遡るは時の流れ 作:タイムマシン
そして、前回の更新から数ヶ月経っていることにも驚愕。これは少しネタバレに配慮しようとした結果、アニメが始まるまで待機してたということにして許して。
ベル・クラネルの朝は早い。理由は特訓があるからだ。
運がいい事に、第一級冒険者であるリューやアイズとの面識を持ったベルは、彼女たちから戦闘の手解きを受けることになったのだ。
祖父の影響で『ハーレムを作る』という一見無謀な計画を立てていたベルだが、蓋を開けてみればどうだろうか。ヘスティアを筆頭に数多くの美少女と出会う事に成功している。ここまで来ると出来すぎを疑うレベルである。これが仕組まれているならともかく、全て偶然なのが恐ろしいとベルも思わずにいられない。
「それじゃあ神様、行ってきます」
返事はない。
静謐さを残した通りを進む。冒険者の街といわれるオラリオでも、こんな早朝からダンジョンに挑もうとする者は少ない。
「あっという間だったなあ……」
激動の冒険者生活を顧みて、苦笑する。
ベルが冒険者になってからまだ二ヶ月も経過していない。しかし、この二ヶ月は他の誰よりも濃密な時間だったと自負している。
オラリオに来てヘスティアのたった一人の眷属になり、冒険者となった。それからしばらくして、運命の出会いをする。輝くような金の髪に空色の瞳を持ったエルフの冒険者、リューとダンジョンで出会ったのだ。あの瞬間を契機として、ベルの運命は加速し始めた。
リューに教えを乞い、冒険者としての能力を磨き、『
つい先日も、ヴェルフ・クロッゾという鍛治師の青年と友好関係を結び、今の生活はまさに順風満帆といったところである。
時折、第一の師匠であるリューと第二の師匠であるアイズがにらみ合っていると聞くことはあるが、リューもアイズもベルの前ではそんな素振りを見せてはいなかったので、そんなものは所詮ただの噂に過ぎないとベルは考えていた。現実は非情であることを純粋なベルはまだ知らない。
◇◇
「あっ! アリーゼさん!」
「あら、ベルじゃない! 今日もリオンと訓練?」
『星屑の庭』にたどり着いたベルを迎え入れたのは【アストレア・ファミリア】の団長であるアリーゼだった。
人懐っこそうな顔立ちに、オラリオではあまり見かけない『ポニーテール』という髪型。元気溌剌という言葉が似合う少女はベルよりも五、六歳年上のはずなのに、ベルの目にはどこか幼く映った。
「はい! 午前中ならリューさんが空いてると言っていたので」
「……んー。そうだ! リオンが来るまでもう少し時間があると思うから、その間に私と訓練しましょうか!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいアリーゼさぁん!?」
せっせと訓練の準備をするアリーゼにベルが悲鳴を上げる。
──アリーゼ・ローヴェル。体と武具に炎を纏わせることが可能になる稀有な魔法を有し、次々と自身の器を昇華させていった彼女に与えられた二つ名は『
「大丈夫よベル! Lv2になったあなたなら問題ないわ!」
「──無理に決まっているだろう、団長。そう言って何度ベルの意識を飛ばしてきたのか」
「
そう言って副団長である輝夜がベルとアリーゼの間に割って入った。絹のように滑らかな黒髪に極東の衣装である着物を着た輝夜はまさしく『大和撫子』と呼ぶにふさわしい。
「久しぶりだな、ベル。言うのが遅れたが、ランクアップおめでとう」
「ありがとうございま──うぷっ」
「あぁ、この金の卵をリオンが独り占めするのはいただけない。今日は私が存分にしごいてやろう」
「か、輝夜さん!? は、離してください……!」
「あらあら、クラネル様。そんなに顔を赤くしてどうなさいました?」
くすくすと笑いながら、ガラリと口調を変えて輝夜がベルに問いかける。極東では高貴な身分であったらしいので、その時の名残なのか、はたまたこれが素なのかは定かでないが、一つ言えるのは、この口調の時の輝夜は決まって誰かをおちょくるのだ。
今も初心なベルを抱きしめ、反応を楽しんでいる。しかも、胸が当たろうと下着が見えようと関係なしとくる。まさにベルの天敵だった。
「まったくもう。あんまりベルをいじめちゃだめよ?」
「団長には言われたくはないがな。なぁベル、正直に言って団長やリオンに教わるより私のほうがいいだろ?」
「い、いや……今日はリューさんとの約束なので……」
「むぅ、リオンに義理立てする必要などない。私を選んだほうが良いことがたくさんあるぞ?」
ベルの目を見て妖艶にほほ笑む輝夜に二の句が継げないでいたその時、
「──ほう」
底冷えするような声がベルたちの背後から放たれた。
「輝夜、面白い冗談を言う。是非ともその良いことについて教えてほしい」
「リ、リューさん……?」
「おはようございます、ベル。申し訳ありませんが訓練はもう少し待ってください。先にこちらの用事を済ませます。なに、すぐに終わらせます」
リューが小太刀を取り出し輝夜の前に立つ。それを見た輝夜もベルから離れると、同じように武器を手に取った。
「すぐに終わらせるとは大きく出たな。お前に剣を教えた者が誰か忘れたのか?」
「忘れてなどいない。だが、いつまでもベルに手を出しているところを見過ごすわけにはいかない」
「では、さっさと始めるとするか。
「────」
ヤバい。このままではこの二人は全力で戦うだろうというのがベルにも理解できた。何とかしてもらおうと、縋るようにアリーゼの顔を見るが、とうのアリーゼはニコニコとしたまま、
「なら審判は私がやるわね! 使っていいのは木刀、魔法は無しで!」
「それで構いません。魔法をありにしてしまえば勝負になりませんからね」
「──ほう」
今度こそ二人の目の色が変わる。強い意志を宿した瞳がお互いを射抜く。もはや訓練がどうとか言っている場合ではない。
(ど、どうすれば……!?)
