遡るは時の流れ   作:タイムマシン

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二回目があるとは(ry
たくさんの感想ありがとうございます。励みになります。
今回はアンケで言ってた最新刊のネタバレが入るから注意してね。



第一次逆行者会議 

「このままじゃやべぇ」

 

 会議の口火を切ったのはベートだった。【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)である『黄昏(たそがれ)の館』。その中のベートの部屋で会議は開かれた。

 

「やばい、とは?」

 

 リューがベートの発言の真意を探るように問う。青空を閉じ込めたような碧眼に見つめられ、ベートは頭をガシガシと掻いた。

 

「わかるだろ、アイツのことだよ」

「アイツってベルのこと……?」

「それ以外に誰だっつーんだ!? お前等が暴れてくれたおかげで色々ぶち壊しだろうが!」

 

 おずおずと口を開くアイズに思わず叫ぶ。

 ──ヒュアキントスの意識をアイズとリュー(馬鹿二人)が刈り取った後、酒場は騒然とした。ミアが二人に雷を落としたかと思えば、何処から話を聞きつけたのか知らないが、ヘスティアが登場し、続いてロキ、アストレア、アポロン、ついでにヘルメスまで出張って来たのだ。すると今度は何故か神々の間──主にヘスティアとロキ──で喧嘩が発生し、みんな仲良く店の外に放り出された。

 伸びている者がいて、時間も時間だったので続きは後日ということになり、その日は解散して今に至る。

 

「で、でもベートさん! アイズさんだって故意では無いと……思い……ますし……」

「あの行動のどこを見たらそんな発言が出てくる!? 故意以外何物でもねぇ!」

「あうぅ……」

 

 なんとかアイズの行動を擁護しようとしたレフィーヤもベートに一喝され、小さな悲鳴を上げる。

 自分の前で逆行したことを隠していた──というか、気付くきっかけと時間がベートになかった──レフィーヤを見て大きく舌打ちした後、

 

「まぁいい、お前等だって覚えてんだろ。兎野郎がLv3になった出来事をよ」

「もちろんです」

「ベルがこの人を倒したから、でしょ?」

 

 こう、こうっ。とアイズがあの時の再現(シャドーボクシング)をしながら椅子に座らされている男の方を向く。

 煽られた男──ヒュアキントスは忌々しげに顔をゆがめて、

 

「【剣姫】、その不愉快な動きをやめろ。……いや、それより、早くこの鎖をほどけ」

 

 ヒュアキントスは幾重にも己に巻かれた鎖を鳴らした。昨日、ヒュアキントスの身柄を預かったのは【ロキ・ファミリア】だった。アポロンもヘスティア相手ならともかく、ロキとアストレアを敵に回して無事でいられるとは思っていなかった。なので、ヒュアキントスを回収することができず、その場は引き下がった。当然、ヒュアキントスは野放しにしておくわけにもいかないので、鎖を巻き、放置していたのだ。顔には昨夜の死闘の跡がはっきりと残っていて、頬が赤く腫れている。

 

「けっ、昨日あんだけボコボコにされたのに元気じゃねぇか」

「うるさいぞ、駄犬。貴様らの邪魔が入らなければ、アポロン様にもお手を煩わせることなどなかったというのに」

「テメェが悪いだろうが! この二人の前で兎野郎を殴ればこうなることくらい分かれ!」

「無茶を言うな! 誰があんな小僧の後ろに貴様らがいると思うのだ!?」

 

 ベートからの無茶ぶりにヒュアキントスもたまらず叫ぶ。

 

「大体、あの戦争遊戯(ウォーゲーム)に参戦していたエルフが【疾風】だと!? これが!?」

「これが、とはずいぶんな言い草ですね」

「それに、【リトル・ルーキー】の師が【剣姫】だと!? この!?」

「このって……?」

「分かるわけないだろう!」

「だから、しっかり調べて兎野郎が一人でいるところを狙いやがれ!」

「それなら良かったのか!?」

「良いに決まってんだろうが!」

 

 男性陣がどんどんヒートアップしていく。お互いに相容れない存在だと前回から思っていたが、なかなかどうして波長が合う。理不尽に巻き込まれた者同士、何か通じ合うものが生まれたのかもしれない。

 しかし、そんな二人の軽率な発言を認められない者もいるのだ。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】、【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】……?」

「二人とも、何言ってるの……?」

「あわわわわ……! ふ。二人とも落ち着いてくださいぃ!?」

 

 リューとアイズがそれぞれ剣をベートとヒュアキントスに向けていた。ベルだけでも殴り飛ばしてはいけないらしい。

 

