられていて、両手を上げた。降参の合図だ。試合終了の号砲が鳴らされ、大きな歓声が上がる。次はいよいよ最後の試合、自分たちの番だ。

 

「おい、分かってんだろうな」

 

 席を立とうとしたヒュアキントスをベートが呼び止める。何が分かっていると聞きたいのか、主語のない質問だ。自分たちはそんなもので通じ合えるような仲ではない。しかし、この問いの真意ははっきりと理解できた。

 

「無論だ。────全力で行かせてもらう。二度目はない」

 

 それだけ言い残して、ヒュアキントスは部屋を後にした。残されたのはベルとベートの二人。この一ヵ月行動を共にした即席の師弟だ。ベートの琥珀色の瞳がベルの深紅の瞳を鋭く射貫く。

 

「ベル」

「っはい!」

「俺が言ったこと、全部覚えてるな」

「はい!」

「ならいい。──行ってこい、存分に喰らいつけ」

 

 ベートはそれ以上何も言わなかった。勝てとも、頑張れとも言わずに観客席に向かって歩き出した。ただ一言──喰らいつけと言った。ベルもベートも分かっている。いくらベルが成長しようとヒュアキントスは文字通りレベルが違う。格上相手に勝つことなど通常は不可能だ。負けても誰も責めはしないし、よくやったと健闘をたたえてくれるだろう。

 しかし、ベルにとってはもう二度目だ。Lv2にランクアップした時と何ら変わりはない。あの時も一人で格上(ミノタウロス)に立ち向かって勝利したのだ。『弱者』であるベルが『強者』の喉元を喰いちぎったのだ。ならば、今回もやれる。ベル・クラネルは恐れずに立ち向かうことができる。────前に進む。

 

 

 

 

 

 

『いよいよ最後の試合となりました! この舞台に幕を引くのはこの二人だァ──!!』

 

 すさまじい歓声とともに、二人が入場する。ヒュアキントスはもちろんのこと、ベルにも怖れはなかった。怒りも憎しみもなく、純粋な戦意がそこにはあった。

 

『なぜ大トリを飾るのが【疾風】では、【剣姫】では、【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】ではなかったのか。皆さんも疑問に思ったでしょう! その理由がこれだ! ファミリアの団長同士の戦い! 某神々によるとこの一戦のために今回の催しは開かれたという程!』

 

 解説がどんどんヒートアップしていく。観客もつられて高揚していき、まさにクライマックスとしては最高の状況になっていた。

 

『相対するは【アポロン・ファミリア】団長──ヒュアキントス・クリオ! そして、今や冒険者の間で知らぬ人はいない超新星(スーパールーキー)! 【ヘスティア・ファミリア】唯一の団員にして団長──ベル・クラネル!』

『特別ゲストを呼んできた俺が、ガネーシャだ!!』

『騒がしいぞガネーシャ、私はヒュアキントスの雄姿を見に来たのだ!』

『何を言ってるのさ! 勝つのはベル君だよー!』

 

 ガネーシャに連れられ、アポロンとヘスティアが解説席に座る。散々『楽しく』と言ってきたにもかかわらず、目が本気(ガチ)になっている神を見て、すべての事情を把握している神々は笑い転げていた。

 

『既にご存知の方もいるでしょうが、ベル・クラネルのレベルが2であるのに対して、ヒュアキントス・クリオのレベルは3! 正直に言うとかなり分の悪い戦いになると思われますが、どうでしょうガネーシャ様!』

『俺がガネーシャだ!!』

 

 そんな外野には見向きもせず、ベルとヒュアキントスはお互いに闘技場(コロシアム)の中心に立つ。外の音は完全に遮断され、燃えるような闘志が渦巻いている。

 

「──ベル・クラネル」

 

 閉じていた瞳を先に開いたのはヒュアキントスだった。下を向いていた顔を上げると、そこには一人の冒険者が佇んでいた。

 

「まずは感謝と謝罪を。()()()()には私と戦わなければならない理由はなかっただろう。それを持っていたのは()()だけなのだから。だが、お前は今ここに立っている。感謝する」

