遡るは時の流れ   作:タイムマシン

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死闘です。
これほどまでに早く投稿するとはこのリハクの目をもってしても


酒場での死闘    

『ギッ……ォオオオオオオオオ!』

 

「来るぞ、ベル!」

「うん……! 行くよ、ヴェルフ!」

「援護します、お二人とも!」

 

 草原が広がる11階層。ベルとリリ、そしてヴェルフは生み出された『オーク』の大群と戦闘を行っていた。数の差に押されてそれなりに苦戦はするものの、リリの的確なサポートと、戦う鍛冶師である【ヘファイストス・ファミリア】の一員でLv1の中でも高い戦闘力を有するヴェルフが着実に敵を屠っていく。

 そして、何より、

 

「──はぁッ!!」

『オ、オオオォ……』

「……やっぱすげぇな、Lv2ってやつは」

「ええ。まるで別人です」

 

 リリとヴェルフが思わず感嘆の息を漏らす。

 ベルの前では『オーク』が何体まとめてかかってこようとまるで相手になっていなかった。卓越したスピードで常に敵の死角に潜り込み、一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)で敵を追い詰めていく様はまるで餓えた野兎のよう。

 第一級冒険者たちに教えられた『技』と『駆け引き』を遺憾なく発揮するベルを止める怪物(モンスター)はこの『上層』にほとんど存在しなかった。

 

「【ファイアボルト】!」

『グォオオオオオ!?』

 

 火炎が雷鳴を轟かせながら唸る。新たな高みに至ったことでさらに凶悪になった火球に『オーク』は為すすべなく、灰へと姿を変えた。

 

「ふぅ……」

 

 モンスターの魔石を回収して帰ってきたベルを二人は笑顔で迎えて、三人は帰路についた。

 

 

 ◇◇

 

 

「それじゃあ、乾杯!」

「お疲れ様です、ベル様!」

「うん! おつかれ、二人とも!」

 

 その日のダンジョン帰り、いつもより多くの稼ぎを手にしたベルとリリ、ヴェルフはその足で『豊穣の女主人』に訪れていた。次々と運ばれてくる麦酒(エール)と料理に舌鼓を打ちながら会話を続ける。

 

「おいベル、またあの二人いるぞ。お前の師匠は暇なのか?」

「あはは……そんなことないと思うけど……」

「リリは少し苦手です……。特にリュー様が」

 

 リリが何かを思い出すように身を震わせる。

 ベルがここを訪れるとほぼ確実にリューとアイズのどちらががいるが、ベルからしてみればそれはもう日常のようなもので、特に気にかけてはいなかった。ちなみに、今日は両方いる。ベートも。

 

 ベルが一人で来た場合は瞬時にどちらかに確保されるが、三人で来るときはこちらを優先してくれる。また、確保されても最後はベートが彼女たちからベルを引き剥がしてくれる親切設計である。ベルの中でベートの株はうなぎ登り、ベート様様といったところだ。

 

 しかし、その代わり、リューがウェイトレスとしている場合は、料理を出すついでにしれっとベルの横の椅子に座って休憩をとっているが。仕事をサボることなど、よほどの緊急時でなければしなかった過去(ぜんかい)のリューとの違いに気づく者はいない。今回のリューに対する周りの認識は『普段はまともだが、少年(ベル)が来ると途端にポンコツになるエルフ』である。

 

「まぁ、今日は二人ともこっちには来ないんじゃないかな。リューさんのファミリアからは他に手伝いに来てないみたいだし。アイズさんのところはベートさん以外のファミリアの人もいるから」

 

 そう言ってベルが視線を二人のほうへ飛ばす。

 

「さすがミア母さん……隙がない」

「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと働きな!」

 

 リューは繫忙期のためせわしなく働いており、なかなかこちらに来る時間を何時ものようにとることができていない。もっとも、この時間帯で仮とはいえ従業員を遊ばせている余裕がないことを理解しているミアがリューの離脱を許すはずもなく、常に見張られている状態だ。いつものようにベルのもとに向かおうとする従業員が二人も三人もいれば話は違うが、リュー一人ならば見張りと並行して他の仕事をこなすことなど、ならず者をまとめ上げるミア・グランドにしてみれば朝飯前である。

