遡るは時の流れ 作:タイムマシン
特にストーリーを求めて書いている訳では無いので、飛ばし飛ばし逝くよ。戦闘シーンとか書くとエタるからね。
「ベートさん、見てください」
「……何度目だこの記事見るの」
「もっと、よく見てください」
「見たっつってんだろうが!」
たまらずベートが叫ぶ。アイズが手に持っているのは、一枚の張り紙。
──所要期間、一ヶ月
──ベル・クラネル、Lv2到達
「それで、今回はどうやってランクアップしたんだ?」
「前と同じ、ミノタウロスを撃破したらしいです」
つくづく縁がある奴だ、と口には出さず、内心思う。
今回はベルが『ミノタウロス』と戦うのがベートたちの遠征開始日ではなかった。おかげさまで遠征は滞りなく進んだ。前回と変わらずイレギュラ──―
張り紙に載っている精微なベルの似顔絵を見て、アイズの顔が心なしか緩む。ベートはそれが気に食わなかったのか、少々の苛立ちを孕ませ、口を開いた。
「まァ良かったじゃねぇか、アイズ。お前がいなくても兎野郎は強くなってんだからよ」
「良くないっ……です」
先程とは打って変わって、アイズが不満げな表情を見せる。
「ベルがランクアップしたのが、前より遅い。私が教えた方が、ベルのためになります……!」
「はぁ? せいぜい一週間だろ、大差ねぇよ」
「あります……!」
ベートが呆れたとばかりに、大きく息を吐く。
アイズはどうやら、その数日の遅れが気に入らないらしい。本来、ランクアップ──器の昇華──には、多大な時間を要する。今までの最短記録であったアイズのランクアップでも一年。そう考えると、数日の差など誤差の範囲だとベートは思っていた。
「あの人もベートさんと同じことを言った……。ベートさんはどっちの味方ですか……!」
「──ちょっと待てアイズ」
「はい?」
「お前、まさか言いに行ったのか……?」
掠れた声でベートが尋ねる。今、彼女が聞き捨てならない事を口走った気がした。
あの人も同じことを言った? あの人? アノヒト?
もしかしなくても、それが【疾風】だと理解してしまったベートは、嘘であって欲しいと希望を込めた瞳でアイズを見つめる。
このままでは、またこの二人のくだらない諍いに巻き込まれてしまうのだ。そんなもの御免こうむりたい。
しかし、現実はいつも非情で、
「もちろん……」
アイズは、やってやったとばかりに、手を小さく握り締めていた。見事なドヤ顔である。子供じみた自尊心が満たされているのが手に取るように分かった。巻き添え確定、ベートはガックリと肩を落とした。
なお、そんな間にも、ベルはリューに連れられて【アストレア・ファミリア】のホームに入り浸り、外堀を埋められている。勿論、ヘスティアも籠絡済みである。【策士】リュー・リオンは抜かりない。
ヘファイストスの館を追い出された後、ジャガ丸くんを、宿を、【アストレア・ファミリア】との繋がりをリューに与えられたヘスティアである。既にリューを信頼している。前回のアイズとは違うのだ。
(どうする……!? こんな時、フィンなら、ジジイなら、ババアならどうする……!?)
そんな現状をアイズ
そして、偉大な団長たちの背から解決策を授かり、ベートは、
「俺はどっちの味方でもねぇよ。それはテメーの力
そう言葉を残して、颯爽と部屋を後にした。ベートはフィンの背中から学んだのだ。大局を見た。少しの犠牲には目を瞑った。失うのはアイズの好感度、得るのは自身の平穏。『民衆の英雄』であり、『異端の英雄』ではなかった、『奸雄』としてのフィンの判断を参考にした。
この後に待つもう一つの試練を前に、体力を使い切る訳には行かないのだ。しかし、それも今のベートには乗り切れる気がした。ガレスのように大胆に、それでいて、リヴェリアのように冷静に対処すれば道はあると信じて。
◇◇
「なるほど……助かりました【
「あァ、じゃあな」
「──いえ、まだ待ってください」
「待たねぇ。後のことは全部テメーの仲間に頼れ。俺とお前は赤の他人だろうが」
ぶっきらぼうにベートが言う。ギルドに向かう途中でリューに捕捉されたベートは、そのまま『豊穣の女主人』に足を運んだ。
リューとベートは一週間に一度ほど、顔を合わせて情報交換を行っている。するのは前回の世界で身近に起こった事件の共有だ。
世界が変化しているとはいっても、どうやら食人花やレヴィスなどの脅威は消えてなかった。案外、そういった悪も無くなっているかと考えていたが、そこまで都合はよくないようだ。
「まだもう少しだけ……」