「ヒュアキントスさん……?」

 

 ヒュアキントスの言い分にベルが困惑の色を見せる。たまにベルの周りの人間は妙なことを言う。ベルには分からないのに、ほかの人には通じるような事を。アイズやリューにベート、最近交流を持つようになったレフィーヤもそれに当てはまる。そして、今ベルの前に立つこの男も。自分(ベル)がどのような人物なのか、どれくらい強くなれるのか。彼らが自分に向ける視線は予想でも期待でもない。ただ当たり前のように、知っているかのように、ベル自身のことをベルより信頼しているのだ。

 

「私たちは()()こうして戦場に居る。手は抜かない、本気で今のお前を叩き潰す。我が名はヒュアキントス。賜った二つ名は【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】。────貴様の名は」

 

 彼もまた、ベルを知っている目をしている。ゾクゾクと体の感覚が研ぎ澄まされていく。油断も慢心もない『強者』に喰らいつくための準備が為されていく。もう、ベルの頭からは酒場で殴られたことなどなくなっていた。

 

「名前は、ベル。ベル・クラネル。神様から戴いた二つ名は──【韋駄天(アキレウス)】」

「──そうか。では【韋駄天(アキレウス)】、勝負ッ……!」

 

 それを契機に二人は同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

「これは……想像以上だ」

「そうやろ〜? 流石の【勇者(ブレイバー)】もこれにはビックリか」

「なんでロキが自慢してんだよ、他派閥じゃねぇか」

「しかし、これ程とはな……」

「ああ、ベートが気にかけるのも頷ける」

「うっせぇぞジジイ」

 

 フィンとリヴェリアがベルの戦闘を見て舌を巻き、ガレスはベルに目をかけたベートの慧眼を評価する。ロキは自慢げにベルのエピソードを披露し始め、ベートが舌打ちする。

 眼前では先程から激しい剣戟が繰り返され、観客も大歓声を上げながら勝負の行方を見守っている。

 

 Lv(レベル)が一つ違えば次元が違う。冒険者ならば誰もが知っている常識だ。Lv1の最上位とLv2の底辺でも、身体能力、反射神経、全てに差がつき、Lv2の者が勝利する。まして、Lv2になったばかりのベルとLv3になって久しいヒュアキントスでは勝負にならないと、知識がある者ほどそう判断した。

 しかし、その予測は外れた。

 

「ハァッ!!」

「グッ!?」

 

 常に動き回っているベルをヒュアキントスが完全に捕捉しきれていない。与えられた二つ名に恥じない俊足を披露するベルは、ヒュアキントスの速さを()()()()()

 最初こそ苦戦するヒュアキントスを嘲笑する声があったが、そんな声はもう無くなっていた。それ程までにヒュアキントスは優秀で、ベルは化け物じみていた。常人には見えない速度で戦場を飛び回り、魔法を駆使して動くその姿は、正しく古代の英雄のようで。いつの間にか闘技場の中は、二人の剣戟の音を除いて聞こえなくなっていた。

 

「ハァァッ!!」

 

 とうとうベルをヒュアキントスが捉える。右手で剣を振り下ろし、ベルが防御したところを左手で振り抜いて吹き飛ばす。ベルはそのまま壁まで弾き飛ばされて、砂塵を巻き起こした。

 

 

「それで、ベート。彼は勝てそうなのかな?」

「知るかよ」

 

 フィンがベートに問いかける。ベートはそれを一蹴した。前回勝てたのも相手の油断があったから何とかなった様なものなのだ。本気でやり合えば負けてもおかしくない──というより、負けるのが普通だ。

 ただ、それを踏破することも可能かもしれないのがベル・クラネルという少年なだけ。

 

「どうせ長期戦になったらベルに勝ち目なんてねぇんだ。──そろそろ動くぞ」

 

 戦場を俯瞰するベートの目は正確だった。

 砂煙から出てきたベルの瞳には覚悟が宿っている。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「……やはり、アポロン様は正しかった」