 

 ◇◇

 

 

「……少し取り乱した」

「……話を戻すぞ。このまま戦争遊戯(ウォーゲーム)が起こらなかった場合、いくつか問題がある」

 

 そうベートは話を切り出した。

 一つ目は、単純にベルがランクアップしないこと。絶好の機会をみすみす逃したのだ。今頃は向こうも神々が四神会談でも行っている頃だろうが、流石にこの状況からアポロンーヘスティア間で戦争遊戯(ウォーゲーム)は開催されないだろう。ロキとアストレアまで介入してくる可能性のある勝負に挑む神など存在しない。

 

 二つ目は、戦争遊戯(ウォーゲーム)が開催されないことによる【ヘスティア・ファミリア】の強化機会の喪失。詳しくはベートも知らないが、この出来事を契機に【ヘスティア・ファミリア】はベル一人から数人の増員が加わっていた。ならば、その機会がなければベルはずっとたった一人の眷属のままだろう。

 

 ベートが自分の意見を述べると、リューが思案するように目を閉じた。

 

「ベルは大丈夫です。彼は──彼らは強い」

 

 それは、万感の想いが詰まった言葉だった。リューの青い瞳には確かな信頼が宿っていた。

 

「……口だけなら何とでも言える。俺は(よえ)えだけの兎野郎になんぞ用はねぇ。お前等がそれでもいいと思っていてもな」

「……ええ、確かに私はベルが強くなどなくても良いと思っています。彼に傷ついてほしいなど望んでいないのだから。しかし、彼は強くなる。身も心も。たとえ今回アーデさんたちがファミリアに入らなくとも、いつか必ず彼のもとに集う。彼という光に引き寄せられて」

 

 私がそうでしたから、そうリューは締めくくった。同じく目を伏せていたアイズもそれに続いて口を開く。

 

「……ベルはすぐに強くなる。ランクアップする方法だって、ちゃんとある」

「あぁ? なんだよそりゃ」

 

 アイズの発言にベートが疑問を投げ掛ける。アイズはすっと指をヒュアキントスに向けて、

 

「簡単なこと。この人とベルをまた戦わせたらいい。それでベルはまたランクアップする」

「──言うではないか、【剣姫】。私が二度あのような小僧に遅れをとるとでも?」

「……ベルなら勝てる」

 

 アイズに断言され、ヒュアキントスは目を見開いた。苛立ちを含んだ言葉で反論しようとしたが、前回負けたことには変わりないので大人しく引き下がる。次に勝てばいい、と自分を納得させた。

 

「なら、舞台はアストレア様に頼んで都合してもらいましょう。そちらからも神ロキに言伝をお願いします」

「あぁ。んでもう一つ話がある」

「もう一つ、ですか?」

 

 レフィーヤが問いかける。ベートはレフィーヤの目を見て、

 

「こっからは兎野郎なんて関係ねぇ。これから起こる闇派閥(イヴィルス)の事件の話だ」

 

 ベートの発言に各々の目が細められる。闇派閥(イヴィルス)とは【アストレア・ファミリア】も【ロキ・ファミリア】も浅からぬ因縁がある。【アストレア・ファミリア】は彼らが原因でファミリア壊滅の憂き目にあい、【ロキ・ファミリア】も仲間の眷属を抗争で何人も失っている。

 

「あ、あの! 皆さんはどこまで知ってるんですか!?」

 

 レフィーヤにとってそれは無視出来ぬものだった。過去に戻ってきたレフィーヤを襲ったのは、何物にも変え難い喜びと掛け値なしの絶望だった。それは、再び友である同胞を目の前で失うということだったから。

 

 ──フィルヴィス・シャリアという少女がいる。

『27階層の悪夢』によって人としての生を奪われた誇り高きエルフ。彼女はあの時、食人花によって確かに命を落とし──そして、レヴィスやオリヴァス・アクトと同じく『魔石』を体内に埋め込まれ、怪物となった少女。死を偽装し、主神(ディオニュソス)の神意を遂げるために身を砕き、それでもなお、友達(レフィーヤ)のことを想った少女。

 彼女がまだ生きていて、周りを取り巻く状況を変えることが出来るかもしれない今、レフィーヤの心は決まっていた。

 

「どこまで知ってるのかをお前に確認してんだよ。アイズもこの馬鹿エルフもその情報交換は終わってんだ」

「……私が戻ってきたのは、クノッソスへの侵攻が二回終わった後です」

 