 

「アイズさん、アイズさん! 聞いてます!?」

「……うん。聞いてるから少し落ち着いて、レフィーヤ」

「飯くらい静かに食えねぇのかてめぇ等!」

 

 もう一方のアイズも、ベルとの直線方向にベートが陣取って座っているため、ベルの顔が見えない状態である。席を立とうにも横にいるレフィーヤがしきりに話しかけてきて、なかなかそれができない。ベル・クラネルの平穏は偉大な先達によって守られているのだ。

 

 

 ◇◇

 

 

「──その時リューさんに助けてもらって、そのまま流れで特訓するようになって……」

「おいおい本当かよ。ベル運が良すぎねぇか? じゃあ、あの【剣姫】とはどうやって知り合ったんだよ?」

「それはえーっと……」

 

 料理を食べ終わった後も会話は止まらず、なぜかベルの身の上話やオラリオに来てからの出来すぎといっても過言ではない出会いについて語るようになっていた。酒が入っているのもあってか、ベルとヴェルフの口もよく回る。

 

 

「アイズさんとも僕が『ミノタウロス』に襲われてる時に会ってたんだけど、一緒に訓練することになったのは、怪物祭(モンスターフィリア)が始まる前の日くらいかな」

怪物祭(モンスターフィリア)? そういやそんなのあったな」

「うん。ちょっと困ってるところを助けてもらって、それからよく会うようになったんだ」

「困りごと、ですか」

「神様と待ち合わせしてたんだけど道が分からなくなっちゃって」

 

 苦笑いするベルの脳裏にその時の情景が浮かぶ。

 

『……ベル、どうしたの?』

『なっ、ヴァレンシュタインさん!?』

『……アイズでいいよ。……何か困ってる?』

『ちょっと道に迷って……』

『いいよ、案内する』

 

 そこから二人で行動したのだが、結局アイズも道がわからず迷ってしまい、いろいろな場所を歩き回っていたらとっくに集合時間は過ぎ去っていた。ようやくヘスティアと合流した時には優に一時間を超えた後で、二人は見事に大目玉をくらったものだ。

 

 なお、アイズは道に迷ったと言いながらベルと二人で歩きたかっただけである。さしものアイズも『ダイダロス通り』でもないただの路地で迷うほど方向音痴でもないし、ベルのように住み慣れていないわけでもない。ただ、その事実を知っているのがアイズ本人だけなら、嘘も現実になるのだ。嘘も方便という言葉を覚えたアイズに死角はない。

 

「偶然、の一言で片づけるのが難しいですね。こうも上級冒険者様と縁を結ぶと」

「しかも両方美人だしな。──なぁ、ベル。お前あの二人となんかないのか? 明らかに気に入られてるだろ」

「──────」

 

 酔いの回ったヴェルフの何気ない(ばくだん)発言を聞き逃すヘマをする少女はいなかった。喧騒に包まれた店の中で数名が極限まで集中して、次に発せられるであろうベルの発言に意識を傾ける。──というか、アイズとリューに至っては手を止めて、じりじりとベルの方に近づいて行っている。

 これはすべてを終わらせかねないという緊張感から知らず知らずのうちに目が本気(ガチ)になっている。

 

(止めるべきか……どうする?)