 

 ベルの防具は既にボロボロだが、大きな怪我はしていない。先程隙をついて殴った時も、間一髪でベルの防御が間に合った。力はまだまだヒュアキントスの方が上。経験の差による技術も勝っている。しかし、前回と同じように速さで上を行かれた。単純な能力でも、今回の方が強いだろう。

 ただ勝つだけで良いのならば、守りに徹していればいずれベルのスタミナが先に尽きる。だが、そんなものはヒュアキントスの求めた勝利ではない。たとえ、以前のように敗れるのだとしても、少年の全てを打倒しなければならない。

 

「そっちが来ないならば、こちらから行かせてもらう……!」

 

 Lv3の脚力を存分に発揮して、瞬時にベルの元に接近する。横薙ぎに振るう剣をベルが二振りのナイフで必死にいなす。見違えるような成長だ。ヒュアキントスがこの技術を身に付けるのにどれだけの月日を費やしたのか。驚きを通り越して笑いが出てくる始末だ。

 ただ──だからと言って簡単にやられる訳にもいかない。

 

 ヒュアキントスにはベルと違い莫大な戦闘経験に基づく『技と駆け引き』がある。モンスターではなく対人戦ということで勝手に違いがあろうとも、フェイントは有効だ。現に、剣を囮にフェイントを繰り返せばベルは翻弄され、本命の拳をくらっている。

 

「ガ、ハッ……!」

 

 今度こそベルの腹部を捉えた拳は重く響き、血反吐を吐かせる。それがかかるのもお構い無しに、再び吹き飛ばした。ベルの手から離れた黒いナイフが広間の中心に音を立てて落ちる。

 

「ッハァ……」

 

 ヒュアキントスもベルの猛攻を受けた影響か、肩で大きく息をする。

 まだベルは倒れていない。だから、視線は逸らさない。ここで『魔法』を使用して勝負を決めるべきか。二の轍を踏んでしまえばそれこそこの戦いの意味がなくなってしまう。

 油断はしていなかった──だが、次の瞬間、ベルの行動にヒュアキントスは驚愕した。

 

 

「──はぁあああああッ!!」

「──なァッ!?」

 

 ベルが()()()()()。弾丸のように、雷霆のように。体感では今までの倍は速い。反応しきれなかったヒュアキントスはお返しとばかりにベルの攻撃で10M以上宙を舞った。

 鮮烈な逆転に静まり返っていた闘技場が湧く。

 ──いよいよ戦いは最終局面を迎えようとしている。

 

 

 

 

『体に染み込ませろ。土壇場で出来るようになって初めて、それが技術って呼ばれるようになる』

 

 訓練中、何度もベートに言われたことだ。ベルは片膝をつきながら、それを実感していた。

 

(……出来たッ!)

 

 ──【英雄願望(アルゴノゥト)】というスキルがある。Lv2にランクアップした折に発現したベル・クラネル二つ目のスキルだ。効果は『能動的行動によるチャージ行使権』。要は、次に行う己の行動を強化できる。魔法を使おうとしたら魔法が素早く、力強くなり、相手を殴ろうとしたら拳は壁を割るほど強くなる。チャージの秒数によって効果は変わるが、一瞬のチャージでも絶大な効果を誇る、二つ目のレアスキルともいえる。

 今行ったのは足を強化し、その勢いのまま再びナイフを強化して弾き飛ばす──つまり、連続行使(セグエチャージ)。前回のベルには使えなかった繊細な制御(コントロール)を必要とする高等技術。ベートとの地獄の特訓を経て何とか()()ならば使用出来るようになった努力の結晶。

 

(早く決着を着けないとッ……!)

