遡るは時の流れ   作:タイムマシン

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天竜人の享楽で食べさせられたエタエタの実の力で全身失踪人間になってしまいましたごめんなさい。


うそです。原因はモチベの消失八割コロナ二割くらいでした。


提案

「はぁ……」

 

 ベルの口から小さく漏れたため息が空へと消えた。夜もあけたばかりのオラリオ。市壁の上で周りの景色を放心したように眺めている。この場所を知っている者は数えるほどで、ベルのお気に入りの場所になっていた。

 

 彼の頭を悩ましているのは、先日の打ち上げの後にフィン・ディムナから受けた提案だった。

 その場で答えることができず、今に至る。

 

 

「僕たちの傘下に加わる気はないか」

 

 そんな思いもよらない提案だった。

 

 

 ◆◆

 

 

 

「えっと……傘下、ですか?」

 

 朝早くにアイズと共に執務室に訪れたベルを迎えたのはロキとフィン、ガレスにリヴェリアだった。先に呼ばれて話を聞かされていたのか、何とも言えない表情を浮かべてソファーに座っているのはヘスティアだ。だいぶ頭を悩ませているようで小さく呻き声を漏らしながら体を左右に揺らしている。表情で言えば、ロキも似たような顔を浮かべている。

 困惑した表情を浮かべたベルを見て、フィンが鷹揚とした態度で頷く。

 

「ああ、すまない。少しこれでは語弊があるね。──ベル・クラネル、引いては【ヘスティア・ファミリア】と同盟を組みたい」

 

「ど、同盟!?」

 

 思わずベルが声を出す。世界最速兎(レコードホルダー)となっても構成員一人の弱小ファミリアとオラリオの双璧と呼ばれる【ロキ・ファミリア】が同盟を組むとは一体どういう事なのか。

 ベルの驚愕を他所に【ロキ・ファミリア】の幹部たちが話を続ける。

 

「君も神ヘスティアから言われた事はあるだろうが、基本的に他派閥の人間と個人的な交流を深めることは他の神や眷属から見ても良い印象を抱かれない」

 

「引き抜きを疑われる事もあるし、交流を持つ者が男女ならば深い仲になった時にファミリア間で問題が発生するからな。まして、派閥の力関係に大きく差があるところでは尚更それが顕著だ」

 

「火のないところに煙は立たない、と言うやつじゃ」

 

 ファミリア内での結束は強まるけど、他派閥との交流が減るのは一長一短だけどね、とフィンが零す。フィンとしてはファミリア間の交流はあった方が都合がいいのだが、周りはそうでも無いことが多い。

 

 彼らの口から出た言葉はどれも正しかった。

【ヘスティア・ファミリア】の構成員はベル一人だから考えたこともなかったが、確かにダンジョンに潜る時にリリのようなサポーターを除けば、他派閥の人間を連れて行っている者を見たことが無い。【ヘファイストス・ファミリア】の眷属であるヴェルフと毎回ダンジョンに挑んでいるベルの方がおかしいのだ。

 傍から見たらベルとヴェルフはお互いに改宗(コンバート)しないかと誘っているように見えたのだろうか、そんな疑問がベルの頭に浮かんだ。当然、良い反応をされるはずが無い。

()()()()()()()()彼らの言うことは間違っていなかったのだ。

 

(神ヘスティアから言われただろうけどって……僕そんなこと神様から聞いたことないよ!?)

 

 そう、ベルはヘスティアからそのような話をされた事がなかったのだ。グルッと首を曲げてヘスティアの方に目を向けると、彼女も同じことを考えていたのか視線を逸らす。

 

「神様……」

 

「うっ……」

 

「どチビ……」

 

「し、しょうがないだろ! ボクだってこんなことになるとは思わなかったんだ!」

 

 ヘスティアの言うこんなこととは、ベルが冒険者になって一月足らずで高名な冒険者と交流を持ち、さらにその中の女性と深い仲になっても不思議ではないことである。それに関してはロキもフィンも同意だ。彼に一体何があったのか。

 

 それに、ヘスティアはファミリアを結成する前から【アストレア・ファミリア】と親しくしていた。【ヘファイストス・ファミリア】の館を追い出されたあと、バイトをしなければその日に食べるものもないほど困窮していた彼女を救ったのはアストレアの眷属だった。

 あの一件を境にヘスティアはアストレアと仲良くするようになり、今でもベルと一緒にご飯にお呼ばれするのだ。そんな彼女が他派閥と深い関わりを持つことは駄目だ、とベルに言うことは出来ない。

 

 話が逸れたね、とフィンが再び口を開く。

 