 

 そして、ベートもこの緊急事態に頭を悩ませていた。ベルの性格上こんな質問に答えるとは思えないが、万が一がある。特に酒を飲んでいるような日は。

 そして、その万が一が来てしまうと荒れるのは目に見えている。ぶっちゃけ、ベートにはアイズが現時点で勝てるとは思ってない。だからといって、リューが選ばれてしまえばアイズに恋愛感情があるのかは置いておいても、まずい事態になりかねない。しかし、アイズが勝とうものなら『戦争遊戯(ウォーゲーム)』が起こりそうである。

 やはり、ここはお茶を濁してもらうほかない、そう考えたベートはシラフにも関わらずちょっかいをかけに行こうかと本気で思った。だが、

 

「──ようやく見つけたぞ、ベル・クラネル」

 

 一人の男の登場により、その思考が遮られた。

 

「僕、ですか?」

「ああ、そうだ。忘れたとは言わせんぞ。【リトル・ルーキー】」

 

 きょとんとするベルに対して長身の男はいたって真面目そのものだった。同じ席に座っているリリとヴェルフも状況が呑み込めず静観しているが、ベートはいち早く状況を理解した。

 

(あいつは前回兎野郎のファミリアと戦っていた……。それに、あいつも()()か)

 

 

【リトル・ルーキー】という二つ名は前回の世界を知っていなければ出てこない言葉だ。であれば、ここにやってきた理由もわかるというもの。おおよそ前回のリベンジがしたいだとかそういう類の話だとベートは推測した。まぁ、当のベルに前回の記憶がない以上リベンジになるのかはわからないが。

 しかし、この状況は良いものだとベートは考えた。何せLv3になるために必要な人間が向こうからやってきてくれたのだ。前回のような激闘を再び繰り広げてくれるなら、こっちからしてみれば願ったり叶ったりだ。

 

 故に、ベートも静観することにした。この男が何をするにしてもベートに不利益は生じないからだ。

 

「……すいません、僕覚えてなくて」

「──。そうかそうか、ならば思い出してもらうとしよう……!」

「それってどういう──ガッ!」

「こういうことだ、ベル・クラネル!」

 

 突如迫った男の本気の拳がベルの頬を捉えた。いくらベルがLv2にランクアップしたからと言って、この男のLvは3。油断していたベルは受け身も取れずに店の奥まで吹き飛んだ。

 賑やかだった店内も水を打ったように静まり、視線が二人に集まった。

 

 こうなるかもしれないと思っていたベートでさえ、男の思いきりの良さに思わず、へぇ、と声を漏らす。

 だが、これでいい。とりあえず今回の件で二人には因縁が出来た。前回の裏事情を知らないからなんとも言えないが、前回もベルはこの男に一度敗れている。そう、だから、()()()()()()()()()()()()()()()()。ベルが弱者の咆哮を再びあげるその時を待てばいい。

 

(いや、待てよ──?)

 

 思考にノイズが走る。何かを見落としていないか? 最近培われてきた危機感が警鐘を鳴らす。

 状況が多少違うだけでやっていることは同じだ。(ギャラリー)の前でベルが無様にも敗れただけ。何をそんなに自分(ベート)は危惧している──? 前回と違う所など場所と周りにいる人間くらいではないか──。

 

(あ、やべぇ……!)

 

 発見した。前回と致命的に違う点を。この違いは致命傷と言ってもいい。それほどまでに大きなものだ。このままではベルがLv3になるどころではない。

 男はそんなベートの心境など露知らず、気絶しているベルに向かって名乗りをあげた。

 

「我が名はヒュアキントス! 賜った二つ名は【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】! ベル・クラネル、【リトル・ルーキー】! 私は貴様を──ガハッ!?」

「────」

 

 風が、吹いた。次いで聞こえてきたのは何かが爆発したような音。その音が男が机に叩きつけられたものだと気づいたのは、その少し後だった。

 男──ヒュアキントスを机に叩きつけた本人たちは怒りの表情を浮かべ、

 

「ベルに謝って……!」

「どうやら命が惜しくないようですね」

 

 誰もが呆気に取られた。ただ一人それを静かに見ていたミアは先程の爆発音にも負けない声量で、

 

「このバカ共! ケンカするなら外でやりなァ!!」




ベート・ローガ:――――(絶句)

激昂リュージャン:――――(憤怒)

怒り喰らうアイズジョー:――――(憤怒)

ベル・クラネル:――――(気絶)

ヒュアキントス:――――(気絶)

うーん、これは死闘
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