 

 スキルの代償として、体力と精神力(マインド)を削られる。これを使ったからには直ぐに決着を着けなければ、千載一遇の機会を失ってしまう。

 

「────ふッ!!」

 

 二秒分のチャージ。再び弾丸となったベルがヒュアキントスに接近する。

 

「【我が名は愛、光の寵児】──」

「──【ファイア・ボルト】!」

 

 迎え撃とうとしたヒュアキントス目掛けて魔法を発射する。無詠唱という規格外の特性を持った魔法をかわす術はなく、直撃。

 そして、勢いを殺すことなく懐にまで潜り込んだ。

 

「────ッッ!」

 

 怒涛の連撃(ラッシュ)。息付く暇も与えない高速剣舞。魔法も封じられ、防御に専念するしかない。それでも全ての攻撃を防げるはずはなく、だんだんと意識が薄れていく。

 

(────だ) ──【リトル・ルーキー】。

 

 ナイフが腕を裂く。

 

(──―れだ)──【韋駄天(アキレウス)】。

 

 魔法が腹を焼く。

 

(──お前は誰だ)────。

 

 ナイフが頭を掠めて血が飛び散る。今までの情景が頭の中を駆け巡った。意識が覚醒する。

 そうだ、貴様の名前は──

 

「ッ! ()()()()()()──!」

 

 渾身の一撃を与えんとヒュアキントスが剣を振り下ろす。先程から手傷を与えてくるナイフを最初に弾く。そうすれば後は魔法に気をつければいい。

 極限までお互いの体内時間が引き伸ばされる中、

 

「──」

 

(な──)

 

 ベルが消えた。ナイフは宙に浮いている。注視していたナイフを思わず追ってしまう。──その一瞬の隙がアダとなった。

 

「あああああぁッ!!」

「ガ、──ァ」

 

 一秒にも満たないチャージ。ヒュアキントスの視線が外れたその一瞬で、ベルは体を四足獣のように低くしてそこから顎に足蹴りを与えたのだ。

 とうとうヒュアキントスが仰向けに倒れる。ベルも体力を使い果たし、蹲るような体勢になる。

 

「ハァ、ハァッ……」

 

 心臓の音が煩くて周りの音が聞こえない。試合は終わったのか、勝てたのか。

 どれだけの時間が経ったのだろう。数秒か、数分か。これ以上一歩も動けない、頼むから終わってくれ。懇願するように顔を上げる。

 

 

「ッ……! そん、な」

 

 そこには(おとこ)がいた。

 

「……勝負、あったな」

 

 ヒュアキントスが一歩ずつ、ゆっくりと歩いてくる。ヒュアキントスの内から溢れてくる感情は何なのだろうか。怒り? 喜び? 分からない。

 武器を囮にするとは考えたな。よくやった。もう動けないだろう。これで終わりだ。

 言いたいことが色々出てくる。最後に一言言わねば気が済まない。最後くらいは、素直になっても良いだろう。そう思いながら、口を開く。

 

 

 

「──見事」

「────」

 

 その言葉を発した途端、ヒュアキントスがベルに向かって倒れてくる。残った力を総動員して何とか受け止めると、ヒュアキントスは目を閉じていた。

 

 

 

『な、何ということでしょう!? 【太陽の光寵童】、気絶しています! つ、つまり勝者は──【韋駄天(アキレウス)】! ベル・クラネルの勝利ー! 大番狂わせ(ジャイアントキリング)達成です──!』

 

 

 

 ベルvsヒュアキントス、ここに決着。──ベル・クラネルの勝利。




ベル・クラネル:初めて活躍した原作主人公。【英雄願望】の同時使用は出来ないが、一度使用した後直ぐにもう一度使用するという技術を身に付けた。発案者ベート。多分肋骨の一、二本は逝ってる。

ヒュアキントス・クリオ:一切の慢心、油断なく挑むが敗北。ベルを認めることが出来るくらいには冷静になった。ちょっと書くのが楽しくなってこんな量になった原因。

ベート・ローガ:今回の師匠。MVP。アイツは俺が育てた。

リュー&アイズ&アリーゼ:仲良くわちゃわちゃしてた。気が向いたら書くかも。

ルヴィス&ドルトム:エイナさんに惚れてる(公式設定)。気になる人は原作の八巻と十二巻を読もう!
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