「という訳で、ベル・クラネル。君が【ロキ・ファミリア】の面々──というか、アイズとベートと毎日のように顔を合わせているのはあまり宜しくない。同じように【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師と行動しているのもね」

 

 改めて突きつけられた言葉にベルが硬直する。緊張した面持ちのベルを見て、リヴェリアも続ける。

 

「【ロキ・ファミリア】も【ヘファイストス・ファミリア】も巨大な派閥だから表立って非難してくる者は少ないと思うが、それでも噂は直ぐに広まっていくものだ。しかも、今回はそれが真実だから否定も出来ない」

 

「アイズたちがもう少し隠してくれたらよかったが、もう公然の秘密と言ったところまで来てしまったからのう」

 

 ガレスが揶揄うようにアイズに言うと、先程から我関せずとじゃが丸くんを食べていたアイズは不満そうに口を膨らませた。

 

「……私はちゃんとしてた。ベートさんが全然隠そうとしないから」

 

 ベートがこの部屋にいたら「んなわけねェだろ!?」とキレそうだが、生憎とベートはダンジョンに向かっている。

 ベルはアハハ、と苦笑いを浮かべて話を戻そうとする。

 

「それで同盟を組むっていうことですか」

 

「ああ、公然の秘密ならばいっそ公式に表明した方が今後の被害は少ない。それに、同盟を組むと言っても特段何かが変わるわけではないさ」

 

「そうなんですか?」

 

「要は君とアイズたちの関係に名前と理由が欲しいのさ。筋書きとしては……そうだな、『犬猿の仲と言われていたロキと神ヘスティアだったが、神ヘスティアがファミリアを結成したことを心配したロキが僕達をけしかけて援助した』……そんな所かな」

 

「フィン、だからそれやとウチが『ツンデレ』みたいやないか!」

 

「あれ、違ったかな?」

 

「違うぅぅぅ!!」

 

 フィンの作りあげた物語(ストーリー)に納得していないロキが詰めより、フィンの肩を勢いよく揺する。フィンを組み敷きそうな勢いのロキにリヴェリアは大きく嘆息し、ベルは目を白黒させた。

 

「それで、どうだ小僧。そちらも悪い話ではないだろう。ファミリアの力関係を見れば【ヘスティア・ファミリア】が傘下に加わったように取られるかもしれんが、契約上の上下関係はなく資金の援助も多少ならロキがやってくれるわ」

 

「なんだとぅ!?」

 

 ガレスの言にいち早く反応したのはヘスティアだった。勢い良くソファーから飛び跳ねたのを見て、アイズが肩をびくりと動かした。

 

【ヘスティア・ファミリア】は眷属の人数が少ない──というより一人しかいない──ため出費は安く済むが、同時に収入も少ない。

 レベルこそもう皆から一目置かれる所まで来たが、それでもベルは冒険者として駆け出しもいいところ。他の同レベル冒険者が今までの経験から学んでいるダンジョンの効率の良い(ルート)や知識、クエストを発注する人とのコネクションなど足りない物は探せばいくらでも出てくる。

 

 そして、それを【ロキ・ファミリア】ならば全て用意出来る。

 今までの暮らしからランクアップしようと思ったら、彼らの提案はとても魅力的なものだった。ロキからの援助が借りを作るようでヘスティアには抵抗があったが、乗らない理由がない。

 満更ではない様子のヘスティアを見て、もう一押しだとフィンが内心ほくそ笑む。

 

「あと、ロキが神ヘファイストスと神ソーマの下に交渉しに行ってね、ヴェルフ・クロッゾとリリルカ・アーデは改宗したいという意思があるならば構わないそうだ」

 

「本当ですか!?」

 

「勿論。こうすることで君たちを取り巻く状況は改善されて、僕たちもかなり動きやすくなる」

 

 二人とも快諾してくれたわー、とロキがケラケラ笑う。ヘファイストスは子供の巣立ちは止めるものでは無いと考えていたし、ソーマはリリルカという少女に興味を持っていなかった。そのため、二つ返事で許可を取ってきたというわけだ。

 

「最後に決めるのはお前だ、【韋駄天(アキレウス)】。この提案を受けるか退けるか」

 

 団長としての責務を果たせ、とリヴェリアは言外に告げる。ベルも文句なんて全くない。諍いの種になりそうなものを取り除いてもらい、その上支援までして貰えるのだ。こちらがお願いしたい程の好条件だった。

 

 そして、よろしくお願いします、と頭を下げそうになった時、あることが気になった。

 

「あ、あの! 僕がこの提案を受けたら、アイズさんやベートさんとはこれまで通りにしていいんですか……?」

 

「……ああ、【ロキ・ファミリア】の眷属()()今まで通りに接してもらって構わない」

 