 かの名工ダイダロスが作り上げようと夢見た人口迷宮(クノッソス)。一度目は【ディオニュソス・ファミリア】の全滅を招き、辛うじて脱出。そして、二度目は死んだはずの少女──正体を明かしたフィルヴィス、ディオニュソスとの争い。その二つを見てきたとレフィーヤは言った。

 

「では【剣姫】と同じですか」

「あぁ、そうだな」

「……? じゃあベートさんと、その、えーっと……」

「リューで構いませんよ、【千の妖精(サウザンドエルフ)】」

「あっはい! そのリューさんたちは一体どこから戻ってきたんですか?」

「……私たちは第一次侵攻までしか知りません。【剣姫】は貴女と同じ時期から戻ったようですが」

「大体のことはアイズから聞いてる。全く舐められたもんだぜ」

「……そんなことないと思うけど」

 

 比較的冷静なリューに対してベートは苛立ちを隠そうとしない。事の顛末を未来のレフィーヤたちから聞いているアイズはそれを全て話している。もちろん、ベートがフィルヴィスに舐められていたことも。本人にその意があったかは定かではないが、ベートはそう解釈していた。それに、味方だと思っていた神が実は敵だったときた。これだから神は信用ならない、と唾を吐く。

 

「なら、直ぐに行動したら──」

「無駄だっつーの。『27階層の悪夢』とかいう事件は今回も起こってる。もうアイツはバケモンだ」

「ベートさん! 私には分かります、フィルヴィスさんは化物なんかじゃありません! 私たちと同じ、一人の女の子です!」

「……ならテメーがアイツを何とかしやがれ。テメーがどうにも出来ないなら、後はこっちで勝手にやらせてもらう」

「────」

 

 ベートの思いもよらない発言にレフィーヤは目を丸くした。問答無用で話を進めようとするのかと思えば、レフィーヤの意見を尊重してくれた。まぁ、ベートに言わせてみれば、自分より向いていそうな人間に自分が向いていなさそうな仕事を放り投げただけである。

 ──ただ、ベートは決して認めないだろうが、戻ってきてからくだらない痴話喧嘩に巻き込まれてきたせいで、他者の意見を取り入れて行動を尊重するという考えが以前よりも芽生えてきたのかもしれない。

 レフィーヤは内心ベートに感謝して、

 

「私が必ずフィルヴィスさんを止めてみせます。もうあんな事件は起こさせません!」

 

 そう大きく宣言した。ベートもリューもアイズもそれに反対はしなかった。もしレフィーヤが出来なくても、今の自分たちならば事件への対応を素早く取って、未然に防ぐことも不可能ではないからだ。

 

「──ふん、話は終わったか」

 

 すると、ここで今まで口を閉ざしていたヒュアキントスが口を開いた。

 

「……そういやテメーは何時から戻ってきたんだ」

「あっ、そうです! もしかしたら私たちより沢山情報を持ってるかも知れませんね!」

 

 ベートが探るような目で尋ね、レフィーヤは目を輝かせている。未だにベルへの謝罪がないことを気にしているリューとアイズは訝しむように顔を向けた。

 ヒュアキントスは大きくため息をつくと、

 

「私はあの小僧に敗れてからこのオラリオを出た。貴様らの言う事件なぞ知らん。興味がなかったからな」

「────はぁ」

「おい、なんだその目は。【疾風】、【剣姫】!」

 

 露骨に失望したような表情を二人が作り、ヒュアキントスが怒りで顔を赤く染める。レフィーヤも思わず苦笑いし、ベートは座っているヒュアキントスを見下ろしながら、

 

「──使えねぇな」

「貴様ァ!!」

 

 




ベート・ローガ:逆行する前は原作外伝の11巻と12巻の間くらいにいた。忍耐力がup。

リュー・リオン:ベートと同じくらいの所から逆行。独断専行力がup。

アイズ・ヴァレンシュタイン:外伝12巻が終わってから逆行。他のみんなより情報を持ってるから発言力がup。

レフィーヤ・ウィリディス:アイズと同じくらいの所から逆行。覚悟の扉を開く力がup。

ヒュアキントス・クリオ:実はこの中で一番遅くから逆行。なお。
縛られ力がup。

フィルヴィス・シャリア:辿ってる道は大体前回と同じ。リューが戻る前に大体の事件は起こってるからね。ただリューたちがいるおかげで治安が前より良い。

レフィーヤ発覚の流れ的には①リューから話を聞いたベートが周りを探る。②レフィーヤにアタリをつけて、アイズに頼んで鎌をかける。③話を聞こうと酒場に行く(アイズ主導)。④話を聞く前にヒュアキントスの命を刈り取りそうな二人が行動する。⑤この話に至る。

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