情報交換も終わった事で、さっさと目的を果たそうとするベートをリューが引き止める。普段のベートなら、こんな事を気にも止めず背を向けて歩き出しているが、そういう訳にもいかない。
以前、ベートはリューの相談をガン無視して、ろくに話も聞かなかったことがあった。その結果、待っていたのはリューの暴走。そして、それを知ったアイズの暴走である。
荒れるアイズ。黄昏の館に乗り込んでくる【アストレア・ファミリア】。地獄を見たベートは二人に協力することになった。
椅子に座り直したベートが舌打ちをして、口を開いた。
「チッ、なんだよ」
「ベルの事なんですが」
「そんな事は分かってんだよ! その先を言え、先を」
「ランクアップしたので、彼にプレゼントをしようかと思ったのですが、同性の貴方から何か案をと……」
「知るか! そんなのテメーで考えろ!!」
「……む。では、料理の試食を──」
「帰る」
座り直したのもつかの間、すぐさまベートは逃走を計った。
──女性の手作り料理。それは男のロマンである。ベートとしては、大層なものとは思わないものの、一般的にソレは好まれる傾向にある。おそらくベルもその類いに入っているだろう。
しかし、それは『美味しい』が前提である。中には、美味しくなくても愛があればOKという意見もあるが、当然ながらベートとリューの間に愛も恋も存在しない。お互いに逆行者として奇妙な関係を築いてはいるものの、所詮そこ止まりである。友達ですらないのだ。
では、リューの料理はどうなのか。
──余談ではあるが、【ロキ・ファミリア】の女性は料理上手な者が多い。料理を作ることは少ないが、リヴェリアもレフィーヤもファミリア内では結構な腕前である。そんなファミリアで暮らしているベートが『エルフは料理が上手い』と先入観を抱いてしまうのは無理のない話だった。
だから、リューの料理をベートは食べたのだ。その時の衝撃といったら、筆舌に尽くし難い──とまでは言わないが、決して美味ではなかった。当然、ベートはその料理に対して散々な評価を下した。
曰く、今まで食べたエルフの料理の中で最低クラス。
曰く、戦闘以外に興味を示していなかったアイズと同レベル。
並の女性なら泣いて文句を言う所であるが、リューは挫けなかった。その後も修練を重ね、徐々に成長していた。そして、練習量に比例して、微妙な味の料理が量産されている。今回の試食というのも、それを食べるのだろう。
「逃がしゃしないよ、小僧」
「なっ──」
しかし、店の出口には『豊穣の女主人』の店長、ミア・グランド。歴戦の猛者の
他にも複数のウェイトレスがミアの後ろに追従し、
「こっちは、そこのポンコツエルフ作の料理を食べなきゃいけないんだよ」
「人手は多いに越したことがないニャ!」
「なんで俺なんだよ! こいつのファミリアを呼びやがれ!」
「アリーゼたちは既に……。それと、私はポ、ポンコツではない。訂正してもらいます」
どうやら【アストレア・ファミリア】の眷属は既に被害者の立場にあるらしい。彼女たちとも大した縁はないが、何故か仲間意識を感じた。
「クソが……!」
力なくベートが呟く。どちらかに肩入れしてはいけず、どちらにも反応しないことも許されない。これは、二人に平等に接し、情報交換の架け橋となっているダブルスパイベート君の避けられない試練である。
もはやこれまで。運ばれてきた大量の料理を前に、確かにベートは戦慄した。そして、ファミリアの先達のことを思い浮かべながら──一気に料理をかき込んだ。
そのまま料理を平らげたベートは口数も少なげに店を後にし、誓った。
(──しばらくはギルドと店の通りには近寄らねぇ)
まだ時間は昼過ぎといったところだが、今日の夕餉を食べることはないだろうと思えた。というか、食べる気がしなかった。口に何も入れたくはなかった。
──しかし、まだベートは知らない。館に帰るとアイズが料理の練習をしていて、その味見役になることを。そして、その影響で、次の日に寝込むことになることを。
ベート・ローガ: 二人の高度(笑)な恋愛頭脳戦(大嘘)に巻き込まれた可哀想な狼。そろそろこいつもキャラ危ないな。
リュー・リオン: 料理の練習中。
ヘスティア: リューに篭絡された。まあ、バイト始めるまでは駄女神だったらしいしね。こんなもんでしょ(適当)
アイズ・ヴァレンシュタイン: 勝ち目ある? 無理じゃない?
ベル・クラネル: 原作通りのイベントをこなしつつ、無事Lv2へ。【アストレア・ファミリア】でハーレムとか作らないよね? 大丈夫?