 ベルの言わんとすることを正確に理解したフィンが答える。すると、ベルは見る見るうちに暗い顔をするようになって、

 

「……ごめんなさい、少し考えさせてもらってもいいですか?」

 

 そう言って、ヘスティアと共に部屋を後にした。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 そういう訳で今に至る。一晩中どうするべきか悩んだが、一向に答えは出ない。

 フィンの提案を断る選択肢は無いと言っていい。しかし、だからといって受けたくない理由もある。一躍オラリオの有名人となったベルもまだ少年。何かを切り捨てる判断が出来ずにいた。

 そんな時、

 

「おはようございます、ベル」

 

 背後から、聞き慣れた声がした。

 振り向くと、そこには金の髪を揺らしたエルフが微笑んでいる。

 

「リューさん……おはようございます」

 

 覇気のない声で挨拶に応じる。それだけでリューはベルに何かがあったことを理解し、ベルの横に座った。肩と肩がくっつきそうなほどの近距離でベルの言葉を待つ。いつもなら取り留めもない話をしているが、今回は違った。お互いに口を開くことなく眼下に広がるオラリオの街並みと抜ける様な蒼穹に目を向ける。

 

 二人の間に流れる沈黙は苦ではなかった。心臓の音が聞こえるのではないか、そう心配する程の沈黙から数分、ベルがくしゃりと破顔した。彼女の横にいるだけで落ち着いてくる。この先何があってもあの日の憧憬が消えることは無いのだろう。あれは既に冒険者ベル・クラネルを構成するために必要な要素の一つに組み込まれている。そう考えると気持ちが幾分か軽くなった。

 

「……リューさん、少し話を聞いてもらってもいいですか?」

 

「ええ、聞かせてください」

 

 

 そうして、ベルは【ロキ・ファミリア】からの提案を話した。ロキやフィンがベルとアイズたちのために行動してくれたことを。でも、このままじゃリューたちと一緒にいることが難しくなってしまうと。自分はどうしたらいいのか分からないと。

 たどたどしい口取りで言葉を紡いでいくベルをリューは静かに見守っていた。

 全てを話しきったベルの頭をリューはゆっくりと撫でる。

 

「それで、ベルはどうしたいのですか?」

 

「……どうするべきなのかは分かりませんけど、僕は──」

 

 

 ──もっと、リューさんたちと一緒にいたいです。

 

 ベルの強欲な(ちいさな)願いは空へと消えた。それは、ささやかで、それでいて大層な願望だった。

 その願いを聞き届けたリューはベルの頭に手を回し、自分の胸元に抱き寄せる。ベルを褒めるように、勇気を貰うように。

 

「リ、リューさん?」

 

「安心してください、ベル。私に考えがあります」

 

 そう言ったと思えば、リューは立ち上がり、外壁を昇るための階段へと目を向けた。

 

「アリーゼ、急用が出来ました。少し付き合って貰えますか」

 

「いいわよ! ちょうど遠征に行く時にもう少し戦力が欲しかったの!」

 

 盗み聞きをしていたことを特に悪びれる様子はなく、屈託のない笑みをアリーゼは浮かべる。

 アリーゼがいた事に全く気づいていなかったベルは目を大きく開いて、秘密の場所を知る人が一人増えたな、と場違いな感想を抱いた。

 

「ベル! 安心してなさい! 私が【ロキ・ファミリア】にガツンと言ってきてあげる!」

 

 行くわよリオン! と元気よくアリーゼがリューを引っ張って立ち去っていく。そんな二人を見送ったあと、ベルも【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)へ向かって歩き出した。

 

 その翌日、オラリオの新聞の一面に【ロキ・ファミリア】が同盟を組んだという情報が掲載された。未到達領域に挑む際の戦力や物資の補給を主とした同盟らしい。勿論、【ヘスティア・ファミリア】とも同盟を組んだという事も載っていたが、市民の注目を集めたのはそこでは無かった。

 

 ──【ロキ・ファミリア】、【アストレア・ファミリア】間での同盟結成




ベート・ローガ:初の未登場。ダンジョン行ってる

アイズ・ヴァレンシュタイン:朝で眠たい。じゃが丸くん美味しい

フィン・ディムナ:アイズ、ベートとベルを引き離さない手段を考案し、【フレイヤ・ファミリア】に対する牽制、【アストレア・ファミリア】に対する貸し、闇派閥に対抗する戦力の補強に成功。
計 画 通 り

リュー・リオン:フィンのところに話を通しに行ったらニコニコ顔で出迎えられた。手のひらで踊らされてる気がしたが此方にデメリットはないのでスルー。かわいい

ヘスティア:久しぶりにまともに登場。釣られた
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