発端がベルの以上、ベルが言えばこの争いは止まるのか。──否、ここまでくると止まらない。
では、まだ館にいるファミリアのメンバーを呼べばいいのか。──否、余計に油に火を注ぐことになるのが明らかだ。
ならば一体どうすれば──。
「──なら、ベルは今日私と訓練することにする」
突然、門を堂々とくぐってきて、金の髪と瞳をもった少女が宣言する。軽やかな足取りでベルの元にたどり着き、手を握って確保する。
「ア、アイズさん!? どうしてここに……?」
「気にしないでいい。私はたまたま通りがかっただけ。そうですよね、ベートさん」
「……あぁ、そうだな」
「ベートさんまで……」
アイズに続いてベートも門をくぐってくる。どういうわけか目に生気が宿っていないが、窮地に駆けつけてくれた喜びと安堵でベルはそれに気付かなかった。
一触即発の雰囲気だった輝夜とリューも突然の来訪者に思わず武器を下ろす。
「【
「知らねぇよ、俺に聞くな」
まず口を開いたのはリューだった。約束が違うぞと言わんばかりにアイズとベートに視線を向ける。
しかし、ベートからすれば堪ったものじゃない。
こんな朝早くからアイズに叩き起こされて向かった先が他派閥のホームの監視とくる。しかも、向こうでトラブルがあったのを察知すると乱入して漁夫の利を狙うというオプション付き。今ここで怒鳴り散らしていないことをほめてほしいくらいだ。
「……あなたたちにベルは任せられない。ベルは私と訓練する、の……!」
こんな状況になってもアイズは我が道を行く。それはさながら、お気に入りの玩具を取り返そうとする子供のごとく。
「リオン」
「ええ、一時休戦といきましょう。どうやら先に【剣姫】にお灸をすえる必要があるらしい」
「また館を壊したらアストレア様に叱られるわよ?」
「問題ない、今の私はLv6。あなたたち二人には負けない」
アイズの言葉を受けて、リューと輝夜が手を組み、アリーゼは我関せずと後ろに下がった。ベルは急激に変化する状況についていけずアタフタし、ベートは大きくため息をついた。
そうして三人の剣戟が繰り広げられる。オラリオでも屈指の実力を持った三人──特にリューとアイズの鬼気迫る様子を見て慄くベルの頭をベートは小突いて、
「巻き込まれねぇ内にさっさと帰るぞ、兎野郎」
ベルを引っ張りながら出口へ歩き出した。再度大きなため息をついてベートは空を見上げた。
どうにか全てが穏便に解決する方法はないものか、と。
◇◇
ざわざわと喧騒が鳴りやまぬ巨大なホームの中、独り酒をあおる男がいた。
ここはどこだ。己は何者だ。これはどういうことだ。──一体
繰り返される自問自答。瞋恚の炎を瞳に映しながら、自身の内側から巻き起こる感情に耐えていた。
もはやここがどこで己が何者で今がいつだろうと関係ない。倒すべき敵さえ理解しておけばそれでいい。
「ベル・クラネル……! 【
過去に──未来で、ファミリアを、神との繋がりを、己の地位を奪った男の名前を吐き出した。
ベート・ローガ:最近は世界平和について考えている。
リュー・リオン:敵がだんだんと増えてきてることを危惧している。
アイズ・ヴァレンシュタイン:敵の敵も敵。
ゴジョウノ・輝夜:いじると楽しいベルかわいい。本作ではLv5。原作でも全然登場してないので扱いが難しい。
アリーゼ・ローヴェル:本作ではLv6。リューさんが手を握られても大丈夫だった人。一人目がアリーゼ、二人目がシル、三人目がベル(公式設定)。
ベル・クラネル :師匠ガチ勢二人にエンジョイ勢まで入ってきて収集がつかない。よく見るベートに助けてもらいがち。
怒ってる人: 多分次の話で正体が明らかになるけど言わなくても分かりそう。
四か月ぶりの更新とはたまげたなぁ。